貧困地域に住む男性はほかの地域に住む男性より50％以上うつ病のリスクが高くなるが女性には影響がないと判明

by Leroy_Skalstad

世界中の人々が苦しむうつ病は薬物乱用やアルコール中毒、自殺企図につながる可能性もある深刻な病気です。ケンブリッジ大学の研究チームの調査により、「貧困地域に住む男性はほかの地域に住む男性と比較してうつ病になる可能性が高かったものの、女性は住む場所がうつ病の発症率に影響しなかった」との結果が明らかとなりました。

Association between area deprivation and major depressive disorder in British men and women: a cohort study | BMJ Open
https://bmjopen.bmj.com/content/9/11/e027530

Depression: men far more at risk than women in deprived areas
https://theconversation.com/depression-men-far-more-at-risk-than-women-in-deprived-areas-127264

今回の研究を行ったケンブリッジ大学のOlivia Remes氏は、研究の内容を説明する前に、研究の背景について語る必要があると述べています。Remes氏によると、以前の研究からさまざまな慢性疾患や肉体的・精神的トラウマ、機能不全家族で育った経験など、多くの要因がうつ病のリスクを高めることが示唆されているそうです。

その一方で、これらの要因はあくまでもそれぞれの個人的な経験や状況であり、過去のうつ病研究の多くはこうした個人的な要因に焦点を向けがちだったとのこと。しかしRemes氏は、人々が住む地域社会の属性など、個人のレベルを超えた特性も精神的健康に影響を与えており、うつ病のリスクに関連しているはずだと考えました。

そこでRemes氏の研究チームは、うつ病リスクに関連する個人的な要因を除いた後でも、居住する地域によって人々のうつ病のリスクに変化があるのかどうかを調査しました。

by Inzmam Khan

研究チームが今回の調査に用いたのは、3万人近い人々の健康状態や慢性疾患、生活様式について長期的に調査したEPIC-Norfolk研究のデータです。この研究では参加者が住む場所の郵便番号も記録されているため、郵便番号をもとに参加者が裕福な地域に住んでいるのか、それとも貧しい地域に住んでいるのかを調べることができます。

まず最初に、研究チームはある時点における参加者の肉体的および精神的健康について評価し、それぞれの参加者が住む地域の裕福度を調査しました。さらに、評価を行った時点から5年後～10年後の時点で行われたアンケート結果を、研究チームは分析しました。研究チームは統計的手法で個人のうつ病リスクに関わる要因を考慮した上で、居住する地域とうつ病の関連を調べたとのこと。

その結果、「貧困地域に住む男性はうつ病リスクに関わる個人的要因を排除した後でも、貧困地域ではない場所に住む男性と比較してうつ病になる可能性が51％も高い」ことが判明。その一方で、貧困地域に住む女性がほかの地域に住む女性と比較してうつ病になりやすいという結果は得られず、居住する地域がうつ病のなりやすさに影響を与えるのは男性に限られていたこともわかりました。

by Alexander Mils

今回の研究結果はあくまでも居住地域とうつ病になる確率の関連について調べただけであり、その背景にどのような理由があるのかは不明です。しかしRemes氏は、イギリスを含む多くの国々において男性が感じている、「男性が家族を養って支援しなければならない」という責任感が、今回の結果を引き起こした可能性があると指摘します。

男性と女性におけるうつ病リスクの違いについて調査した近年の研究では、「期待されていた成果を仕事で発揮できなかったり、家族の生活を十分に支援できなかったりすること」が、男性のうつ病のなりやすさに影響を与えることが示されました。男性は仕事や経済的状況によってストレスを受けやすく、女性は人間関係の失敗によって精神的健康が損なわれやすいとのこと。

イギリスでは男性の方が女性より3倍も多く自殺しており、男性が精神を病んでしまいやすい根本的な理由を解明することが重要だと、Remes氏は述べました。なお、厚生労働省の(PDFファイル)レポートによると、日本でも自殺者の70％近くを男性が占めており、女性より男性の方が自殺しやすいことがわかっています。

by Nathan Cowley