都市生活はうつ病の原因となる物質にあふれているという研究結果

by Kevin Case

最近の研究により、緑の少ない場所で育った子どもは精神疾患のリスクが高いことが判明していますが、これを裏付けるような研究結果が発表されました。科学系情報メディアAnnual Reviewsに掲載された報告によると、都市部に多いとされる大気汚染や騒音などさまざまな環境要因が精神健康上のリスクとなることが少しずつ明らかになってきたということです。

Mental disorders in urban areas: an ecological study of schizophrenia and other psychoses. - PsycNET
https://psycnet.apa.org/record/1939-01453-000

City life damages mental health in ways we’re just starting to understand | Popular Science
https://www.popsci.com/physical-surroundings-cities-mental-illness

環境と精神疾患の関係についての研究を発表したのは、ブリティッシュコロンビア大学の准教授マティルダ・ファン・デン・ボッシュ氏とドイツの精神健康中央研究所で所長を務めるアンドレアス・マイヤー・リンデンベルク氏です。ファン・デン・ボッシュ氏らは、環境が人体に与える影響について報告した150件近くもの文献を精査し、精神疾患の原因となり得る環境要因をまとめました。

◆騒音
最もはっきりとした精神疾患リスクになっているのが、騒音です。騒音のストレスがうつ病などの精神疾患の原因となることを示す研究結果は多数報告されており、騒音と精神疾患との間には強い因果関係が認められるとのこと。一口に騒音といっても原因はさまざまですが、航空機・鉄道・自動車などの騒音に長時間さらされるような生活を送っている人には、うつ病と診断されたり、医師から抗うつ薬を処方されたりしている人が多いといった研究結果もあることから、自動車や交通機関とは切っても切り離せない都市部での生活には相応に精神疾患のリスクがあるといえそうです。

by Nathan

◆大気汚染
大気汚染が呼吸器や粘膜の病気の原因となることは既によく知られていますが、脳にも影響を与えることが示唆されています。具体的には、大気汚染が深刻な地域に住んでいる子どもや若者は、認知機能や記憶力が低い傾向が認められるとのこと。そのメカニズムについては完全には明らかになっていませんが、大気汚染物質が体内での炎症性サイトカインの増加や、神経細胞の損傷を引き起こし、その結果前頭前皮質や線条体の酸化ストレスを誘発するのではないかと見られています。

by Jean-Etienne Minh-Duy Poirrier

◆花粉
花粉は一般的に花粉症と呼ばれるアレルギー性鼻炎の原因物質として知られており、都市部に限らず花粉症を持つ人にとっては頭痛の種となる物質ですが、精神疾患の原因にもなるようです。具体的には、花粉に反応した免疫グロブリンE(IgE)により炎症性サイトカインが増加し、うつ病のリスクとなる可能性があるという研究結果が報告されているとのこと。ただし、花粉と精神疾患の関係性についての調査結果は数が少ないため、はっきりとした結論を出すことはできないと研究者は述べています。コロンビア大学マイアミ校で環境健康科学について研究しているMarianthi-Anna Kioumourtzoglou氏は科学系メディアPopular Scienceの取材に対し、「花粉によって引き起こされるアレルギー反応が、騒音などと同様にストレス要因となることで、精神疾患の原因となっているのではないか」と回答しています。

by Rido81

2019年時点で全人類の約55％が都市部に住んでいるとのことですが、2050年には都市部の人口が70％近くに達すると予測されており、世界中に住む多くの人々にとって都市やその近郊での生活は避けられないものとなりつつあります。Kioumourtzoglou氏は「いまさら都市を緑豊かなユートピアに作りかえることはできませんが、今後新しく都市計画や環境保護規制を策定するにあたり、環境が人に与える影響について留意することは十分可能です」と語り、健康に配慮された環境づくりの重要性を改めて強調していました。