インタビュー

アニメ「映像研には手を出すな!」第1話の絵コンテ・演出を担当した本橋茉里さんにインタビュー、ずんだ餅を食べる動作で浅草の個性を印象的に引き出す


湯浅政明監督と浅草みどり役・伊藤沙莉さん、金森さやか役・田村睦心さん、水崎ツバメ役・松岡美里さんが登場した「映像研には手を出すな!」試写会&会見レポート原作者・大童澄瞳さんへのインタビューに続いて、実際に「映像研には手を出すな!」の制作に携わっているサイエンスSARUのスタッフの方々へもインタビューを実施しました。まずは第1話の絵コンテ・演出を担当した本橋茉里さん。湯浅監督のもと、どのように作業を進めているのか、そしてどんな絵作りをしているのか、いろいろと聞いてみました。

TVアニメ『映像研には手を出すな!』公式サイト
http://eizouken-anime.com/

インタビューに答えてくれた本橋さん。


GIGAZINE(以下、G):
「映像研には手を出すな!」、第1話を一足早く拝見しました。原作のエピソードを大きく変えることなく、全体的に膨らんだ内容となっていましたが、絵コンテはド頭から順番に描いていったのですか?

本橋茉里さん(以下、本橋):
絵コンテ作業の進め方は人によって違いますが、今回の場合は一から順番に進めていきました。慣れてくれば描きやすいところから描くという手もあるんですけれど、私は30分アニメの絵コンテを担当するのはこれが初めてで、全体の流れも考えないといけないので。湯浅監督からも全部そろってから見たいと言われていましたし、全体の流れから、緩急や「ここはボリュームがありすぎる」「ここにインパクトを持ってきたいから、アクションは抑えたい」とか足し算・引き算をしていくので、頭から流れでやったほうがいいかなと考えました。

G:
湯浅監督による絵コンテのチェックというのは何往復ぐらいしましたか?

本橋:
基本は1回です。チェック後、監督からの修正を見せて、見ながらで打ち合わせをするという、これは他の話数でも同じです。あまり修正を重ねてしまうと、コンテを描く側のモチベーションが下がってしまいますし、担当者の持ち味というのもあるので、全部修正しちゃうと意味がないですから。基本的に、コンテ担当者の作家性を引き出しつつ、全体の流れとしてイレギュラーにはならないように監督が調整するイメージです。

G:
第1話で、なにか大きな修正はありましたか?

本橋:
日常パートはあまり修正はなく、「見やすくてなかなかいい」とおっしゃっていただきました。ただ、会話シーンで、キャラクターを真正面に入れて、相手も正面で……という構図のカットを続けてしまっていたので「そういうときは、横位置でPANしてる絵をときどき入れるとバランス良くなるよ」とかアドバイスをいただきました。アクションシーンについては、自分はあまり経験がなく、湯浅監督が第1話でやりたいこともあったと思うので、もっと良くなるように大幅に変えてもらいました。

G:
アクションはあまり経験がないということですが、本橋さんが描きやすい、得意とするシーンはどういうところですか?

本橋:
特にこれというのはありませんが、私、隙間恐怖症というか……

G:
隙間恐怖症?

本橋:
キャラクターを配置したときに、だだっ広い背景や、収まりの悪い空間があるとすごく気になっちゃうんですよ。なので絵コンテの段階でも、レイアウト並に背景はしっかり描いたりとか、配置も考えていました。


本橋:
突き詰めていくと、今 敏さんとか、芝山努さんのような絵コンテをコピーして貼ればレイアウトになるくらい描く人もいます。

G:
今監督の絵コンテを見ると「この時点でそこまで描いてるの!?」って思いますね。

本橋:
原画マンによっては、コンテの絵をコピーするだけだとモチベーションが下がってしまうこともあると思うので、あえてその人が描ける部分を残しておくというやり方が合う方もいます。日常パートだと、あまり特殊な画角の構図は向かないので、超広角にして机がカウンターみたいに広く見えるようなものなどは、見栄えはいいのですが、不自然になります。なので、今回のコンテではなるべくオーソドックスな作りを目指して描きました。なので大体のカットは、概ねOKをいただけたのかなと思っています。

G:
30分アニメの絵コンテを担当するのは「映像研には手を出すな!」が初ということですが、絵コンテ自体の経験はありましたか?

本橋:
2019年10月から配信されているショートアニメシリーズの「SUPER SHIRO」と、あとは社内で1本の脚本からみんなで一斉に絵コンテを描くという練習課題をやったぐらいですね。

G:
30分アニメ1話分を担当するというのは大変でしたか?

本橋:
コンテに関しては、意外とそこまで大変じゃなかったですね。

G:
作業時間としてはどれぐらいなのでしょうか。

本橋:
およそ300カットで1カ月ぐらいです。早い人だと2週間ですぐ描いちゃう人もいますね。


G:
今回、演出としてはどのように作品に取り組んだのですか?

本橋:
本当に初めてのことなので、とにかく「湯浅さんからいろいろ吸収しなきゃな」と。アニメーターというと作家みたいな感じがしますけど、アニメーションの制作においては監督が指揮官であり、最終的に「監督が作りたいものを作る」のが演出や作画監督のプロフェッショナルとしての仕事だと思っています。演出さんも原画さんも美術さんも、どの立場でもそうですけれど、「監督が欲しい絵を作る」というのが正解なので、「いい意味で自分を出さないように」を目指しました。

G:
湯浅さんからは、どういったことを吸収しようと考えていましたか?

本橋:
湯浅さんは30年のキャリアがありますが、私は日本のアニメーション業界でのキャリアは3~4年なので、とにかくノウハウを吸収するというところからでした。経験がある人は、トラブルが起きたときでも「この絵はこういう風に使おう」か問題解決能力があるんです。あとは、劇場版とテレビシリーズの違いというのもあります

G:
なるほどなるほど。「現場の回し方」みたいなものもあるんですね。本橋さんは海外のゲーム会社でFlashアニメーターとして活躍し、その後、サイエンスSARUに入社したということですが、なぜサイエンスSARUだったのですか?

本橋:
もともと、サイエンスSARUを立ち上げた湯浅さんやウニョンさんと一緒に、仕事をしていた時期があったんです。ゲーム会社で、私は日本スタジオのメンバーとして入っていたんですが、スタジオが解散した後、別のところで働いているときにサイエンスSARUができたんです。それで、SARUのメンバーが集まる飲み会があるので行ってみたら「なんか面白そうだな」と。


G:
(笑) 以前から縁があったんですね。

本橋:
ウニョンさんは、サイエンスSARU立ち上げの時点で「Flashアニメーターが欲しいから、来ませんか?」とメールをくれていたらしいんです。でも、そのアドレスは全然使っていないものだったから全然気がつかなくて(笑) Flashはスマホができてからは使える人がだいぶ減っていて、貴重な人材として必要だと。

G:
「映像研には手を出すな!」の原作の第一印象はどうでしたか?

本橋:
「別に女子高生じゃなくてもいいんじゃないの?」って思いました。

(一同笑)

本橋:
女子高生の部活ものがはやっているから、それに合わせたのかな、とか。主人公は男の子たちでもいいんじゃないかと思いましたが、逆にジェンダーレスな感じがすごくいい。むしろリアルな感じですね。女子高生って実際はもっとさっぱりしてるような気がします。現場でも、あまりキャラクターに女の子らしいポーズや表情はさせないという注意事項があるんです。

第1話の1シーン。確かに「女子高生部活もの」ではありますが、やっていることはかなりジェンダーレス。


G:
あまりぶりっ子みたいなことはさせない?

本橋:
水崎は2人に比べるとフェミニンなところが残ってると思うんですけれど、浅草は小学生みたいな感じですよね。金森はインテリヤクザみたい。


(一同笑)

本橋:
浅草と金森はわかりやすいですけど(笑)、水崎もモデルモードの時こそ猫をかぶるものの、性格はがらっぱちで、そんな「女の子」っぽくはないんです。そういうのを原画さんに伝えるのは、けっこう大変です。

G:
女の子キャラクターだけれど、そういう動きはしないんだと。どのように伝達しているんですか?

本橋:
基本は、各話の演出さんに内容を伝えていて、演出さんが原画チェック時に「このキャラクターはこういう風に動かないんで……」という感じで修正します。

G:
指示は絵コンテ段階で描いたりもするんですか?

本橋:
そうですね。監督も直すんですけど。演出さんによっては「ここはこうしたい」となることもあります。「映像研」は「女子高生部活もの」ともいえるけれど、原作者の大童さんのアニメーションに対する熱意がふんだんに盛り込まれてるので、クリエイター側の人たちからも人気がありますよね。

G:
確かにそうですね。

本橋:
あと、金森が結構スパイスとして効いてると思います。「時間がないから、あるものだけでやりましょう」というのは新鮮ですね。こういった対応は、本当に現場でもあることなので。


G:
そういう点は、アニメ制作に携わる人が見てもよくできた原作であると。

本橋:
そうですね。それに、企画が始まったときに湯浅さんが「アニメ業界あるあるみたいにしたい」と言っていて、湯浅さん自身の体験談とかもちょこちょこ盛り込まれています。湯浅さんとしては、共感するところがいっぱいあったんじゃないでしょうか。

G:
原作者の大童澄瞳さんがTwitterで「映像研、コンテ見る限りでは1話の濃度がはんぱねえことになってる……」とツイートしていましたが、なにかコンテに対して大童さんからフィードバックがあったりはしましたか?


本橋:
そうやって言っていただいていることを今初めて知って、感激しています。

G:
濃度は、意図して上げたのですか?それとも、やっていたら自然に上がったという感じですか?

本橋:
私は、よく動くアニメーションが好きで、キャラクターもシンプルな海外のカートゥーンとか、「ど根性ガエル」とかそういう年代のアニメが好きなんです。湯浅さんと昔のアニメの話をすることがありますが、「本橋さん、結構古いアニメ知ってるね」と言われて……そういうのがあって、動くアニメにしたことで濃度が上がったのかも知れません。

G:
本当に、めちゃめちゃ動いてましたね。

本橋:
第1話だと、浅草がずんだ餅を食べるシーンが出てきます。あれは、浅草が登場して最初にする挙動なんですが、普通のアニメだったら5~6枚で、ずんだもちの容器を置いて、開けて、食べて、と動かすところで、手だけを動かして体は動かないところなんですけど、浅草のキャラクターを立たせたかったので、ここは注力したほうがいいと思い、原画枚数を増やしています。

G:
こう、ぱっと直線的に手を動かすのではなく、ぐいっと腕を回してくる感じですね。

本橋:
置くときの軌道も、普通なら直線に割るところですが、お客さんに容易にみえるよう、通常なら腕を大きく動かすものにしています。こういうとき、動画さんには「こういう動きにしたいです」と、軌道のヒントを動画参考につけています。ものを食べるとき、人間の動きは最初食べ物を口に持っていくけれど、最後は顔から迎えに行くんです。持ち上げたものをそのまま顔を動かさず口に入れるとロボットみたいになってしまうので、顔を近づけて食べて、食べたらかんで、なんなら箸をねぶって……とすると、今度は枚数が増えてしまって。

(一同笑)

本橋:
浅草の個性が出る最初のリアクションなので、こだわりたかったんです。そこをちゃんとやれば、キャラクターの存在感が増して、リアリティというか、説得力が出るんです。みなさん、見ている時は何気なく見ていますけど、自然に流せるカットというのは意外とこだわって作っています(笑)


G:
その、ずんだ餅を食べるシーンのように作り込まれているシーンは他にもあるんですか?

本橋:
小さいころの浅草が椅子に座るところで、「回転する椅子をつかんで座る」という部分は枚数を2~3倍に増やしています。足の動きも、普通なら4枚くらいのカットですが、凝りました。

G:
食べる動きや、足の動きを追求することでリアリティが増すということは、どうやってわかるようになったんですか?

本橋:
経験でしょうか……? 自分で実際にその動きをやってみると「意外にこのパーツはここまで動くんだな」とわかったりしますから、やっぱり自分で動かないとダメですね。

G:
なるほど。ディテールを上げたカットを最初に入れておくと、キャラクターの実在性が上がるというイメージでしょうか。

本橋:
そうですね、実在性が大事だと思います。アニメって虚構なので、どこかしらで説得力を出さないとチープになっちゃうんですね。なのでグラスを持つ手とか、鉛筆を持つ手とか、そこはちゃんとこだわって描かないと、ただのアニメになっちゃう。アニメを作る熱意のあるキャラクターたちのアニメなんで、実際のキャラクターがそこまでちゃんと動いてないと、作品の全体の質が落ちてしまうのではないかと思っています。

G:
ああー……。

本橋:
自分が担当した回はそれが特に大事だと思ったので、かなりしっかりと意識しました。

G:
なるほど。第1話、ワクワクと楽しませていただきました。お忙しいところ、ありがとうございました。

インタビュー後、すぐに作業に戻っていった本橋さん。


工程はデジタル化が進んでいるので、タブレットで作業中。


本橋さんに続いては、第4話で絵コンテ・演出を担当する山代風我さんにインタビューを実施しました。

・つづき
見た映画をコマ割りして自らの演出資料にしている「映像研には手を出すな!」第4話絵コンテ・演出担当の山代風我さんにインタビュー - GIGAZINE

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in インタビュー,   アニメ, Posted by logc_nt

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