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労働者を強化するパワードスーツの商業出荷がついに開始、年間1000万円超でレンタル可能


人間が装着して肉体を強化し、生身では困難な作業を可能とするパワードスーツは、多くの労働者にとって夢のような存在といえます。ロボット開発企業のSarcos Roboticsが2020年1月から、ついにパワードスーツの商業出荷を開始すると、米国電気電子学会(IEEE)が出版する専門誌のIEEE Spectrumが報じました。

Sarcos Demonstrates Powered Exosuit That Gives Workers Super Strength IEEE Spectrum - IEEE Spectrum
https://spectrum.ieee.org/automaton/robotics/industrial-robots/sarcos-guardian-xo-powered-exoskeleton

IEEE Spectrumは2019年11月、Sarcos Roboticsが所有するソルトレイクシティの施設に招待され、Guardian XOと名付けられたパワードスーツのデモンストレーションを間近で見ることができたとのこと。Sarcos Roboticsは数十年にわたり、ロボットや動力付きパワードスーツを開発してきたロボット開発企業であり、Guardian XOは待望の商業用パワードスーツとなります。


実際にGuardian XOを装着した人が、重い荷物を軽々と持ち上げる様子を撮影したムービーがこれ。

Sarcos Guardian XO Powered Exosuit Demo - YouTube


画面中央にいる男性が装着しているパワードスーツが、商業出荷される予定のGuardian XOです。背中にはバッテリーなどの機構が搭載されており、太いチューブのような部品も見えます。


男性は腕の先に伸びた道具を用意されたウエイトに引っかけて……


特に力を入れた様子もなく、軽々と持ち上げました。


男性はそのままウエイトを胸の高さにある固定台に乗せましたが、ウエイトの重さは125ポンド(約57kg)。生身の体であればかなりの重労働になるはずですが、Guardian XOを装着することで中の人はほとんど負荷を感じることなく荷物を持ち上げることが可能となっています。男性が感じる負荷は、125ポンドのウエイトに対しわずか数ポンドだとのこと。


Guardian XOを装着した様子を正面から見るとこんな感じ。Guardian XO本体の重さはなんと150ポンド(約68kg)あるそうですが、ヒューマノイドロボットのように自立式であるGuardian XOは自身の重さを地面との接触部で支えることが可能なため、装着している人が本体の重さを感じることはありません。


アームをロックして装着者が本体から手を離すことができるほか、左手首の部分にあるコントロールパネルを用いてGuardian XOの出力を簡単に調節可能。Guardian XOを装着すれば最大で200ポンド(約90kg)の荷物を軽々と持ち上げることができ、装着者が感じる負荷はわずか10ポンド(約4.5kg)程度しかないとのこと。


アームの先の部品は用途に応じて取り換えることができるため……


フックを使ってスーツケースのような荷物を持ち上げることも可能です。自立式のロボットは歩行する際にバランスを取るために高性能なセンサーや機構、ソフトウェアが必要となりますが、Guardian XOは人間の動きに同期してほぼタイムラグなしで動くため、装着者自身がバランスをとることができます。そのため、Sarcos RoboticsはGuardian XOを支えるため、特別なプログラムを開発する必要はなかったそうです。


Guardian XOは12ポンド(約5.4kg)の500Wバッテリー2個によって駆動する電気式のパワードスーツであり、バッテリーを交換しないまま2時間使い続けることが可能。バッテリーは交換式となっているため、2時間ごとに交換して1日中使うこともできます。商業出荷するためにはエネルギー効率の向上が必要不可欠であり、500Wのバッテリーでパワードスーツを動かせるようになった点は、非常に重要なイノベーションの一つだったとのことで、Sarcos Roboticsは今後もバッテリーの効率化を進めていく予定です。

人間がGuardian XOを着脱するには数秒ほどしかかからず、新しいユーザーでも数分で操作を覚えられる模様。また、快適に作業するまでには1~2時間ほどかかるそうですが、初めて使い始めた人が戸惑うのは「重い物を持っているはずなのに、その感覚がない」という点だとのこと。たとえ体にかかる負荷が数kgでも、実際には100kg近い物体を持ち上げていることになるため、移動したり停止したりする際に、質量のある物体の慣性を感じて戸惑うことがあるそうです。

また、Sarcos RoboticsはGuardian XOの安全性を最優先事項としており、全てのジョイントは動かす際の速度が制限されています。そのため、パワードスーツによって強化された肉体を使ってパンチやキックを繰り出すことはできません。関節の可動域も人間に可能な範囲を超えないように設計されているため、パワードスーツの関節があらぬ方向に曲がり、腕がねじ曲がってしまうという危険性もないとのこと。


Sarcos Roboticsは、あらゆる企業が労働者の効率を向上させるために努力している現状において、最適なソリューションが「ロボットの力と耐久力で、人間の知能と判断力を強化すること」だと考えています。そのため、Guardian XOはあくまでも特定の労働者の生産性を向上させ、危険な作業をこれまでよりも安全に実行できる点を強調しています。

Guardian XOが役立つのは重い物体を繰り返し持ち上げるタイプの仕事であり、こうした仕事は自動化することが困難か、少なくとも費用対効果の面で自動化が進んでいません。また、こうした労働は人間の肉体に高い負荷をかけ、筋肉や関節の損傷は労働者が仕事に従事できる期間を制限し、半永続的な医学的負担を与えかねません。そこで、Guardian XOを用いることによって労働者の生産性を改善し、体への負担を軽減することで、スキルを持った労働者が安全に、長期間にわたってその仕事に従事できるようになるとのこと。

もちろん企業がGuardian XOの導入に踏み切るには、Guardian XOがコストの面でメリットがあると納得する必要があります。Sarcos RoboticsによるとGuardian XOは最大で200ポンドの重量を持ち上げることができ、疲労による生産性の低下も抑えられるため、生産性を従来より4~10倍ほど改善できるとのことで、実際にGuardian XOを試した労働者からも好意的な反応があったそうです。記事作成時点では、初期ユニットのGuardian XOを装着できるのは身長162cm~180cmの人に限られるそうですが、今後の改良でアメリカ人労働者のうち90%がGuardian XOを装着可能にしていくとしています。

Guardian XOは2020年1月から初期ユニットの商業出荷が始まる予定であり、最初の顧客は重工業や米軍だとのこと。Guardian XOはレンタル式で年間のコストは1台あたり10万ドル(約1100万円)、少なくとも10台以上を一括でレンタル可能な企業向けに出荷を行い、専門のエンジニアも一緒に派遣される予定となっています。

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in ハードウェア,   動画, Posted by log1h_ik

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