小物類にアニメとしての説得力を持たせるデザインを行った「映像研には手を出すな!」プロップデザインの高畑匠子さんにインタビュー
大童澄瞳さんの漫画を原作としたTVアニメ「映像研には手を出すな!」が2020年1月5日(日)からスタートします。本作に関連して、湯浅監督とメインキャスト3人が登壇した試写会&会見の様子と、原作者・大童澄瞳さん、第1話絵コンテ・演出担当の本橋茉里さん、第4話絵コンテ・演出担当の山代風我さんへのインタビューを掲載していますが、さらに、作中に登場する小物類のデザイン(プロップデザイン)を担当した高畑匠子さんにもお話をうかがってきました。
TVアニメ『映像研には手を出すな!』公式サイト
http://eizouken-anime.com/
GIGAZINE(以下、G):
高畑さんは「映像研には手を出すな!」のプロップデザインを担当されているんですよね。
高畑匠子さん(以下、高畑):
はい。一話をメインで担当させて頂きました。「映像研」は原作にわりと忠実に作っているので、原作に出てきた小物類を、いろいろな角度でアニメーターの方が描きやすいように、説得力を持つデザインにするということをしています。
G:
「描きやすいように」ということは、そのままだと描きにくいものもあると。
高畑:
1枚の絵であれば、描き込めばカッコいいんですけれど、アニメーションでは「動いていること」が重要なので、そのためにデザインを省略しています。かといって、省略しすぎるとチープなイメージになってしまうので、バランスを取ることが難しいです。第一話では初回ということもあり設定を細かめに描きましたが、アニメーションになっているのを見ると、アニメーターの方がうまく省略してくださっていて、勉強になりました。
G:
たとえば、第一話だとどういったアイテムでしょうか。
高畑:
浅草の持っている双眼鏡、それぞれの持っている携帯や、スケッチブックなどですね。スケッチブックは中の描き込みは別の方が作業されたのですが、外側のデザインなどを担当しました。
以下の画像でいえば、浅草が描き込んでいる内容は別で、「スケッチブックのリング部分」や「ペン」のデザインがプロップデザインにあたります。
高畑:
あと、金森が持ってる牛乳や、飲み物。商標はどうだろうかと制作の方とやりとりしながら調べてもらって、最終的には「いちご牛乳」となっています。日常小物を中心に担当しました。
G:
細かめに描いたものはどういったものですか?
高畑:
双眼鏡や工具ですね。作りがどうなっているか自分でわかっていないと描けなくて、参考に写真を見るんですけれど、写真だけだと理解できない部分もあったので、実際に家電量販店などに行って自分で確認したこともありました。
G:
写真だけでは足りない部分がある。
高畑:
「裏はどうなってるんだろう?」、「何でここに突起があるんだろう?これは何のためだろう?」みたいなところは、持って触らないとわからないことがあるんです。それをイメージだけで描いてしまうと、あとでアニメーターの方が困ることになるので、そういうところはわかった上で描いておきたいというのがありました。自分もアニメーションを担当するので、最初は描くと大変な部分は省略気味だったんですけれど、「ここはちゃんと描いた方がいいよ」と(第一話)演出の本橋さんに言われて納得しました。最終的には、アニメーターの方が場面に合わせて描いてくれています。
G:
そもそも、プロップデザインを担当することになった経緯はどのようなものだったのでしょうか。
高畑:
以前からデザインに興味があったので、やってみたいと思い手を挙げました。サイエンスSARUに入る前もデザイン自体は経験があったんですが、プロセスが違っていたというか、日本のアニメーションのデザインをやるのは初めてで、最初のアイデア出しのところから参加し学ばせてもらいました。
G:
なるほど。
高畑:
原作に出ているものをアレンジして出すんですけれど、自分の絵はイラストとしてはアリでもアニメーションとしてのデザインではちょっと機能しないところがあって、ちゃんとしたパースや影、ハイライトの指示の入れ方などを、教えてもらいながらやってきました。
G:
イラストとアニメーションとしてのデザインで、決定的に違う部分というのはどういった点なのでしょうか。
高畑:
アニメーションの方が、説得力が必要なのかなと思っています。ある1枚のイラストとしてなら、描いているものの裏側がどうなっているかを考えなくても成り立つんです。たとえば、先ほど出た双眼鏡のような複雑な形のものは特に、正面から見た形と横、上などアングルによって見え方が変わるので、アニメーションのデザインでは、多方面からの見え方を描いたデザインが必要になります。また、双眼鏡の目の幅を変えたときの開閉バージョンもあると、そういうシーンが登場したときにアニメーターが助かるのかな、と思いました。イラストとは、目的が違うのだと思います。
G:
確かに、そもそもの考え方から違うんですね。今回、「映像研には手を出すな!」ではどれくらいプロップを描くことになったんでしょうか?
高畑:
だいたい20個から30個ぐらいでしょうか。第一話メインですが、後の話数では足りない小物を補足で追加しています。
G:
印象に残ってるデザインはありますか?
高畑:
食べ物が難しかったですね。あと、大童さんが大事にされてるうさぎのぬいぐるみ、あれがなかなかかわいく描けなかったです。
(一同笑)
高畑:
こだわりがあるものだから、かわいく描きたかったんですけど、なかなかうまくいかなくて……
原作者の pic.twitter.com/93P1yzc37f
— 大童 澄瞳 SumitoOwara (@dennou319) December 29, 2019
G:
なにか、うまくいかない理由はあったんですか?
高畑:
たぶん、ミリ単位の差だと思うんです。目の位置がちょっと違うとか、ふわふわ感とか、いろいろ何回も修正いただいて、直して直して今の形になりました。
G:
ミリ単位ですか……。
高畑:
すごいシンプルに見えて、間違えちゃいけないというか、ちょっとプレッシャーでしたね(笑)。
G:
食べ物に関してはどういったものが難しかったですか?
高畑:
そもそもアニメーションで食べ物自体を描いたことがあまりなかったんです。だから、まず「どうやって描けばいいのか」というところからで、他のアニメの資料を見ながら、どうやって色を分けているのかを見て塗ったりしてました。ラーメンの麺も細かく描きすぎると、ちょっと気持ち悪いというか、あんまりおいしそうに見えないんです。
G:
ほうほう。
高畑:
実際にラーメンが出てくるシーンを見てみたら、うまく処理していただいていたんですが、自分が描いたことないものだったので、「どうやって描けばうまくやってもらえるのか」って模索してましたね。
G:
描き込んだからといって、おいしそうに見えるわけではないということですね。
高畑:
そうですね。線も黒い線で描くのと、違う色で柔らかくソフトにするので見え方が変わるので、いろいろな試行錯誤しながらやってましたね。
G:
原作があるからといって、プロップデザインが簡単にできるというわけではないんですね。
高畑:
参考にできるものがあるので、オリジナル作品のプロップデザインよりは作業は早いだろうとは思いますが、難しいところもたくさんありました……。
G:
原作のデザインをアニメ向けに翻訳する、みたいなイメージですね。
高畑:
「整える」というと変ですが、持ったときのサイズ感とか、設定で統一しておかなければいけないものがあったりするので、「アニメーションの中で使えるもの」にする、という感じですね。アニメーターの方が大変だろうと思うデザインはなるべくシンプルにしたいですけれど、バランスを取るのが難しいです。
G:
最終的に、バランスはどうやって取っていくんですか?
高畑:
「説得力」と「機能」で、「これがなかったら成り立たなくなる」というものは省けません。たとえば工具のインパクトドライバーをシンプルにするだけなら、下の四角い箱型の突起はなくして棒のような形状でスイッチがあればそれっぽいかもしれませんが、バッテリーが入っているからそのフタは絶対に描かなきゃいけないとか、そういうところは意識していました。けれど、あってもアニメーションやストーリーに影響しないものであれば、省略した方がアニメーションにしやすいと思います。
G:
そういった理屈の積み重ねで説得力あるデザインにしている、と。
高畑:
そうですね。
G:
高畑さんはプロップデザインだけではなく、後半の話数では絵コンテも担当するんですよね。
高畑:
はい。経験はなかったのですが、いつか挑戦してみたいと思っていました。失敗が怖いので断るという選択肢もあったかもしれませんが、やってみたいという気持ちが大きかったです。プロデューサーのウニョンさんをはじめ、会社として「やる気がある人に挑戦させたい」というのが大きくて、その方針には私もすごく賛成なので、自分にプレッシャーをかけつつチャレンジしています。
G:
プロップデザインと絵コンテを担当するということで、原作をかなり読み込むことになったのではないかと思いますが、作品の第一印象はどうでしたか?
高畑:
設定にすごくこだわりがあるという印象と……メカもでてきて、正直、難しそうだなと思っていました。こういった描き込んだスタイルの作品はやったことがなかったので、「どういう風にやるんだろう」と。新たにゼロから挑戦することが多かったですね。
G:
作品制作において、これは挑戦だったという部分はありますか?
高畑:
個人のことというより作品の方針として、「現実の世界とイメージの世界でスタイルを変える」というのは面白そうだと思いました。原作を読んでいると、現実の世界とイメージの世界は突然切り替わるので、アニメーションを見ている方に分かりやすくするためにどういう風に見せていくのだろうと思っていました。
G:
「プロペラスカート」とかも、妄想がそのまま現実とつながってましたもんね。絵コンテ作業では、どのような作り方をしていますか?
高畑:
脚本読んでアイデアをラフで描き足していく、というやり方ですが、最初はあまり細かく描かずにメインの絵だけを描き、できたら間にちょっとずつ足していくというやり方をしています。
G:
絵コンテに関して、湯浅監督から細かく指示があるものなのですか?それとも、わりとお任せですか?
高畑:
「コンテ打ち」という打ち合わせで、脚本を読みながら湯浅監督がイメージを説明してくれて、質問があったら聞く、という形です。今回、第9話から第12話までは特に話がつながっているので、流れや、同じようなカットがあるときに何が起きているかということの理解を深めていきました。そのコンテ打ちのときに、湯浅監督がイメージを描かれるんですけれど、細かい部分は「やってみて」という感じでしょうか。監督の頭の中にはイメージがあると思うのですが、1つ1つ細かく指示される印象はありません。
G:
原作について、高畑さんは3人娘についてはどんな印象ですか?
高畑:
3人とも、性格は違うけれどお互いに認め合ってうまく機能していて、ここまでのめり込んでいるというのがすごいなと思います。自分が高校生の時は、似たような人がつるんでいる感じで、ここまで飛び抜けた人が集まっているのはあまり見たことがなかったので、楽しそうだな~って。
G:
楽しそうですよねぇ。
高畑:
あとは、湯浅監督も秘密基地の話をされていたんですが、自分も小さいときに外に遊びに行って秘密基地を作っていたこともあったので、浅草が妄想しているのを見て「やってたやってた!」みたいなのはありますね(笑) でも、浅草のすごいところは、見たものをその場で描くのではなく、イメージとして覚えて後でガーッと描いているところです。あれは自分にはないですね……。
G:
作品からちょっと離れるのですが、高畑さんはなぜアニメーターになったのですか?
高畑:
もともとはショッピングモールで似顔絵を描いていたんですが、描いていて「自分の絵が動いた方が面白いんじゃないか?」と思って、アニメーションを学びたいなと思ったのがきっかけです。
G:
似顔絵描き!すごいですね。
高畑:
大学で、みんな就活するじゃないですか。そこで「何の仕事をしたいか」というとき、私は特にやりたいことというのがなかったんです。唯一やりたかったのが「絵を描きたい」ということだったんですが、美大出身ではなくて……デザイナーって、美大出身じゃない人とか未経験者はあまり採ってくれないので、未経験でも入れるところを、と探した結果が似顔絵だったんです。
G:
なるほど。
高畑:
「アニメーションを作りたい」とは思っていたんですけれど、「アニメ」そのものにはあまり興味が持てず、最初にアニメーターは選ばなかったんです。でも、カナダにいるときに湯浅さんの作品を見て、自分が思っていたアニメの印象と違ったので「この人は違う」と。動きも面白くて、衝撃を受けて注目するようになりました。
G:
それで、カナダのスタジオでアニメーターとして活躍したのち、帰国してサイエンスSARUに入ったと。
高畑:
湯浅監督の作品に自分も貢献したいなというのが一番の理由ですね。いろんな作品のスタイルがある中で、サイエンスSARUの作品は挑戦している感じがあって「楽しそう」と思いました。
G:
実際に参加してみて「楽しそう」というのはどのくらい当たってましたか?
高畑:
作品を作る上ではプレッシャーも大きくすごく悩んだりもしますが、作品ができあがっていくのは見ていてやりがいがあるし、充実感もあります。周りには尊敬している人も多いので、そういう人たちと一緒に働けるというのは、ありがたいですね。
G:
なるほど。プロップはもちろん、絵コンテを担当する第11話の放送も楽しみにしています。本日はありがとうございました。
・つづき
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