経済難が「無意識の差別」を加速させることが明らかに
by Rawpixel
不景気や事業の低迷などに直面すると、企業は従業員の数や給料を削減する必要に迫られます。その際の判断基準は従業員の人種や顔ではなく成績や能力に応じて行われるべきですが、最新の研究により「経済難に見舞われると、無意識の差別が助長されてしまう」ことが明らかになっており、能力に関係なく不利益を被る人がいる可能性が示唆されています。
Scarcity disrupts the neural encoding of Black faces: A socioperceptual pathway to discrimination
https://psycnet.apa.org/doiLanding?doi=10.1037%2Fpspa0000168
Economic scarcity shifts perception, leads to discrimination | Cornell Chronicle
https://news.cornell.edu/stories/2019/10/economic-scarcity-shifts-perception-leads-discrimination
コーネル大学の心理学者であるエイミー・クロッシュ氏らの研究グループは、経済的な困難に直面した白人の意思決定者による差別について検証するため、非黒人の学生ら71人を2つのグループに分けて実験を行いました。実験では、被験者らに白人と黒人の顔が映るモニターを見てもらい、「モニターに映った人の顔から感じた潜在的な資質に応じて、1~10ドル(約108~1080円)を分配してください」と依頼しました。この時、対照グループには「10ドルまでなら好きな金額をつけてもいい」と伝えた一方で、実験グループには「予算は100ドル(約1万800円)しかありません」と告げました。また、両グループには頭に脳波を測定する電極を装着してもらい、脳が顔を認識し、金額を判断するのにかかった時間を測定しました。
by Linda Perez Johannessen
この実験の結果、金銭的な制約がなかった対照グループの被験者はモニターに映った人物の人種にかかわらず、ランダムにお金を分配し、判断にかかった時間も一定でした。しかし、予算額が決まっている実験グループでは、モニターに黒人の顔が映ると判断に長い時間がかかるようになり、分配した金額も白人より黒人の方が少なかったとのこと。
研究グループはこの実験結果をさらに詳細に検証するため、30人の白人学生を対象に追加の実験を実施しました。追加の実験でも被験者には同じことをしてもらいましたが、電極ではなくfMRIのスキャナーを装着してもらい、脳の活動を記録しました。その結果、資金不足を感じている実験グループの被験者が黒人の顔を見るときには、意志決定に関与している部位である線条体の活動が低下していたことが判明。さらに、線条体の活動の低下と、黒人に分配する金額の少なさの間には、関連性が認められたとのことです。
by Firentis
この実験結果についてクロッシュ氏は「人はリソースの不足を感じると、黒人の顔を『人の顔』だと認識するのに時間を要するようになります。その結果生まれるバイアスについては自覚していないと思われますが、無意識のうちに差別を正当化してしまっているわけです」と述べて、金銭の不足が無意識の差別を助長するとの見方を示しました。
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