インタビュー

アニメ「空挺ドラゴンズ」の吉平“Tady”直弘監督にインタビュー、原作第1話で惚れ込んだ監督はいかにしてアニメを「単なる映像化」を超えたものとして昇華させたか


2020年1月から放送中のテレビアニメ「空挺ドラゴンズ」を手がけたのは、「シドニアの騎士 第九惑星戦役」「BLAME!」「GODZILLA 怪獣惑星/決戦機動増殖都市/星を喰う者」で副監督を務めてきた吉平"Tady"直弘さん。ポリゴン・ピクチュアズのスタジオを見せてもらったあと、直接、吉平監督がこの「空挺ドラゴンズ」制作にどのように挑んでいるのか、いろいろな話を伺ってきました。

アニメ「空挺ドラゴンズ」公式サイト
https://drifting-dragons.jp/


GIGAZINE(以下、G):
吉平監督がこの「空挺ドラゴンズ」の原作を最初に読んだのはいつごろでしたか?

吉平"Tady"直弘監督(以下、吉平):
連載の1話が「good!アフタヌーン」に掲載された月ですかね。

G:
第1話とは!

吉平:
ちょうど「BLAME!」も落ち着きつつあって、自分の監督作品を探さなくちゃいけないという時でした。何かいい作品はないかとさまざまな作品を探していたときにこの「空挺ドラゴンズ」の第1話を読んで、一目ぼれしました。「これがやりたい」と。

G:
確かに第1話は展開が詰まっていてインパクトが大きいですが、特に惹かれたのはどういう点でしたか?

吉平:
ストーリーの描写の仕方も素晴らしかったんですけど、ステレオタイプな作品ではまったくなくて、何が始まるか分からないワクワクする展開と、非常にユニークな世界観がありました。「これがどういう世界なのか」というのを考えながら描写していったら、どんなに面白い映像ができるんだろうと思ったんです。「聖剣を持ち、魔法でドラゴンを倒す。めでたしめでたし」ではないところですね。

G:
確かに。

吉平:
作画に関しては、素晴らしいスタジオさんがたくさんありますし、素晴らしい作品もたくさんあります。なので、消耗戦をやるのではなく、個性豊かな世界観とキャラクターたちがいる中で、CGや自分自身の個性も生かしながら、「個性の宝箱」みたいなものをアニメ監督としてラッピングできないかなと考えました。

G:
なるほど。

吉平:
それで、この原作はどんな型にもくくられずに「なんだこれは」って驚きが常にある作品になるという予感がもとで、アプローチさせていただきました。

G:
原作を読んでいたので「この作品をCGで!?」とびっくりしたのですが、実際にアニメになったものを見ると「確かに、龍が動いている」と、とても納得がいきました。

【1/8放送開始】TVアニメ「空挺ドラゴンズ」第1話冒頭&WEB番組「MIKA'Sキッチン」予告 - YouTube


吉平:
「龍が空を飛ぶ」といったアクション性の部分ももちろんありますが、アクション一辺倒というわけではなく、複雑で個性豊かなキャラクターたちのドラマや世界観が作品に含まれている、という点が自分が最もアプローチしたかったことの一つです。

G:
今回、CGキャラクターのアニメーションはモーションキャプチャーではなく手付けだということなのですが、なぜモーションキャプチャーではなく手付けで動かすことにしたのですか?

吉平:
モーションキャプチャーって、作品によって合う合わないがあると思うんです。人の生理的な動きって、映像映えしないような中間的なポーズも多かったりするし。今回のような作品は、記号化された表現であったり、記号化されているがゆえに逆に拡張できる表情や動きみたいなものもあって、それを含めての面白さ、動かす面白さがあると思うんです。それに加えて、人が一枚ずつ絵を描いている作画アニメがこれだけ人を感動させているという事実と向き合って、ポリゴン・ピクチュアズのアニメーターが丁寧に、一コマずつ気持ちを込めてキーフレームを付けていったときに、少しは感情表現において手描きのアニメに少しは近づけるはずだ、という思いを込めて手付けにさせてもらっています。

G:
人が介在するアニメーションならではの動き、みたいなイメージですか?

吉平:
そうですね。視聴者へ自分たちが伝えたいことをしっかりと印象に残すために、きちんと動きをコントロールして感情を伝える努力をすることが大事だということです。

G:
なるほど。あと今回一番ビックリしたのが食事するシーンなんですが、あれもCGですよね?肉なんて、めっちゃお肉って感じしてるじゃないですか。「飯テロ」映像には本当にやられました。

【2020.1.8放送開始】TVアニメ「空挺ドラゴンズ」“龍の尾身ステーキサンド”飯テロシーン - YouTube


吉平:
よかったです(笑)

G:
なぜ、あんなにも「これぞ肉」という質感が出せたのですか?


吉平:
「おいしい」って感じるものは何だろうっていうことを研究しました。ただ写真を画面に置いても決して「おいしい」にはならないわけです。ましてや、写真がアニメ映像の中に違和感なく混じるかといったら、まったく混じりません。そこで「何を描いたら『おいしそう』『これを食べたい』と感じるんだろうか」ということを初期段階から研究しました。今だと、写真を撮ってそのまま立体化するみたいな技術もありますけど、それで作ってもむしろ冷めたお弁当みたいになってしまう。

G:
確かに、わかる気がします。

吉平:
そうした技術では「おいしそう」「食べたい」という人間の本能的な欲求をかき乱さないと思ったので、「おいしい」を描くということをテーマに、ひたすらデザインを研究しました。「『おいしい』を描く」というのは、「おいしいと人が感じる記号は何か」ということを抽出して描き続けていく作業なんです。だからといって、情報量が多ければいいというわけでもなかったです。それでデザイン段階で十分な検討の末に、ようやく定義できた絵でCGを作ってもらいました。

G:
そういう作業があって、あのおいしそうな肉にたどり着いたんですね。納得です。

吉平:
おかげで、死ぬほど肉を食べたので太ってしまいましたが。

(一同笑)

吉平:
自分はまず「おいしそう」と感じた肉を写真に撮るんですが、そもそも「おいしそうな肉ってなんだ?」と。「これはおいしそうな肉に似てるけどおいしそうじゃない」と感じる時もあったので、描くべきなのはグラデーションなのか、肉質のサシなのか、光の照り加減なのか、肉汁なのか、脂なのか、それともソースなのか……。そういったことを研究、試行錯誤しました。料理は一品ずつ、研究を尽くしました。

G:
相当なリサーチの末だと。

吉平:
その研究の結果を絵にするというところに、ものすごく時間と情熱を傾けました。この作品が龍を狩って食べるというお話ですから、その肉がおいしそうに見えなかったら構造として本末転倒なわけです。シンプルに言えば漁師が一番新鮮でうまい魚を食べてるという状態なんですけど。「CGだからおいしくできた」は逆で、「おいしい」を描いてそれをCGにするという形で制作しています。


G:
できあがった料理そのものもですが、調理のシーンもすごく丁寧でした。

吉平:
「そんな炒め方でおいしそうに見えるか!」というリテイクも、容赦なく出しました(笑)

G:
(笑)

吉平:
包丁のデザインも大変で、もう、吐きそうでした(笑)。ちゃんと材料に応じて刃の形とか刃の付き方みたいなものが変わっていて、これは引くための包丁だとか、これはたたき切るための包丁であるとか用途も分かれています。刃の付き方や広さ、刃のどこを当ててどうするということまで考えて、「先端を刺すときはここを刺すんだ」と、角度までリテイクしました。


G:
こだわりっぷりがすごいですね……。

吉平:
映像で伝えるにあたって、細かい所作も“表現をする“という目的のために動きを起こすという、スタッフの意識が非常に高い状態でこの作品に取り組めたのかなというふうに思います。

G:
キャラクターは、わざわざ包丁を使うにあたって「引くための包丁を使うぞ」なんて言わないので、その点も所作のみで表現していると。すさまじいことをやっていますね……。

吉平:
自慢をしたいわけではなく、料理をする人が見ても違和感で引っかかることなくストーリーに没入できるようにしたかったんです。描写への試行錯誤はかなりのものになっています。

G:
本作は基本的には声の収録はプレスコで行われていますが、プレスコでいくことは初期から決まっていたのでしょうか。

吉平:
最初からですね。CGアニメーションは非常に大人数のチームで制作が動いていきます。その中にはいろんなアニメーターがいますが、全員のそばにずっと一緒についていることはできません。しかし、キャラクターや感情の強弱にはすごくこだわりたいと思っていました。そこで、それを監督がコントロールしうるのはプレスコだ、と考えたんです。

G:
なるほど。

吉平:
それと、感情については原作の桑原太矩さんも、たとえば「怒る」にしても「どれくらい怒っているか」「何のため、誰のために怒っているか」、あるいは「怒ったふりをしている」ということをセリフでストレートに話すことはないということをおっしゃっていました。言っていることと本音で思っていることが別のことだったりする、そんな現代の縮図的な表現をたくさん取り入れたいなと思っていたんです。セリフと感情が別という表現をするにあたっては、非常に演技のうまい声優さんたちの力を借りるのが一番いいと考えたのも、プレスコにした理由の1つです。

G:
ということは、プレスコで声優さんの演技した音声が揃って、それに負けないようにCGのほうを組み立てていかなければならない状況だったわけですね。

吉平:
その競い合いを発生させたかったんです。

G:
なるほど!


吉平:
声優さんのすごくいい演技を取ってきたら、CGアニメの感情表現が非常に強いものになって手描きのアニメに追いつけるかもしれないと思ったわけです。

G:
声優の演技とCGキャラクターの動きを足して昇華させるみたいなイメージでしょうか?

吉平:
競い合いの発生に加えて、実際にキャラクターが存在しているような臨場感も必要です。CGのネガティブな印象を乗り越えるべく、生の人間の呼吸であったり、リズムであったり、声優同士の掛け合いの中のテンポ感っていうのをそのまま閉じ込めて、アニメとして膨らませたかったんです。おかげで、台本も地獄のようなことになって。

G:
地獄!?

吉平:
たとえば、セリフとしては「……」と無言なんですが、このセリフについて「これは弱い気付きで、肉体反射です。その後、目を開けて吐く息をください。それから痛みを感じながら意識が戻る様子を演技してください」と、行動原理や感情みたいなところもすべてト書きで書いてあるんです。「ここは同じ『……』でも、息も吸えないような痛さ」とか「この『はぁ』は安堵です」とか、あと、リーさんが普段なら絶対に口に出さないセリフに対して「クロッコが言い出せないことをくみ取って自分でも言いたくない言葉を発してあげてください」といった形のものもあります。たぶん、台本だけを読んでも面白いと思います。

G:
ぜひ読んでみたいですね。原作のニュアンスをできるだけすくい上げるような感じでしょうか。

吉平:
原作に対して、よりさまざまな表現を組み合わせて掛け算している感じですね。「この話数ではこの流れを大事にします。このコマの表情はこういうふうに解釈していきます」ということを書いた資料を声優さんにも事前にお渡ししています。

G:
収録時も、監督が直接声をかけたりしたのでしょうか?

吉平:
リハーサルをしながら台詞ごとに「ここの感情はこうです」と直接お伝えしました。僕の台本にはもっと詳細な感情が書かれていますが、全部監督があらかじめ決めてしまうのではなく、声優さんが考えてきたキャラクターであったり、掛け合いの中で生まれてくる変化みたいなものも取り込もうと考えていました。

G:
ということは、アドリブもあったりするのですか?

吉平:
たくさんありますね。みなさんには自由気ままにやっていただきました。

G:
監督のプラン通りではない部分というのは、多々ありましたか?


吉平:
もちろん、プランを超えてきたケースはありました。脚本は知ってるし台本も手元にあるけれど「どうなるんだろう?」って、ドキドキで見ていました。

G:
(笑)

吉平:
声優さんから「こんなのどうでしょうか」と聞かれるケースもあったし、「俺がこう行くから、その時こう来てよ」みたいなディスカッションになるケースもあって、まるでお芝居の現場を観ているようでした。キャスティングについての監督としての仕掛けは非常に明瞭で、若い役の人たちは若い声優さんたちにやっていただいて、ミカたち青年くらいの役はそれよりはちょっと上の年齢の声優さんを配役しています。表現のお芝居をしているキャリアと配役するキャラクターを重ねさせていただいているので、諏訪部さんには主人公ではなく、ギブスというみんなを取りまとめる役をやってもらっています。実際に、プレスコ現場でも諏訪部さんはみんなを取りまとめてくださったりしました。

G:
バッチリはまったんですね。

吉平:
プレスコで映像がない中で演技に没入してもらうためには、声優さんとキャラクターとを重ねることだろうという考えでした。

G:
そうなると、キャスティングは監督がキャラクターに合わせて選んでいったのですか?

吉平:
キャラクターについては、「この人はバリトン」「この人はソプラノ」と、音のレンジの広さ、「鼻腔にかかった声」などの声質の要素も意識しながら、指名させてもらいました。

G:
そういう決め方だったんですね。監督のTwitterを見ていると音の話題がよく出てきますが、こだわりは強い方ですか?

吉平:
こだわっている方だと思います。音というのは、監督として演出する初手でもあるんです。ストーリーが初めて具現化してアニメになる第一歩が、このプレスコですから。「これで絵が思い浮かぶね」という声で、実際にアニメーションを作ってくれるアーティストたちの想像力をかき立てて、声の演技を超えていこうといったチャレンジ精神を引き出さなければいけません。その、みんなのチャレンジが重なれば、なにか突出した作品になるのではないかと思います。

G:
音響監督である岩浪美和さんについて、監督のTwitterで「ここはタイタニックで!」などの発言が出ている、という話がありました。



吉平:
面白いですよね。

G:
「毎週のように名作映画の例えが出てくる音響。果たして僕らどんな作品を作っているのか……」とあるんですけど、岩浪さんのこの発言は、どのようにして出てきたものなのですか?

吉平:
「タイタニック」のある場面の音響効果のように、リアリティよりも心理的な表現を優先することが作品作りにかみ合うんじゃないか、ということです。アニメーションという枠を借りて、リアルや状況の再現ではなく意図的に効果を強くかけてストーリーにアプローチしようという意味ですね。

G:
音もこだわりがすごい……。

吉平:
その場面では本来は海面だと音は反射しないんですが、上から下に話しかけているような印象を出すために、海面で音が反射するよう効果をつけてください、ということでした。アニメだと、伝声管の効果はすごくいいですよ。聞き取りやすいのに本当にこもったような印象がしていて。

G:
あの感じ、確かにいいですね。

吉平:
船の中に乗ってる臨場感を出すために、部屋ごとに声の響きも違うんです。

G:
なんと細かい。

吉平:
時には表現優先で、効果を弱くして音声のボリュームをあげて伝わりやすいようにしよう、ということもやっていたりしますし、プレスコで録った音を外すこともあります。

G:
そういうこともあるんですか。

吉平:
アニメーションのきっかけとなる表情や変化として、必要だけれど、作品としては音がなくても聞こえているとか、感じられているんじゃないかというところは、吐息一つ外してみたりもします。

G:
音楽は横山克さんが手がけています。監督が、デモを聞いて、興奮で立ち上がったというツイートをされていましたね。



吉平:
本作はこういうファンタジーの世界なので、「ザ・ファンタジー」という音楽の可能性も頭をよぎったのですが、ハリウッドのファンタジーもの映画に使われていそうな楽曲だと、逆に「架空の世界もの」や「ありきたりな作品」のように感じられるのではないかという点を懸念していました。音楽の印象効果によって作品の個性やリアリティが失われてしまうのではないかと。

G:
ふむふむ。

吉平:
そこで、本作では桑原さんが描かれたユニークな世界観や、アニメの独創的な色彩、そして個性の強い19人のキャラクターのことを考えて、音楽も個性のぶつかり合いを求めたというか、「これはこういうジャンルの音楽」とは決めつけられないような、「渾然一体とした個性のまとまりあいが、結果として非常にカジュアルに見える」という方針で作品にしていくのが監督の旗振りであろうと考えました。

G:
曲作りは、デモをもらってから、監督の意図を改めて伝えて、再び作ってもらって、というやりとりをしたのでしょうか?

吉平:
最初の時点で、岩浪さんとどんな音楽がいいだろうかと相談をして、お話はスタンダードなものになりうるので、音楽プランもスタンダードにしようということが決まりました。それで岩浪さんから出たのは「エンニオ・モリコーネ」だったんです。

G:
モリコーネ。マカロニウエスタンや「ニュー・シネマ・パラダイス」の。

吉平:
そこで、感情に音楽を付けるというアプローチは間違っていないけれど、「空の上で風を受けて生きる人たちの話なので、風によって音を発生させる楽器を使って欲しい」という話をしました。それなら、龍の鳴き声のようにも聞こえるかもしれないし、非常に土着的な文化、昔からの民族文化を感じさせるような系統の雰囲気も出るだろうと。

G:
なるほど。

吉平:
さらに「壮大な音楽」とか「ハリウッド大作」とかの雰囲気ではなく、特殊な制限において最大の自由を獲得してください、と。なので、バイオリンは基本禁止にすることにしたんです。

G:
監督の中ではかなりイメージができていたんですね。

吉平:
ところが、それを伝えるつもりだった横山さんが「書いてきました」と。

(一同笑)

吉平:
最初に聞かせてもらったのは、まさにハリウッド映画みたいな感じの音楽でした。それは僕のイメージとかなり遠かったので、どうしようかなと顔をしかめていたんですが、そうしたら横山さんがもう1曲ありますと聞かせてくれたのが、非常に個性的な楽器が鳴っている楽曲でした。それで「この楽曲をメインにした方向性がいいです」と伝えると「実はもう1曲、僕が最初にやりたいと思っていた楽曲があります」とさらに出してくれて。それが今のサウンドトラックの原曲なんです。

G:
おお。

吉平:
横山さんとしては「自分がやりたいものはたぶん認められないだろう」と中間的な2曲目のものを作り、それでダメなら1曲目の路線へ、という考えだったようです。

G:
興奮して立ち上がってしまうのも納得です。以心伝心というか……。

吉平:
作品自体も全てのキャラクターの生き方を肯定するお話で、個性豊かな全員が楽しく生きられる世界であり、「個性を否定しないことで肯定する」というのは作品のコンセプトなんです。なので、ありえないような色彩の空が描かれますけど、これは間違いなく美術監督の個性でもある。この作品は全ての人を否定しない話なんです。意見がぶつかり合うことはあるけれども「何かがダメだ」というような話ではないんです。

G:
確かに、そういうエピソードが多いですね。今回、スタジオ内を見せていただいたときに、吉平監督の机も見せてもらったのですが、デスクの横に絵とキャラクターの顔が貼られたボードが立てられていました。これはイメージボードですか?

人と龍がともに生きる「空挺ドラゴンズ」のファンタジー世界をリアリティある姿で生み出したポリゴン・ピクチュアズのスタジオを見てきた - GIGAZINE


吉平:
最初のイメージボードであったり、話数ごとのコンセプトアートだったりします。実際に第1話に登場するものもありますね。CGを作る人を悩ませるようなものばっかりです。

(一同笑)

吉平:
この色彩を出すためにどういう光学的な理由が必要なんだろうかと、監督も悩むんです。太陽が昇る前は雲は何色なんだろうか、とか。

G:
ちゃんとこの色になるための理由が考えられているんですね。

吉平:
CGはいつも絵柄がそれほど変わらない、つまり「作画崩れ」はしないんですが、ちょっと油断するとイモ版のようにすべて同じような映像になってしまうということで、僕はそれがデメリットでもあると思っています。だから、場面やシーン、感情が変わったときに色彩やライティングが変わるという変化は積極的に取り入れています。今回は、今までで最多の色彩数なんじゃないでしょうか。色彩設計さんから「もう100を超えましたよ」と言われて「まだまだ!」って。

(一同笑)

吉平:
たとえば、キャラクターの感情がネガティブな時には日陰の中に歩いていきます。第1話だとクィン・ザザの乗組員が船の作った日陰にいる一方で、村人が日なたにいて主人公たちをどなり散らすシーンがあります。クィン・ザザの乗組員たちは世間的にはアウトローの扱いで、多数派である市民の方が正義だという、市民の感情と主人公たちの立ち位置が必ずしもかみ合わないことがあるのを色彩でも表現しています。


G:
吉平監督は原作第1話の時点で一目ぼれしたということでしたが、その後も原作の連載は続いています。どこまでをどのようにアニメ化するか決めるのは難しかったのではないですか?

吉平:
通常は11話構成なのですが、今回は原作第3巻の内容もぜひやりたいということで、12話構成でやらせていただくことになりました。

G:
漫画を原作としてアニメ化するとき、原作第1話からなぞって作るとは限りませんが、本作は冒頭から映像化されています。これはどのように決めたのですか?

吉平:
この漫画はすごく奥行きが深くて、自分たちやシリーズ構成の上江洲さんが感じている作品の魅力を視聴者の皆さんに伝えるためには、漫画の1本分とアニメの1話分が対応するのがいいだろうと考えました。キャラクターの感情の機微であったり、さまざまな視点から丁寧にこの世界を描いていった方が、よりいい作品になるんじゃないかと。

G:
なるほど。

吉平:
そのアプローチでシリーズ構成を行い、原作の長さが1話分に満たないという場合は付け足し、あるいは、ドラマをスムーズに進行させるためにキャラクター目線重視でアレンジするなどして、ただ漫画をそのままなぞっただけにはならないよう、アニメはアニメとしての魅力を最大化するように努めています。「空挺ドラゴンズ」という作品の世界観やキャラクターの魅力、さまざまな個性をしっかりと具現化して、皆さんにお届けしたかったんです。

G:
単に「映像化する」のではなく、アニメはまた別の作品として昇華させようと。

吉平:
そのために、原作を一度分解してコアに入っているものを見定めてからシリーズ構成を練り、「ここはアニメーションの映像ではもっとセリフで視聴者に伝えてあげる必要がある」とか「これはセリフをあえて言わなくても映像で伝わる」ということを考えて再構築し直しました。原作を十分にリスペクトした上で、桑原さんの意見も引き出しつつ、練り上げていったという感じです。

G:
原作者の桑原さんとはかなり相談をしたのですか?

吉平:
「このキャラクターがどんな性格でいつも何を考えているのか」「先生がこのお話を生み出している時に何を考えていたのか」など漫画に描かれていないたくさんのことを聞かせてもらいました。脚本会議にも出てもらっていて、僕と上江洲さんと桑原さんでディスカッションを重ねながら一緒に作っています。

G:
なるほど、それで桑原さんから作品のエッセンスみたいなものを引き出して。

吉平:
さらに表現の強度の調整みたいなところまで一緒にやらせていただいています。

G:
なにか、ディスカッションの中で桑原さんから「そうだったのか」みたいな話は出たりしましたか?

吉平:
最初のテーマの「狩って獲って食べる」というのは、非常にカジュアルなコピーではありますが、桑原さんは命というものと非常に真剣に捉えていました。それで「命あるものの命を奪って、奪ったからにはそれを最大限活用しなければいけないし、それを自分の命として命を繋げなければいけないんだ」というお話を伺ったときに、シリーズのコンセプトがばしっと固まった感じがありました。

G:
なるほど。


吉平:
「獲って食べる」ということをゲーム的な感覚にしない、といいますか。桑原さんの重厚な考えを、それぞれのキャラクターに対して、一言ずつストーリーの中に添えて伝えていく必要があるなと思いました。

G:
本作は「空挺ドラゴンズ」というタイトルの通り、いろいろな種類の龍が出てきます。漫画だと姿は出てきても動きはわからないのですが、かといって「こんな動き方をするよ」という説明はありません。龍の動き方はどのように決めたのですか?

吉平:
架空の生物を作る時のメソッドとして、その生物がウソに見えないようにするためにリアリティを積み上げる作業が必要になります。骨格であったり、筋肉であったり、歯の形といった見た目の特徴にあわせて、龍の動きや彼らが食べるものなど生態を定義します。身体の形状に特徴を持つ理由としては、ある特定の運動機能を高くするために別の運動機能をそぎ落とすといった、生物の進化の過程でさまざまな機能のトレードオフをしているわけです。それを龍のデザインでもやっていかなければいけません。また本作の龍が空を飛ぶロジックとしては、翼だけに依存するのではなく浮袋的な器官があって、生態的な機能においてある程度の浮遊力を得ている、ということになります。魔法で幽霊のように非科学的に浮かんでいるわけではありません。


G:
(笑)

吉平:
そうなると、龍が前進するためにどう体を動かすのかを考慮して骨格を考えなくてはいけません。骨格はCGの動きのもとになるものなので、生態、筋肉の使い方、体の成長発達ということまで含めてデザインしています。巨大な生物、たとえば初めて象を見た人が感じた「あんな生き物、成立するはずがない」という人類が最初に感じた畏怖と同じように、生物特有のリアリティをもって、龍の恐ろしさや神々しさみたいなものを伝えられれば、と考えました。

G:
創造主という感じですね……。

吉平:
光る龍も出てきますが、アニメで伝える力を増すためにどうすればいいか、発光する生物を十分に研究しました。それで発光のロジックまで考えて、ああいう生態的な模様を取り入れた見せ方になりました。


G:
まさに積み重ねのおかげで、すべてが生々しいですよね。「本物っぽい」というか。それこそ「この世界にもし龍がいるとしたら、ああいう形状でこんな生態だろう」という気がします。

吉平:
やりたいこと見せたいことを基軸にして論理的にきちんと組み立てていく感じです。龍のデザインを起こすにあたっては、個々のパーツは実際の生物にあてはめて、魚も動物も、トカゲなんかも含めて、全ての生物をリファレンスして細かい部位までデザインしています。

G:
本物っぽさは、実際の生物の動きが取り入れられているからだったんですか。


吉平:
そういうことですね。むしろ、本物の生物を参考にしているからこそウソがつけないです。ウソをついた部分は「拙い表現」として映像に残り続けてしまいますから。

G:
吉平監督は本作以前にもいろいろなインタビューを受けていて、たとえば2010年には「Autodesk Smoke for MacOS X」のインタビューを受けています。そこから今までの間にさまざまな部分がブラッシュアップされたと思うのですが、予算内・納期内でできるだけクオリティを上げる、という点で何か当時から変化した部分はありますか?

吉平:
2010年当時だと「クオリティを保つ戦い」をしていたと思います。初期のCGアニメーションには、どうしても苦手な部分、出来不出来の粒ぞろいの悪さというものがありましたから。でも、CGのクオリティが安定して生産されるようになった今は、どうしたらそこに満足しないでプラスアルファできるか、1つ上のグレードの作品にたどり着くにはどうしたらいいか、ということをいつも意識していますね。

G:
1つ上ですか。

吉平:
たとえば、作業する人が表現以外の目的で不要なことで悩んでしまうことがないように、龍の骨格の動きや料理のなにがおいしそうかということをデザインとして描いたり、きちんと映像の方針をルール化したり。あるいは、コンテで芝居が必要な部分はいつも以上にパネルを割って絵や文章による説明を書いておきました。自分の画力では伝えきれない部分もあるので、それを言語化して「ここはこういう感情でこういう表情にしたいと思っている」ということも文章で伝えて、「デジタルのきれいな映像だし、CGだからこれでいい!」ではなくて、見る人にしっかり伝えるんだということをテーマに作品に取り組んだ、という感じです。作品をより良いものにするため、アニメ上の様々な表現について考える時間を増やしました。「作品のクオリティの向上」って、CGを作る道具の進化ではなくて、自分たちの表現に対する意識が変わったときに視聴者に伝わるんじゃないだろうかと思ったんです。CG制作の新しい便利なツールができて1クリックで映像ができるようになったとしても、きっと視聴者は感動しないですよね。一生懸命試行錯誤して、どう伝えようかと葛藤し努力し時間こそが人を感動させるんじゃないかな、と。

G:
なるほど。

吉平:
たとえば、音楽でいえば楽曲の譜面だけに感動するのではなくて、人が一生懸命演奏しているその姿であったり、気持ちを込めて演奏している姿に技術を超えて人は感動するわけですから、結果としての成果物だけではなく、過程も含めて表現する行為にもしっかりとこだわっていきたいですね。

G:
話が監督の机に戻るのですが、漫画から切り出したキャラクターの顔がいっぱい貼ってあったのは、何かを見るためなのでしょうか?

吉平:
これはアニメの作り方の話になりますけど、漫画はもし絵柄が1コマずつ変わったとしても大丈夫なんですが、CGの場合はそういうわけにはいきません。3Dで立体のモデルを作って、それを役者のように演技させるので、モデル自体は自由に変わることができませんし、それが表現上の制約にもなってしまいます。その壁を超えるために原作の絵の方向性や線の表現、キャラクターの表情について、「アニメでもこう伝えたいよ」というのを切り出して、いつも眺められようにしているんです。

G:
つまり、あのボードが作品作りのコンパスみたいなイメージですかね?

吉平:
そうですね。足りない表現を埋めるための指針であり、これを基軸にもっといい表現ができないかと考えるきっかけだったりします。そのために、ずっと貼ってあります。まぁ、これも原作愛ですね。とにかく原作が大好きだという。

(一同笑)

吉平:
それに「原作の、あの1本の線画が隠している本音の感情を示したのかもしれない」という風に、初見では気づけなかったことに後から気づくきっかけにもなったりします。

G:
話はちょっと変わるのですが、監督はずっとCGを手がけられてきたのですか?

吉平:
一番最初は音楽をやっていて、その次にCGを作りました。ポリゴン・ピクチュアズに入ったあとは、映像編集を15年以上担当しました。仕事が変わるたびに、ちょっとずつ自分の視点が変わっていく感じですね。

G:
アニメ制作のほとんどのところに関わってきて、そしてついに監督に。

吉平:
今まで積み上げてきたものを評価していただいて、オファーしていただけたのかなと思います。

G:
監督になったからこそ分かった、ということはなにかありましたか?

吉平:
圧倒的な違いとしては「事前の準備」でしょうか。自分がプロダクションにいるときは「自分が手を動かしたもの」が一番いいわけですが、監督になると、基本的に人に作ってもらわなければいけません。「自分が作りたいけれどまだ実存しない想像上の映像」を、実際に手を動かして作ってくれるスタッフにどのように伝えるか考えなければいけません。かといって、自分の考えていたものがそのままできあがると、自分が監督としてやっている意味があまりないんじゃないかとも思います。「作っている人の個性や意欲、強いモチベーションなど、アーティスト自身の表現力を組み合わせて変化を起こしてより優れた何かを生み出していくことが重要なんだ」ということに気付いた、というのもありますね。よりよい作品を作るために何をすべきかというと、自分の個性に盲目にならないことなんです。

G:
「個性に盲目にならない」。

吉平:
自分に盲目になり過ぎてしまうと、独りよがりで、自分にだけは伝わっていても視聴者に伝わらない作品になってしまう可能性があるんです。何か気取ってしまったり、理路整然としていなかったり、あるいは説明が不足してドラマの盛り上がりに欠けたり、表現の選択が間違ってしまうこともありえると思うんです。特に監督になってからは「人に伝えるための表現を特に大切にしたい」という意識がすごく高くなってきたというのはありますね。

G:
それは、後半の話数ほど強くなっていたりするのでしょうか。

吉平:
僕だけではなく、演じている役者さんたちもどんどんとパフォーマンスが上がっています。それゆえに、後半の話数から入ってくる役者さんたちが「プレスコがこんな凄まじい場所だとは……」と舌を巻いていました(笑)

G:
そんな(笑)。映像も声も音もどんどんすごくなっていきそうですが、監督として特に頑張ったポイント、注目して欲しいポイントはどういった点ですか?

吉平:
キャラクターの感情ですね。セリフや表情に注目して見てもらいたいです。漫画の中では1コマですけど、そのキャラクターがその時どんな思いでいたのかを、アニメーションのさりげない仕草ややセリフの音の中にも込めているので、彼らの感情を含めてより深く原作の世界を理解していただけるんじゃないかな。最初にミカが出てきて「うまそう」って言うところなんかは、すべてのキモだと思います。2、3カ月間水を飲めずに砂漠をさまよっていて、目の前にほんの一口分の水があったときのような、そんな強い心の飢えを表現したのがミカのセリフなんです。

G:
(笑)

吉平:
ミカは「龍を食べる」ということに対して人一倍執着しているけど、その執着というのはグルメ的なエゴではなくて、龍自身への強いこだわりと、肉体的な欲求も含めて自分の中から自然発生し続けている根幹的な感情であるっていうところが、ミカが本能的に龍を理解していたり、龍を基軸に行動している理由になり得るんです。

G:
なるほど。アニメから「空挺ドラゴンズ」に触れる人はもちろん、原作を知っている人でも気付きの多い作品となりそうで、最後まで楽しみです。本日はありがとうございました。

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