マラソンでは水分と塩分を適切にとらないと急性腎不全になる危険がある

by RUN 4 FFWPU

マラソンランナーがマラソン中に失った水分と塩分に関する研究から、長距離走に挑むランナーは水分だけでなく塩分も適切に摂取しなければ、腎障害により命の危険があることが判明しました。

The Role of Volume Regulation and Thermoregulation in AKI during Marathon Running | American Society of Nephrology
https://cjasn.asnjournals.org/content/14/9/1297#ref-list-1

Marathoners, Take Your Marks … and Fluid and Salt!
https://www.hopkinsmedicine.org/news/newsroom/news-releases/marathoners-take-your-marks--and-fluid-and-salt

マラソンは、紀元前450年にマラトンの戦いでペルシャの大群を破ったアテナイ軍の伝令兵が、マラトンから約40km離れたアテナイまでを走破して吉報を伝えたという故事が語源です。歴史書では、伝令兵フィディピディスは勝利を伝えた直後に息を引き取ったといわれていますが、マラソンがプロ・アマ問わずランナーの間に浸透したスポーツになった現代においても、「マラソンはすべてのスポーツの中で突然死が発生する数が最も多い」種目になっています。

マラソンの戦いでアテネの人々に勝利を伝えた伝令兵を描いた絵画。

by WikiArt

以前の研究では、マラソンを終えたランナーの実に82％が急性腎不全を発症していることが判明していましたが、そのメカニズムはよく分かっておらず、熱中症が急性腎不全を引き起こすことから、体温の上昇が原因なのではないかと推測されていました。

そこで、ジョンズ・ホプキンス大学医学部の腎臓科医であるChirag Parikh氏らの研究チームは、2017年にアメリカのコネチカット州ハートフォードで開催されたマラソン大会の参加者を対象としてたモニター調査を実施しました。調査では、「レース前後の血圧・心拍数・体重」「マラソン開始の24時間前・マラソン終了直後・マラソン終了から24時間後の3回の血液・尿検査」「マラソン中の体温」「汗収集パッチにより集めたマラソン中の汗」など、マラソン後の血液と尿だけだった以前の研究よりも格段に詳細な項目が検査対象になりました。

マラソンのレースが終了してみると、調査対象となった23人のランナーのうち、12人がマラソン後に急性腎不全を発症していました。しかし、体温の上昇はほぼ全てのランナーで認められたため、研究チームは「体温の上昇は急性腎不全の直接の原因ではない」と結論しました。

また、Parikh氏がランナーが失った水分と塩分を調べたところ、ランナーは最大で6.81Lの水分と、7.21gのナトリウムを喪失していました。70kgの体重を持つ人の体内の水分量は平均42リットルで、水分の10％を失うと死の危険があるということを踏まえると、水分を約7リットル失うことがいかに体に負担を与えるかが分かります。

by Juliano Ferreira

また、Parikh氏は急性腎不全のランナーの血液サンプルには、コペプチンという物質が通常の20倍も含まれていることを発見しました。コペプチンとは、アミノ酸の化合物であるペプチドの一種で、抗利尿ホルモンが分泌される際に生成される物質です。

抗利尿ホルモンは、その名の通り腎臓への水分の供給を減少させ、尿の生成を抑える働きをするホルモンです。研究チームは、「マラソンランナーの体内では抗利尿ホルモンが腎臓への水分供給を減少させ、尿が作られないようにすることで、激しい運動により急速に失われる水分や塩分のバランスをとろうとするメカニズムが働いているのではないか」と推測しています。

by obina Weermeijer

Parikh氏は「水分と塩分の不足が引き金となって腎臓への血流が滞り、腎臓が炎症を起こすことが急性腎不全の原因だと考えられます」と述べて、長距離走後の腎不全を予防するには、水分と塩分の補給が重要だとの見方を示しました。

研究チームは今後、マラソンランナーが命の危険におびやかされることなくマラソンに挑むことができるよう、選手個人にあわせた最適な水分・塩分の補給法を見つける手法を開発していく考えだとのことです。