インタビュー

「魔術士オーフェンはぐれ旅」作者・秋田禎信インタビュー、シリーズ25周年の新作アニメや執筆にまつわるエピソードを根掘り葉掘り聞き出してみた


1998年に一度テレビアニメ化されている人気ライトノベルシリーズ「魔術士オーフェン」が、シリーズ25周年記念で完全新作アニメが作られるということで、作者である秋田禎信さんにこの動きのことや執筆のこと、「なろう系」のこと、さらに作品とは離れた部分の話まで、いろいろなことを根掘り葉掘り聞いてきました。

TVアニメ「魔術士オーフェンはぐれ旅」公式サイト
http://ssorphen-anime.com/


◆25周年記念のさまざまな動き
GIGAZINE(以下、G):
2019年が「魔術士オーフェン」シリーズ生誕25周年ということで、アニメ化も含めたいろいろな動きがありました。2017年末ごろからは次々とコミカライズも行われましたが、こうした流れを秋田さんはどう眺めているのでしょうか?

原作1巻を忠実にコミカライズした「魔術士オーフェンはぐれ旅 我が呼び声に応えよ獣」。


秋田禎信(以下、秋田):
信じてもらえるか分からないですけど、あの一連のコミカライズはアニメの話が出る前にオファーをもらっていて、生誕25周年とは全然関係がないことなんですよ。

G:
えっ?そうなんですか!?

秋田:
いかにも合わせたように見えると思うんですけれど、実は無関係で、コミカライズのオファーを受けた時点では先方さんはアニメ化のことを知らなくて、そもそもあの時、まだアニメ化の話自体もなかったですよね。

TOブックス編集者(以下、TO):
なかったです。他の作品も含めて、同時期に過去のライトノベルがリバイバルされてきた流れの一環として、KADOKAWAさんのコミカライズも動いたという感じなんです。

G:
完全に25周年記念でアニメ放送が決まって、そこへ向けて合わせたものだと思っていました。

TO:
これについては、秋田さんに怒られているくらいです。「25周年」は2019年のことなんですが、それより前段階のコミカライズで「もう25周年だ!」みたいになっていて。

秋田:
よく見ると「25周年を目指して」って書いてあったんですよ(笑)、わかりにくい!

(一同笑)

秋田:
冷静に考えたときに「年が合わないな?」とは思ってました(笑)

TO:
ただ、原作側としては、もし今回のアニメのお話が来ていなかったとしても、25周年を記念する何かをやりたいとは考えていました。ちょうどコミカライズのお話をいただいたので「25周年までやっていきましょう」と、ともに目指す動きになったんです。

G:
「25周年」についてはなにか感慨などはありますか?

秋田:
いや……急に言われたんですよ、「オーフェン、25周年じゃない?」って。

G:
突然(笑) その「25周年じゃない」というのは誰が言い始めたんですか?

TO:
GIGAZINEさんには、2009年の「秋田禎信BOX」のときと、2011年の「ハンターダーク」のときにインタビューしていただいているんですが、この2011年というのは何年かぶりに「新しく、続編にあたるものを書きますよ」という時期だったんです。これも何も狙っていなかったんですけれど、20周年に合わせてちょうど完結したんです。まず、ミラクルですよね。

シリーズ第4部完結となった「魔術士オーフェンはぐれ旅 女神未来(下)


G:
ミラクル(笑)

TO:
僕は、区切りとして「これで終わった」って思っていたんです。

秋田:
きりがいいし(笑)

TO:
はい(笑) ところが、そのあとにやってきたのが、先ほど話したライトノベルのリバイバルブームだったんです。「新しいものもいいけれど、古いものにも目を向けよう」ということで、ぽつぽつとお話が来るようになりまして、その量が結構増えてきたので「これ、25周年に合わせて何もやらないのはまずいんじゃないか?」というように意識が変わったんです。

秋田:
一時期は「旅行しましょうか?」とか、得体のしれないこと言ってましたよ。行けるなら行きたいですけど(笑)

G:
何で旅行だったんですか?

TO:
「何かしよう!」と思ったんです(笑)。 何かができるというのは皆様のお力があってこそですが、まずは25年も作品を続けてきた人をねぎらわなければいけないと思って、旅行でもどうかなと。

G:
なるほど。

TO:
「魔術士オーフェン」のすごさは、作品を書いている秋田さんとイラストを描いている草河遊也さんのコンビがずっと続いているところなんです。ところが、お二人はほとんど会ったことがないんです。

G:
そうなんですか!?

秋田:
たぶん、5回会っているかどうかくらいです。

TO:
2人で連絡を取り合ったりもしないですから。

秋田:
だって草河さん、家にPCどころか、FAXがない人なんですよ。イラストレーターなのに。周りにさんざん説き伏せられた結果、ようやく携帯電話を持ったそうです。

G:
「コンタクトを取るだけでも大変」という状況は脱したんですね。

TO:
いやいや、大変ですよ。未だに他社の人から僕に「連絡が取れないんですが」って電話がかかってきますから。

秋田:
窓口がないんです。

G:
まるでファンタジーのような……。

秋田:
草河さんはもう、仙人ですよ。

TO:
第4部が立ち上がったときも「秋田さんと草河さんは会わないといけないでしょう」という話になったんですが、「旅行へ行きましょう」と言っても盛り上がらない2人ですから、大阪と東京で2日間サイン会をして、夜に食事するという形になりました。それすらも8年くらい前のことですよね。

G:
あまり旅行には行かないんですか?

秋田:
友達が旅好きなので、それに付き合って意外と出かけてはいるんですよ。この前、三峯神社に行きました。山に登ったんですけど、なめてて死にかけました(笑)

G:
(笑)

秋田:
子どものころに山育ちだったし「山道は苦じゃない」と思ってましたが、全然ダメでした。こんなにも山道を歩けないんだとは思いませんでした。途中で息が切れて、横でぐったりでしたね。友達からは「こいつ、このままここで死ぬんだな」と思われてたみたいです。上に神社がある険しい山で、1時間くらいの道なんですが、まるで崖を登ってるような感じでした。

G:
山育ちという点では、2011年にアニメイトTV(現・アニメイトタイムズ)に掲載されたインタビューで、学校まで山道を通ると近道だったという話を見かけました。日暮れの帰りに通ったらあまりに真っ暗で、「その時の経験が強く残っていて、それ以来暗闇ってのは逃れられない、引きずっているものなんです」と話しておられましたが、どんなところだったんですか?

秋田:
東京の山奥なんですが、タヌキやイノシシが出るようなところです。話に出ている道は、舗装された道路から分かれていて、途中から山道になっているもので、山越えの近道だったんです。通学路じゃないので一応禁止されてたんですが、子どもの頃はまあちょくちょく使ってました。

G:
小学生ぐらいのころですか?

秋田:
真っ暗だったのは中学生のときです。小学生のころは日暮れ前に帰るんですが、中学生になると部活が始まって、帰るころには日が暮れるようになったんです。それを僕はわかっていなかった上に早く帰りたいから、昔使っていた近道を使ったら、まったく何も見えない中を歩くことになってしまって。すぐそこが崖で、落ちたら死ぬんです。でも人間ってすごくて、子どもの頃に散々使ったから、手探りでも道を覚えてたんです。「このくらい歩いたら左に曲がればいいはずだ」って。無事家に着いたときは「生きてる!」って感動しました。

G:
そういうことだったんですね。

秋田:
あれで死んでいたらバカですが、死んでることもあり得ましたね(笑)。高校生になると通う場所が変わって電車通学になったので、山道は使わなくなりました。

◆執筆時の苦しみ
G:
2011年に「ハンターダーク」が刊行されるのに合わせて実施した秋田さんと田島昭宇さんへのインタビューの中で、執筆について「部屋で仕事をしているとあんまりはかどらないので、喫茶店でやってることが多い」と答えてもらったのですが、今でもこのスタイルで執筆を行っているのでしょうか?

秋田禎信・田島昭宇ロングインタビュー、驚きの合作「ハンターダーク」の見どころや2人の意外な素顔をたっぷり聞いてみました - GIGAZINE


秋田:
喫茶店がないところに引っ越したので、今は家でやっています。そのせいかは分かりませんが、ペースが落ちましたね。はかどらない。家のせいなのかな?(笑)

G:
家のせい(笑)

秋田:
何のせいなのかは分かりませんが、はかどらないです。

G:
「はかどらない」というのは「執筆の速度が落ちた」という感じでしょうか。それとも「書こうと思っても筆が進まない」という?

秋田:
遅いし……なんだろう。

G:
1日のスケジュールを「起きたら朝ご飯食べて、それから書こう」とか決めていたりするのですか?

秋田:
細かく決めてはいないですね。神坂さんからは「40代は書けなくなるんです」「50代になると、もっと書けなくなる」って脅されました。

G:
ひえぇ……なにか体調的なものもあったりするのでしょうか。

秋田:
まあ老化ですよね。それも全方位の。これは仕事の話とはちょっとズレますけど、僕、スマホの画面を10分くらい見ていると目の焦点が合わなくなるんですよ。「スマホ老眼」ってヤツなのかな。PCはそんなに困らないんですけど、朝起きてTwitterか何かで面白いトピックを見かけてしまうと、1日つぶれちゃう可能性があるんです。スマホを1日中見続けるからではなくて、それ以降、何時間も視力が戻らなくなってしまうから。なので、あまりスマホを見ないようにしていて、おかげでTwitterもほったらかしになっちゃうことが多いんです。

G:
ツイートの間隔が空くことがあるのには、そういった事情もあったんですね。

秋田:
もらったリプライに何日も気づかずほったらかしになったりして、申し訳ないなと思っています。

G:
作品を仕上げるまでの時間について、2011年のインタビューでは「早い時は早いですけど、終わらないものは何年かかっても終わらなかったりするんで。(時間がかかる)理由っていうのも全然分からないですから。」とのことでしたが、このペースに変動はありましたか?

秋田:
変わらないですね。進まないときの理由も、いまだに分からないです。

G:
進まないときは、真っ白で何も出てこないのでしょうか?あるいは、アイデアが多すぎてどうするか迷ってしまうとかでしょうか?

秋田:
「はまらない」という感じですね。なんかピリッとしない言葉が並んで、ハネないなぁと。「行き詰まる」とか「壁にぶつかる」ではなく、「迷子になる」です。行き着く先が分からなくなる。着地点がわかっても、そこまでの道が分からない。「話がつながらないんじゃない?」となって、前に戻って描き直さなきゃならなくなったりして、迷い始めるとスパゲティみたいになっちゃうんです。サッとはまってササッと終わることも、もちろんあるんですけれど。

G:
はまるかはまらないかというのは、実際に書いてみるまでは分からないですか?

秋田:
分からないですね。

G:
そういうことは、後から振り返ったとき原因がはっきりすることはありますか?

秋田:
書き上がったということは、理由が分かったからこそ書き上がっているので、振り返ると悩む理由のないことりするんですよね。解決できたということは、大体はしょうもないことなんです(笑)。書いているときはもう全然わからないんですけれどね。

G:
それはデビュー時から苦しんでおられるのですか?

秋田:
若いころは悩むほど幅がなかったですね……。

G:
「幅がない」?

秋田:
何もわからずに書いていたので、悩む余地がなかったです。文字を埋めてただけですから。

G:
埋めてただけ(笑)

秋田:
そんなもんですよ(笑)。だんだんと悩める余地が出てきて……って、この言い方は本当はよくないです。美化しているみたいで。悩む理由なんていくらでもあるんだから、探し始めたら終わりです。でも、人には無責任に言えるんですけれど、自分が当事者になるとわからないものなんですよね……。難しいなと思います。

G:
「魔術士オーフェン」執筆時でもそういうことはありましたか?

秋田:
もちろん、山ほどありました。泣きながら書いてることもありました。

G:
泣きながら!?

秋田:
全然書き上がらない謎の現象があったんです。「おかしい、いつまでたっても全然書き上がらない、なんだ?どうしてだ?」って。それでもなんとか書き上げて編集者に送ったら「予定の2倍の枚数あります」って言われて。ページ数を間違えていたんです。書き上がるわけなかった。

G:
物理的に遠すぎたんですね(笑)

秋田:
どうしようもない。

◆ALIENWAREの重量級マシンを使い「秀丸エディタ」で執筆
G:
原稿はPCで書いていると思いますが、どういうエディタを使っているんですか?

秋田:
秀丸」です。テキストエディターは秀丸しか使ったことがないです。最初に送金したときNIFTY-Serveだったと思います。ログも取ってあるんですけれど。

G:
すごい、相当昔ですね。なぜ「秀丸」でいこうと思ったんですか?

秋田:
人に勧められたんです。最初はワープロを使っていて、その流れでPCにしたときも「一太郎」を使おうとしていたんです。その頃は「縦書きじゃなきゃ」という感覚があったんですけれど、仕事で電算写植のオペレーターをしていたので横書きのエディタでも抵抗はないことに気付き「じゃあ『秀丸』で」と。それ以降、ずっと横書きです。

G:
おおー、そういう経緯だったんですね。

秋田:
「縦書きじゃなきゃ!」って言っていたころの自分が思い出せないぐらいです。だから僕は今、何の疑いもなくWordファイルで送ってくる人間を憎んでいますから。「テキストファイルで送れ!」って(笑)

G:
(笑)

秋田:
「テキストデータが至高!」って、面倒くさい電算写植時代みたいな(笑)。昔の印刷所の人はテキストデータ以外で送ってくる人間にそうやって怒ったとか言いますけれどね。でも、今の時代だと「Wordファイルで怒るって、何なの?」って感じでしょう?

G:
確かに、完全にそうなってます。

秋田:
実際、僕はPCにWordをインストールしていないから、Wordファイルだと困るんです。諦めて入れろよという話ですけど(笑)

G:
普段はノートPCなんですか?それともデスクトップですか?

秋田:
数年前まではデスクトップPCも使っていて、家ではデスクトップ、外ではノートという使い分けをなんとなくしていました。でも「家でノートPCを使わない理由がないじゃん。使えばいいじゃん」と気付いて。

G:
確かに(笑)

秋田:
「なんでわざわざデータを移動させたり同期させたりしないといけないんだ!」って。

G:
なぜその使い分けだったんですか?

秋田:
わかんない(笑)

G:
(笑)

秋田:
僕の中で、家ではデスクトップ以外を使うことは許されていなかったんです。悩みと同じで、意味のないところにつまづいていたんです。気がつけば、なんということはない話なので、気付いた瞬間にデスクトップPCをぶん投げました(笑)

G:
(笑)

秋田:
デスクトップPCを分解して、部品もバラバラにしてしまうと最終的にはケースだけになりますよね。「これはPCなのだろうか?」と分からなくなってゴミの収集日に出してみたんです。すると、電源も何も入っていない金属の箱に対して「これはPCなのでダメです」と張り紙がされたので「これはPCだったのか!」と、ショックを受けました。

G:
すでにPCとしては使えないのに、と。PCは自作されていたのですか?

秋田:
一時期は気取って「自作だ」と言っていました。秋葉原のPCショップで、SATAが何かも知らないのに人の受け売りで「SATAがいいよね」と言ったりしつつ組んでいましたが、その後落ち着いて「まとまってるやつでいいじゃん」って、買うようになりました。エイリアンの顔がついてるからALIENWAREにしよう、とか最後は適当です(笑)

(実際にこの日持ってきていたALIENWAREを見せてもらって)

G:
うちにも同じALIENWAREの赤色のヤツがあります。持ち歩くにはめちゃめちゃ重いんじゃないですか?

秋田:
アホですよこんなの。エイリアンの顔がついてるからって買ったのに、目立たないぐらいにシール貼っちゃって(笑)。僕、持ち物には結構シール貼っちゃうんですよ。自分のものにするって感覚で内側にも張ってあります。三峯神社で買ったシールもありますね。とにかく、隙間なく貼ってます。

G:
シール自体は重ならないようにびっしりと貼ってあるんですね。

秋田:
モンスターエナジー」は一回も飲んだことがないのにシールは貼ってますね。これ、まだ本体は軽い方で、電源が重いんですよ。合わせると5kgぐらいある。それまで使っていたカバンが小さくて入らなかったので、PCを入れるためにカバンを変えたら、今度はカバン自体が1kgあるんです。

G:
どんどん重くなっていく(笑)

秋田:
すべてが重い。

TO:
持ち歩く機会、多いんですか?

秋田:
昔はこれを持って喫茶店に通ってたんですよ。エイリアンが光るノマドワーカー。

G:
重量級で目立つノマドワーカーですね(笑)

秋田:
向こうのテーブルではiPadを使ってるOLがいるというのに……。しかも、これで何を動かしているかって、「秀丸」ですよ。

G:
ハイパワーマシンなのに(笑)

秋田:
高熱を発しつつ「秀丸」(笑)。「ポメラでやれよ」ですよね。

G:
「ポメラ」も持っているんですか?

秋田:
ちょっとガタは来ていますが、今も一緒に使っています。いったんコーティングが溶けてベタベタになっちゃった時、「ニベアを塗ると落ちる」という話を聞いて、やってみたら、ちゃんとベタベタが落ちました。機械にニベアを塗るのは、すごい背徳感でしたね。

G:
物持ちがいいんですね。PCとポメラはどう使い分けているんですか?

秋田:
「ALIENWAREを持てない、無理だ、今日はもう嫌だ」って時はポメラです。「じゃあ全部ポメラにしろよ」って話なんですが(笑)、1冊分のファイルサイズだと開けないんです。書いてそのまま読み返しができなくて、データを切り貼りする必要があるので、ちょっと不便なんです。

G:
そうなると両方必要だと。

秋田:
それに、ALIENWAREならスカイリムが動く(笑)。喫茶店で。

G:
(笑)

◆小説家・秋田禎信を形作るもの
G:
以前受けられたインタビューの中で「テキストですら、ポエムは描けそうにないなとか。あと脚本が書けそうにないな、とかあるんですが。」という話が出ていました。「脚本が書けそうにない」というのは、普段書いている小説とどのような違いがあって難しさを感じるものなのでしょうか?

秋田:
脚本だと「このシーンが何分あるとしたら、このセリフは何秒ぐらい」ということを管理しなければいけないですが、そういう能力はないなという、単純なことなんです。セリフを読み上げたときブレスのタイミングはここだとか。きっと、学べばいいんでしょうけれど。

G:
秋田さんは執筆時、脳内で声が聞こえているのではなく、文字は文字として扱っている感じなのでしょうか。

秋田:
そうですね。これは僕のクセなんですけど「見て分かる言葉を選ぶ」というのがあって、昔からよく熟語が多いと注意されます。読むことで意味が通じやすい言葉ってあるじゃないですか。それで、語感だとか、名前にしても形で見分けやすいものを選んだりします。

G:
字面で決めることがあるということですか?

秋田:
そうです。脚本の場合、熟語は同音異義語も多いからなるべく避けるでしょうし、流れでわかりやすい言葉が必要なんです。映像や音声をいちいち止めて聞くという人はいないので、そもそも、言葉の選び方自体が全然違ってくるはずです。それで逆に、脚本メインの方が小説を書いたときに言葉が弱いことがあったりするのだと思います。これはもう文化の違い、スキルの違いなんだと思います。

G:
「サクラダリセット」の河野裕さんが、秋口ぎぐるさんとの対談の中で、文体に影響を受けた作家として秋田さんの名前を出していて、「秋田禎信さんは、たぶん、海外の小説の影響を受けていて、それをとても情緒的に日本の文章に応用していると思うんです。とても論理的なのに、同時に感傷的な文章でもある。」と語っているのを見かけました。

秋田:
実際、若いころに海外のミステリーや翻訳文章に影響された部分は多くて、それを矯正していく歴史でした。

G:
「矯正」ですか。

秋田:
そのままだと固いし、回りくどくてわかりにくいので、なるべく日本語っぽくならしていく、ということをずっとやっていました。まさに、河野さんの言われたとおりです。

G:
海外小説から影響を受けたのは、なにかきっかけがあったのですか?

秋田:
単純に、「海外小説ばかり読んでいたから」ですね。もちろん、日本の小説を読まなかったわけではなく、家にはいわゆる「文学全集」みたいなものがあったのですが、その中でなんとなく海外児童文学を読むようになりました。特に「ドリトル先生」はかなり繰り返して読んだ覚えがあります。そして中高ぐらいから海外ミステリーにハマった結果、いわゆる「日本人作家の書いたもの」をじっくり読む時期がなかったんです。さらに、大人になってからはわかりにくい海外文学を読むようになりました。河野さんには「情緒的」と表現してもらいましたが、これは、気取ってポエムとかを読んでいたころの影響ですね。何も分からないくせに、気取って「やっぱ原書で読まなきゃね」って(笑)。翻訳されたものを暗記暗唱するくらいのレベルで読み込んだものを原書で読む、というカンニングをしていました(笑)

G:
むしろすごいです(笑)。原書にまで手を出した理由はなんだったんですか?

秋田:
イキってたんですね(笑)。書店の奥に原書コーナーあるぞ、あそこ行くとかっこええんじゃない? みたいな悪知恵をつけて、好奇心で手に取ったんです。そういう変な偏りがあったせいで、こういう感じになっちゃいました。別に、日本文学を毛嫌いしていたわけではないので、星新一なんかは好きで全部読んでました。

◆「なろう系」と「ライトノベル」
G:
2011年に実施したインタビューで、未来の作家に向けてのメッセージをお願いした際、「今、若くて作家を目指している人が、大人になった時の作家という仕事は、きっと僕が今やっている仕事とはまったく違うことのはずなんですよね。多分、それくらいの変化がこれからあるはずなんですよ。無ければもう全部滅んじゃうだけですから。そういう意味では、今やってる人間なんてどうでもいいくらいの感じで、そのくらいの野心なり夢なり希望なりを持ってやって欲しいな」と。

秋田:
イキってますね~。

G:
あれから9年が経とうとしていますが、その間に、「小説家になろう」で見られるような、世界設定に凝った作品が多数表に出るようになりました。こうした方向の先鞭をつけたのはオーフェンであろうという言説を見かけるのですが……


秋田:
河野さんが言ってくれてるんじゃないですか?

G:
(笑)。こうして「なろう系」が受け入れられている現状を、小説家・秋田禎信はどのように見ていますか?

秋田:
「やり方」というか、業界の構造や出版社がかなり変わりましたよね。身も蓋もない話をすれば、まず本屋がなくなっちゃった。僕は学校帰り、何の理由もなく、なんとなく本屋に寄って本を眺めたり買ったりしていました。毎日本屋に行くというのは当たり前だったと思うんです。でも今、そんな人はいないじゃないですか。

G:
確実に減ったと思います。

秋田:
「本を読む」ということ自体が少なくなっていますよね。1年間に1冊も本を読まないという大学生もいるという話ですから。こうなると、昔の規模感で出版業界が成り立つことはないと思うんです。出版社もそれは当然分かっていてデジタル化であがいたりしています。「なろう系」もその流れの1つではあります。作家を育てるよりはすでにネットとかで発表している人に声をかけるほうが合理的ということなので、「いかがなものか」という見方もきっとあると思いますけれど、自分のことを考えてみると、「ライトノベルというものが登場したとき」も、内容云々は置いといて「出版業界の1つの慣習を壊すやり方」だったんですよね。それまで「本」「文芸」というのは雑誌に連載したものを単行本として出し、数年後に文庫本にするというのが当然でした。それを、最初から書き下ろしの文庫本として、安価で、軽い内容のものを出したということで、当時はすごく批判されました。文庫化されるというのは本来、文芸の中でも殿堂入りみたいなものですから。

G:
確かに、今でも単行本が出てから数年後に文庫化という流れはありますね。

秋田:
それを僕のような人間が書き下ろして400円ちょっとで売っている。それはもう、ライトノベルが始まったときは猛批判でした。それこそ「なろう系」が言われているようなことを、散々言われてきたわけです。今はすごく偉そうな顔をしていますけれど。

新装版が出る前は富士見ファンタジア文庫から刊行されていた「魔術士オーフェン」。これは本編「はぐれ旅」2巻「我が命にしたがえ機械」。


(一同笑)

秋田:
そして、ライトノベルを置くスペースを空けるためには何かを減らさないといけないわけですから、ライトノベルのせいで自分の仕事を破壊されたという人もきっといたはずなんです。

G:
まだライトノベルが批判を受けていたころ、そのさなかに身を置いていた感覚はどうだったんですか?

秋田:
まだ今のように誰でもネットを使っているというわけではなかったので、「激しく叩かれる」という感じではなかったですね。鼻で笑われてたってほうが近いのかな。

TO:
作家さんが直接批判的な声を浴びることは、ほぼなかったと思います。ただ、ファンの間ではすごく盛り上がって数字も出ていても、一般的な目線から見ると全然認知されていないという感じでした。毎月出版するというのもはじめての試みでした。

秋田:
書き下ろしだからペースが速いんです。3~4ヶ月に1冊出していました。

番外編短編集「無謀編」1巻「てめぇら、とっとと金返せ!!


TO:
書き下ろしに加えて連載もやったりして、秋田さんやその世代の方たちがやっていたことが、ライトノベルのフォーマットになっていったという流れがあります。当事者たちはすごい量を書いていました。

G:
どうやって、そのすごい量を書いていたんですか?

秋田:
頭がイカれてましたね(笑)。僕は書き始めた当初は会社勤めだったので、朝9時に出社して、残業したら帰りは20時か21時になって、それから家に帰って朝まで原稿を書いて、会社に行って……

G:
いま、寝るヒマがなかったんですが……。

秋田:
昼休みに寝るような毎日を送っていました。

G:
なんてタフな。

秋田:
若かったからできたことだと思います(笑)。あと、わりとゆるい会社だったので、「リフレッシュ休暇」みたいに有給休暇をまとめて一週間くらい取れたんです。盆休みとかとは別に。いい会社だったんでしょうね、総務の人も制度的に頑張っていて、全社員を面談して取る時期を決めさせて、みんなが必ず長期休暇を取れる空気を作っていて。でまあ僕は真っ先に取ってその期間で1冊書いたりしてました。

G:
めちゃくちゃですね(笑)

秋田:
本当、めちゃくちゃなことをやってました。1年ほど経って連載を始めたあたりで「さすがに無理だ」となって、会社を辞めました。

G:
まさにレジェンドですね。

秋田:
会社を辞めて満員電車に乗らなくなってから、家族に「人相が変わった」って言われました。満員電車で酔っ払いに絡まれてしまったりと、キレまくってたからですね。

(一同笑)

秋田:
話が逸れてしまいましたが、「なろう」がというか、新しいなにかが破壊的に登場するってことに関しては、周りがなにを思うかっていうのはあんまり意味がないと思っています。というより、なにを思ったところで変化には勝てないですし、まさか嫌がらせして阻止してやるなんてわけでもないでしょうし。だからまあせいぜい、わたしなりに適応してやっていけるところまで頑張ろう……という感じです。

◆痛いのは苦手
G:
「魔術士オーフェン」をはじめ、秋田さんのライトノベルはわりと暴力的な描写が多めだということで、猟奇方面や「リョナ」が好みなのではないかというファンの声もあるのですが、あれは意識して書いているのですか?

秋田:
いやいや、むしろ映画だとグロいのはダメな方です。ゾンビものを見るのに覚悟が必要なぐらいで、痛いのを見るのは苦手です。例えば「ゾンビ(Dawn of the Dead)」に、ヘリのローターでゾンビの頭が吹っ飛ぶシーンがありますよね。


G:
有名どころのシーンですね。

秋田:
あれは誰が見てもわかるかぶり物で、笑いどころなんじゃないかというぐらいですが、あれでも怖いぐらいです。全然ダメなんです。怖いの、ダメ。

G:
書くのであれば大丈夫だけれど、と。

秋田:
きっと僕の中で分類できているんだと思います。自分が見る分には全然ダメですが、ひとごとだと割り切れているから書けるんでしょうね。ケンカとかも、まったくしたことはないですから。

◆デビュー作「ひとつ火の粉の雪の中」
G:
秋田さんのデビュー作は、第3回ファンタジア長編小説大賞の順入選作品で、応募当時17歳だったという「ひとつ火の粉の雪の中」です。新潮文庫nexでの復刊時には、かなりの箇所に修正が入っていたというブログ記事を見ました。


秋田:
はい、修正しました。

G:
固有名詞の修正だけではなく、全体にわたって大きな手直しが行われていますが、なぜここまでの大手術を行うことになったのですか?

秋田:
この作品は、生まれて初めて最後まで書いた話なんです。

G:
応募作が生まれた初めて最後まで書いた作品なんですか?

秋田:
そうです。その夏にバイトして初めてワープロを買って、ワープロの練習として書いたものなんです。その後に本になりましたけど、応募原稿は本当にひどかったんです。意味が全く分からない謎の文章の羅列で、悪夢みたい。実際に、1年後に読み直した時点で、わけがわからなくて。その時点で全体の2/3ぐらい修正しているんです。

G:
ええー(笑)

秋田:
それで多少まともになりましたけど、20年後になぜか復刊することになって改めて「直しきれてないな」と感じたんです。最初の直しを含めても10代のころのものですから、これを機に、しっかり直そうと。僕は写植オペレーターだったから、めったなことでは大量の文章直しはしないんです。それがどんな事故につながるか知っているから(笑)

(一同笑)

秋田:
「基本的に直しは最小限で行うものであって、真っ赤になるほど修正するやつは何も分かっていない」と思ってきましたけれど、あの時の「ひとつ火の粉の雪の中」では直しまくりましたね……。原稿別送連発したり、自分の掟を破りました(笑)

G:
すごいですね。

秋田:
あれは直さざるを得ないです。……もし、もう一回読み直さなければならないことになったら、また同じくらい直すと思います。永遠に直らないし、終わらないんです。僕の中のトラウマみたいなものです。

G:
トラウマ(笑)

秋田:
若いころに書いたから、読み返してみると「何の意図でこのセンテンスがあるか分からない」という部分が多いんです。理由がさっぱりわからない。これは多分、作者だけの感覚なんだろうと思います。他人にとっては全文章の意図なんていちいち分からないしそんなに気にしないのが本来でしょうし。でも書いた当人としては耐えられないんですよ。今は多少考えながら書くんですけど、当時はそういうのがなかったせいですね。

◆はじめて「オーフェン」に触れる人へメッセージ
G:
「魔術士オーフェン」刊行から25年が経過し、原作小説の存在をこのアニメ化で知ったという人も出てきていると思います。今回のアニメで先に触れるという人もいると思うので、なにか伝えたいメッセージがあればお願いします。

秋田:
なにぶんにも若い僕が書いたものなので、見返してみるといろいろとおかしなところはあります。それは僕もわかってます。ただ、今回は、そういうところも含めて見ていただこうと思っています。今回の「魔術士オーフェンはぐれ旅」は「見ていただく人のもの」なので、僕の一存でどうこうしていいものではないので、あまり偉そうなことはいえません。でも、アニメスタッフの方々をはじめ、ちゃんとした方々に助けていただいて成立した企画ですので、安心していただけたらと思います。よろしくお願いします。

G:
本日も長時間、ありがとうございました。

シリーズ生誕25周年プロジェクトの完全新作アニメ「魔術士オーフェンはぐれ旅」は、2020年1月7日(火)23時からAT-Xで最初の放送がスタート。以降、7日24時30分からBSフジ、1月8日(水)22時からTOKYO MX、8日24時からWOWOWと順次放送がスタートします。


配信は、U-NEXTが7日25時から独占先行配信をスタート。1月14日からdアニメストア、Abemaビデオ、Amazon Prime Video、FOD、GYAO!、バンダイチャンネル、Hulu、J:COMオンデマンド、ビデオパス、みるプラス、ひかりTV、Netflix、niconico(ニコニコチャンネル・ニコニコ生放送)、AbemaTVで、1月15日からアニメ邦題でも配信がスタート。また、ビデオマーケットでも配信が予定されています。

「魔術士オーフェンはぐれ旅」アニメ PV第3弾 - YouTube

© 秋田禎信・草河遊也・TOブックス/魔術士オーフェンはぐれ旅製作委員会

なお、秋田さん4年ぶりの書き下ろし長編「コミクロンズ・プラン」も発売となっています。


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