感染症を広めまくる「スーパー・スプレッダー」とはどのような人なのか?
By _freakwave_
新型コロナウイルスの感染が世界で拡大しており、「ウイルスが感染するメカニズム」について注目が集まっています。アメリカ・ペンシルバニア州立大学感染症ダイナミクスセンターのElizabeth McGraw所長が、通常の人よりも多くの二次感染を引き起こす「スーパー・スプレッダー」について解説しています。
What is a super spreader? An infectious disease expert explains
https://theconversation.com/what-is-a-super-spreader-an-infectious-disease-expert-explains-130756
2020年1月25日、インペリアル・カレッジ・ロンドンのMRCグローバル感染症分析センターは、「どれくらい多くの人に感染しうるか」というウイルスの能力を示す指数である基本再生産数について、新型コロナウイルスを「2.6」と見積もりました。この数値は、「新型コロナウイルスに感染した1人の患者は約2.6人にウイルスを広め得る」ということを意味しています。一方、新型コロナウイルスの発生源とされる中国・武漢では、14人もの医療感染者に新型コロナウイルスをうつした1人の感染者が報告されました。
Wuhan coronavirus 'super spreader' alarms disease detectives - CNN
https://edition.cnn.com/2020/01/23/health/wuhan-virus-super-spreader/index.html
この感染者のように、「通常考えられるよりも多くの人に感染症をうつす」という人が、「スーパー・スプレッダー」です。McGraw所長は「病原体の性質」「感染者の体質」「感染者の行動」「感染が拡大したときの状況」などが複数組み合わさった場合に人はスーパー・スプレッダーになり得ると述べて、「スーパー・スプレッダーになってしまった人」の特徴を詳しく解説しました。
McGraw所長は、一部の人は他人と異なる免疫システムを有しており、「特定の病気に感染しても病状がほとんど出ない」場合があると説明して、その好例として「チフスのメアリー」の異名を取ったメアリー・マローンを挙げました。1900年代初頭にアメリカで腸チフスが流行した際、マローンも腸チフスに感染しました。しかし、マローンは病原体に感染しても発症しないという「無症状性キャリア」だったため、「自分が病気に罹っている」という自覚のないまま、住み込み料理人として働き続けました。マローンは「子どものよう」と評された善良な人柄と料理の腕前で知られていた女性でしたが、その体質と職業ゆえ、結果として51人を腸チフスに感染させることとなりました。
2002年から2003年にかけて流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)も、感染拡大にスーパー・スプレッダーが大きく関わっています。2003年1月、魚屋として働いていたZhou Zuofen氏が広州市の孫文記念病院に入院し、Zuofen氏はこの病院で30人の医療関係者にSARSをうつしました。このとき感染した1人が、医師だったLiu Jianlun氏でした。2003年2月、Jianlun氏は家族に会うために香港のメトロポールホテルに宿泊し、同じ階層に宿泊していた旅行者たちをSARSに感染させました。感染した旅行者たちはそれぞれカナダ、ベトナム、シンガポールに移動し、各国で感染が拡大。原因となったJianlun氏は、3月19日に死亡しました。
当時感染を拡大した原因は、エレベーターでJianlun氏と乗り合わせた宿泊客が、Jianlun氏の咳やくしゃみによってウイルスを吸い込んだことだと考えられていました。しかし、その後の調査によって、真の原因は「廊下のカーペット」だったことが判明しています。以下の画像はJianlunが宿泊していたメトロポールホテルの間取り図で、赤色の箇所がSARSウイルスが検出された場所を示しています。Jianlunが宿泊していた部屋は緑色で示された「K」号室。このK号室の前やエレベーターホールのカーペットはSARSウイルスによって汚染されていました。
Jianlun氏のように、「訪れた場所」が問題になったスーパー・スプレッダーも多いとMcGraw所長は指摘。アメリカでは過去20年にわたって麻疹の感染者が学校・病院・飛行機・テーマパークなどの「人が多い場所」を訪れた結果、感染が拡大したことが判明しています。
また、「物理的な距離」もスーパー・スプレッダーを生み出す要因の1つ。SARSや中東呼吸器症候群(MERS)などは病院で多数の医療関係者に感染が拡大しました。韓国・サムスン医療センターの研究チームは、同医療センターに運び込まれたMERS患者14人と同じ区画に入院していた患者の20%が感染したことを発見。感染者の院内での行動を分析した結果、医療関係者のMERS感染リスクは6%、外部からの訪問者のMERS感染リスクは2%だと算定しました。研究チームは、「感染者との物理的な距離がMERS感染リスクに影響している」と結論付けています。
McGraw所長は全ての感染症において、感染者の20%が80%以上の二次感染を引き起こしていると説明しています。スーパー・スプレッダーにならない、そしてスーパー・スプレッダーから感染症をうつされない方法として、McGraw所長は予防接種などに加えて、「マスクの着用」や「手を洗うこと」などを挙げました。
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