サイエンス

激しい運動が腎臓に深刻なダメージを与える可能性を専門家が指摘

by Alora Griffiths

新年を迎え、気持ちを新たに運動やダイエットに取り組もうとする人も多いはず。しかし、運動不足の人が急に激しい運動を行うと腎臓に深刻なダメージが生じるケースがあると、専門家が注意喚起しています。

The serious consequence of exercising too much, too fast
https://theconversation.com/the-serious-consequence-of-exercising-too-much-too-fast-129501

ウェイン州立大学の運動スポーツ科学で准教授を務めるタマラ・ヒュー・バトラー氏は、運動関連の虚脱などについて研究しているという、運動生理学者およびスポーツ医学の専門家です。バトラー氏は「骨格筋の損傷による、多くの事例を見てきました」と語るように、過度の運動や適切な休息期間を取らずに連続して運動を行うことは、人体の害になると指摘しています。具体的には、過度の運動により骨格筋が損傷すると、筋細胞が有毒な化学物質を血流に放出し、その影響で腎臓が負傷する可能性があるそうです。

by Meghan Holmes

骨格筋の筋細胞が損傷することを、医学用語で「横紋筋融解症」と呼びます。筋細胞が損傷すると、細胞内の内容物が血流に放出されるのですが、その中にはクレアチンキナーゼなどの酵素や、カリウムなどの電解質、そしてミオグロビンのようなタンパク質が含まれています。

中でもミオグロビンは非常に大きな物質であるため、腎臓のろ過装置である糸球体腎細管をふさいでしまうケースがあるそうです。また、腎臓を傷つける可能性のある有毒な副産物に解離するケースもあります。まれにではあるものの、過度の運動により血液中に放出されたミオグロビンが、腎臓の機能を完全に停止させてしまうという事例もあるそうです。

by Chase Kinney

大学の水泳選手34人を対象とした調査では、被験者に懸垂やベンチプレスを何回できるかなどの、腕に負荷のかかるトレーニングを20分間にわたって行ってもらったところ、6人が横紋筋融解症を発症したことが発覚しています。

バトラー氏によると、特に大学のスポーツチーム内などでオーバートレーニングによる横紋筋融解症の発症が増えているそう。横紋筋融解症の外観的な特徴は、シーズンオフ明けの1月に練習を開始する時のアメリカンフットボール選手に特に多く見られるそうで、これについてまとめた論文も公開されています。

バトラー氏はアメリカンフットボール選手の中で確認された横紋筋融解症は、「運動が多すぎる」「運動を行う間隔が早すぎる」「運動のペースが速すぎる」ことから起きていたそうです。加えて、アメリカンフットボールだけでなく、サッカー・水泳・ラクロス・陸上競技・バスケットボール・ソフトボール・バレーボール・ゴルフなど、さまざまなスポーツに従事する人々で横紋筋融解症が確認されているとのこと。

by Victor Freitas

大学の部活動で運動を続けているような人とは異なり、普段の不摂生からくる体力の低下や体重の超過を正すために運動を行う人であっても、「横紋筋融解症を引き起こす可能性は十分にある」とバトラー氏は指摘しています。重量挙げやクロスフィット型のトレーニングといった高負荷トレーニングだけでなく、陸軍体力適性検査過度のガーデニングを行うだけでも腎障害を引き起こすレベルの横紋筋融解症を発症する可能性があるとのこと。

台湾では高校教師が授業の一環として学生たちに5分間で120回の腕立て伏せを行うように指示した際に、119人の学生が横紋筋融解症を発症し、緊急治療室に運び込まれたことも報告されています。この事例の場合、骨格筋の筋細胞の損傷は運動後5分程度でスタートしていますが、246kmという長距離を走るレースの中で確認された横紋筋融解症は、運動後36時間で発症したことが判明しています。

by Andrea Leopardi

横紋筋融解症を防ぐために必要なことは、漸進的なトレーニングと適切な休養を組み合わせることで、筋肉の増強・フィットネスの向上・体脂肪の減少などを行うことです。バトラー氏らの研究によると、筋細胞膜がトレーニングの負荷に完全に適応するには、長期休暇や運動不足期間明けにトレーニングを始める場合には、2週間程の段階的なトレーニングが必要となるそうです。

また、長期休暇後のトレーニング時や、運動不足の人が突如トレーニングを開始した際には、「時間をかけても直らない耐えがたい筋肉痛」「運動に制限が出るレベルの筋肉の腫れ」「吐き気、おう吐、またはその両方」「コカ・コーラのように暗い尿」などが確認できる場合は、横紋筋融解症の疑いがあるため、適切な検査が必要になるとバトラー氏は注意喚起しています。


さらに、運動後に横紋筋融解症を発症するリスクを高める要因としては、「猛暑での運動」「脱水症状もしくは過剰な水分補給」「過度の飲酒」「過度のコーヒー摂取」「ベジタリアンや高タンパク質食などの、極端な食事習慣」「鎌状赤血球症であること」などが挙げられているので、当てはまる場合はより注意が必要です。

バトラー氏は「横紋筋融解症は珍しい症状ではあるものの、症例が増加しているため、全員が気をつけるべき」と主張。さらに、「生理学的に健全なトレーニングへのアプローチを順守することで、横紋筋融解症を完全に予防することができます」と語り、正しいトレーニング習慣を身につけることの重要性を語っています。

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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