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伝染病を最初に広めた人に注目が集まると弊害が生じる、その理由は?


高い伝染力を示す新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行によって、伝染病に初めて感染してしまった人物「Patient zero(ゼロ号患者)」の存在に注目が集まっています。ゼロ号患者にばかり注目が集まることの弊害を、伝染病の歴史の専門家であるケンブリッジ大学のリチャード・マッケイ氏が解説しています。

Patient zero: why it's such a toxic term
https://theconversation.com/patient-zero-why-its-such-a-toxic-term-134721

ゼロ号患者は伝染病に初めて感染した患者を指す単語ですが、その定義は明確でなく、マッケイ氏は「『初めて』という部分はさまざまな解釈が考えられます」と説明。文脈によって正確な意味が変わると語りました。

マッケイ氏によると、ゼロ号患者は「問題の伝染病に世界で初めて感染した人物」を指すこともあれば、「特定のコミュニティ内で初めて感染した人物」ないし「初めて感染が発覚した人物」を指すこともあるとのこと。たとえば、病状が出ない無症状病原体保有者が存在する場合は、「特定のコミュニティ内で初めて感染した人物」と「初めて感染が発覚した人物」が異なることがあります。この場合、注目を集めるのは「初めて感染が発覚した人物」のほうであるため、通例ではこちらがゼロ号患者と呼ばれるとのこと。


この種の定義に関する議論が尽きなかったため、ゼロ号患者とは別に「特定のコミュニティ内で初めて感染した人物」を限定的に指す「プライマリー・ケース」という単語が作られたとマッケイ氏は解説。最初の感染者がいつ・どこで感染し、その後にどのように移動したかを追跡する際に活用されるようになったと述べました。

また、「世界で初めて感染した人物」は「アルファ・ケース」と呼ばれるようになったとのこと。ただし、マッケイ氏は「世界で初めて感染した人物は通常見つからないため、『病院の記録上で陽性反応が最も早くに出た患者』がアルファケースと呼ばれる可能性があります」と言及しました。


「プライマリー・ケース」「アルファ・ケース」などの単語は、感染がどのように広がったのかを時系列的にまとめる際に重要になるため、それぞれを議論する価値があります。しかし、「ゼロ号患者」については恣意(しい)的な使われ方をされてしまっているというのが、マッケイ氏の主張です。

19世紀後半から20世紀初頭にかけて開発された接触追跡法は、感染者の行動を調査して伝染病をうつした相手を追跡するという手法です。接触追跡法は伝染病の1種であるチフスの無症状病原体保有者であり、多数の人物のチフスを広めてしまったメアリー・マローン、通称「チフスのメアリー」の一件で特に有名になったとのこと。住み込み料理人として富豪宅に雇われていたメアリーは「善良な人柄」とされる料理人でしたが、メアリーが雇われた家庭で次々に腸チフスの患者が発生。チフスのメアリーを追跡することで、公衆衛生当局は多くの感染者を特定することができました。


しかし、チフスのメアリーの一件をメディアが盛んに報じた結果、公衆衛生当局は「病気探偵」のように扱われるようになったとマッケイ氏は指摘。「感染者が無害な犠牲者に伝染病をうつす」という構図が生まれてしまったと説明しました。

この構図の問題点は、「判明している感染者のみに注目が集まる」ということです。マッケイ氏は、アメリカの同性愛者コミュニティ内に後天性免疫不全症候群(AIDS)を持ち込んだと考えられたゲタン・デュカスの事例を挙げて、「デュカスの性交相手は追跡可能だったが、パートナーのわからない同性愛者もいた」と指摘。AIDSの調査が本格的に開始された1981年に数千人のアメリカ人がすでに感染していたことに触れて、「そもそも感染が拡大したのは1970年中頃からで、その時代の性交相手の追跡調査は行われていない」と言及。デュカスのみに焦点を当てた調査には問題があったと語りました。


マッケイ氏が指摘しているのは、「特定の感染者のみに注目が集まってしまった結果、その他の可能性が無視されるようになる」という問題です。感染の広がりについて考えるならば、無症状病原体保有者などに目を向けることが必要です。しかし、ゼロ号患者に注目が集まると、「ゼロ号患者以前に感染が生じていた」という可能性がないがしろにされてしまいます。同時に、ゼロ号患者などの感染者の個人的な行動に議論が集中すると、「コミュニティ全体で行う伝染病対策」の議論が行われなくなるとマッケイ氏は語っています。

マッケイ氏は、接触追跡法はCOVID-19対策として重要だと述べながらも、ゼロ号患者という単語を使って伝染病を他人事のように考えるのではなく、身近なものだと考えると、手洗い・自己隔離・社会的距離などの感染リスクを減らす行動をよりよく考えるようになれると主張しています。

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in メモ, Posted by log1k_iy

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