新型コロナウイルス対策には「鼻呼吸」が有効かもしれないとノーベル賞受賞者が主張
新型コロナウイルスの流行は依然として世界中で続いており、2020年6月28日には全世界における新型コロナウイルスの感染者は1000万人を突破し、死者数は49万7000人を超えています。そんな新型コロナウイルスに対抗する上で、「『鼻呼吸』が役立つ可能性がある」と1998年にノーベル生理学・医学賞を受賞した薬理学者のルイ・イグナロ氏が主張しています。
The right way to breathe during the coronavirus pandemic
https://theconversation.com/the-right-way-to-breathe-during-the-coronavirus-pandemic-140695
呼吸の際に鼻から息を吸い込む「鼻呼吸」は、ヨガのクラスなどで指導されることもある呼吸法です。口を閉じて呼吸することで口の渇きや喉の乾燥を防ぎ、口呼吸と比較して体内に取り込む酸素量を増して脂肪がよく燃焼されるようになり、ダイエット効果があるともいわれています。イグナロ氏によると、鼻呼吸には体がウイルスと戦うことを助ける強力な医学的利益もあるとのこと。
イグナロ氏がノーベル生理学・医学賞を受賞した研究は、「循環器系における信号伝達分子としての一酸化窒素の発見」です。生体内でアルギニンと酸素から生成される一酸化窒素は神経伝達分子として作用し、多くの異なる生理学的効果を引き起こしているとイグナロ氏は指摘しています。
一酸化窒素が生成されるのは主に血管の内表面を構成する血管内皮の細胞であり、継続的に生成される血管内皮由来の一酸化窒素は動脈の平滑筋を弛緩させ、血圧を下げて全身の臓器へ血流を促進する働きを持っています。また、一酸化窒素は動脈内の血栓形成を防ぐ役割も担っているとのこと。
血管の平滑筋を弛緩させて血流を増加させるという作用を持っている一酸化窒素は、肺動脈が狭窄して肺高血圧が持続し、低酸素血症を引き起こす新生児遷延性肺高血圧症の乳児を治療するために医療現場で用いられています。特殊な装置でガス状の一酸化窒素を吸入させることで狭くなった肺動脈が拡張し、血液が十分な酸素を全身に届けることが可能になるそうです。
加えて、一酸化窒素は血管の平滑筋だけでなく気道の平滑筋も弛緩させるため、より呼吸をしやすくする作用を持っているほか、陰茎の勃起にも関与しているとイグナロ氏は指摘。勃起不全(ED)の治療薬として用いられるバイアグラ(シルデナフィル)は、一酸化窒素の作用を増強することで機能しています。
また、免疫に関与するマクロファージも一酸化窒素を生成しており、他の分子と反応して細菌や寄生虫、ウイルスなどの侵入者を破壊する抗菌剤を形成しているとのこと。一酸化窒素が持っている対病原体作用や気道・肺動脈の拡張作用、血液中の酸素量を増加させる作用が、新型コロナウイルスから体を守る上で役立つ可能性があるとイグナロ氏や他の研究者らは考えており、すでに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の治療に一酸化窒素を吸入するという臨床試験もスタートしています。
一酸化窒素を新型コロナウイルス対策に利用するという発想は、SARSコロナウイルスによって引き起こされた重症急性呼吸器症候群に関連する試験結果に由来しています。
SARSコロナウイルスに感染した哺乳類の細胞を使用した2004年の研究では、一酸化窒素の放出によって細胞の生存率が上昇したことから、一酸化窒素が直接的な抗ウイルス効果を持っていることが示唆されました。この研究では、一酸化窒素がウイルスタンパク質と遺伝物質のRNAの産生を阻害し、SARSコロナウイルスの複製サイクルを防いだとのこと。また、2004年の小規模な臨床研究でも、重症急性呼吸器症候群の患者を治療する上で一酸化窒素の吸入が効果的であることが示唆されました。
2020年に流行した新型コロナウイルスもゲノムの大部分をSARSコロナウイルスと共有していることから、一酸化窒素の吸入がCOVID-19患者の治療に有効な可能性があるとイグナロ氏は指摘。一酸化窒素の吸入とCOVID-19の治療に関する複数の臨床試験が進行中であり、必要となる人工呼吸器や入院患者の数が減少することが期待されているとのことです。
また、一酸化窒素は口の中では生成されない一方で副鼻腔では継続的に生成されており、副鼻腔内で生成される一酸化窒素は医療現場で用いられる一酸化窒素と科学的に同一だとのこと。この点からイグナロ氏は、「鼻呼吸をすることで一酸化窒素が直接肺に送られ、気道が拡張して血流が増加するだけでなく、新型コロナウイルスの増殖を抑えることができるかもしれない」と主張。一酸化窒素の吸入量を最大化するため、「鼻から息を吸うことを忘れないでください」とイグナロ氏は述べました。
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