サイエンス

「社会的な隔離」によって脳が飢餓状態と似た反応を示すとの研究結果


人間は社会的な存在であり、安定した良好な人間関係を築くことは感情や思考にポジティブな影響を与えますが、逆に孤独は人々の健康や幸福に悪影響を与え、孤独は肥満よりもはるかに多くの人の命を奪っているともいわれています。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによって多くの人々が社会的な距離を取らざるを得ない状況に陥っている中、「社会的な隔離によって脳は飢餓状態と似た反応を示す」との研究結果が発表されました。

The need to connect: Acute social isolation causes neural craving responses similar to hunger | bioRxiv
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.03.25.006643v1

Forced Social Isolation Causes Neural Craving Similar to Hunger - Scientific American Blog Network
https://blogs.scientificamerican.com/beautiful-minds/forced-social-isolation-causes-neural-craving-similar-to-hunger/


慢性的な孤独が肉体や精神に悪影響を与えるとの研究結果はこれまでにも多く示されてきましたが、強制的な社会的隔離が人間に与える影響については、これまで深く研究されてこなかったそうです。マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは、「もしも他者とのつながりが人間にとって根本的な欲求である場合、社会的なつながりが奪われた人の脳内では、食事や睡眠を奪われた場合と似た反応があるのではないか?」と考えたとのこと。

人間が何かを望んでいる場合、脳の報酬回路において神経伝達物質のドーパミンの分泌量が増えることが示されています。中脳や線条体にまたがる報酬回路の領域では、空腹時に食べ物の画像を見たり、薬物中毒者が薬物の写真を見たり、ゲーム中毒者がゲームの画面を見たりすると活発な反応が見られることがわかっています。

マウスを用いた2016年の研究では、24時間にわたり他のマウスから隔離されたマウスが社会的相互作用を求めた際、中脳のドーパミン作動性ニューロンが他の欲求と同様に活性化されたことが確かめられました。しかし、マウスは主観的な孤独の評価を示すことができないため、MITのポスドク研究員であるLivia Tomova氏の研究チームは、人間の被験者を対象にした実験を行いました。


研究チームは社会的つながりを持つ40人の健康的な成人を集め、「被験者が好きな社会活動」「被験者が好きな食べ物」「きれいな花」といった複数の画像を見せて、異なる刺激に対する報酬回路の反応を測定しました。続いて、被験者らは9時~19時の計10時間にわたる断食、または社会的に隔離された状態を強いられました。社会的に隔離された被験者らは他人と接触できないことに加え、TwitterなどのSNSやメール、読書といった行動を禁じられたとのこと。

断食または隔離後に研究チームが被験者にアンケートを実施したところ、たった10時間の隔離であり実験終了時刻もわかっていたにもかかわらず、被験者らは通常よりもはるかに強く社会的つながりを渇望し、孤独・不快感・孤独への嫌悪感・幸福度の低下を報告しました。同様に、断食をした場合でも人々は強い食事への渇望や空腹への嫌悪感、幸福度の低下などが見られました。


さらに、研究チームが断食または隔離を終えた被験者らに対し、「被験者が好きな食事」または「被験者が好きな社会的活動」の画像を見せたところ、いずれの場合も強いドーパミン作動性ニューロンの反応が確認されたとのこと。反応は参加者間でばらつきがあり、アンケートでより強く孤独への否定的な感情を示した人ほど、社会的活動の画像に対する反応が大きかったそうです。

なお、被験者間の孤独に対する反応のばらつきは、実験前の日常生活における慢性的な孤独のレベルに対応しており、慢性的に孤独な状態である人ほど10時間の隔離後も社会的つながりを求める度合いや脳の反応が少なかったと研究チームは報告しています。この発見は、慢性的な孤独感が他者と社会的につながるモチベーションの低下に関連していると示した、以前の(PDFファイル)研究に合致するものです。


今回の研究結果は、人間が社会的つながりを求める根底には「社会的恒常性」が存在し、食事や睡眠と同様に人間が社会的相互作用を求めるという仮説を支持するものです。研究チームは今後の課題について、「隔離中の被験者がSNSをチェックしたり、あるいはSNSで誰かと関わったりした場合は隔離の影響が排除されるのか?」「年齢によって隔離の影響は異なるのか?」といったものを挙げています。

2020年には多くの人々がCOVID-19のパンデミックに伴って強制的な社会的隔離を経験しましたが、今回の実験を行ったのはCOVID-19が世界中に広まる前のことであり、研究チームは論文の執筆を始めた時点でも「今回の研究はニッチなものかもしれない」と感じていたとのこと。ところが、COVID-19のパンデミックによって、強制的な社会的隔離が急速にホットな話題となったと研究チームは述べました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
なぜ人は孤独を感じるのか、どうすれば孤独から逃れることができるのか? - GIGAZINE

「外に出ずに孤独を和らげる方法」を心理学者が語る - GIGAZINE

5万人以上を対象にした調査で「孤独」に陥ってしまいがちな人の属性が明らかに - GIGAZINE

人生には孤独が身に染みる「3つの年代」が存在する - GIGAZINE

世界から隔絶された空間で孤独に生活すると人はどのようになってしまうのか? - GIGAZINE

社会的つながりが弱まり慢性的な孤独を覚える人が伝染病レベルで増加しているという指摘 - GIGAZINE

「孤独を治療する薬」が開発されている - GIGAZINE

「孤独」が不快でつらいのは体に危険だと警告しているから - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article here.