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通勤電車やバスなど公共交通機関は新型コロナウイルスの感染を拡大させるのか?


2019年末に中国・武漢市を中心に発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2020年6月時点でもいまだに世界的流行の収まる気配が見られません。記事作成時点で感染者数約218万人・死亡者数約12万人を記録しているアメリカでは、「電車やバスなどの公共交通機関がCOVID-19の感染拡大の大きな要因となっている」という主張のもと、公共交通機関の利用者が激減しているとのこと。本当に公共交通機関はCOVID-19の感染拡大の大きな要因なのか、ニューヨーク市交通局の元役員であるジャネット・サディク・カーン氏が解説しています。

Fear of Transit Is Bad for Cities - The Atlantic
https://www.theatlantic.com/ideas/archive/2020/06/fear-transit-bad-cities/612979/


マサチューセッツ工科大学のジェフリー・ハリス経済学教授が「公共交通機関がCOVID-19の感染拡大を加速させている可能性」を示す論文を発表し、「ニューヨークの地下鉄システムは、COVID-19の主要な交通手段ではないにしても、主要な拡大手段である」と論じました。また、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)はアメリカの企業に「可能であれば従業員が公共交通機関を避けて1人で車を運転して通勤するように促す」というガイダンスを発表しました。

これを受けて、アメリカ国内の公共交通機関の利用者が激減したと伝えられています。交通データ企業のTransitによると、バスと鉄道の乗客数は平時からニューヨークでは74%、ワシントンD.C.では79%、ボストンで83%も減少しているそうです。


ハリス教授の論文では、感染した乗客と同じ地下鉄に乗った乗客の感染例は追跡されていません。教授が論文の中で、地下鉄の路線図と患者の自宅の郵便番号を重ね合わせましたが、この手法には批判も多く、「論文のデータを精査すると、地下鉄の多い地区は、車が主要な交通手段となっている地区よりも感染率が低い」という反論もあります。

「公共交通機関がCOVID-19の感染拡大を加速させている」というのはあくまでも仮説であり、研究で立証されているわけではありません。実際、2020年5月上旬から6月上旬にかけてフランス・パリで特定されたCOVID-19の集団感染150件の中で、パリ市内の公共交通機関に起因するものはなかったとのこと。また、オーストリアでも2020年4月と5月で発生した355件の集団感染はどれも公共交通機関と関連していなかったとカーン氏は述べています。


また、カーン氏は「CDCのガイダンスによって、公共交通機関を避けた人たちが車を運転するため、渋滞や大気汚染などの交通および環境問題が引き起こされます」と指摘。また、何百万人ものアメリカ人に車の所有と維持を強いることも現実的ではないと批判しています。

カーン氏は、2020年5月上旬までにアメリカで確認された新型コロナウイルス感染症の11%、そして死亡者の3分の1が老人ホームで発生していたと指摘。さらに「世界で最も密度の高い鉄道網を抱えた日本や韓国の感染者数は少ない」と指摘し、アジア圏では「公共の場でマスクを着用する」というマナーが徹底していることが感染抑止に大きな効果をもたらしたと論じています。


カーン氏は「バスや電車で、マスクを着用して静かにスマートフォンを眺めている方が、大きな声で話したり歌ったりするよりも感染リスクがはるかに少ないことが証明されつつあります」と述べ、公共交通機関だけが感染しやすい環境なのではなく、公共交通機関を利用する人間が対策しているかどうかが重要だと強調しています。

さらに「パンデミックによって引き越される経済危機から脱出するためには、公共交通機関の規模を縮小するどころか拡張が必要です。進行中である健康危機と経済危機に、さらに交通危機が加わっても国は回復することはないでしょう」とカーン氏は主張しました。

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in メモ, Posted by log1i_yk

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