サイエンス

新型コロナウイルスに免疫を獲得できる可能性、鍵となる「T細胞」とは一体どんな細胞なのか?


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)から回復した人の免疫細胞を調べる2つの研究により、人体が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する免疫を獲得できる可能性があることが突き止められました。

Targets of T cell responses to SARS-CoV-2 coronavirus in humans with COVID-19 disease and unexposed individuals: Cell
https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(20)30610-3

Presence of SARS-CoV-2 reactive T cells in COVID-19 patients and healthy donors | medRxiv
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.04.17.20061440v1

T cells found in COVID-19 patients ‘bode well’ for long-term immunity | Science | AAAS
https://www.sciencemag.org/news/2020/05/t-cells-found-covid-19-patients-bode-well-long-term-immunity

WHOは2020年4月に「COVID-19の回復者が免疫を獲得しているかは不明」との声明を発表しました。これは、COVID-19から回復した人の抗体のレベルが予想より低いケースがあったことや、そもそも抗体がSARS-CoV-2に有効かどうかの確証が得られていないことなどが理由です。

新型コロナウイルスの回復者が免疫を獲得しているかは不明とWHOが警告 - GIGAZINE


そんな中新たに注目を集めているのが、T細胞という免疫細胞です。T細胞には複数の種類があり、中でも抗体を産生するB細胞を活性化させるヘルパーT細胞や、ウイルスに感染した細胞を破壊してウイルスの増殖を抑制するキラーT細胞などが有名です。このように、T細胞には抗体に依存しない免疫機能があるため、仮に抗体がSARS-CoV-2にあまり有効でなくても一定の免疫機能が期待できるとされています。

そこで、カリフォルニア州にあるラホヤ免疫研究所の免疫学者シェーン・クロッティ氏とアレッサンドロ・セッテ氏が率いる研究チームは、軽症のCOVID-19から回復した患者10人から採取したT細胞などの免疫細胞を、さまざまなウイルスの断片に暴露する実験を行いました。その結果、全ての患者のヘルパーT細胞がSARS-CoV-2のスパイクタンパク質に反応することが確かめられました。さらに、SARS-CoV-2を標的にするキラーT細胞も患者の70%から発見されています。

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クロッティ氏はこの結果について、「COVID-19の症例において、SARS-CoV-2に対するヘルパーT細胞の良好な反応が見られたことは心強いことです」とコメント。セッテ氏も「免疫システムはSARS-CoV-2を発見し、効果的な免疫反応を開始することが可能です」と述べて、人体の免疫機構がCOVID-19に有効に機能する可能性を指摘しました。

また、ドイツにあるシャリテ・ベルリン医科大学の免疫学者アンドレアス・ティール氏の研究チームも、COVID-19により入院した患者18人中15人から、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質に反応するヘルパーT細胞を発見しています。


ティール氏らはさらに、COVID-19にかかったことがない人でも、SARS-CoV-2に対抗する免疫を獲得している可能性があることを突き止めています。研究チームがSARS-CoV-2に感染した経験がない68人の血液サンプルを分析した結果、34%の人がSARS-CoV-2に反応するヘルパーT細胞を持っていることが分かったためです。

この実験に用いられた血液サンプルは、COVID-19が発見される前の2015~2018年に採取されたものだったことから、研究チームは「SARS-CoV-2に対する免疫反応は、過去に普通の風邪を引き起こす4種のヒトコロナウイルスに感染したことで獲得されたものである可能性が高い」と結論しています。


コロンビア大学のウイルス学者アンジェラ・ラスムッセン氏は、これらの研究結果が風邪やCOVID-19にかかった経験がある人が再感染しないことを保証するものではないとしつつも、「T細胞がSARS-CoV-2に対して強く反応することは、長期的な免疫の獲得にはいい兆候です」と述べています

また、ノースカロライナ大学チャペルヒル校のウイルス学者レイチェル・グラハム氏は、「目下100種類以上のSARS-CoV-2ワクチンが開発されていますが、その多くはスパイクタンパク質に対する反応を引き出すことを目的としています。一方、ラホヤ免疫研究所の実験ではSARS-CoV-2のスパイクタンパク質以外のタンパク質に反応するヘルパーT細胞も見つかっています。1つのタンパク質だけに集中しすぎないことは、ワクチン開発の上で重要です」と述べて、今回の発見によりさまざまなアプローチで作用するワクチン開発の道が開かれたとの見方を示しました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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