インタビュー

「楽しいアニメーション制作」を描き出す「映像研には手を出すな!」プロデューサーのチェ・ウニョンさんにインタビュー


原作漫画の持つ空気を完璧なまでに再現しつつ、さらにアニメ作品として「動く」楽しみも徹底的に追求して作られたTVアニメ「映像研には手を出すな!」。アニメーション制作を担当したサイエンスSARUは、いかにして本作に取り組むことになり、どのように作っていったのか、そしてそもそもサイエンスSARUではどのように人を育てているのか、プロデューサーであるチェ・ウニョンさんにお話をうかがってきました。

TVアニメ「映像研には手を出すな!」PV 第3弾【1/5(日)24:10~NHK総合テレビにて放送開始】 - YouTube


Q:
「映像研には手を出すな!」を制作することになった経緯を教えてください。

チェ・ウニョンさん(以下、ウニョン):
前の作品の制作が終わったあと「次はなにをやろうか」という話をしていたときに「映像研には手を出すな!」の企画のお話を頂きました。サイエンスSARUではまだ地上波の作品を作ったたことがなかったので、NHKさんでのお話を頂いてとても新鮮に思いました。「映像研には手を出すな!」のお話を湯浅監督にしたところ、普段、(湯浅監督が)マンガを読むイメージは、あまりなかったのですが、この作品は「あ、知ってる」という反応でした。ネットでは「『映像研』は湯浅さんにやって欲しい」という声もあったので、ご本人も「けっこう面白いよね」と。


ウニョン:
ただ、原作をアニメーションにするなら、マンガの良さをアニメーションにすることで越えていかないといけません。作中で「すごいものを作った」と言われているのであれば、実際に「すごいもの」じゃなければ説得力がないので、それをどう表現するかというのが課題でした。アニメーション制作というのは1枚ずつ仕上げていく大変な作業で、現場はつらいことになりがちなんですが、「映像研」の3人はワクワクしつつ、楽しそうにアニメ制作をしています。その「楽しいアニメーション制作」を描いているのは、とても素敵なことだと思いますし、やりがいがあることなのではないかと考えて、挑戦することに決めました。

GIGAZINE(以下、G):
本作では本橋茉里さん、山代風我さんの2人が副監督を務めていますが、この2人を選んだ理由はなんでしたか?

ウニョン:
今回の副監督は監督補佐としての役割が大きくあり、本橋さんはアニメーター、山代さんは制作で、それぞれバックボーンが違っています。出身が異なる2人だからこそ、違ったアイデアが出てくるんじゃないかと思いました。特に、山代さんは制作進行を経由して演出、監督補佐という立場なので、プロデューサーの意図も理解した上で携われます。加えて、作品に対しても理解や視点もアニメーターとは違うところがあります。なので、2人なら、両方から湯浅さんの補佐をして、作品にプラスの要素を加えられるのではないかと考えました。

Q:
「映像研」のタイトルが挙がったのはNHKからですか?サイエンスSARUからですか?

ウニョン:
NHKの坂田さんから「この作品は湯浅さんにぜひ」とお話をいただき、原作の大童さんからも「ぜひ」と言っていただきました。いろいろな作品のお話をいただくんですが、「映像研」は湯浅監督が作品を知っていたのも大きかったと思います。

Q:
湯浅さんも乗り気だった?

ウニョン:
「乗り気」というよりは、「作品に対する理解があった」という感じですね。次の作品についてはたくさんお話をいただくので、その中には湯浅監督が読んだことがない原作というのも多々あるのですが、「映像研」のときは最初から反応が違っていました。そのあと、現場と「これを作るならどういう方向にするか」と話をする中で、サイエンスSARUと合っているのではないかと思うようになりました。「こういう原作をやるかどうか考えているんだけれど」という企画の話を、社内ではアニメーターなども含めて議論することがあるのですが、「映像研」は好きだという人が多かったんです。実際の現場は、楽しいだけではないことが多いので、いいものを作るにはモチベーションがないといけませんし、そこにプラスして、興味や、「やりたい」という気持ちがあればスムーズに進んでいきやすくなると感じています。

Q:
原作を読んでいると、湯浅さんがやるとどうなるんだろうとワクワクする気持ちがありましたが、制作側としてもそういう気持ちがあるということですね。こうしてアニメにするにあたっては、マンガと違う表現になるところも出てきますが、重視したところ、見せようとしたところはありますか?

ウニョン:
3人が作るアニメーションは作中で「すごい」と言われているので、実際にすごい映像にしなければいけないというのは悩ましいところでした。「どう表現すれば?」と(笑)。マンガでは成立しても、アニメーションとして動かしたときに、みんながすごいと言えるものを作れるだろうかというのは、湯浅監督も気にしていたところでした。その点は開発段階から社内で話し合いを行い、全体でリサーチをして社内でアイデア出しをしたので、膨らんで広がった感じがします。


Q:
本作はNHKで放送されますが、なにかNHK作品が他と比べて異なる部分というのはあるのでしょうか。

ウニョン:
弊社がシリーズとして作ったものはNetflixの「DEVILMAN crybaby」だけなので、極端になりますけれど(笑)

(一同笑)

ウニョン:
作品は世の中に出るときに「マッチングしているか」が大事だと思います。「映像研」という作品とNHK、サイエンスSARUは直感的にすごくいいバランスだと思いました。NHKで放送するということは表現などで制限されるところもあるだろうと思われがちですが、「映像研」なら、そこまで気をつけるところはありませんから。「DEVILMAN crybaby」だと……。

(一同笑)

ウニョン:
それで、「映像研」はすごくいいな、と。作品を作るにあたって、表現で「これは抑えて」「これはやめて」というのがあるとつまらなくなりますし、現場のモチベーションも下がってしまいます。「映像研」なら、NHKだからと制限しなくても、問題なく表現できるので、その相性も良かったですね。「この表現、やっちゃダメでは?」というのが出てこないですから。

Q:
現場としては「DEVILMAN crybaby」ぐらい自由に作っている?

ウニョン:
そうですね。血が出るわけではないので、表現の制限で大変なところはなかったです(笑)


G:
この作品をやるにあたって、現場の反応はよかったということですが、ウニョンさん自身は原作を読んだときの印象はどうでしたか?

ウニョン:
まずは、絵のかわいさが印象的でした。そして、サイエンスSARUが目指しているのは、イラストレーション的な密度、「1枚の絵のクオリティとディテール」を上げていくよりは、動く楽しさなんです。動けばワクワクするし、そこにドラマがある。「映像研」はキャラクターも設定も、楽しく動かしながらアニメーション作品にできるんじゃないかという印象を受けました。先ほども言いましたが、アニメーション制作の現場だとなかなかつらいこともあるんですが、3人はそれぞれの役割でアニメーション制作に取り組んでいて、セリフはしんどそうでもお互いにユーモアがあります。楽しそうにやっているというのは、自分たちが目指すところと合っているなと。アニメーション制作のつらさに焦点を合わせると未来がないですが、「映像研」は楽しいところに焦点が合っているのが、いいですよね。

Q:
第1話を拝見すると、サイエンスSARUの強みや魅力が活かされていると感じました。プロデューサーとしては自社の強み、魅力はどこにあると考えていますか?

ウニョン:
柔軟性と、行動力でしょうか。「映像研」で見られるような「アニメーション制作を楽しくやりたいよね」という気持ちが、社内にあるんじゃないかと思います。もちろん、真剣に一生懸命やるし、大変な場面もたくさんありますが、自分たちはいいものを作っていくんだと。それぞれの役割によって、意見が合わないこともあるけれど、「いいものを作る」という気持ちはみんな同じ方向じゃないかと思っています。その点では、他のスタジオと比べて、バックボーンの違う人たちが集まっている場所でもあるので、「違うもの」への拒絶感は少ないかもしれません。たとえば、「青」一色のグループに「紫」が入ってくると「なんか違うぞ?」となりますよね。でもサイエンスSARUは、レインボーなんです。

(一同笑)

ウニョン:
いろいろな人がいるので、新しいことをやるときでも「どうしてそんなことを?」という空気になりにくいんだと思います。まず、湯浅監督がオープンマインドな方で、新しい表現を吸収して、いいと思えば「自分でもやりたい」となりますし、現場の人たちもそういうところがあるんじゃないかと考えています。

Q:
柔軟性が、他のスタジオにはない映像を生み出しているのかなという感じですね。

ウニョン:
湯浅監督が目指すのは、アニメーションの良さを理解した上で、楽しい実験的なものを2割~3割入れるということだと感じています。実験的なものを入れるにあたって、現場が反発すると実現しません。みんなが「やってみようか」とならないと挑戦することは難しいです。さらに、動いて実現させるのは、さらに難しいです。そこを実現していく力があるかどうかが大事だと思っています。方針が決まったら、実際に100カット、300カットとやらなければならない物量があります。そこを、行動に起こせるかどうか。いつも通りに仕事を進められればいいですが、「やりたくない」という人が多いと、できないですよね。


ウニョン:
そして、金森と同じプロデューサーの立場としては、「だけど、これはここまでにしましょう」と言わなければいけないこともあります(笑)。初期段階での開発や表現研究はできるけれど、作業後半になってくると、確実にカットを作って、抑えていかなければなりません。理想だけならいくらでも言えますが、それを作品にするには、現場を回す力も必要です。結構難しいところで、うまくバランスを取れるかどうかだと考えています。

Q:
サイエンスSARUさんの作品は、原作のある作品でもオリジナル要素がいっぱい入っていますが、あれはどのように作っているのですか?

ウニョン:
原作があるものだと、湯浅監督は必ず原作をリスペクトして、良さの研究をしっかりしています。そこが大事なところだと思います。「なぜみんな、この原作をいいと思っているか」を理解しないで進めると、良さを生かすことができません。まずは、いいところを読み取る。その上で、そのままだとマンガを読むのとアニメを見るので何も差がありません。アニメにするのであれば、そこにプラスが必要だと思います。そのプラスのために、開発段階やコンセプトを決めるところに力を入れています。

Q:
原作のよいところを膨らませていくようなイメージでしょうか。

ウニョン:
そうですね。デビルマンなら「これが現代ならどうだったか」。「映像研」であれば、みんなが作った「すごい」と言われている映像を実際にどう作るか。自分たちが納得いくところまで開発していかないといけません。それがどこなのかを研究するのが大事かなと思います。

G:
先ほど、「サイエンスSARUはレインボー」という話がありましたが、なにか人材を集めるにあたっての方針みたいなものはあるんですか?

ウニョン:
基本的に「偏見を持たない」ということじゃないかなと思います。採用時、履歴書とか弊社に入りたい理由もちゃんと見ますけど、その人のモチベーションや、何を考えているかまで判断するのは難しいですが、「こういう人材はSARUにはいないよね?」という話はします。「今、こういう人がうまくいっているから、同じような人をチームに入れよう」ではなく、「いないタイプの人が入った方がいいよね」と。そういう人は、新しい視点や考えを持っているんじゃないかと。

G:
なるほど。サイエンスSARUでは、各話の絵コンテや演出については「やりたい」と挙手した人に積極的に割り当てていくスタイルなのですか?

ウニョン:
そうですね。ただ、単純に「やりたい」という人がやるというわけではなく、「こういう内容なので、やりたい人はコンテを描いてみて~」とコンペをしたりしています。描いたコンテがそのまま使われるとは限りませんし、「この人はこんなコンテが描けるんだ」となれば、次の機会に任せてみようかなとなります。今、制作進行をしているという場合でも、描けるならコンテを描いてもらうというのも実際にあります。

G:
「DEVILMAN crybaby」で制作進行だった山代さんが、「映像研」第4話を担当しているような感じですね。

ウニョン:
「今度、こういう作品の打ち合わせがあるから、興味がある人は入ってきて」と声をかけると、意外と集まってきたりして「この人はこういうのに興味があったんだ」ということもあります(笑)。少なくとも「あなたは、この作業を何年間やってきたから、次はこれ」と指名でやってもらうことはなく、興味がある人、作品と合う人に声をかけます。「メカデザインやってみる?」とか。


G:
そうやってメカデザイン担当になることもあるんですね。

ウニョン:
もちろん、本人がやりたいかどうかが重要なので、とにかく手を挙げることが大事だと考えています。「能動的に考えて欲しい」というのは、いつも話をしています。座ったままでチャンスが来るわけじゃないので、やりたいことはアピールしてね、と。そのときダメでも、アピールすれば次のチャンスはあります。

G:
チャンスは何度でもあると。

ウニョン:
もちろん、その時点の技量がまだであれば「また今度」というのはありますが、手を挙げてチャレンジしていく人ほど伸びていく傾向があるなと思います。そのときは手を上げなくても、隣の人がやっている作業を見て「面白そう……次は自分も」というケースもあります。言われてやる仕事と、自分がやりたくてやる仕事では、中身が変わってくると思うんです。そこはやっぱり、やりたい人にやって欲しいですし、チャレンジしたい人にはチャレンジして欲しいです。


G:
「映像研」の3人が楽しそうにアニメーション制作を作っているという話がありましたが、なにか、サイエンスSARUの現場で楽しくやっていくために心がけていることや、楽しくやるためのテクニックみたいなものはありますか?

ウニョン:
それは……課題ですね……(笑)。でも、緊張せずにやるのも大事だよということは伝えています。それに、うちは海外のスタッフも多くて、アニメーターチーフのアベルさんが明るいので、深刻になりにくいというのはあります。雰囲気を明るくキープしてくれているおかげで、みんながピリピリしているというのは、あまり見ないですね。ただ、制作進行や私のようなプロデューサーは、締切が近いと「ちょっと!!」となるので、差はあるかもしれません(笑)


(一同笑)

ウニョン:
交流があったほうがいいと思っているのでので、週1回はランチミーティングとして、会社でランチを取り、みんなで顔を合わせてごはんを食べながら世間話をしたりしています。

G:
スタジオ内にパーティションが少なくてすごくオープンで、日差しが入って明るい印象を受けました。

ウニョン:
これは、最初からそうしようという話をしました。長く作業をしていると、ちょっとした刺激にも敏感になってしまって「もっとパーティションを作りたい」となる傾向があるんです。それでどんどん区切っていくと、コミュニケーションがなくなるし、隣の人の顔も見えなくなってしまう。そうなると、チームの団結が弱まってしまうんじゃないかと思うんです。人と交流しながら作ったほうが、視界が狭まることがなくて、いいんじゃないかなと。

G:
まさに「映像研」の3人がワイワイいいつつ作っているような感じですね。


ウニョン:
そうですね(笑)、ありがとうございます。

「映像研に手を出すな!」はNHK総合テレビにて毎週日曜日24時10分(関西地方は24時45分)から放送中。また、FODでの独占配信も行われています。

映像研には手を出すな! | フジテレビ公式<FOD>【1ヶ月無料】
https://fod.fujitv.co.jp/s/genre/anime/ser5a86/

スタジオに立つウニョンさん。スタジオ取材の様子は次の記事にて。


・つづき
アニメーションならではの動きの魅力を発揮した作品を送り出す「サイエンスSARU」とはどんなところなのか? - GIGAZINE

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in インタビュー,   動画,   アニメ, Posted by logc_nt

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