世界には宗教的少数派に対する虐殺や迫害が渦巻いている
by Kat J
学術系ニュースサイトThe Conversationで上席宗教・倫理学論説委員を務めるカルパナ・ジェイン氏が、世界の宗教的少数派が直面している暴力や迫害の中から、特に深刻な5つの問題をまとめています。
Religious minorities around the world face an uncertain future: 5 essential reads
https://theconversation.com/religious-minorities-around-the-world-face-an-uncertain-future-5-essential-reads-128895
◆1:中国におけるウイグル人の迫害
かねてから、中国政府がイスラム教徒を中心とした新疆ウイグル自治区の住民を迫害していることが知られていますが、近年に入り強制収容所は急拡大していることが明らかになっています。ジェイン氏によると、こうした強制収容所に抑留されている人々は、100万人以上にも及ぶとのこと。
また、中国政府による迫害は単純に激化しているだけでなく、テクノロジーを駆使したものに変わりつつあります。ウイグル問題に詳しいワシントン大学の人類学者ダレン・バイラー氏は、「中国政府は、2016年に中国のメッセンジャーアプリWeChatの監視を開始したのを皮切りに、地域の全住民からのDNAの採取や、高精度な音声通信の傍受、顔スキャンなどの生体認証情報の収集を始めています」と話しています。
新疆ウイグル自治区の北部に位置するイリ・カザフ自治州では、所有するスマートフォンに「監視アプリ」のインストールすることが強要されていると報じられています。
中国で政府が住民に対してスマートフォンに「監視アプリ」のインストールを強要 - GIGAZINE
by Office of Naval Research
◆2:スリランカのキリスト教徒への暴力的弾圧
2019年4月21日に、スリランカ最大の都市コロンボをはじめとした複数の地域で自爆テロが相次いで発生。日本人1名を含む合計259人以上が犠牲となる大惨事になりました。このテロは、キリスト教の教会を主な目標としたもので、事件当日のキリスト教会には復活祭を祝うために集まった多くのキリスト教徒が詰めかけていました。
スリランカの捜査当局は自爆テロの実行犯として、イスラム過激派団体ナショナル・タウヒード・ジャマアの関係者9人を特定しており、犯行の背景には同国の人口の約9%を占めるイスラム教徒と、約7%を占めるキリスト教徒の激しい対立があったと指摘されています。また、マサチューセッツ州にあるホーリークロス大学の宗教学教授マシュー・シュマルツ氏によると、スリランカのキリスト教徒はイスラム教徒だけでなく、近年新しく誕生した過激派仏教組織ボドゥ・バラ・セーナの攻撃にもさらされているとのことです。
◆3:インドでのイスラム教徒排除の動き
インドのアッサム州では2019年8月に、市民登録の基礎となる国民登録簿制度が発足し、約3050万人が登録対象となりましたが、約190万人は「外国人」として登録簿から除外されました。オハイオ州のデイトン大学で南アジアの歴史と政治について研究しているハイマンティ・ロイ氏によると、除外された人々の大半は「女性、下級カーストの出身者、貧困層、宗教的少数派の人々」だったとのこと。
また、インド政府は12月10日にバングラデシュ、パキスタン、アフガニスタンなどでの弾圧から逃れてきた宗教的少数派に対し、優先的に市民権を与えることを目的とした修正市民権法を制定しており、その対象にはヒンズー教徒・キリスト教徒・その他の宗教的少数派が含まれていますが、イスラム教徒は除外されています。新法の救済対象からイスラム教徒を除外するというインド政府の決定に対しては、学生組織を中心とした市民らが激しい反対運動を展開しており、警察による過剰な鎮圧などによる死者はインド全土で合計27人にのぼるとされています。
by DiplomatTesterMan
◆4:トルコに住むキリスト教徒の危機
ネブラスカ大学オマハ校の政治学者Ramazan Kilinc氏によると、トルコに住むキリスト教徒は、1922年にオスマン帝国が崩壊してからたびたび差別にさらされてきたとのこと。この傾向は、イスラーム性や庶民性を前面に押し出したポピュリスト的政策により人気を得ているレジェップ・タイイップ・エルドアン氏が2014年に大統領に就任すると同時に、一層厳しいものになりました。
その結果、1914年にはトルコ地域に住む人々の25%を占めていたキリスト教徒は、2019年にはわずか0.5%未満にまで減少しています。Kilinc氏によると、トルコ国内では非イスラム教徒に対する陰謀論が渦巻いており、キリスト教徒は「外国の協力によりトルコ人のアイデンティティを傷つける存在」として目の敵にされているとのことです。
◆5:ロヒンギャを対象としたジェノサイド
ロヒンギャとはミャンマーのラカイン州に住む人々で、主にイスラム教を信仰しています。しかし、仏教徒が多数派のミャンマーでは、ロヒンギャは自国民ではなく「隣国のバングラデシュからの不法移民」とだとする見方が主流となっており、2017年にはミャンマー軍による大規模なロヒンギャ掃討が実施されました。特に、2017年8月に発生した戦闘では、6700人のロヒンギャが殺害されたとの報道もなされており、ジェノサイドの様相を呈しています。
by AK Rockefeller
こうした弾圧に対し、一部のロヒンギャはアラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)という武装反政府組織を結成してテロ行為などを展開しており、多数のロヒンギャが戦火を逃れるためにバングラデシュなどに避難し、難民となりました。
ロヒンギャ難民問題を研究しているニューヨーク州立大学ビンガムトン校の経済学者Rubayat Jesmin氏は、2019年7月にバングラデシュの難民キャンプを訪問した際の様子について「非衛生的で、食料や日用品は不十分です。また、モンスーンがもたらす雨や寒さ、地滑りなどの災害に日々直面させられています」と述べて、難民たちの窮状を訴えました。
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