中国が知的財産権の保護を促進する世界機関を主導しようとしている
By Annie Spratt
2019年11月14日、中国の王毅外相が、知的財産権の保護を促進することを目的とする国際連合の専門機関「世界知的所有権機関(WIPO)」の事務局長に、WIPOのブランド・デザイン部門で部長代理を務めている中国出身の王彬穎(Wang Binying)氏を推薦しました。この件に対して、世界情勢を報じるアメリカのニュースメディア・Foreign Policyは「鶏を食べるキツネに鶏小屋を管理させるつもりなのか?」と反発しています。
China Seeks to Lead the U.N.'s Intellectual Property Organization, WIPO
https://foreignpolicy.com/2019/11/26/china-bids-lead-world-intellectual-property-organization-wipo/
中国は他国から知的財産を盗むことに積極的な国だといわれており、特にトランプ大統領は外交政策において中国の知的財産に対する姿勢をしばしば非難しています。2019年9月にニューヨークで開かれた第74回国際連合総会の冒頭演説で、トランプ大統領はアメリカのメモリメーカーのMicronが中国企業に機密情報を盗まれた一件に触れて、強固な参入障壁、莫大な国家補助金、為替操作、不当廉売、技術移転の強制に加えて、知的財産の窃取と大規模な企業秘密に関して中国を名指しで非難しました。
Micronが中国企業に機密情報を盗まれた顛末は、以下の記事で読むことができます。
アメリカ企業から機密情報を盗んだとして中国の国家的メモリ製造企業をアメリカが締め出しへ - GIGAZINE
アメリカの経済学者と政府専門家によるチームは、中国の企業秘密・偽造品・慣行による不公平な取引が原因で、アメリカは年間最大500億ドル(約5.5兆円)を失っていると報告しています。
Section 301 Investigation Fact Sheet | United States Trade Representative
https://ustr.gov/about-us/policy-offices/press-office/fact-sheets/2018/june/section-301-investigation-fact-sheet
そんな折に持ち上がったのが、2020年に任期を終えるWIPOのフランシス・ガリー事務局長の後任問題です。中国政府は次期WIPO事務局長の候補として、ブランド・デザイン部門の局長代理を務めている中国出身の王彬穎氏を推薦する書簡をWIPOに送りました。
circular3944.pdf
(PDFファイル)https://www.wipo.int/export/sites/www/about-wipo/en/elections2020/circular3944.pdf
書簡では、王毅外相が「氏は数十年にわたる経験を有しており、WIPOの事務局長を務めるのにふさわしい人物」と推薦しています。王彬穎氏は、アメリカで法学部大学院を卒業した後、WIPOで働き始める前に中国国家工商行政管理総局に勤めていました。
Foreign Policyが表明している懸念とは、知的財産権を守る国際的なシステムを中国が積極的に形成するということと、知財の直接的な流出です。WIPOに申請された特許は18カ月間機密として保管され、承認の後に公開されます。Foreign Policyは、元WIPO副局長ジェームズ・プーリー氏の「トランプ政権は中国を盗っ人だとして扱っています。にもかかわらず、なぜキツネに鶏小屋を管理させるようなことを望むのですか?」という発言を報じています。
2019年11月時点で、国連の15の専門機関のうち、国際電気通信連合・国際民間航空機関・国際連合工業開発機関・国際連合食糧農業機関のトップは中国出身の人物です。次期WIPO事務局長は中国の推薦する王彬穎氏を含む7人の候補者によって争われる予定。アメリカはシンガポール出身のDaren Tang氏を推していますが、日本はWIPO特許協力条約法務・国際局上級部長を務めている夏目健一郎氏を擁立しています。
世界知的所有権機関(WIPO)事務局長の候補者を擁立します (METI/経済産業省)
https://www.meti.go.jp/press/2019/10/20191029001/20191029001.html
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