屋内の空気汚染は時に屋外よりも深刻、料理や掃除が汚染の原因に
by Christa Grover
空気汚染といえば、一般的に連想されるのは自動車の排ガスや工場の煙などによる大気汚染を連想します。しかし、実は屋内で発生する空気汚染もかなり深刻だそうで、The New Yorkerはそんな知られざる「屋内の空気汚染」についてまとめています。
The Hidden Air Pollution in Our Homes | The New Yorker
https://www.newyorker.com/magazine/2019/04/08/the-hidden-air-pollution-in-our-homes
産業革命に伴って都市部の大気汚染が深刻な問題となり、多くの国々では「外の空気は汚染されている」というイメージが強く存在します。大気汚染は人々の健康に悪影響を及ぼし、イギリスでは1952年にスモッグによって1万人以上が死亡するロンドンスモッグといった公害が発生するなど、時には死者を出す惨事も発生しました。
しかし、近年では大気汚染に対する意識の高まりもあって、先進国では屋外の空気汚染が大きく改善されています。アメリカでは1970年に合衆国環境保護庁が活動を開始し、1970年代以降で一酸化炭素や二酸化硫黄などの有毒ガスの排出量は半減し、空気中の微粒子濃度は80%減少したとのこと。その一方で、2001年に行われたイギリスの調査では「イギリス人が屋外で活動する時間は、1日のうちわずか5%(約1時間12分)」という事実も明らかになっており、屋内で過ごす時間の多い人々は屋内の空気汚染にも目を向ける必要があります。
長年にわたって大気汚染についての研究は進められていたものの、屋内の空気汚染についての研究はあまり行われてきませんでした。1975年にベル研究所へ入所したCharles Weschler氏は、早期に屋内の空気汚染について研究した科学者の1人です。当時、電話交換局の機器が予想より早く故障してしまうという問題を扱ったWeschler氏は、機器のワイヤーが酸性の屋内スモッグによって傷んでいたことを発見しました。初期の屋内空気汚染に関する研究は、人よりも物を守ることに焦点が向けられていたとのこと。
1980年代になると、断熱性能が高く新鮮な空気の入れ換えが少ない建物内で健康不良などが発生する、「シックビル症候群」についての研究が進みました。これにより、空気の入れ換えが少ないことによる二酸化炭素濃度の上昇が屋内で起こりやすいことや、建物に使われる化学物質の濃度が屋内で高くなることが知られるようになりました。やがて2000年代に入ると、テロリストによる空気中への生物兵器散布が現実味を帯びてきたことから、屋内空気汚染の研究に関する多額の資金が投下されるようになったそうです。
しかし、この分野には専門家が少なかったことから、屋外の大気汚染に関する専門家を引き入れて屋内空気汚染についての研究をしてもらうケースが多かったとのこと。コロラド大学の化学者であるDelphine Farmer氏や、同じくコロラド大学の環境エンジニアであるMarina Vance氏は、「微生物と環境化学についての家の観察(House Observations of Microbial and Environmental Chemistry)」、通称「Homechem」という呼ばれるプロジェクトで屋内の空気汚染について研究しています。
by Mark McCammon
一軒家を使用して屋内の空気汚染を分析するHomechemプロジェクトは、開始早々に困難に直面しました。屋外での使用に調整された汚染計測器では、あまりにも濃度の高い屋内の空気汚染を計測できなかったそうで、すぐさま計測器の調整変更を余儀なくされたとのこと。また、掃除や料理といった日常生活によって発生する空気汚染を調査する上で、「同じ『料理を作る』『モップをかける』といった行動であっても、人によって動きが違う」という点が問題となったそうです。
試行錯誤の末に研究者らはベースラインとなる行動および空気汚染量を把握し、ボランティアに生活してもらった上での空気汚染計測が始まりました。屋内における空気汚染の大きな原因は料理と掃除だったそうで、料理の場合は高温で調理すると多くの有機エアロゾルが空気中に排出されるとのこと。また、電気プレートよりもガスバーナーで料理をした方が有害物質の排出量は増える模様。
屋内での空気汚染は至るところで発生しており、たとえば漂白剤を使ったモップ掃除を行うと漂白剤の成分が空気中へ広がり、料理の際に使う火と反応して有害物質が発生するとのこと。漂白剤とガスバーナーの火によって発生する物質には、気管支に炎症を起こす刺激性ガスのクロラミンや沿岸スモッグに含まれる塩化ニトロシルなどがあるそうです。Farmer氏もVance氏も、「屋内でこのような化学物質が発見されるとは思わなかった」と述べています。
また、Vance氏らは感謝祭で提供される、七面鳥をはじめとした大量の料理を作ってみるという実験も行いました。研究者らは決まった手順で大量の料理を作り、作業中にガスバーナーを使ったタイミングや時間、片付けやドアの開閉といった細かな作業に加えてクシャミなどのアクシデントについても記録したとのこと。実験中、常に屋内の空気汚染がどうなっているのかを機器で測定していました。
さらに1回の測定だけにとどまらず、研究チームは1回目の実験と全く同じ手順で感謝祭の料理をもう一度作って再びデータを取りました。その結果、午前8時半からスタートした作業により、午前11時には屋外の場合であれば「大気が汚染されている」と公的に判断されるレベルまで微粒子濃度は上昇し、一酸化炭素や二酸化炭素濃度は屋外よりも桁違いに高くなったそうです。また、中でもパンを焼くトースターを稼働させた時に大量の炭素ベースの微粒子が放出されたとのこと。
感謝祭の食事を作った際の屋内空気汚染は非常に高レベルであり、最終的には空気中の微粒子濃度が1立方mあたり288マイクログラムに達しました。WHOが「世界で最も空気が汚い主要都市」としているインドのニューデリーでさえ、最も空気が汚い時期で微粒子濃度は1立方mあたり225マイクログラムとなっているため、屋内の空気汚染レベルは非常に深刻なものといえます。
もっとも、料理などを行う前の屋内は空気汚染のレベルも低いため、屋内は常に空気が汚染されているというわけではありません。屋内の空気汚染についての研究はまだ初期段階であり、料理などによって排出された化学物質が、自動車の排ガスや工場の排気によって放出された化学物質と同等の健康被害をもたらすのかどうかも、まだ明らかではないとのこと。
また、屋内の空気汚染は屋外の空気汚染とは比べものにならないほど簡単に改善できます。料理の際に適切なフィルターを設置したり換気を行ったりすることで、空気汚染を防ぐことができると研究チームは述べました。
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