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Intel初の極低温量子ビット制御チップ「Horse Ridge」の詳細が明らかに


Intelが極低温量子ビット制御チップ「Horse Ridge」に関する詳細を発表しました。

Intel and QuTech Unveil Details of First Cryogenic Quantum Computing Control Chip, ‘Horse Ridge’ | Intel Newsroom
https://newsroom.intel.com/news/intel-qutech-unveil-details-first-cryogenic-quantum-computing-control-chip-horse-ridge/


「Horse Ridge」は、Intelがデルフト工科大学の研究機関である「QuTech」やオランダ応用科学研究機構(TNO)と共同で開発した、極低温環境を用いて量子ビットを生成・制御するというチップです。IntelはHorse Ridgeについて、「フルスタック量子コンピューティングシステムの開発を加速し、商用の量子コンピューターを開発するための重要な一歩となります」と述べています。

Horse Ridgeは量子コンピューターの実用性を示すことができる強力な量子システムを構築する際に基本的な課題となる「スケーラビリティ」「忠実度」「柔軟性」の3点に対処したSoCだそうです。IntelはHorse Ridgeについて、「量子コンピューティングシステムに必要となる複雑な制御電子機器を大幅に簡素化し、セットアップ時間を短縮し、量子ビットパフォーマンスを改善し、量子コンピューティングで実際のアプリケーションを動作させるために必要な量子ビットのパフォーマンス向上および量子ビット数の効率的なスケーリングを可能とします」と記しています。

量子コンピューターの実用性を示す際に課題となった「スケーラビリティ」「忠実度」「柔軟性」について、Horse Ridgeは以下のように対処しています。

◆スケーラビリティ
Horse RidgeはIntelの22nm FinFET Low PowerのCMOSテクノロジーを用いて製造されたSoCです。4つの無線周波数チャネルを単一のデバイスに統合しており、各チャネルは「周波数多重化」を用いることで、最大32キュービット(量子ビット)を制御可能となります。なお、「周波数多重化」は、利用可能な総帯域幅をそれぞれが別々の信号を、伝送するために使用される一連の重複しない周波数帯域に分割するという技術です。

Horse Ridgeでは4つのチャネルを活用することで、1つのSoCで最大128キュービットを制御できるため、これまで必要だったケーブルや機器の数を大幅に減らすことが可能となっています。スリム化により、Horse Ridgeは従来よりもスケーラビリティが格段に向上しているわけです。

◆忠実度
取り扱う量子ビット数が増加すると、量子コンピューティングシステムの容量や動作とは別の問題が起こります。量子ビット数の増加による潜在的な影響のひとつとして挙げられるのが、「量子ビットの忠実度とパフォーマンスの低下」です。これは、異なる周波数で多くの量子ビットを制御するときに発生する現象で、量子ビット間で起きるクロストークです。

Horse Ridgeの開発において、Intelはシステムが「位相シフト」からのエラーをスケーリングおよび削減できるようにするため、多重化技術を最適化しています。これにより、Horse Ridgeではさまざまな周波数を高精度で調整できるようになり、量子コンピューティングシステムは同じ無線周波数ラインで複数の量子ビットを制御する位相シフトに適応し、自動で修正できるようになるそうです。これにより、量子ビット理論における忠実度の問題に対処することが可能となっています。

◆柔軟性
Horse Ridgeは広い周波数範囲をカバーできるので、超伝導量子ビットとスピン量子ビットの両方を制御することができます。通常、超伝導量子ビットは約6~7GHzで動作しますが、スピン量子ビットは約13~20GHzで動作します。

Intelは1ケルビン(摂氏マイナス272.15度)という極低温環境でも動作可能なシリコンスピン量子ビットの開発を進めているとのこと。研究ではシリコンスピン量子ビット端末とHorse Ridgeの極低温制御機能を統合することで、量子ビットと制御を1つの合理的なパッケージで提供可能になるとして、Horse Ridgeの柔軟性をアピールしています。

なお、Horse Ridgeの技術的な詳細は2020年2月18日に公開された研究論文の中でも概説されています。

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in ハードウェア, Posted by logu_ii

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