ヨーロッパのクラウドの独立を勝ち取りアメリカや中国企業からの脱却を目指すプロジェクト「GAIA-X」が始動
インターネットなどを介してコンピューター資源を提供するクラウドコンピューティングは、今やさまざまなビジネスにとって必要不可欠なものへと成長しました。ところが、クラウドコンピューティング市場はMicrosoftやAmazon Web Service(AWS)といったアメリカ企業やアリババなどの中国企業に占められているため、ヨーロッパ各国はクラウドコンピューティングの独立を勝ち取り、外国企業に依存しない体制を構築する「GAIA-X」と呼ばれるプロジェクトを始動させたと報じられています。
France, Germany back European cloud computing 'moonshot' - Reuters
https://www.reuters.com/article/us-europe-tech/france-germany-back-european-cloud-computing-moonshot-idUSKBN23B26B
Meet GAIA-X: This is Europe's bid to get cloud independence from US and China giants | ZDNet
https://www.zdnet.com/article/meet-gaia-x-this-is-europes-bid-to-get-cloud-independence-from-us-and-china-giants/
Germany, France launch Gaia-X platform in bid for ‘tech sovereignty’ – POLITICO
https://www.politico.eu/article/germany-france-gaia-x-cloud-platform-eu-tech-sovereignty/
ドイツのペーター・アルトマイヤー連邦経済エネルギー大臣とフランスのブリュノ・ル・メール経済・財務大臣は2020年6月4日、アメリカや中国の大企業への依存を減らすことを目的とした、ヨーロッパ独自のクラウドコンピューティングのエコシステムを構築するプロジェクトを発表しました。「GAIA-X」と呼ばれるこのプロジェクトではベルギーに「GAIX-X Foundation」というNPO団体を設置し、参加した企業がEUの厳格なプライバシー保護基準に準拠したクラウドコンピューティングを提供する予定です。
GAIA-Xはあくまでもクラウドコンピューティングサービスを提供する複数の企業が結合したプラットフォームであり、直接的にAWSやMicrosoftと競合する企業となるわけではありません。GAIA-Xはヨーロッパの企業や組織がアメリカや中国のクラウドコンピューティング企業を利用するのではなく、ヨーロッパのクラウドコンピューティング企業を利用するように促すことが目的とされています。
この動きはヨーロッパの「デジタル主権」を確立し、EU諸国の外国企業への依存を減らすことを目的とする政策の一部だとのこと。ル・メール大臣は記者団に対し、「私たちは中国ではありません。アメリカでもありません。私たちは、私たちが守りたいと願う価値と経済的利益を有するヨーロッパの諸国の集合体です」と述べました。
GAIA-Xの創設メンバーにはドイツとフランスの22社が含まれており、ドイツテレコムやOrangeといった通信企業、ボッシュやシーメンスなどのメーカー、アトスやOVHcloudといったクラウドコンピューティング企業など、多岐にわたる企業が参加しています。各企業はGAIA-X Foundationに対して年間150万ユーロ(約1億8000万円)を供出し、プラットフォームの構築に貢献するとのこと。
メンバー企業はデータの主権・データの入手可能性・容易な移植性・透明性・公正さといった原則に従い、高性能で安心できるクラウドストラクチャーを、ヨーロッパという広い市場のユーザーに提供することが可能だそうです。OVHcloudのCEOを務めるMichel Paulin氏は、「ヨーロッパベースの代替案を構築することは、私たちが共同で取り組む場合にのみ可能です」と述べました。
アメリカでは、Microsoft社が所有するアイルランドのサーバーに格納された通信データの開示を法執行機関が求めた訴訟中に「クラウド法」が成立し、外国のサーバーに保存されているデータであっても、アメリカに拠点を置く企業のサーバーであれば政府機関がアクセスできるようになりました。こうした動きに対しヨーロッパではクラウドコンピューティングの独立、主権の確保が問題となっており、GAIA-Xはクラウドコンピューティングの主権を勝ち取る重要な一歩になると期待されています。
ところが、一部の批評家はGAIA-Xが上手くいかないのではないかと懸念しています。その理由の一つが、AWSやGoogle、Microsoftといった企業がGAIA-Xのテクニカルワーキンググループに参加しており、そもそもGAIA-X自体がアメリカなどの大企業から完全に独立していないという点です。ドイツ野党の同盟90/緑の党でデジタル政策の広報担当者を務めるTabea Rößner氏は、AWSなどの外国企業がGAIA-Xに及ぼすことが可能な影響を制限しない限り、GAIA-Xの目的は達成できずに失敗するだろうと警告しています。
この点についてアルトマイヤー大臣は、EU外の企業もGAIA-Xに参加することは可能であるものの、参加する企業はGAIA-Xの原則を守らなければならないとコメント。MicrosoftはGAIA-Xへのサポートを公式に表明しており、声明で「私たちはヨーロッパにおけるデジタルな価値の創造と、データに基づいたビジネスモデルの強化にとって重要なプラットフォームとしてのGAIA-Xに、永続的に貢献することを強く約束します」と述べました。
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