「映像研には手を出すな!」原作者・大童澄瞳インタビュー、アニメは「主人公3人が違っても構わないつもりだった」
「月刊!スピリッツ」連載の人気作品『映像研には手を出すな!』がTVアニメ化され、2020年1月5日深夜から放送がスタートします。手がけるのは「四畳半神話大系」「ピンポン THE ANIMATION」「夜は短し歩けよ乙女」などで知られる湯浅政明監督。アニメ放送開始前に、原作者である大童澄瞳さんにインタビューする機会を得たので、アニメの話、大童さんの創作の話など、いろいろなことを聞いてきました。
TVアニメ『映像研には手を出すな!』公式サイト
http://eizouken-anime.com/
GIGAZINE(以下、G):
「映像研には手を出すな!」がアニメ化されるにあたり、アニメ化の話を聞いた第一印象はどうでしたか?
原作者・大童澄瞳さん(以下、大童):
湯浅監督が手がけたテレビシリーズの「四畳半神話大系」や「カイバ」を拝見しておりましたので、アニメ化の話が来る前から湯浅監督のことは存じておりました。「クレヨンしんちゃん」にアニメーターとして参加されていた、アニメーターとしても監督としても優秀な方で、その湯浅監督が僕の作品を作ってくださるということで、ファンの方々からもTwitter上で反響があり、驚きと同時に、勝利を確信した、と(笑)
(一同、笑)
大童:
第一印象としてはそんな感じですね。
Q:
大童さんは自主制作をされていたということで、アニメーションについては造詣が深いと思いますが、実際にテレビシリーズに関わるとなると変わってくるところがあると思います。どのようにサイエンスSARUさんや湯浅監督と連携を取られているのでしょうか。
大童:
僕は、アニメーションの現場は確かに好きではあったんですけど、同じアニメーション、動画の部分で語り合う友達が少なかったので、どんどん切磋琢磨して詳しくなるということができなかったんです。けれど、原作者が現場に文句を言って現場が止まるとか、そういう話は聞いていました。湯浅監督とサイエンスSARUさんに対する信頼はかなり大きいものがあり、絶対いいものができるはずなので、「原作をかなり無視したとしても全然構わない、現場に好き勝手にやってもらおう」と。とにかく口出ししないように、何か質問されたら1に対して100で返すくらいの気持ちでやろうと思っていました。その後、サイエンスSARUさんから僕に対する色んなオファーがあって、本当に制作チームの1人に入れてもらえたような感覚で一緒に作ってますね。
Q:
先方から「こういうことを知りたいんです」と聞かれて、「アニメの現場の人はこういうことを知りたがるんだ」と思ったことはありましたか?
大童:
たとえば「パーソナルディフェンスタンク」っていう戦車が作中に出てくるんですけど、その構造やロケーションについて「ここはどういう意味ですか?」「どういう構造になってるんですか?」と聞かれました。漫画の中で詳細に描けていないけど、おそらくディテールが隠れているに違いないと向こうの方が察知すると、僕の方に質問が飛んでくるので、それに対してかなりの部分を解説して返答しています。
印象的な絵として描いているけど、ただの妄想なのか、それとももっと深いディテールがあるのかをくみ取りづらい場所があって。たとえば、水崎が「私がここにいるって言わなくちゃいけないんだ」っていうセリフを発するシーンで、描写として水崎はじゅうたんの上に立っているんですが、そのじゅうたんが空飛ぶじゅうたんなのか、飛行船に結びつけられた布の床みたいなものなのか、立っているとすればこのじゅうたんは、はためいているのか、それとも固定されているのか、僕しか分からないような描き方をしてしまっているので、そういうところで質問が飛んできたりしました。
そういうのを知ると同時に「サイエンスSARUとしても何か表現したいんだろうな」ということが分かって、向こうも重要なポイントだと思って描こうとしているんだということが分かる。質問が飛んできたら飛んできたで、向こうが表現をしようとしている方向があることが分かる。そういうところはすごく楽しいですね。
Q:
先ほど大童先生がおっしゃられてた通り、「映像研」の特徴として、現実と妄想が入り交じった表現があると思うんですけど、アニメではどういった風に表現されているんですか?
大童:
出来上がったものを見てもらうのが一番だとは思っているんですけど、各話によっていろんな表現がされていますね。もちろん図解的に紹介することもあると思うんですけど、それ以外に第1集でちょろっと描いたドリルとかを使って組み立てていく描写もあるので、そっちに重きを置いて、作る描写によって解説するとかもあるんじゃないかと思うんです。すでに公開されている第1弾のPVの中でいえば、浅草が乗り込むところですね。解説の図の中で小さく乗り込むところが出てきます。原作との違いも含めて、楽しみにしているところではあります。
TVアニメ「映像研には手を出すな!」ティザーPV 第1弾 - YouTube
Q:
出来上がった映像を見てどのように感じたか、特に印象深く感じたところを具体的に教えていただけますか?
大童:
やっぱり印象的だったのは、原作と変わっているところです。僕が見ていても新しい映像になるので、すごく印象深くて。第1話だと、浅草と水崎と金森が男たちから逃げるくだり。あそこは、何テイクか色んなパターンで声を収録していたんですけど、何テイク目でも笑ってしまって、そういう原作とは変わっているところに、僕もいち視聴者として期待しています。僕は原作者として話の筋に詳しいので、ゼロの状態で見始める人たちより新鮮さに欠けるところがあるかなと思ったんですけど、自分で描いた部分でも「新しくなっているな」と思う部分があり、楽しんでいます。
G:
先ほど、アニメ化にあたっては「原作を無視しても構わない」とのことでしたが、それでも「この部分は守ってほしい」と要望した部分はありましたか?
大童:
初めて監督にお会いした時点では、タイトルさえ「映像研には手を出すな!」であれば、主人公3人が違っても構わないつもりでいましたね。「映像研」の実際の現場がどうであるかは別にしても、「原作付きのほうが企画としてお金を集めやすいであろう」とは思っていたので、原作付きであることによって協力者が揃い、現場がなんでも楽しいことができるのであれば構わんだろうと。僕は、「映像研には手を出すな!」の現場をメタ的に引いた視点で見れば「それはそれで『映像研』なのでは?」とも思っていたので、3人が変わっていても構わない、と。
G:
湯浅版「映像研」になるなら、それはそれでよし、だったんですね。
大童:
そうですね。湯浅監督の新しい作品が見られるのであれば、と。
Q:
「映像研には手を出すな!」というタイトルが生まれたきっかけや、モチーフはありますか?
大童:
古い映画ですね。「ダイヤルMを廻せ!」や「北北西に進路を取れ」、あとは「俺たちに明日はない」とか、そういうフレーズに近いものにしていきたくて。あと「現金に手を出すな」ってのもありますね。いろいろ考えていった結果、「映像研には手を出すな!」になったわけです。
Q:
マンガと、アニメーションの大きな違いは「音がつく」ところだと思います。実際にクセのある3人を役者さんが演じられて、アフレコ現場もご覧になったということでしたが、皆さんの演技はどうでしたか?
大童:
「一流だな」としか言いようがないです。僕は、あらゆる分野で「プロだな」と感じる部分に感動するタイプなんだということを、改めて思いましたね。高校の時に自主制作映画を作っていたとき、役者もやってたんです。高校を卒業してからもやっていて、学生が自分たちで作るもので、強い指導者もいなくて、思い思いにクオリティを上げていたんですけど、自分の演技や収録した後のものを見るとどうしても「なんかよくねえな」と思うことがよくあったんですね。
プロはそこが違うんだな、と。抑揚や強調する部分、演技のパターンも、すごくリアルな演技なのか、それともコミカルな演技なのかという使い分けも。アニメは、声優さんの演技との二人羽織を完璧に仕上げたり、あるいは、どちらかがある一定のクオリティまで仕上げてきたところを、もう一方がさらに上のものにしていくとか、そういう互いに補い合うところも作り方の特徴であり、収録に参加して感動したところでもあります。
Q:
「映像研には手を出すな!」という作品にたどり着くまでに、大童先生はどういった創作をされてきたのですか?
大童:
小学校の高学年あたりから、イラストや絵みたいなものを描き始めました。姉が小さい頃から絵を描いていて、母親も父親も趣味で絵を描く人という環境にいて、一番遅く絵を始めたんですね。中1か中2くらいのときにオタクカルチャーのブームが再来して、「涼宮ハルヒ」シリーズや「らき☆すた」が出てきたんです。Flashアニメの全盛期でもあったので、棒人間のGIFアニメーションもものすごい人気があって、そこでちょろっとだけGIFアニメーションを何本か描いたのが、映像としては最初です。Flashにチャレンジしようと思って、いろいろやったんですけどソフトが難しくて断念したのが中1くらいでした。
その後は徐々にいろんな方面からアニメーションにのめりこんで……「のめりこんでいった」かは分からないですけど、好きになっていきました。それからはイラストを描くのがメインになったんですけど、それでも「アニメーションを作りたい」というのがどこかにあって、高校の時に「映画部でアニメーションを作るよ」という話を聞いて映画部に入ったんです。けれど、アニメーションは実際には作っておらず(笑) それでも「映像が好き」という気持ちも強くなっていて、ちょうど高校入学のころにGoProが世の中に出始めて、めちゃくちゃかっこいいプロモーション映像がYouTubeで見られるようになり「ひょっとしたらアニメーションに限らず動画全般が好きなのかもしれない」と思い始めて、映像の撮影でアングルにもこだわり始めました。
「カメラを使って映像を作る」という場が映画部にあったので、そういうところからの地続きで、「映像研」の映像っぽい表現とかに結びついていったかなと思います。一番簡単なところでいうと「一枚絵で映像っぽく見せるためにはどうしたらいいか?」と考えたときに、人間の頭の上と胸から下を切ると、映像っぽい絵になる。そのトリミングが映像の表現なのかなと思ったりとか。そういったことを結構当てはめて描いたりしています。
Q:
引きの絵でパースのきいた描き方もでしょうか?
大童:
それもアリですね。ただ、引きの絵だと、パースの取り方が、きついパースなのかゆるいパースなのか、普通のイラストなのかよくある漫画的な絵なのか映像っぽいパースの絵なのかでも変わってきて、難しくなります。ほんの少しだけパースをつけるとか、アングルをちょっと高めや低めにするとかでも、映像っぽくなります。
Q:
Flashにも携わってこられたというお話だったんですけど、サイエンスSARUさんもFlashを導入されて他のスタジオさんとやり方が異なっています。それは先生の目からはどうご覧になられたんですか?
大童:
「ここFlashなのかな?」と思う場所もあるんですけど、ハイブリッドでやってるって印象が強いです。今まであったFlashアニメーションのスタイルは、「同じ形状を動かす」とか「ひとつ決めた形状をPC上で擬似的に動かしてアニメーション化する」とかのように、簡易的なアニメーション制作の代表例みたいなイメージがあったんです。でも必ずしもそうではない。「Flashというソフトウェアはただの道具であって、それを使う人間次第でどうにでも化ける」というのを示された気がして、「あのときなんでFlashから脱落したんだろう」と。脱落したっていうより2~3回いじっただけなので、全く何も分からずだったんですね。
Q:
新しいFlash表現をサイエンスSARUさんに見たということですか?
大童:
そうですね。あまりサイエンスSARUさんの動向そのものには詳しくないので、手間をどうやって減らしているのかとか、Flashの導入がどういった経緯で始まったのかとか、気になっている部分ですね。「映像研」のアニメ化に際して、そのあたりの技術みたいなものを皆さんに知っていただくと、「映像研」というタイトルの意味も出るかなと。
Q:
たくさんの経験を経て、それが作品に反映されてるというお話でしたが、今回アニメの制作に携わった経験は、現時点で漫画のほうに反映されているのでしょうか。されているとしたら、どういうところでしょうか。
大童:
「絵がうまくなった」……かな?
(一同、笑)
大童:
アニメでは、絵のブレを極力排していかなきゃいけないとか、キャラクターのデザインは統一しないといけないとかがあるので、上がってきたキャラクターデザインや絵を見ると、やっぱり「うまいな」と。自分の作ったキャラクターが、自分の構成したキャラクターの要素で描かれてはいるんだけれど、やっぱり自分より数段うまいとなると、「何が違うんだ」というところが見えてきやすいです。自分のデザインしていないキャラクターのうまい絵だったら「うめえな、やべえ」で終わるんですけど、自分がデザインしたキャラクターが洗練されてきれいになって出てくると、「自分に足りてないものはここだったか」とか「ここはこう変えたんだ」とかが分かって、本当に自分の絵がうまくなるというところに直結すると思いますね。これはもうほんとうに、原作者の利益です。
Q:
アニメ化のお話自体はいつごろあって、アニメ制作はいつごろ始まったんでしょうか。
大童:
時期は2年以上前ですね。NHKさんの放送枠で手がける作品は何にするかという会議があるらしく、それで最初に声がかかりました。声がかかったときは、最初の担当さんから「すごいことになりましたね」とは言われたんですけど「でもそのままアニメ化されるとは必ずしも限りませんので、あまり期待しすぎるとあとでダメージになりますんで」みたいな話を……
(一同、笑)
大童:
「分かっております。声がかかっただけでうれしいです」という感じだったんですけど、「あれ?」と思う間に「やれるそうです」となって、「ああ、マジか……」と。
Q:
ということは、漫画のここ1年くらいの話を見直すと、アニメ化の影響が徐々に出ているのが分かったりするのでしょうか。
大童:
実際に絵として上がってきたタイミングはここ数カ月くらいなので、第4集・第5集あたりだと若干絵がうまくなってる可能性があるという感じですね。第3集あたりまでは挑戦的な感じで描いてて、「アニメ化しやすいように描いておこう」とは絶対考えないようにしていました。むしろ最初から「アニメ化できるのか?」と……もちろん「映像研」がアニメ化されたらうれしいとは思っていたんですけど、それで力を制御するのは良くないだろうとも思っていたので、そこはずっと貫いて、描きづらそうなものもアニメ化しづらそうなものも描いて、アニメ化するときに若干関係者を苦しめそうな金の話題とかバリバリ入れて。
(一同、笑)
大童:
「できるもんならやってみろ」スタイルでずっとやってきた感じです。
G:
原作では、ネームの完成までにどのくらい時間をかけられているんですか?
大童:
大体2週間です。2週間のうち、1日目はずっと椅子に座って「あ」とか描いて終わってるんです。出だしに一番トルクが必要なので、ぐーっと引っ張って転がり出せばなんとかコロコロ……みたいな感じでやってますね。
G:
「コミスペ!」掲載のインタビューで、アニメ制作の苦労を味わったあと「絵コンテをマンガ風に分割すれば、その時点で作品になって効率がいいのではって思ったんです」という話が出ていましたが、ネームは絵コンテ風なのですか?
大童:
ではないですね。「映像研」を作るまで「ネームを描く」って経験がなかったので、ずっと試行錯誤だったんです。最近はページごとに展開を書いていくだけが多くて、キーワードとなるセリフ、たとえば「いやそんなことはさすがに無理じゃよ」を書いて「ここで浅草氏がおじけづく」と書いて、で次のページ。だから、この1枚のページには「おじけづく」っていう情報と「そんなことは無理じゃよ」しか書いていない、というのを作っていき、途中、会話を思いつくところでは詳細に何往復かの会話を描いて、という感じですね。それで期限が来て、編集部へと送られる。妥協で諦めます。
G:
ネームの時点ではコマ割りまで見えているわけではなく、まずはお話や感情の流れを固めていく感じでしょうか。
大童:
はい。その後、実際にペン入れをし始めて、作画の段階に入ってセリフを決めて、コマをきれいに割っていくというパターンが多いですね。
G:
ネーム作業は楽しいものですか?
大童:
思いつくと楽しいです。「お、きたきた」って感動はありますね。ただ、絵を決めていくというか、レイアウトを決めていくところが楽しいというのがあるので、楽しさは作画段階の後半ですね。
G:
作画風景、YouTubeで配信されているのを見ました。
大童:
ありがとうございます。漫画家にもいろんな人がいて、描いてできあがっていく過程が楽しいという人もいると思うんですが、僕の場合は成果物、描き上がって完成したものは「いいものだ」と思う感情はあるんですけれど、描いているとき自体は「めんどくせえ、あと線何本描かないといけないんだ」と、そういう風に思っていることは結構あって(笑)
G:
(笑) 先ほどの「絵コンテをマンガ風に分割すれば」と試した時期もあったのでしょうか?
大童:
いろいろ、変な作り方をしていました。最初に同人誌を作ったときは、1コマずつ順番に「次はどうしようかな」と考えながら清書までして進めていました。まるで1コマずつの連載みたいな形ですけど、それ以外の方法を知らなかったんです。なんか方法があるんだろうな、今のやり方が正解ではないはずだとは思っていたんですけど、ノウハウがないというか、「実際にチャレンジしてみたとき、できるという証拠がどこにもない」というのがあって。
G:
それで初めて同人誌を出してみて、どうでしたか?
大童:
本は完成していない状態だったんですけれど、ただ座っているだけで良かったですからね。僕はみすぼらしい状況やみじめな状況に置かれるというのが嫌いではないんです。「ダメかもしれないな」「心細いな」と思う状況でも、「どうしていけばいいかな」と考える機会なので、不快ではないということです。なので「手に取ってもらったな、うれしいな」「あー、でも買ってはくれないのか……悲しいな」と。コミティアは一次創作の場で、個々の作品の力が弱いという前提があるので、漫画があまり売れないというのが有名で「難度が高い」と言われていたんですけれど、最初に刷った30部のうち、10部以上は売れました。
G:
すごい……。
大童:
知り合いも来てくれたりして、半分くらい減ったのかな。結構売れて良かったなということで、増刷して2回目もいきました。それだけで心地が良くて「一生ここでもいいや」という気持ちでしたね。
G:
「在庫が出た、どうしよう」とはなりませんでしたか?
大童:
あんまりなくて、どちらかといえば「どのくらい儲かるかな?」と。最初は儲けを度外視して100円で売っていて、趣味でやったものだったのでそういう負担はありませんでした。前日の製本作業は大変でしたけど。
G:
創作者向けのメンタルなんですね。
大童:
メンタルは弱い方だと思うんですけれど、これに関しては平気でした。
G:
大童さんはコミティアでスカウトされたということなのですが、出張編集部への持ち込みですか?それとも、ブースに編集者の方が来たのですか?
大童:
ブースに来てくださって、実際に本を手に取って「私、こういう者なのですが……雑誌連載とか興味ありませんか?」と。「いや、ああ」とか「ああ」「うう」しか言えない状態になってしまいました。小学館と別の1社からも名刺をいただいて、そのマンガを描いていたときは怒りが強かったので、「商業でも通用すると思ってもらえたのか」というところが一番嬉しかったです。
G:
「怒り」?
大童:
世の中にある、ありとあらゆる作品や、お約束展開とかに対する怒りです。あと、自分が報われないことへの怒りでマンガを描いてたので、そのマンガが商業で通用すると思われたのは「すごいぞ」と思いました。自分なりの描き方を徹底してて、同人誌の中でも吹き出しにパースをつけることをやってたし、映像的な絵にしようということもやっていました。僕は「マンガらしい絵」があまり好きじゃなくて、こだわりを強めて描いていたので、それが多少でも受け入れられる可能性があるんだったら、すごく嬉しいなと思いました。それでコミティアからの帰りに、名刺をもらった2社の雑誌を本屋さんで買ったんですが、小学館じゃない方の出版社さんの雑誌は結構エロい作品が多くて「これは親戚に見せられないな」と思い、「よし、小学館に行こう」と決めました。
G:
なるほど、そういう流れだったんですね。単行本の出版前に、大童さんははてなブログで「単行本が出版される経験が何の役に立つだろうかと考えている」ということを描いていましたが、単行本が続々と出て作品がアニメ化もされる中で「これは貴重な経験だったな」と思うことには出会いましたか?
大童:
「単行本が出て売れる」ということ、そして何より「アニメ化される」ということ自体が貴重な経験ですね。うまくいった漫画家の成功例みたいなルートに沿って進んでいるのを「すげえな」と、ひとごとのような気持ちで感心してます(笑)
G:
(笑)
大童:
仕事上のことなので言えないこともたくさんあるんですけど、ネットを見て育ってきた人間なので、業界のうわさも読んできたわけです。「原作者がどう」とか「アニメーションの制作現場はどう」とか「裏で強い力が働いてる、ゴリ押しで何かが決まる」とか……でも、実際に原作者として関わってみると「そんなことはねえんだな」って感じました。
最初に雑誌連載に向けての打ち合わせで小学館に来たとき、「実際に漫画家になれないとしても、絶対この経験は生きるはずだ。こんな経験、誰にでもできることじゃない。内情が知れるのであれば、それはそれで、ただ自分が儲かるだけだ」と思いました。そこから、常に「儲けもん」です。
G:
強い(笑)
大童:
これからは「おじいちゃん、また同じ話してる」みたいなことを言われる立場になっていくかな。「わしは昔アニメ化するほどの漫画家だったんじゃよ」「はいはいおじいちゃんその話はもういいでしょ」という未来像が待っているなと。
G:
なんて幸せなルート。
大童:
だから、謙遜しすぎないように、普通にエンジョイもしようかなと思ってます。漫画やアニメーション以外にも僕はたくさんやりたいことがあるので、そっちもやりつつ、漫画に食われないように。
G:
(笑) ブログに写真をアップしていたことがありましたが、資料写真や作品づくりの中で撮影する機会は多いですか?
大童:
あまり撮らないですね。たまに撮るのはディテールの一部というか、ビスの形状とか長さとか。波板だったら板の間隔、あとトタン板みたいなものですね。ああいうものは、雨だれがポタポタ垂れる端の部分からさびたりするんですけど、端の処理の加工で劣化を食い止めようとする工夫があるんです。全体的な造形に関しては、ぱっとみれば分かるんですけど、近づいてよく見たりしないと構造がわかりにくいものがたまにあります。ひいじいさんが大工をやっていて、50~60年前に庭に建てた倉庫みたいなものがあるんですけど、秋の強風でトタン板が飛びそうになったので釘で打ち直しました。そのときに「こんな風になってるんだな」と見たんです。
そうやって、見て観察して覚えたものは写真を撮らなくてもいいんですけど、詳しく見ている暇がないものは写真に撮って、後で確認してみたり、という感じですね。
G:
一度見たものは頭の中に資料としてストックされているという感じですか。
大童:
全体的にはそんな感じです。鉄骨の構造やトラスの構造とかは記憶だけで描いてるんですけど、ちょっと難しい構造もあるので、そういうときには都度、資料を見ることもあります。
G:
そういったこだわりが、「コミスペ!」のインタビューに出てきた「波板の波打ちがあまりにも細いとか、僕の中では色々悔しい部分がある」というところにつながっているんですね。
大童:
そうなんです。
G:
「中学生の頃から、アニメ、映画、マンガ、ワイドショーなどを見続けて、たまに自転車で出かける日々を繰り替えす中で、これをいずれ作品に生かそうと考えていた」という話を見かけました。「映像研」の連載が始まってからも、こうしたインプット作業は続けていますか?
大童:
そういうことをする時間は少なくなってきてるんですけれど、26年くらい生きてきたので「思い出せばいい」ってストックはできています。あと、僕はマルチタスクができないんです。「できない」というのも、今回こうしてインタビューを受けるとなると、帰ったあと仕事ができないというレベルなんです。そうなると、あとは散歩するくらいしかできないんですが、帰り道に散歩して帰ると、いろんな景色から「すげー建物があるな」とか「この季節に、こんなところに花が咲くのか」というのがインプットできるので、あとで使えるんです。
G:
おお、なるほど。
大童:
多分、そういう特性なんだと思います。「マジか、すごいな」って思われることもあるかと思うんですけれど、僕としては、自分なりのやり方の一つでしかないかなと。
G:
作業への集中のために、BGMや映画を流しつつやることもあまりないですか?
大童:
やっていた時期もあるんですが、集中力がそっちに行ってしまうので、何回も見た映画だったらできるという感じです。最近だと「ドラえもん」や「キテレツ大百科」のアニメを流しっぱなしだとすごく心地よくできますね。高校のころ、自分の部屋でレポートを書いたりするときに、テレビを持ち込んで「キテレツ大百科」を8時間くらい録画したビデオを再生しっぱなしにしていたような感覚です。
G:
VHSだと3倍でギッシリ録ってる感じですね(笑) このあと創作作業ができなくなるというのが驚きと共に申し訳なく……。
大童:
いえいえ、この後の散歩が今後の創作に生きます。
G:
そう言っていただけるとありがたいです。貴重な時間とお話をありがとうございました。
威嚇するコアリクイのようなポーズを決めた大童さん。
「映像研には手を出すな!」はいよいよ年明けから放送開始。それまでに、制作を担当しているサイエンスSARUのスタッフの方のインタビューも掲載していくので、お楽しみに。本日・2019年12月27日(金)発売の月刊!スピリッツは「映像研」情報盛りだくさん号となっているので、合わせて読んでみてください。
㊗️本日発売の月刊! #スピリッツ は表も裏も #映像研 でぃ!!!!!㊗️
— TVアニメ「映像研には手を出すな!」 (@Eizouken_anime) 2019年12月27日
中面でも映像研情報が盛り沢山⛰ #大童澄瞳 先生によるアニメ鑑賞スタイルのイラスト描き下ろしも…
放送直前の記念すべき号になりました???? pic.twitter.com/GUNs3pP3tD
・つづき
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