メモ

社会保障を現金給付ではなくキャッシュレスで給付するとどんな問題が発生してしまうのか?


オーストラリアでは、先住民や社会的に弱い立場にある人の生活を支援するために、BasicsCard(ベーシックスカード)と呼ばれるデビットカードで家賃支払いや生活必需品の購入が可能な福祉制度が導入されています。一見すると、便利なカード支払いで物を買うことができて、不正受給の心配もない先進的な制度のように思えますが、問題も多いと指摘されています。

Hidden Costs: An Independent Study into Income Management in Australia
(PDFファイル)https://static1.squarespace.com/static/5bff47d1da02bc49ad4e890b/t/5e54c6934eb2985cbbf830a5/

'I don't want anybody to see me using it': cashless welfare cards do more harm than good
https://theconversation.com/i-dont-want-anybody-to-see-me-using-it-cashless-welfare-cards-do-more-harm-than-good-132341


Compulsory income management ‘disabling', study shows - UQ News - The University of Queensland, Australia
https://www.uq.edu.au/news/article/2020/02/compulsory-income-management-disabling-study-shows

Cashless welfare card harms Aussies: study
https://www.sheppnews.com.au/national-news/2020/02/26/1056836/cashless-welfare-card-harms-aussies-study

‘I go in, come out, and I'm all in tears’: Vulnerable people humiliated by cashless welfare card | PBA
https://probonoaustralia.com.au/news/2020/02/i-go-in-come-out-and-im-all-in-tears-vulnerable-people-humiliated-by-cashless-welfare-card/

ベーシックスカードは、生活保護費家族給付などの一部または全部を政府が管理する口座に振り込んで、そこに紐付けられたカードで食品や衣服などを購入することができる制度です。もともとは総人口に対する先住民の人口比が最も大きい北部準州を対象とした北部準州緊急対応(NTER)の一環として2007年に始まった制度ですが、それ以外の地域でも同様の機能を持ったCashless Debit Card(キャッシュレスデビットカード)などが配布されています。


ベーシックスカードの使い方は普通のデビットカードとほとんど同じとのことですが、「アルコール・ポルノ・タバコ・ギャンブル・商品券」などの支払いには使用できないほか、現金を引き出すこともできないようになっています。このように、所得や金銭の使い道を管理する性格が強いNTERについては、導入当初から自由の侵害だとの批判も多くなされましたが、深刻な飲酒問題に悩まされていたアボリジニの女性などからは歓迎する声も多かったとのこと

賛否両論の中でスタートしたベーシックスカード制度ですが、クイーンズランド大学の社会学者グレッグ・マーストン教授らの研究グループが行った調査からは、多くの問題点も浮き彫りになりました。

研究グループがオーストラリア全土の所得管理事務所から回収された199件のアンケート結果と、ベーシックスカード制度が実施されている4つの都市で行われた114件の面談結果をまとめたところ、調査対象者の13%はこの制度にメリットを感じていたことが分かりました。しかし、残りの87%はメリットを感じておらず、むしろ問題が多いと考えていました。


そうした問題の1つが、カード自体の使い勝手の悪さです。まず、ベーシックスカードはオーストラリア全土に約1万5500ほどある店や企業しか決済を受け付けていません。キャッシュレスデビットカードでは使い勝手がかなり改善されていますが、それでも中古品の販売店などでは使用できないとのこと。これには、オークションサイトのeBayも含まれています。さらに、現金を引き出すこともできないため、調査対象となった人の76%が、どうしても現金が必要な時になくて困ったことがあると答えています。

また、決済システムも安定しているとはいえないとのこと。調査に協力したエマさんは、家賃を支払ってから2日後に家賃が口座に戻ってきてしまったため、カード会社に問い合わせたところ、「ちょっとしたエラーですよ」と言われてしまったそうです。こうした、「支払い手続きをしたのにきちんと支払えているか分からない」という問題が悩みの種になっていると、エマさんは話しました。


他にも、社会との分断や自立の妨げとなる可能性も指摘されています。マーストン氏によると、制度を利用している多くの世帯で金銭管理能力が低下し、所得管理や自動支払いシステムに依存する傾向が見られたとのこと。また、カード利用者の84%はカード使用中に恥や不名誉を感じる経験をしたと答えています。

例えば調査に答えたメイナードさんは、カードの使用中にジャンキー呼ばわりされてしまった経験があると話しています。メイナードさんが「ジャンキーなんかじゃありませんよ。顔に印でも付いてるんですか?」と言うと、相手は「でもベーシックスカードを持ってるじゃないか」と答えたとのことでした。

こうした問題について、オーストラリア社会福祉協議会のCEOを務めるカサンドラ・ゴールディー氏は「管理コストのかさむキャッシュレスデビットカードを人々に持たせるより、新生活の支援や雇用の改善を通じて貧困から人々を救い出す方が先決です」と話しました。

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in メモ, Posted by log1l_ks

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