インタビュー

「放課後さいころ倶楽部」原作者の中道裕大さん&すごろくや・丸田康司さんにインタビュー、ボドゲを楽しむ人の輪を広げているのはこんな人たち


2019年10月から放送が始まったTVアニメ「放課後さいころ倶楽部」は、「ボードゲームは世界中のみんなを笑顔にする」を掲げて、ゲームを通して友情を深める女子高生たちの姿と成長を描く青春物語で、多数のボードゲームが作中に登場します。この作品の原作者である中道裕大さんと、作品監修を担当しているボードゲームショップ・すごろくや丸田康司さんに、作品について、そして「ボードゲームを楽しむ人」の輪の広がりについてなど、いろいろ話をうかがってきました。

中道さん&丸田さん


GIGAZINE(以下、G):
中道さんは以前に受けられた「デジタル時代の漫画家の机」というインタビューの中で「エヴァがなかったら、もしかしたらマンガの道に行かなかったかもしれない。」と語っておられます。漫画家を目指したきっかけは、エヴァだったのですか?

中道裕大さん(以下、中道):
漫画家を目指したきっかけは、明確にこれだったというのはなくて、環境が大きいんじゃないかと思います。僕は京都出身なんですけれど、市街地ではなく、車で1時間以上かかる山間部のへき地に育ったから、娯楽が限られていたんです。ちょうど世代としてはファミコンやスーパーファミコンと、ゲームがどんどん発達していて、それと同時に週刊少年ジャンプが600万部とか売れているような時期で、自然と、毎週のジャンプとスーパーファミコンが楽しみだった、というのが中学、高校ぐらいです。

G:
なるほど。「放課後さいころ倶楽部」をはじめ、活躍は小学館中心ですが、やはり集英社の賞にも応募されたりしたのですか?

中道:
もちろん、世代としてジャンプで育っていますから。ただ、そういう人たちはすごく多いので、競争が激しいんです。それで、ちょっと路線が違うかもしれないということで他のところにも、と小学館に持ち込んだら、当時の担当さんが一緒にやろうと言ってくれました。

G:
なるほど。同じく仕事へのきっかけを丸田さんにもおうかがいします。エイプでは「MOTHER2 ギーグの逆襲」、チュンソフトでは「風来のシレン」シリーズに携わっていた丸田さんは、子どもの頃からプログラミングをされていたとか。ゲーム業界へ進まれたのは、このプログラミングの延長線上としてだったのですか?

すごろくや・丸田康司さん(以下、丸田):
「ゲームを作る」のが第一で、プログラミングはその一要素です。ボードゲームでいうと、今あるようなドイツ発の近代的なものではなくて、バンダイが出していたようなすごろく的なものから始まっていて、コンピューターゲームでいえばファミコンより前、インベーダーがちょうど物心ついたときに出てきたという世代なんです。遊ぶのはもちろん好きだったんですけれど、もともと何かものを作ったりすることは好きだったので、PCを見た時に「ゲームを作れるのか……なら、作るよね」という流れになりました。

G:
なるほど、自然に進んでいった感じですね。

丸田:
中学ぐらいで「ゲームの開発者になろう」と決めたので、普通の高校・大学に行く意味はないと思い、工業高校を出た後、四日市のマイクロキャビンという会社に入ろうとしました。ところがダメで、就職浪人みたいな感じになりつつ、上京し、テレビゲームの開発者学校に行くことになりました。その後、「なんか面白いやつがいるぞ」ということで、エイプやその界隈の人に拾ってもらう形になりました。

G:
テレビゲームからボードゲームへ、そしてボードゲームを広めるエバンジェリストのような立場になっていったというのは、何かこれも流れがあったのですか?

丸田:
テレビゲームを作る過程においてボードゲームの影響も大きかったので、僕の中では、両者にあまり違いはないんですよ。ただ、すごろくやを始めた当時、ボードゲームは「作った商品が人にちゃんと届く」という環境が整っていなくて、「レールもないのに電車を作ってはだめだな」と思っていました。まずは「作った良い商品が人にちゃんと届く」という「レール(=環境)」を敷かないといけないだろうと。「電車」を作るのは、レールを敷いてからでいいし、それが自分たちによるフルスクラッチの電車である必要は全然なくて、誰かが作ったものを走らせていい電車になるのでもいいわけです。すごろくやで「大人が楽しい紙ペンゲーム30選」を出したとき、「こういうのを作ったらみんなが身の回りのもので遊べちゃって商品が売れなくなるじゃないですか」なんて言われましたけれど、みんなで遊ぶゲームの凄みを人に伝えていくことで認知を広げなければボードゲームは到底仕事にならないんですよ。

G:
中道さんは伊集院光さんのラジオがきっかけで「ごきぶりポーカー」を買ったということですが、すでに「すごろくや」は知っていたのですか?

中道:
ラジオで「すごろくや」という名前も一緒に出ていて、名前だけぼんやり覚えていたので「どこで買えるんだったかな……確か『すごろくや』だったかな?」と調べて行ったんだと思います。

丸田:
もともと伊集院さんとはつながりがあったので、それでラジオで取り上げていただいていたんです。

G:
その後、中道さんはすごろくやに通われるようになり、「放課後さいころ倶楽部」ではすごろくやの名前が制作協力に入っています。Twitterを見ていても、中道さんと丸田さんはよく交流がある印象ですが、どれぐらいの頻度で遊んだりするのですか?

中道:
そんなにTwitterで絡んでるかな?(笑)

丸田:
LINEが漏れてたりして(笑) 機会があれば月1ぐらい遊んでますよ。夜の9時から朝6時ぐらいまでやったりもします。

G:
結構ガッツリですね(笑)

中道:
ずっとお世話になっていて、めちゃめちゃ勉強になってます。

G:
「放課後さいころ倶楽部」はボードゲームが題材ということで、次から次へとゲームが出てきますが、丸田さんから紹介されたゲームが面白いので作品に出てきたというケースもあるんですか?

中道:
もちろんあります。割合的にはどれぐらいだろう……。

丸田:
そんなに多くないんじゃないかな。だいぶ寝かせて熟して、養分になった感じで出すっていうような感じかなと思います。

G:
プレイしてすぐに作品にも登場するというわけではないんですね。

中道:
ボードゲームって「流行り物を今やる」という感じではないですからね。

丸田:
サウマウマウ」とか、絶対扱わないよね。

中道:
「サウマウマウ」はずっと寝かしてます(笑) それこそ養分にしようかなと。サウマウマウいいですよね(笑)

丸田:
「サウマウマウ」は二人ともすごく好きなゲームで、めっちゃ面白いんですよ。でも、地味だからあれは扱わないかもなあ……。

中道:
いやぁ、まだ分かりませんけどやるかもしれないですよ。「まうまう」とか言わせて。


G:
丸田さんは制作協力として作品にどういった関わり方をしているのですか?単行本にコラムを書いていたりというのはありますが。

丸田:
僕は、漫画のためにゲームを紹介しようと思ったことはないし、「是非これを」と推したこともなくて、ただ中道さんのゲームの楽しみ方が好きで一緒に遊んでいるという感じです。中道さんがお話を作るにあたって、ゲームとストーリーをどう関連付けるかはとても大変だと思うので、そこに口を出すことはありませんし、監修という形で「ゲームの表現はこれなら大丈夫ですよ」と見ているぐらいです。

中道:
毎回、ペン入れる前にチェックしていただくんですけど、あるとしたらルールまわりのことですよね。

丸田:
うん。主にはね。

中道:
「こっちの方がわかりやすいよ」とか「こう表現した方がわかりやすいんじゃない」とか、そういうアドバイスをもらっています。商売人なので「このゲーム出してよ」と言ってきてもおかしくなさそうですけれど(笑)、一切ないですね。

丸田:
そんなことをしても意味ないしね。

G:
「放課後さいころ倶楽部」はゲーム進行とキャラクターの心情が絡み合って、丁寧に進んでいくという印象なんですが、「パンデミック」の回では協力体制のゲームを、主人公であるミキやミドリではなく、就活生たちがプレイしていて、ちょっと変わった回だなと思いました。作品作りでは、ストーリーをベースにゲームを合わせているのですか?それとも描きたいゲームに合わせてストーリーを構築しているのですか?

「パンデミック」が登場する第5巻


中道:
「パンデミック」を描いたのは結構昔なので、どうだったかな……(笑) 覚えているのは「最終面接で麻雀をやる会社がある」ということを知って、それは、麻雀が強い人は、その企業が採りたい人材に求める能力を備えているみたいな話だったんです。「そういうのってアリなんだ」と思ったのがきっかけで、ゲームでも、キャラクターでもなく、シチュエーションから出発して作った話だったと思います。

G:
まず何をベースにやっていくということは別に決まっているわけではないんですね。

中道:
そうですね。どっちから作ることもあります。序盤はゲームを遊んだときに「このゲームだったらこういう話だな」と考えていた回が多かったかなと思います。

G:
ストーリーが進んでいくと、「このキャラクターたちでこういう話を作りたいから、合ったゲームを」というのが難しいんではないですか?

中道:
「ないよ!」ってなりますよ(笑) たとえば「2人の恋愛エピソードを盛り込むとして、それに合うゲームってなんだろう?……ない!」って(笑) 逆に言ったら、もうなんのゲームでもいいような気がしてきて……本当にゲーム選びは苦労します。

G:
ボードゲームを題材とした「放課後さいころ倶楽部」の連載が続いているように、昨今はボードゲームをプレイする人の数が増えている印象があります。「すごろくや祭2019」のトークイベントで、「ドミニオン」ぐらいから認知度が上がってきたと中道さんが語っておられましたが、丸田さんはすごろくやをやっていて「これで人が増えたなぁ」と思うような何かがあったりはしましたか?

丸田:
ボードゲーム人口が増えたという話で、よくテレビゲームなどのデジタルのゲームとの対比が語られますけれど、どっちか、ではなく、みんな「マリオ」をやる一方で「ウノ」だってやるという感じですよね。お店をやり始めたのは、「こんなに面白いものがあって、絶対に君たちも好きなはずなのに、それを伝えてくれる場所がない」という、先ほど言ったレールの話なんです。レールを敷きさえすれば届くと思っていました。プレイ人口増加は、メディアやネットの力も大きくて「つながって遊ぶ」ということが都市部を中心にできるようになってきたからだと思います。それと、昔のボードゲームは子どもが遊ぶものとしてすごく面白いけれど、大人の鑑賞に堪えるゲームがあまりなくて、ようやくドイツで1980年代ぐらいに出てきたんです。それが「なるほど、ボードゲームって面白いんだな」と、ようやく日本に伝わってきたというのもあります。

G:
丸田さんとしては電車、つまり面白いゲームはあちこちで作られているのだから、レールさえ引けば大丈夫だろうと確信があったわけですね。ようやく、電車がうまく走り始めたというところでしょうか。

丸田:
そうですね。でも、まだレールを十分に敷けているとは思ってなくて、すごろくやが40店舗くらいないとダメだなと思っています。地方に行くとすごく実感しますが、「ボードゲームが流行っている」というのは都市部だけの幻想だと僕は思います。それを地方にも広げていくにはまだまだ努力が必要で、今後も活動を続けていかなければいけません。それこそ、「放課後さいころ倶楽部」はその一助になっているという気持ちでいます。

G:
面白いゲームをユーザーに伝えるレールの1つである「放課後さいころ倶楽部」のスタート時に、中道さんから「こんな漫画を描こうと思うんですが」みたいな相談はあったんですか?

丸田:
それが最初じゃなかったかな?

G:
当初、中道さんは日常系漫画を描こうとしていて、編集さんから……

中道:
そう、ボードゲームでいけって言われたんです。それで、丸田さんのところにいった頃には、ボードゲーム漫画を描こうと思うんですが、みたいな状態になっていたんじゃないかな、と。

丸田:
「ボードゲームを扱うのですが、どうでしょうか?」っていうような感じだったかな。これはすごくいいなと思って、嬉しかったですよ。漫画の中でボードゲームが出てくることはありましたけれど、ボードゲームをメインに伝えていくようなものはなかったので、いい感じの作品が出てくるんだなと。

中道:
僕は、丸田さんのところに行くときは結構おっかなびっくりでしたよ。「MOTHER2」とか「風来のシレン」とか実際に遊んだことのあるゲームだったから、神様的な人なわけですよ。

丸田:
僕が中心になって作ったわけじゃないから(笑)

中道:
最初は、ボードゲーム漫画を描くことに賛成していただけるのだろうかというところから心配していました。「そんなこと、しない方がいいよ」「そういうことじゃないから」って言われるのも覚悟しないと、と思って行ったら……

丸田:
「どうぞどうぞ」って(笑)

中道:
「やってみれば?」って感じでしたね(笑)

丸田:
偉そうにする理由がないですからね。

中道:
緊張でガチガチだから、最初の打ち合わせも怒られたらどうしようかと怖かったんですよ。でも、1話目が掲載されたあとの打ち合わせで、「読んでいただけましたか?」って聞いたら、雑誌の切り抜きをバインダーにまとめてくれていて、それを見て「丸田さ~ん!!」って心を開きました(笑)

丸田:
これはとっておかなきゃと思ってね。その後編集さんから「そんなことしなくていいですよ!」って、雑誌も、切り抜いたものも送られて来るようになったんです。

G:
話はずれてしまうんですけど、中道さんにお聞きしたいのが仕事環境のことです。ニコニコワークショップで仕事場を公開されていて、iPadとPCを使ってフルデジタルで作業しておられるようなのですが、どういうきっかけでフルデジタル環境を導入されたのですか?

中道:
僕はもろアナログ人間で、アシスタントに入ったところもアナログでしたし、ずっとアナログで作業してきて、デジタルになったのって「放課後さいころ倶楽部」の6巻か7巻ぐらいの時なんです。序盤は、手描き原稿を取り込んで仕上げだけデジタルで作業していたんですが、手間ばっかりかかってしまって……。取り込んだあとにゴミをとったりするのが面倒くさいし、線も2値化した時にきれいに見えるよう調整したりするのも面倒くさい。手間を省いていったら、自然とフルデジタルになっていった感じです。


丸田:
技術の発達もあったんじゃないですか? ペンのタッチもようやく違和感がなくなってきて。

G:
端末もどんどん進化してますもんね。

中道:
それも大きいですね。

G:
知り合いの漫画家さんから薦められたりはしませんでしたか?

中道:
それが、薦めてくれる人は何人もいたんですけれど、信じてなかったんです。アナログの描き味は出せまいと思っていたんですよ。でもデジタルの方がいいですね、全然。

G:
サンデーやゲッサンの漫画家さんって、自分がどう漫画つくっているかをオープンにしている作家さんが多いイメージです。

中道:
自分の体感では半分くらいデジタルなんじゃないかと思いますけどね。

丸田:
デジタルものの情報を常に調べていたわけではないんでしょう?

中道:
周りで使っている人が多かったので「あそこのタブレットはいいよ」とか「デジタルは楽だよ」という話だけは自然に耳に入ってくるんですよ。「エル・ドラド」みたいな感じで。

丸田:
それを「またまたぁ~」って思ってたんだ(笑)

中道:
「アナログでしかできないことがあるでしょ?」って、ずっと食わず嫌いをしていたわけですけど、まあ便利ですね。

G:
今アナログに戻れと言われるとしんどいですか?

中道:
しんどいというか、手間が3倍くらいかかるんですよ。人もたくさん雇わないといけないし、人海戦術になるんです。

G:
ということは、今はアシスタントの方はかなり少ないんですね。

中道:
今はアシスタントは1人だけです。1つ前の連載の時にはアシスタントが2人で、ヘルプでもう1人入ってもらっていましたが、それが自分とアシスタントの合計2人で全部回るようになっているって、それがまさにアナログの厳しさですよね。伝統工芸みたいなもので、原稿にシールを貼ったりしますから。今振り返っても信じられないですよ、「なんで漫画描くのにシール貼らなきゃいけないんだろう」って思ってました。

G:
Gペンが嫌いという話もありましたね……

中道:
はい、Gペンとは友達になれなかったですね。一発勝負だし、スクリーントーンのカスはすごいし。

G:
今だと好きなように自分でペンツールを編集できますね。カラーも全部デジタルですか?

中道:
カラーもアナログでした。「放課後さいころ倶楽部」も、単行本の表紙はこだわってアナログだったんですが、いよいよ13巻からだったか、デジタルになりました。絵の具もそろそろ捨てようかと思っています。アナログでやっていたころは、線画からすべて手描きだったので、時間が3倍ぐらいかかっていました。

アナログ制作だったころの表紙(第1巻)


G:
デジタル化の恩恵を受けまくっているようですが、それを誰かに布教したりはしていますか?

中道:
僕は布教精神まったくなく、みんなの好きにすればいいと思っているので、何も言わないです。

G:
ボードゲームの良さを広めるような漫画を描いているのに(笑)

中道:
丸田さんと違って、僕は「ボードゲームをみんなに広めよう」とは思っていなくて、「ボードゲームを遊ぶ人たちの物語、面白いでしょ?」って言いたいだけなんです。もちろん、「『放課後さいころ倶楽部』を読んで、あのゲームを買いました」って言ってもらえるのは嬉しいですけれど、目指しているのはそこではない。

G:
ボードゲームの布教活動をするために漫画を描いているわけではなく、面白いお話の題材としてのボードゲームを扱っているというわけですね。中道さんは、もともとは探偵ものを描きたいという思いがあったとか。

中道:
言いましたっけ?(笑)

G:
やってみたけれど探偵ものは難しかったというお話があるんですが、「パンデミック」のようにゲームで緊迫するような状況を描くときに経験が生きているのかなと感じました。

中道:
それは、随所に出てきていると思います。

G:
嘘をついてはらはらしている場面や、嘘を気取らせないようにしている場面を描くときに、描き方や演出で気をつけていることはありますか?

中道:
うーん……なんだろう。ぱっと答えが出てこないということは、意識はあまりしていないですね。表情を気をつけるとか、そのくらいでしょうか。

丸田:
楽しんで描いているってことですよね。「気をつける」が必要なのは「ふと違うことをやってしまうから気をつけなきゃ」ってことなので、意識せずに自然にされているということは、それが楽しくて当たり前のようになっているということだと思います。

中道:
おっ、それでお願いします!(笑)

G:
描いている人が楽しんで描いているかどうかは、読んでいても感じられますよね。

中道:
わかりますよね、「今ノリノリで描いてるなこの人」って。そして、苦しんで描いているのもわかるんですよ。

G:
「放課後さいころ倶楽部」を読んでいると、基本的にはノリノリの印象です。キャラクターたちがみんな生き生きと楽しそうで。

中道:
苦戦した回もありますよ。コミックス読み直したときに「この回はノリノリで描けているな」と思うものがある一方で「この回はつらかったな」というのもありますし。

G:
苦戦するというのは、お話作りのほうで苦戦されるんですか?それとも作画の方ですか?

中道:
どちらもありますね。自分の中で今回の話が面白いと思えているとモチベーションは高いんですが、どこかで「もっと面白くできたな」って思って絵を描くのは結構つらいです。作業期間が20日あるとして、ネームは最初の5日くらいの作業なので、最初しくじるとその後の2週間がつらくなってしまいます。

G:
今回、アニメ化にあたってなにか要望や指示みたいなことは出されましたか?

中道:
すごくたくさん打ち合わせに参加しました。アニメーションって、漫画と違ってたくさんの人が携わるものだから、あまり細かいことを言っても意味がないだろうし、作っている人たちもプロだからおまかせした方がスムーズかなと思って、多少要望は伝えましたが、できるだけおまかせでお願いしています。

G:
「このゲームだけはやって欲しい」とか、そういうのはありましたか?

中道:
「ごいた」だけお願いしました。脚本家の方には無理してもらう形になりましたが、原作とは違う流れながら、よくまとめていただいたと思います。あれはお願いしてよかったと思いました。

G:
アフレコも何度か見に行かれたと。

中道:
最初は「感無量」で、何度か見ていると慣れてきて、今度は声優さんのすごさを思い知るようになりました。こっちは演技に関しては素人なので「すごく上手だな」と思って聞いているんですが、プロの方が聞くと「もっとこうしてくれ」というものだったりする。その要望を聞いて、すぐに反映して演技で返すというのは、ものすごい技術だなと。

G:
漫画を描いている時点で、キャラクターの声のイメージというのはありましたか?

中道:
こうしてアニメになってから、僕は全然そういうのがイメージできない人だったんだと実感しました。逆に、声をあてていただいたので、描いているときに声優さんたちがしゃべっている声になって「アヤってこんなしゃべり方をするんだ」って、楽しいぐらいです。

G:
声を聞いてイメージがついたことで、描くキャラクターの動きが変わったりすることはありましたか?

中道:
その点は、アニメの動きに合わせて演技していただいているので、動き自体にはぶれはないです。自分の頭の中で、キャラクターの声がつくようになったという感じですね。

G:
アニメ化で反響もあるかと思いますが、「あのゲームやってほしい」という声はありますか?

中道:
ファンレターという形ではないものの、Twitterなんか見ていると、いっぱいありますね。

G:
原作のどのエピソードがアニメ化されているのかは見てのお楽しみというところですが、中道さんが原作の中でお気に入りのエピソードはありますか?

中道:
「ごいた」の回と、前半のほうだとマキちゃんが初めて出てくる「インカの黄金」の回も結構好きです。オチまで含めて、ボードゲームを使って自分らしい話ができたなと思います。あと「テレストレーション」で遊ぶ回では、話はすぐに思いついたんですけれど、絵が下手な人が見つからず苦労しました。みんな結構描けるもので「画伯」的な人ってなかなかいないんですよ。最終的に、田舎に帰ったとき、父親に描いてもらいました。

G:
なんと(笑)

中道:
あの回は「すごい笑った」って褒めてもらったので、父親に感謝です。

「インカの黄金」「テレストレーション」は第2巻に登場


「ごいた」登場は第3巻


G:
以前、単行本のあとがきにおすすめのゲームが挙げられていて、すごろくや祭のトークショーでは「マーダーミステリーゲーム」を注目ゲームに挙げておられましたが、新たになにか「コレはよかった」みたいなゲームとの出会いはありましたか?

中道:
「マーダーミステリー」以外だと、山を登るやつが良かったですね。

丸田:
HABA社の「マウンテンズ」かな? でも、もし「放課後さいころ倶楽部」を描き始めたころだったら、このタイトルが「よかったもの」として名前が挙がらなかったんじゃないかと思うんですけれど、そうでもないですか?

中道:
いろんなものをやった結果、ああいうのも面白いねみたいなことかも……。

G:
丸田さんから見て、中道さんが好むゲームの傾向に変化が?

丸田:
幅が広がってきたなと思って。最初は、理詰めでガチな方に重きを置いていたようだったけれど、そうじゃないものも楽しむようになっているなと思います。

G:
プレイするゲームが増えていくにつれて範囲が広がるイメージでしょうか。

丸田:
年齢もあるような気がしますね。「子どもの話を見て泣くようになる」みたいなことですよ、多分。

中道:
そうかもしんない(笑)

丸田:
変わらない人もいますけれど、変わっていくのはいろんな人と遊んでいる人じゃないかなと思います。中道さんはいろんな人と遊んでいるから、余計に「こういう楽しみ方があるんだ」「同じものでも違うんだ」っていうことも見ているというのがあるんじゃないでしょうか。

中道:
それはありますね。一緒に遊ぶ人によって同じゲームをやってもプレイ後に抱く感想が全然違います。いい方向もありますし、「この人とはこのゲームやっちゃダメだな」ということもわかってきます(笑) 人とゲームの相性って、すごくありますね。

G:
なるほど。中道さんもゲームとの相性の善し悪しはありますか?

中道:
大喜利ゲームがダメですね。面白いことを言おうとしてどんどんつらくなっていく。職業柄、うまいことを言いたいんですが、うまく言えなくて……。ただ、大阪の人と大喜利系のゲームを遊んだときは本当に面白くて、「大阪人はポテンシャルすごいな」と思いました。役者さんも、大喜利系のゲームをやられる時はすごく楽しんでらっしゃいますよね。

G:
ゲームの勝ち負けはもちろん大事ですが、そうではない部分、プレイにどれぐらい没入できるか、やりきれるかというのも大事ですよね。

中道:
ありますあります。それで、勝ち負けにこだわる人に怒られたりもします。だからこそ相性、遊ぶゲームもですが、メンバーの顔ぶれも重要です。

G:
ボードゲームを遊ぶにあたっていいメンバーをそろえるにはどうしたらいいんでしょうか。一人で遊ぶゲームや二人で遊ぶゲームもありますが、人数が多い方がいいゲームだと、メンバー集めに苦労することもあり……。

中道:
これは、いろんな人と遊んで見つけていくしかないですね。

丸田:
でも、ボードゲームをやるためだけのつながりっていうのは、あんまりいいことじゃないんじゃないかと僕は思っています。「映画行こうよ」とか「ご飯食べに行こうよ」みたいなののひとつとして、ボードゲームをやるのにいい相手もいるぞって捉えて、遊ぶ機会を作っていったほうがいいんじゃないかな。「ボードゲームだけの仲間を作ろう」というのは無理があるよね。


中道:
「大人数で遊びたい」という願いを満たすなら、ボードゲームカフェに行くのがいいのではないかと思います。マッチングしてくれますから。でも、丸田さんの言ったような、横の付き合いもしつつとなると、カフェでは難しいかもしれません。

丸田:
ボードゲームカフェって、一人で居酒屋に行く感じなんだよね。

中道:
そうかもしれない。

丸田:
だから、ボードゲームカフェに集まるのは、ボドゲ仲間・ボドゲ友達を探しているという人ではなくて「一人でも平気です」という人の集まりじゃないかという印象はあります。でも、ボードゲームカフェでつながりが生まれることもあるので、否定するわけではないです。つながりが手っ取り早いというか、入り口としてはいいですよね。

G:
中道さんのボードゲームのプレイ時間は月間でどのくらいですか?

中道:
人と対面してやるとなると、月に2日ぐらいでしょうか。アプリを含めるともっとありますけれど、すごろくやに行かない月だと、ボードゲームを遊ぶのは1日しかないですね。それプラス、近所に友達が住んでいるのでたまに遊びに行ってちょっとやるぐらい。でもその人たちはヘビーなゲーマーじゃないから、軽いのだけですね。

G:
仕事時間にうまいこと遊びを盛り込んでいるんですか?

中道:
スタッフが来てくれていたときはやっていたんですけれど、子どもができて、遊んでくれなくなりました(笑) そこは子どもの世話を優先してもらっていて、一人でアプリで遊んだりしています。担当さんと打ち合わせのときに遊んだりもしますけれど。

G:
アプリなら一人でできますもんね。

中道:
それこそ僕みたいな人間にはボードゲームカフェはありがたいですね。一人で行ってゲームができるから。

丸田:
ゲームを知らない人と遊んだり話をする機会こそ大事じゃないかと僕は思っています。全然知らないという人にどう面白がってもらえるか、ゲームを使って受ける感性の幅をもっと広げていければいいですよね。ときどき、作ったゲームを見てほしいという人の話を聞くことがありますが、そんなとき「あなたのお母さんに遊んでもらいましたか?」というのが定番になっています。

G:
「放課後さいころ倶楽部」をきっかけに「こんなボードゲームあるんだけれど、やってみない?」とカジュアルに声をかけやすくなって、それまでは興味がなかったという人でも気軽に始められるようになるなら嬉しいですね。アニメ化で、さらにボードゲーム人口が増えればと思います。本日はありがとうございました。

TVアニメ「放課後さいころ倶楽部」は2019年10月から、ABCで毎週水曜26時11分~、TOKYO MXとBS11で毎週木曜24時30分~、AT-Xで毎週金曜21時30分ほかに放送中。また、dアニメストアで毎週水曜27時から独占先行配信が行われていて、ほか、毎週日曜24時以降に他の動画配信サイトでも配信されています。

10月16日(水)以降順次放送・配信の第3話「ひとりとちゃうから」は、中道さんお気に入りにエピソードの1つ「インカの黄金」登場回です。

©中道裕大・小学館/放課後さいころ倶楽部製作委員会

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in インタビュー,   マンガ,   アニメ, Posted by logc_nt

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