インタビュー

ボードゲームのプレイと心理を見事に映像に再現した「放課後さいころ倶楽部」今泉賢一監督&中尾幸彦プロデューサーにインタビュー


2019年10月から放送されているTVアニメ「放課後さいころ倶楽部」は、原作漫画に登場したボードゲームがほぼそのまま登場しています。ただでさえ「原作をそのままアニメ化する」というのが容易ではないことはいろいろな作品によって証明されていますが、それに加えて難度が高そうな「実在ゲームをそのまま登場させる」ということを実現したアニメはいかにして作り出されたのか。監督の今泉賢一さんと、プロデューサーの中尾幸彦さんに話を伺ってきました。

アニメ『放課後さいころ倶楽部』公式サイト
http://saikoro-club.com/

GIGAZINE(以下、G):
そもそもという部分になるのですが、「放課後さいころ倶楽部」のTVアニメ化の企画は、どのようにして動き始めたのですか?

ジェンコ 中尾幸彦プロデューサー(以下、中尾):
僕が企画書を書いて立ち上げました。僕がボードゲームに触れたのは6~7年前、ゲーム会社が主催するボードゲーム会みたいなところに初めて連れていってもらったのがきっかけでした。行ってみたら「こんなにも種類があるの!?」と、人生ゲームやモノポリーは知ってましたが、それ以外にもいろいろなボードゲームがあることに驚いて、プレイしてみたらすごく面白かったんです。そんな折にちょうど「放課後さいころ倶楽部」という漫画の連載が始まっていて。

G:
おおー、ちょうどタイミングよく。

中尾:
読んでみたら、お話は面白いし、ゲームのインストは丁寧だし。ボードゲームってどうしても「ルールを把握する」というところが難しくて、とっつきにくい原因にもなってるんです。ルールブックを読めばいいんですが、電化製品の取扱説明書と一緒で、読むのが大変。だから「面白そうだけれど手が伸びない」というゲームが出てきます。「放課後さいころ倶楽部」はそこを、短い話の中で的確に説明してくれていて、すごいなと。

G:
「放課後さいころ倶楽部」自体はどのように知ったんですか?

中尾:
「ボードゲームの漫画があるんだよ」と教えてもらいました。ちょうどボードゲームを買い始めた時期だったので「読みたい!」と手に取ったという感じです。


G:
中尾さんが作品を知ってから企画がこうして形になるまでは、どのように進んでいったのですか?

中尾:
「放課後さいころ倶楽部」に出会ったのが6年ぐらい前なんですが、そのころ、僕はまだプロデューサーではなくディレクターで、「作品を立ち上げる」という立場にはなかったんです。それで、言い方は変かも知れませんが、いったん寝かせていました。時間が経って、3年ぐらい前にボードゲームのブームというのか、一気にボードゲーム人気が伸びる時期がありまして。

G:
一気に広がったような時期がありましたね。

中尾:
そのタイミングで話を出したら、乗ってくれる人が出てきて。ライデンフィルムの江戸さんも、ボードゲーム仲間の一員だったんです。以前から「ボードゲームのアニメを作りたい。ライデンフィルムでやれるといいよね」という話はしていたんですが、江戸さんから同じライデンフィルムの橋本さんを紹介してもらって「ライデンフィルムでこういうアニメを作ってもらえないか」と伝えたのが2年前のことです。それが初めてライデンさんと仕事をするきっかけでした。

G:
今泉監督のところに話が行ったのはどれぐらいのタイミングですか?

今泉賢一監督(以下、今泉):
2018年3月ぐらいだったと思います。1年半ぐらい前ですね。

G:
「れポたま!」掲載のインタビューによると、今泉監督は「漫画を読むまでは、ボードゲームというものを認識しないような状態で生活をしていた」とあります。原作を読んでの印象はどうでしたか?

今泉:
何も知らない人間でしたから「こういう世界もあるんだ」という感じですね。昨今見かける、普通の人はあまり知らないようなことやものをアニメや漫画で紹介する、たとえば「ゆるキャン△」のような作品と同じように、「知らないかもしれないけれど、こういう世界があるよ」ということをストーリーと一緒に楽しんでもらう作品なのだろうと考えて、話を受けました。


中尾:
この作品をやるなら、ボードゲームならではの心理戦をきっちり表現できなければいけないと考えていました。

ライデンフィルム 橋本淳至プロデューサー(以下、橋本):
そのオーダーをいただいて、私から今泉監督にお声がけしました。原作を読まれた感想と意欲を監督から長文でいただきまして、作品に対してこれだけの思い入れを持っていただけたということもあって、今泉監督に決まりました。

中尾:
もともとアニメーターで、絵がめちゃくちゃうまい今泉監督であれば、緻密なキャラクター描写もちゃんとやっていただける。最初は正直、断られるかも知れないと思っていました。

(一同笑)

今泉:
いえいえ(笑)、僕はエッチなやつやグロ系、イケメンがいっぱいというような作品には向いていないですが、そういうものではないならやろうと思っていました。

G:
今泉監督については、アニメーターの田中将賀さんが受けたインタビューの中で「今泉賢一さんをはじめとするアートランドの諸先輩方からの教えなのですが、アニメーターの絵は、表現の一手段でしかないんです。アニメーターに求められるのは、レイアウトやお芝居の力とそれに耐えうるだけの画力。その人の個性も、そういった部分で出すものだと教わってきました。大事なのは、絵を使って何を表現するかということなんです」と名前が出てきているのを見かけました。これは、アートランドとして「こういうものだぞ」と教えていたような感じなのでしょうか。

今泉:
一言一句そのまま「こうだぞ」と、そんな高尚な話をしたわけではないですよ(笑)

(一同笑)

今泉:
彼とは「家庭教師ヒットマンREBORN!」のときに4年間一緒だったので、彼の席の後ろへ行ってうだうだと話をしていたことがあるんです。そういう時の、真面目なノリで言ったわけではないバカ話や雑談の中から、彼が自分なりにくみ取ってくれたんだと思います。仕事のパートナーとして、同じ釜の飯を食う仲間として、リスペクトというと大げさですが、信頼し合っていないと作品はできないですから。

G:
「放課後さいころ倶楽部」での絵作りについて、押さえておかなければならないと考えた部分はどういった部分でしょうか。

今泉:
漫画だと白黒で印刷されたものを読むことになりますから、実際に「すごろくや」さんにロケに行ったときは「色の洪水」でした。そのファーストインパクトを受けて、まずはボードゲームショップをきちんと再現できなければ、見ている人もその世界に入ってこられないだろうと思いました。結果的には、「さいころ倶楽部」のお店はたまにしか出てこない存在になりましたが(笑)、第1話では要の場所ですし、そのあとの話数でも要所要所で出てくるので、ここが押さえられれば大丈夫だろうと。

キービジュアルにしっかりと描かれている「さいころ倶楽部」


中尾:
僕にとってのファーストインパクトも、監督のおっしゃったのと同じなんです。お店に入った時に「なんてカラフルな異世界なんだろう」と。雰囲気がすごく異色だし、ボードゲームのパッケージはヨーロッパチックなものが多いからぱっと見てもタイトルが何と書いてあるか読めなかったりするし、という他にはなかなかない不思議な空間で。この最初の感動を見ている人に伝えないと、続きを見てもらえないんじゃないだろうかと思いました。それを第1話で見事に再現してもらったのが、僕としてはうれしい部分です。

G:
漫画でも初めて「さいころ倶楽部」に入ったところは大ゴマでインパクトあるものになっていますもんね。

中尾:
店いっぱいにボードゲームが並んでいて、まるで異世界に引き込まれたような感じがある、それが1つの引きになっていると思います。

G:
スタッフの方々は、最初に監督が決まって、そこを中心に決まっていったのでしょうか?

今泉:
先にキャラクターデザインのオーディションがあったので、伊部由起子さんは入っていました。この作品に関しては、僕がゲームの素人ですから、「監督以前のところでどれだけ準備してもらえたか」が大事だったと思います。先ほど話に出た、お店の中に並んでいるボードゲームの箱にしても「似て非なるもの」ではなく本物の箱のデザインを使うことができたのはプロデューサーさんたち、そしてメーカーさんが、この作品にそれだけ気持ちを込めてくれたということです。まず、土俵を作ってもらえたということです。こちらがいくら「再現したい」と言っても、それだけでは何もできないですから。監督として何かをしたというより、プロデューサー陣に「ボードゲーム界全体を巻き込んで表現していく」という心意気や志があって、僕はそこに乗っかることができただけだと思っています。

G:
「ボードゲーム界全体を巻き込んで」ということですが、やるにあたってプレッシャーはありませんでしたか?

今泉:
僕はいつもそうですが、原作があれば「原作のファンを裏切っちゃいけない」ということを前提にしています。その上で、お預かりしている作品は、自分が面白いと思った部分をちゃんと表現することができれば大丈夫なものであると考えています。

G:
先ほどファーストインパクトの話もありましたが、今泉監督が作品を読んで「ここが面白いポイントだ」と考えたのはどの部分でしたか?

今泉:
きっとみなさんと同じだったと思います(笑) 中道先生のゲームに関する知識が盛り込まれているというだけではなく、ゲームがストーリーと並行するように存在していて、キャラクターの不安や心情とうまくシンクロし、ゲームが終わったら気持ちも解決しているというか、二重だったものが1つにつながって、ゲームと共にこの子たちの世界も気持ちよく体験できる。そういう、よく練られた作品であるというところですね。


G:
アニメでも各話ごとにゲームが出てきて、そのインストを行っていますが、漫画の時とはまた受ける印象が違って、よりわかりやすくなったかのように思えました。何か、原作に加えて工夫した部分があるのでしょうか?

中尾:
インストそのものは原作にかなり忠実に行っているのですが、先ほど「説明書を読むのが面倒」という話があったように(笑)、「声の力」が加わっているのだと思います。文字を読むのにはパワーが必要なのですが、それを誰かに語ってもらっているという違いですね。今回、メインキャラクターが3人いますが、ミドリは「さいころ倶楽部」でバイトをしているのでゲームの説明も担当しています。ところが、今度はアニメならではの問題が出てきて、誰か一人がしゃべり続けると、流れが止まっちゃうんです。

G:
ああー、なるほど(笑)

中尾:
まるで独壇場になってしまう(笑) その点で、作中ではカット割りが絶妙に行われていて、説明を聞いている表情が入ったり、合いの手が入ったりして、見ている人もアヤやミキと一緒にインストを聞いているような気分になれる。これが絶妙なバランスだと思います。ヘタにやってしまうと、30分ずっとゲームの説明だけだったということになりかねないのですが(笑)、うまく圧縮して、ゲームは半パートに収めつつ、ストーリーを展開させているというのは監督の技術の高さだと思います。

今泉:
「色をつけて動かせる」というのがアニメーションの力ですね。声の芝居がつくのはもちろんですが、白黒だけではボードゲームの色はわからない部分がありますから。たとえば第8話に登場した「ケルト」というゲームには5色の道がありますが、こういう部分はアニメが得意分野だなと思いました。


今泉:
インストの演出に関しては、悩んだ記憶がないですね……。ほとんど原作通りで、吹き出しを使ったり、あるいはシミュレーションしている様子を入れたり、そのときに合った方法を自然に選べていたのかなと。

中尾:
監督にお願いしたのは、「物語の中に入り込んでのロールプレイはしないで欲しい」ということでした。

G:
入り込んでのロールプレイというと……。

中尾:
「ごきぶりポーカー」をプレイしている時、キャラクターたちが害虫がいる世界に入ったり、「インカの黄金」で実際に遺跡に潜ったり、ということです。見ている側が混乱してしまうし、何のアニメだったかわからなくなってしまうので、「あくまでこの子たちがボードゲームをプレイしている」という体は崩さないで欲しいと僕の方からお願いしました。なので、見ていても、違和感なくすっと入れるものになっているのだと思います。

G:
Rooftopに掲載された、原作者の中道さんと今泉監督とのインタビューの中で、演出のやり方について「アニメでは、情報の出し方で対応しています。手札すべてを見せるのか、感情のみに抑えて隠していくかなど」と答えていますが、ほかにも実際のプレイの雰囲気や、キャラクターの心情を表現するために特に気を付けている演出は何かありますか?

今泉:
まず、原作がきちんと感情が動くキャラクターたちの世界になっていますよね。それぞれ背負っているものもあるし、ただ楽しいだけではない。単純にゲームをプレイして、勝った負けたと言っているだけじゃない。ゲームの盤面だけ追っていく形でもできるかもしれないけれど、それはゲーム好きの人にとってはよくても、そうじゃない人からすると、話がおざなりにされていることになってしまいます。僕はいつも、「原作を自分なりによりわかりやすく」と考えていますが、そのためには、表情をきっちり追っていかなければいけないと。


G:
表情ですか。

今泉:
僕はこの作品に限らず、いつも「表情」と言っています。アニメーターさん、ときには演出さんも、表情を置いていってしまうことがあるんです。

G:
「置いていく」というと?

今泉:
他に力を入れていて、つい表情の部分を押さえ忘れてしまうことがあるんです。キャラ表にある笑顔に似せてはあるけれど、口が笑っていても眉毛は本来そうじゃないよなというものになっていたりとか。あと、どうしてもたくさんの原画マンが関わることになるので、担当するシーンの前後まで把握できなくて、表情がうまくつながらないことがあったりもします。僕は、監督チェックといえば表情チェックだというぐらいで、結果的にはパースチェックなどもするんですが、まずは表情チェックに重きを置いています。

中尾:
本作はディテールがしっかりとしています。基本的には楽しく進行しますけれど、彼女たちはそれぞれに悩みを抱えているので、それがときに表情に出ることがあります。表向きは楽しそうにしているけれど、悩みがある。それは、ゲームをプレイすることで解消されたりする。あくまで見た目上は「ゲームで勝ててよかった」みたいな話をしているけれど、表情を見ると、その悩みや問題も解消していることがわかるんです。普通のシナリオだったら、そういう部分を全部言葉で説明しちゃうところですが、この作品ではそこをやりたいわけじゃないので、成長したことは表情で示す。だから、表情が崩れちゃうと成立しないんです。

G:
同じタイミングで受けたインタビューだと思いますが、「れポたま!」掲載のインタビューで、今泉監督は「毎話新しいゲームが登場し、遊びを通じてキャラクターの心情を乗せているのです」と語っています。表情だけではなく、心情を乗せるためにこだわった点などはありますか?

今泉:
作品の制作が終わったとき、片付けていたら自分で描いた第1話や第2話のコンテがあったので、そういえば原作ってどんなカット割りなんだろうと思って読み直してみたら、原作はこんなにシンプルに進めているのに、なんで俺はこんなに難しいことやったんだろうと(笑)


G:
(笑)

今泉:
もう第1話や第2話のコンテを描いたのって1年ぐらい前のことだったりするので、すっかり自分の中で忘れちゃったところもあるんです。もちろん、描いている時は真剣で、自分はなんらかの結論を出してそのように描いたのは間違いないですが、1年経過すると、他人事のようでもあり(笑) 当時は必ず「こうして組み立てた」という理屈があったはずなのですが、すでに作業を終えてしまったのでもう忘れてしまって(笑)

G:
ということは、なにか方法論的に落とし込んでいるというわけではない感じでしょうか。

今泉:
「そのとき描かなきゃいけないもの」が作品にはあります。それは自分で思い込んでいることもあるし、原作の時点で用意されていることもあるけれど、これを描くためにはどんな手を使ってもいいと考えています。「こんな流れでやるべき」「こんなカットは作っちゃいけない」「この作品には向いていない」なんてことは考えず、この作品にとっていい方法があるならどんな手でもいいと。たとえば「イマジナリーラインを守る」のような映像の決まり手は別として、自分の中では禁じ手はない方だと思います。

G:
ずっとアニメ制作に関わっておられますが、そういった演出の引き出しはどのように増えていったのですか?

今泉:
いろんな作品をやりすぎているんだと思います(笑) 僕は監督としてだけではなくアニメーターや作画監督、各話演出としていろんなタイプの作品をやってきました。「若くて自分の持ち味だけでいけた」という人間ではないので、いろいろな監督さんなどのやり方を見てきたんですが、それなりの立場まで行く人のやっていることって、どれも間違っていないからこそ支持されているんだと思うんです。だから僕は、見てきたものの中から、今回はこうやればいいかなと考えています。

G:
おおー、なるほど。

今泉:
作品を作るにあたっては尺とかカット数とか、いろいろ条件があります。それを受けた時に「だからしょうがない、俺のせいじゃないよ」とはせず、条件の中でのベストを考えます。今回は黒ゴマでの場面転換も行っていますが、これは、僕は過去の作品ではやったことがなかったんです。普通なら背景を見せたり、時間経過を見せたりするところなんですが、テンポを良くするためにはそれもありだろうと。「こういう手法、使ってないじゃないか」というのがあれば、それは僕の知識が足りていない部分で(笑)、やれる手はなんでも使っています。

G:
中尾さんがすごくうなずいている(笑)

中尾:
アニメって、他のジャンルに比べてどうしても日常芝居が増えてしまうんです。「お店に入る」という1つの動作でも、まずはどのお店に入るのかを見せて、それからキャラクターが店に入って、と尺がかかっちゃう。僕も、あまりそういうのはいらないんじゃないかという派で(笑)

G:
(笑)

中尾:
「何があってここに至ったのか」って、説明しなくても見てたらわかるんじゃないかな?って(笑) もちろん全否定しているわけではなく、感情を持ち上げる意味で、音楽を入れたりとかあるならいいですが、特に意味がないなら入れなくてもいいんじゃないかと。それをバサッとカットしたのが黒味になっているわけです。そういう省略があったからこそ、この30分という枠に収まったのは大きいと思います。

G:
本作では、絵や演出も細かいのですが、声優さんもよくキャラクターに合っているのが印象的です。インタビューの中で、今泉監督は「僕はプロフィールを見ないで、単純に芝居・声質でキャラに合う方ということで選びました」と答えていますが、芝居・声質のどういう面を重視して選んでいったのでしょうか?

今泉:
原作を読んだとき、一番難しいのは高野さんの演じたアヤだと思いました。アヤって、脳天気で明るくて誰よりポジティブな発言をしていて、みんなを引っ張っていく機関車的な女の子だけれど、等身大の悩みや過去に背負っているものがある。だんだん明るくなっていくけれど、弱々しいところが柱にあるミキや、挫折を味わいつつも夢を追いかけて胸を張って生きているミドリに比べると、一見おバカでやりやすそうに見えて難しいだろうと。


今泉:
ミキはみなさん同じ意見で、宮下さんがまさにミキだなと意見が分かれずに決まったと思います。

中尾:
ミキは一番すんなり決まったと思います。奈良出身で関西弁ができるということもありました。もちろん、奈良と京都では言葉は微妙に違いますけれど、聞いていて違和感なく入りやすい。それと、声質もおどおどした部分と明るい部分のギャップを出せて、原作の中道先生と監督が「いいね」と言ったのが、ほぼ同時期でした。

今泉:
富田さんのミドリにも主役と言っていいぐらいのエピソードもあるので、感情芝居がちゃんとできることはもちろんですが、長いインストの読み上げがあるので、淀みなくしゃべれるかどうかという点を考慮しました。


G:
なるほど、そういった点を見ていたんですね。原作の中道さんが「第5話は、僕が唯一お願いしてシナリオの大幅な変更をしてもらったとても思い入れのある回です。コミックとはまた違った、アニメならではの展開をお楽しみください〜」とツイートしていたように、この話は原作とはやや異なる展開となっていました。この変更についてはどのタイミングで決まったのですか?

アニメ『放課後さいころ倶楽部』第5話は本日深夜より順次放送開始!
第5話は、僕が唯一お願いしてシナリオの大幅な変更をしてもらったとても思入れのある回です。コミックとはまた違った、アニメならではの展開をお楽しみください〜(^ν^)

— 中道裕大 (@shimaneko555)


中尾:
最初のシリーズ構成の時点から、「能登に行く話」というのはイレギュラーな話な上に作中でやらなければならないことが多数あるので、旅行はするとしても、原作の要素をすべてそのままとはいかないという話をしていました。そこで中道先生から、「ごいた」については思い入れがあるので入れて欲しいという話を直接いただきました。


今泉:
初めて直接お会いしたのが、その「ごいた」の話を入れて欲しいという件でした。ずっとお会いしたいとは言っていたんですが。

G:
そんなタイミングだったんですね(笑)

中尾:
最初は編集の方をはさんでやりとりしていたんですが、中道先生が「これは是非、直接監督にお話を」と。

今泉:
当初は「ごいた」を外して「ドブル」にしようかと考えていました。能登旅行自体は初めて水着の出てくるエピソードということでもあるし入れることは決めていましたが、「ごいた」については、先生がそこまで思い入れがあるゲームだとは知らなかったので、お話を聞いて「なるほど」と。シナリオは第5稿ぐらいまで練りましたね。


G:
やはり、特に工夫が凝らされた回だったんですね。

今泉:
一番は、「ごいた」で原作にはない戦いをしているというところが難しかったです。タカシを含めた戦いの棋譜をどうするか、ミキがうまくカバーするにはどういう流れにすればいいのか。それこそゲーム中のひらめきもアイコンタクトでいいのだろうかというところも含めて、何度かダメ出しもしつつ決めていきました。

中尾:
2人組の協力戦であり、いかに自分の思いを相手に伝えるかという点でゲームとストーリーがシンクロするので、その棋譜がなかなかできなくて……。原作に出てくるゲームは、おおむねそのまま作中に登場した通りに棋譜を作るんですが、今回の「ごいた」は原作にない展開をしたので、最終的な気持ちにどうたどり着けばいいかという棋譜を逆算で作りました。「能登ごいた保存会」の方にもご協力いただいて、「このあたりでタカシとミキの感情が揃うようにしたいんですが」と相談して上手く組み上げていただきました。

G:
(笑)

今泉:
この「放課後さいころ倶楽部」をラッシュチェックやV編で見ていて思ったことは、テレビのスタンダード尺の作品とは思えないぐらい「早い」ということです。もちろん、いい意味で、です。カット数としては280カットぐらいなので、350カットぐらいある作品に比べるとテンポは悪いはずなんです。

G:
そうなんですね。

今泉:
どの話数も見終えたら「もう終わり?」という感覚になる。これは意図して作ったわけではなく、結果して、いい方向に転がったんだなと思います。作り始めからそこまで計算できている人間ではないので(笑)

G:
すごく熱中して見入るからなのか、あっという間にAパートが終わって、そしてエンディングが来るような感じですよね。そして、ストーリーも第1話は導入なのでオーソドックスですが、第2話以降、回を重ねるごとに、心に刺さる部分が出てくるというか、えげつなくなってくるというか……。

今泉:
構成に関しては、1クール分を完成させてみて「この話数を選ぶしかないよね」という選び方だったなと思います。入れ替えてこっちにしておけばよかったというのが、ほぼない展開にできたと思います。原作の中道先生としては「このエピソードも捨てがたい」という話数はもちろんあったと思いますが、12本しか作れない中ではベストだなぁと。これは前川さんをはじめライターさん、プロデューサーさんたちの力もあるなと。

「ゲームをやるのも仕事」と言える仕事っぷりを見せるアニメ「放課後さいころ倶楽部」シリーズ構成・前川淳さんインタビュー - GIGAZINE


G:
こういう構成になったことについて、プロデューサーとしての感想はどうですか?

中尾:
原作7巻までの内容で作るということだったので、全12話として考えると、1巻あたり2話しかピックアップできないんです。そこでどの話をピックアップするかと考えると、結局、3人が絡む話をピックアップしていくしかないんです。ゲストキャラの方に傾けすぎると、この3人の心情を描けなくなってしまうので。


G:
確かにそうですね。ということは、話数の選定はわりとすんなりと進んだのでしょうか。

中尾:
シリーズ構成の前川さんがボードゲームをやり込んでいる方なので、「このゲームなら、こういう感情の動きになるからお話として成立するよね」ということをわかっているというのが大きかったと思います。置き換えたものもありますが、それもすんなりできました。

G:
なるほど。

中尾:
ファンの方から「あの話のゲーム、本当はコレじゃないのに」と言われるんじゃないかという心配もしていましたが、納得してもらえるだけの材料を揃えて作ったつもりなので、そこはわかっていただけたのではないかと思います。

G:
キャラクターデザインを担当している伊部由起子さんが「アニメさいころ倶楽部、そろそろミキちゃんが左利きな事に気付かれた方いらっしゃいますでしょうか。これは中道先生から直接伺った設定(希望)で、キャラ表だけでなくコンテにも常に注意書きされています。画面上曖昧にしてる所もありますが、かなり頑張って統一してあるんですよ」とツイートされていて、確かにミキが左利きとして描写されていることに気付いたのですが、ほかにも「実はこういう設定をきっちり反映させている」という部分はあるのでしょうか?

アニメさいころ倶楽部、そろそろミキちゃんが左利きな事に気付かれた方いらっしゃいますでしょうか。これは中道先生から直接伺った設定(希望)で、キャラ表だけでなくコンテにも常に注意書きされています。画面上曖昧にしてる所もありますが、かなり頑張って統一してあるんですよ。#さいころくらぶ

— いべゆき (@kururutto)


今泉:
ミキの左利きについては、原作を読んでいて「この子、ごはん食べる時も他の時も、いつも左手を使っているような気がする……?」と思って中道先生に聞いてみたら「ちょっとキャラを立てたかったので」ということだったので、これはコンテの段階から気をつけないといけないなと。そこをお任せにしていて、うっかり右利きで描いてしまったら大変なので。

中尾:
あとは、アヤのピアスですね。原作で、プレゼントとしてもらう回があるんですが、そこは入りきらなったんです。第3話までは緑色のピアスをしているんですが、第4話からは白いピアスをしていて、作中では一切触れていないんですが何かがあったんだと(笑)

G:
原作を読めばわかるぞと(笑)

今泉:
本編で触れる代わりに、第4話のアイキャッチで新しいピアスをつけているところを入れていて、「わかってくださいねー」という作りにしています。

どんなアイキャッチなのかは以下のツイートで見られます。

????#さいころくらぶ 配信情報????

本日はTOKYO MX・BS11にて第5話が放送????1〜4話は各種配信サービスにて配信中????毎話のとっっても可愛いアイキャッチもお見逃しなく‼︎????

♟dアニメストア、AbemaTV、Amazonプライム・ビデオ、FOD、niconico、Hulu 他にて

????OA/配信情報https://t.co/N7lFOcL5Tp pic.twitter.com/XPURtuomZx

— アニメ『放課後さいころ倶楽部』公式 ????絶賛放送中! (@saikoro_club)


G:
そしてこれは本作で最初から気になっていたことなのですが、実在のゲームが多数登場していますが、これの許可を取るのは大変だったんじゃないでしょうか。まさか、すべて実物のゲームが出てくるとは思っていませんでした。

中尾:
いやぁ……ほんっとに、大変でした。

(一同笑)

中尾:
僕もいざ許可を取る段になってわかったんですが、ボードゲームって大手の数社が一手に手がけているというわけではなく、様々なメーカーさんが個別にやっているんです。それこそ、個人や夫婦でやられているようなメーカーさんもあって、アポイントの取りようもなかったんです。

G:
小さいメーカーさんだとそういうことも……それはどうクリアしたんですか?

中尾:
ゲームマーケットに行って、実際にブースに足を運んで名刺交換して、後日改めて挨拶にうかがって、という流れです。

G:
「『放課後さいころ倶楽部』のアニメを作るんですが……」と。すごいですね、どうやって許可を取ったんだろうかと思っていたら。

中尾:
宣伝になるということで、基本的にみなさんには温かく迎えていただいて許可もいただけました。箱の展開図のデータをいただいたので、3Dで作成したお店の中にテクスチャで貼っています。

G:
すごい画面密度だと感じた要因には、そういうところもあるんですね。

中尾:
よく、パロディ商品というか、実在の商品の名前をもじったものを出しているケースがありますが、そういうことはやりたくなかったんです。本作ではお願いして、実際のパッケージそのもののデザインを使わせていただいているので、画面内にちらっと映ったゲームでも「やったことがあるゲームがあった」と反応してもらえるものになりました。


G:
CMも、他のアニメでは見ないようなものが入っていますよね。

中尾:
今回、ボードゲームメーカーさんに大きな協力をいただけたおかげですね。放送局の中ではTOKYO MXさんで流れたCMが特にバラエティ豊かで、すごろくやさん、JELLY JELLY CAFEさん、アークライトさん、ブシロードさんと入っていて、CMまでボードゲームづくしです。

G:
あと、オープニングとエンディングで、深夜アニメとしては珍しく歌詞が表示されていますが、これはどういった意味があるのですか?

中尾:
放送局がABCテレビさんで、担当が「プリキュア」とかをやっておられる方なんです。「プリキュア」でオープニングとエンディングに歌詞が出ているのは子ども向けだからなんですが、「放課後さいころ倶楽部」も放送時間帯こそ深夜ですが、家族や子ども向けの作品としても問題ないものなので歌詞テロップを出さないかというお話をいただいて。

G:
そうだったんですね。

中尾:
監督に確認を取ったら問題ないということだったので、入れてもらいました。

今泉:
はい、僕はまったく気にしないから大丈夫です。

G:
エンディングは映像も変わっていますが、あれはどのように生まれたのですか?

今泉:
あれは僕ではなくてプロデューサーさんですね(笑)

中尾:
僕でもなく……(隣に座る橋本プロデューサーを見る)

橋本:
エンディングは私が担当しました。映像については、江戸の方が事情に詳しいです。

ライデンフィルム 江戸秀州プロデューサー(以下、江戸):
僕がエンディングアニメーションを担当している白石慶子さんと知り合いだったんです。白石さんはアニメのオープニングやエンディングなどに特化された映像作家さんで、ボードゲームのことも好きな方なので、お願いできないかと声をかけたら、あのエンディングを作っていただけることになった、という形です。

G:
それで、ボードゲームへの理解が深い映像になっているんですね。

江戸:
いろいろなボードゲームのイメージと、ミキがいろいろな人に出会っていくというイメージを合わせています。

中尾:
なので、エンディングはよーく見るとボードゲームのパーツがいっぱい出ています。

G:
ちらっと出るシルエットですら「これ、見たことある形だなぁ」と思っていました。

中尾:
許可を取ったボードゲームの中には、作中に登場するものだけではなく、エンディングにだけ登場するというものもあるんです。ボードゲーム協力で名前の入っている「テンデイズゲームズ」さんは、テレストレーションという絵を描くゲームを出しているんですが、「エンディングに2秒ほど映るんですが……」と。

G:
(笑)

中尾:
「ちらっとなんですが、いいですか?」「いいですよ」ということで許可をいただきました。

G:
放送はまだ続きますが、制作は終えられているということで、作り手としての手応えはいかがでしょうか。

今泉:
キャラクターたちの成長といったストーリーとは別の「ボードゲーム」という大きな柱を扱うために、他の作品ではないようなチーム戦のような感じがありました。ボードゲームを表現するためだけにいろいろなメーカーさんから素材などをいただいて、そのためにプロデューサーさんが交渉して、ゲームを表現するためにライターさんたちが知恵を絞り、背景さんや撮影さんも力を尽くしてくれました。このことについて誰もイヤだとかめんどくさいとは言わず、「ボードゲームを表現するために」と向かってくれました。棋譜についても、助監督の伊東さんが確認してくれて、スタッフみんなが協力したことであの画面ができたなと思います。僕なんか「表情、表情」とチェックしていただけの脳天気な人間ですから(笑)、みなさんのおかげで大きな柱が守られたのだと実感しました。

中尾:
僕はもともと演出だったこともあって、監督からコンテがあがってくるといろいろな確認をするところから入るんですが、今泉監督とはまるでシンクロしていて、口を出すようなところは何もありませんでした。こんなにも意思疎通できる監督との仕事で、本当に楽でした。それに、監督の意思表示が現場で明確に伝わっていたからこそ、やっていることにブレがなく、同じ方向を向いて作ることができました。そのおかげで、見ていてもブレがなく、やりたいことができていると伝わるものになっているのではないかと思います。

G:
本日は長時間、ありがとうございました。

いろいろ話をしてくれた今泉賢一監督と中尾幸彦プロデューサー


TVアニメ「放課後さいころ倶楽部」はいよいよ残り2話。ラストが近づいてきたということで、2019年12月13日(金)19時から、ニコ生にて宮下さん・高野さん・富田さんが出演しての特番&第1話~第10話振り返り一挙放送が決定したので、ここまで見逃していたという人でも、今から一気に追いつくことが可能です。

【最終話直前 SP放送決定????】
ニコ生にて、キャスト出演特番&1話〜10話振り返り一挙放送決定????✨
美姫役の #宮下早紀 さん、綾役の #高野麻里佳 さん、翠役の #富田美憂 さんが出演????

12/13(金) 開場:18:30 開演:19:00

????https://t.co/yLnenwmpd1

ぜひご視聴ください????#さいころくらぶ

— アニメ『放課後さいころ倶楽部』公式 ????絶賛放送中! (@saikoro_club)

©中道裕大・小学館/放課後さいころ倶楽部製作委員会

・つづき
「放課後さいころ倶楽部」を生み出したライデンフィルムを探索してきた - GIGAZINE

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