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「取引相手がロボットなのか人間なのか」でどれくらい信頼関係や感情に変化があるのか?


科学技術の発展に伴って仕事の現場にロボットやコンピューターが続々と導入されるようになっており、AIが地下鉄エンジニアの勤務シフトを生成するという試みも登場しています。そんな中、「人間とロボットでは信頼関係や取引の結果生じる感情にどのような違いがあるのか?」を調べるため、アメリカやカナダの研究者らが実験を行いました。

Trust in humans and robots: Economically similar but emotionally different - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0167487020300106

Trust in humans and robots: Economically similar but emotionally different | EurekAlert! Science News
https://www.eurekalert.org/pub_releases/2020-04/cu-tih041620.php


人間とロボットがやり取りを行う場面は、市場や職場、路上、家庭などで一般的になりつつあります。チャップマン大学モントリオール大学の研究チームは、人間とロボットの間で信頼をベースにした相互作用がどのように結ばれるのかを調査するため、「信頼ゲーム」の実験を行いました。

信頼ゲームは「投資者」と「受託者」という2人の被験者で行うゲームです。最初に投資者には一定の金額が支給されます。次に投資者は手元の資金から受託者に投資する金額を決め、受託者は投資者が投資した金額の「3倍」を受け取ります。次に受託者は受け取った金額のうちいくらかを「返礼」として送り返します。この返礼に金額の制限はなく、手元の資金を全額渡しても、一切渡さなくても構いません。投資者が受託者からの返礼を受け取った時点でゲームは終了です。


信頼ゲームはその名の通り、投資者と受託者の間に結ばれる「信頼関係」について調査するゲームです。たとえば、最初に投資者に10ドル(約1100円)が支給されるとします。もし投資者が「受託者は手にした金額を全て自分のものにして、返礼を一切してくれないだろう」と考え、受託者を信頼しなければ、最初に投資者が受託者へ送金することはありません。この場合、投資者が10ドルの利益を得て、受託者が得る利益はゼロです。

一方、投資者が「こちらが投資した額以上を受託者は返礼してくれるはずだ」と考え、受託者を信頼した場合、投資者から受託者に送金が行われます。たとえば、投資者に10ドルが支給されたとします。実際の実験では支給された金額のうち50%ほどを送金するケースが多かったため、5ドル(約550円)を送金するとします。


この場合受託者が受け取れる金額は5ドルの3倍である15ドル(約1600円)となり、受託者がもらった全額を独り占めにしようとして一切返礼しなければ、投資者の利益は5ドル、受託者の利益は15ドルとなります。しかし、人間を対象にした信頼ゲームでは多くの場合、受託者は受け取った金額のうち40%ほどを投資者に返礼するとのこと。受託者が15ドルのうち6ドル(約660円)を投資者に送金すると、最終的に投資者の利益は11ドル(約1200円)、受託者の利益は9ドル(約990円)となり、投資者が「一切送金しない」と決断した場合の投資者10ドル、受託者0ドルよりも双方共に得することができます。人間同士の取引では、投資者が受託者を信頼し、受託者も投資者の信頼に報いる傾向が観察されています。

今回の実験では、「人間-人間の信頼ゲーム」に加え、「人間-ロボットの信頼ゲーム」、「人間-ロボットだがロボットの利益は別の人間に渡される信頼ゲーム」の3パターンを実施。取引相手が人間なのかロボットなのか、あるいは直接やり取りするのはロボットでも最終的に影響を受けるのは人間というパターンで、投資者が相手に抱く信頼や感情がどれほど変化するのかが調査されました。

by Chapman University

実験の結果、投資者は相手が人間だろうとロボットだろうと、あるいは人間に影響を与えるロボットであろうと、同程度に信頼して送金を行うことが判明しました。人間は盲目的にロボットを信頼することも、ロボットに拒絶反応を抱いて信頼しないこともなかったとのこと。

一方、取引が成功したり失敗に終わったりした際に投資者が抱く感情については、相手が人間の場合とロボットの場合で変化が現れました。取引が成功して利益が得られた場合、投資者の「感謝」する気持ちは、相手がロボットの場合よりも人間の場合に大きかったそうです。取引が失敗した際に抱く「怒り」の感情も、相手が人間の場合により大きく、ロボットの場合に小さいことが示されました。また、取引相手が人間に影響を与えるロボットだった場合、人間の感情は相手が単なるロボットだった場合よりも大きくなったと研究チームは指摘しています。

今回の実験では、ゲーム開始時点で人間の投資者が抱く信頼は相手がロボットでも人間でも違わないことが示されましたが、同様の取引を何度も繰り返した場合、取引相手との信頼関係は異なってくる可能性があります。取引が何度も成功している場合、投資者は相手が人間である方が大きな感謝を抱くため、信頼関係は非常に強固なものとなると考えられます。一方、相手がロボットだった場合は感謝の念が小さいため、人間相手の場合よりも信頼関係が弱いままかもしれません。同様に何度か取引が失敗した場合、人間相手には怒りの感情を抱きやすいため信頼関係が崩壊しやすく、ロボット相手では怒りを抱きにくいため関係が崩壊しづらい可能性があります。

将来的には公道を走る無人車両や乗員がいるものの運転はロボットが制御する車両が増加し、従来通り人間が運転する車両とのトラブルが発生することも考えられます。同様にホテルや空港の受付、さまざまなサービス業などにもロボットが進出し、人間とロボットが取引を行うケースは増えるとみられています。そんな未来の状況を理解する上で、人間とロボットの信頼関係や感情の動きについて調査することには意義があると研究チームは主張しています。

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in メモ, Posted by log1h_ik

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