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著名なフリーソフト活動家が一通のメールで役職辞任に追い込まれたことに「危険な動きだ」と批判が寄せられる

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リチャード・ストールマン氏はフリーソフトウェアの活動家として知られ、フリーソフトウェア財団の代表を務めるなど強い存在感を発揮していました。ところが、ストールマン氏が個人的に送信した「エプスタイン事件」に関するメールの内容が問題視され、多数の役職から辞任に追い込まれました。専門家はこの事態を「未来の発展を犠牲にする危険な動きだ」として警鐘を鳴らしています。

Amid Epstein Controversy, Richard Stallman is Forced to Resign as FSF President - It's FOSS
https://itsfoss.com/richard-stallman-controversy/

Geoff Greer's site: In Defense of Richard Stallman
https://geoff.greer.fm/2019/09/30/in-defense-of-richard-stallman/

ストールマン氏は1970年代からハッカー文化の旗手として活動しており、1985年にフリーソフトウェア財団を設立するなど、フリーソフトやオープンソースソフトの推進者として知られています。フリーソフトウェア財団代表のほかにも、マサチューセッツ工科大学人工知能研究所(MIT CSAIL)でで客員科学者を務めるなど多数の役職を持っていたストールマン氏ですが、2019年9月に多くの役職を辞任する事態に追い込まれてしまいました。


多くの役職からストールマン氏を退かせたのは、アメリカの実業家であるジェフリー・エプスタインを中心として巻き起こったスキャンダル「エプスタイン事件」に関する一通のメールでした。この一件では、大規模な児童売春を行っていたエプスタインの手帳に大統領や英国王室を含む数多くの著名人の名前が連なっていたこと、そして拘留中のエプスタインが首の骨折で死亡した件で専門家が「自殺によって起きた骨折なら非常にまれな自殺」と述べたことから大きな騒動となりました。これを受けてエプスタイン氏から資金提供を受けたMITも批判にさらされ、MITメディアラボ所長の伊藤穰一氏も辞任に追い込まれています。

伊藤穣一氏、MITメディアラボ所長を辞任 エプスタイン氏からの寄付を巡り - ITmedia NEWS
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1909/08/news020.html


エプスタインは政治家から学術界まで非常に幅広い交友関係を持っており、ビル・クリントン元アメリカ大統領やドナルド・トランプ大統領とも親交があったほか、スティーヴン・ホーキング氏や数名のノーベル賞受賞者らも、エプスタインが所有するリトル・セント・ジェームズ島を訪れたことがありました。

そんなエプスタインとの関係を取り沙汰された人の中には、MIT人工知能研究所の共同創設者であるマービン・ミンスキー氏も含まれます。ミンスキー氏は2016年に死去していますが、エプスタインの邸宅における10代女性との性行為に関与したとみられる人物の中に、ミンスキー氏の名前も挙げられています。

AI pioneer Marvin Minsky accused of sex with Epstein trafficking victim - The Verge
https://www.theverge.com/2019/8/9/20798900/marvin-minsky-jeffrey-epstein-sex-trafficking-island-court-records-unsealed


これに対してストールマン氏は、ミンスキー氏を擁護する内容の電子メールを、メーリングリストに含まれる人々に向けて送信しました。メールの中ではミンスキー氏が「sexual assault(性的暴行)」を行ったと主張されている点に関して、性的暴行という用語はあいまいであると主張。

ストールマン氏は報道されている事実そのものに異論はなく、10代女性とミンスキー氏のセックスが事実だったとしても、むやみに「暴行」という言葉を使うのは妥当ではないと指摘。批判したい内容がなんであれ、道徳的なあいまいさを避ける用語で説明するべきだとメールの中で述べました。

しかし、このメールを友人から転送されたエンジニアのSelam Jie Gano氏はメールの内容を公開し、「Remove Richard Stallman(リチャード・ストールマン氏を取り除こう)」という活動を展開。この件は当初のデジタルメディア界隈では注目されていませんでしたが、ソフトウェア業界のジェンダーバイアスと戦う活動家によって注目を集めたことで、ストールマン氏への批判が集まったとソフトウェア関連のメディアであるIt's FOSSは述べています。

これらのニュースがほかのメディアにも取り上げられたことで、ストールマン氏は辞任せざるを得なくなったとのこと。It's FOSSは「確かにストールマン氏が聖人であるとは言えず、今回の発言を含めて配慮の足りない言動があった」と認めつつも、「危険な優先順位」が形成されかけていることを指摘しました。「30年以上にわたって従事してきた組織からストールマン氏が排除されるまで、わずか5日しかかかりませんでした。しかも、ストールマン氏自身はエプスタイン事件のスキャンダルに全く関わっていません」と、It's FOSSは今回の事例を危険視しています。

by Maurizio Scorianz

コンピューターエンジニアのGeoff Greer氏は自身のブログで、Gano氏の告発は明らかにねじ曲げられていると糾弾しています。メールの中でストールマン氏は、あくまで用語の使い方に焦点を当てています。また、事件に関与した女性の態度についても、「多くのシナリオが考えられますが、最も妥当なシナリオは女性が自分自身の意思でそう振る舞っていると見せかけていたというものです。エプスタインが彼女に振る舞い方を強制していたと仮定すれば、エプスタインには自身の関与を隠すよう女性に要求する十分な理由があります」と述べるに留めています。

しかし、Gano氏はなぜかストールマン氏の発言を「ストールマン氏は奴隷にされた子どもについて、どういうわけか『完全に喜んでいました』と述べています」と要約しました。これはストールマン氏がメールに書いたこととまるで違いますが、この虚偽の内容がDaily Beast、Viceといったメディアに流用され、拡散されてしまったとGreer氏は指摘しています。

Renowned MIT Computer Scientist Richard Stallman Defends Epstein: Victims Were ‘Entirely Willing’
https://www.thedailybeast.com/famed-mit-computer-scientist-richard-stallman-defends-epstein-victims-were-entirely-willing


Famed Computer Scientist Richard Stallman Described Epstein Victims As 'Entirely Willing' - VICE
https://www.vice.com/en_us/article/9ke3ke/famed-computer-scientist-richard-stallman-described-epstein-victims-as-entirely-willing


Greer氏はGano氏の発言について、「2つの可能性があります。『リチャード・ストールマン氏を取り除こう』活動の投稿者はストールマン氏の文章を正しく読み解くことができなかったか、真実など気にしていないかです」「言い換えれば、彼女はバカか悪意があるかのどちらかです。同じことはDaily BeastやViceの記者にも当てはまります。彼らがジャーナリストとして行動したと説明することはジャーナリストへの侮辱です」と述べています。

また、さらに気がかりな点としてGreer氏が挙げているのは、Greer氏の知人や友人の中にもストールマン氏への批判活動をサポートする人がいるという点。最初はGano氏の発言を額面通りに受け取って批判活動を行っていた彼らに、Greer氏が「その内容は間違いである」と指摘すると、今度は他の批判的な理由を探して、改めてストールマン氏は取り除かれるべき人物だと主張し始めたとのこと。数十年前の出来事を挙げてストールマン氏を批判する人物や、最悪の例として「ストールマン氏は社会的に無知なアスペルガー症候群だから取り除かれるべき」と主張する人物まで現れたとGreer氏は記しています。

ストールマン氏は長年にわたってフリーソフトウェア界隈で大きな役割を果たしてきた人物で、これまで大きな批判を受けたことはありませんでした。たった1回の失言やユーモアの失敗、誤解が全てのキャリアを失わせるに十分だと判断されてしまうと、もはやこの世の誰も安全圏ではいられないとGreer氏は指摘。

さらに多くの人々が見落としている点としてGreer氏が主張するのは、今日のソフトウェア環境はストールマン氏が精力的にフリーソフトウェア活動を行ってきたから得られたものだという点。世界中の人々が無料のソフトウェアを日常的に使えるのはストールマン氏の貢献によるものが大きく、裕福でない人にもソフトウェアへの平等なアクセスを実現するために、ストールマン氏は人生をささげてきたと主張しています。

ストールマン氏の一件のように失敗した人を徹底的に追い詰める社会構造は、将来的な社会の発展を大きく妨げてしまう可能性があると、Greer氏は警鐘を鳴らしています。「今日の暴徒を満足させるために、私たちは未来を犠牲にしています。これが本当のリスクです」と、Greer氏は述べました。

by Gladson Xavier

・つづき
たった一通のメールで代表辞任に追い込まれたリチャード・ストールマンがフリーソフトウェア財団に復帰 - GIGAZINE

by Christophe Ducamp

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in メモ, Posted by log1h_ik

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