1トン近くのペットボトルを10時間で分解してリサイクルを可能にする酵素が開発される
ペットボトルや衣料の材料などに使われるポリエチレンテレフタラート(PET)を従来と比較して圧倒的に短時間で分解できる酵素が開発されました。これまでに発見されていたPET分解酵素と異なり、リサイクルに応用することも可能だとのことです。
An engineered PET depolymerase to break down and recycle plastic bottles | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2149-4
Newly engineered enzyme can break down plastic to raw materials | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2020/04/researchers-engineer-enzyme-to-break-down-plastic-bottles/
Scientists create mutant enzyme that recycles plastic bottles in hours | Environment | The Guardian
https://www.theguardian.com/environment/2020/apr/08/scientists-create-mutant-enzyme-that-recycles-plastic-bottles-in-hours
2019年に発表された研究によれば、世界中で年間3億5900万トンも生産されるプラスチックのうち、1億5000万トン~2億トンが埋立地か自然環境に蓄積していると推定されています。その中でもPETは世界中で年間約7000万トンも製造されていますが、ほとんど自然分解しないことから、残存するペットボトルなどのゴミが生態系に影響を与えるなど環境問題となっています。
PETを加水分解できる酵素はこれが初の発見というわけではありません。大阪府堺市のリサイクル工場で採取された試料から見つかった細菌「Ideonella sakaiensis」からは、「ペターゼ」が発見されています。
ペットボトルを分解できる酵素が実験施設で偶然に生み出されたことが判明 - GIGAZINE
しかし、ペターゼによる分解は時間がかかる上、分解後はリサイクル不可能な状態になってしまうため、「PETの生産量を減らす」という目的は達成できません。そこで、フランスの大手プラスチックメーカーであるカルビオスは、2012年に堆肥から発見された10万種類の微生物を調査。そこから発見された酵素を、PETの分解経路の研究データを基に変異させ、「PETを短時間で分解し、さらにリサイクル可能にする新しい酵素」を新しく開発したと発表しました。
PETを分解するためにはある程度溶解する必要がありますが、従来の酵素はおよそ65℃という温度で活性を失ってしまうという問題がありました。しかし、カルビオスの開発した酵素は72℃で安定した活性を見せ、PETを急速に分解することができたとのこと。研究チームは、この新しい酵素は1トンのペットボトルの90%が10時間以内に分解可能で、さらに分解後の物質からペットボトルを再生産することに成功したと報告しています。
カルビオスの最高科学責任者でトゥールーズ大学の生物学教授であるアラン・マーティ氏は「2012年に発見された微生物は完全に忘れられていましたが、最高の結果をもたらすことがわかりました」とコメントしています。
酵素の生産コストは新しいペットボトルの生産コストのおよそ4%だそうで、カルビオスは既にこの酵素を大規模に生産する契約をバイオテクノロジー企業のNovozymesと結んでいるとのこと。分解には加熱が必要である以上、この酵素を利用してリサイクルしたペットボトルの生産コストはどうしても新しいペットボトルの生産コストよりも高くつきますが、カルビオスのマーティン・ステファンCEOは「供給不足から従来のリサイクルPETも低品質でありながら割高で販売されています」と述べています。
ステファンCEOは「プラスチックの使用量を減らすことが廃棄物問題を解決するための一端です」としながらも、「プラスチックが食品、医療、交通機関など社会に多くの価値をもたらしていることは誰もが知っていることであり、問題はプラスチックの廃棄物処理です。プラスチックの約半分は環境や埋め立て地で終わっているため、プラスチック廃棄物の回収量を増やすことが鍵となります」とコメントしました。
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