詐欺師が人をだますのはお金目的ではなく「詐欺師だからだます」という研究結果
by Sharon McCutcheon
貧しい人が詐欺をはたらく理由は「お金に困ってのことだろう」と考えるかもしれませんが、詐欺をはたらく人のすべてが貧しいわけではありません。お金に困らないくらい裕福な人であっても、ローン申請を偽ったり税金逃れを行ったり投資家から多額の資金をだまし取ったりと、詐欺をはたらくケースはあります。「なぜ人は詐欺をはたらいてしまうのか?」という疑問について、行動経済学者のマルコ・A・パルマ氏と経済学者のビラー・アクソイ氏が調査した結果、「詐欺師が人をだますのは詐欺師だから」という結論が導き出されています。
The effects of scarcity on cheating and in-group favoritism - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0167268119302148?via%3Dihub
Scammers don't cheat because they need the money ? they cheat because they're cheaters
https://theconversation.com/scammers-dont-cheat-because-they-need-the-money-they-cheat-because-theyre-cheaters-120270
詐欺行為は詐欺行為をはたらく人々の経済状況とは関係しないことを示唆する研究結果が、2019年7月に学術誌のScienceDirect上で公表されました。研究を行ったパルマ氏とアクソイ氏は、同じ人物が貧困状態と裕福状態の両方を経験するという珍しい地域である、グアテマラのフエゴ火山のふもとにあるコーヒー栽培を生業とする村で調査を行いました。
この村ではコーヒー豆の収穫が大きな収入源となっているため、秋の収穫時期から約5カ月ほどの期間は多くの村民が比較的裕福な状態となり、その後収穫までの7カ月は貧しい状態に陥るとのこと。この村の農民たちがコーヒー豆の収穫で得た収入を長持ちさせることができない理由は、近辺に銀行などがなく、グアテマラの村々では医療・食料・きれいな水が簡単には手に入らないからです。なお、調査対象となった村民たちは平均して1日約3ドル(約320円)を稼いでいました。
フエゴ火山のふもとの村人たちのユニークな財政状況の変化は、研究グループの「なぜ人は詐欺をはたらいてしまうのか?」という疑問を解き明かすのにふさわしい調査対象であったそうです。加えて、最新の研究結果から富裕国と貧困国の両方でほぼ同じ割合で詐欺行為が行われていることが明らかになっていたため、調査対象としてフエゴ火山のふもとの村人たちを選んだとパルマ氏は語っています。
by Ben Turnbull
研究チームは2017年9月のコーヒー豆の収穫前のタイミング(貧困期)と、3カ月後のコーヒー豆の収穫後のタイミング(裕福期)の2度村を訪れています。訪問時、研究チームは109人の村人に対して簡単なゲームを行いました。ゲームの内容は6面サイコロをカップに入れて転がし、サイコロの目を自己申告してもらうというものです。研究チームは村人が出した目×1ドル(約110円)を報酬として支払うことで、被験者たちが偽りの申告を行うか否かを調査しました。ただし、6の目だけは「支払いなし」としたそうです。
研究チームはサイコロがどの目を出したかを確認しないため、個々のプレイヤーが出た目を正確に報告しているかどうかはわかりません。しかし、通常であれば各目の出る確率は同じ16.67%に近い数値となるはずです。
調査の結果、報酬の多い「3」「4」「5」のいずれかの数値を報告した被験者が約85%で、最も高額な報酬を得られる「5」の目が出たと報告した被験者の割合は50%以上を記録したそうです。そして、報酬が得られない「6」の目が出たと報告した被験者はなんと0人でした。
この調査は貧困期と裕福期の2つのタイミングで行われていますが、そのどちらのタイミングであっても申告されるサイコロの目の割合に大きな差はなかったそうです。つまり、虚偽の申告(不正をはたらく)は裕福であろうが貧困であろうが行う人は行うということが明らかになっています。
by Erik Mclean
調査を行った際、パルマ氏はもう一度サイコロを振るように被験者に依頼したそうで、その際の報告されるサイコロの目が「最初に報告した目よりも少ない目」である割合は貧困期は73%、収穫期は75%だったそうです。この結果はどのサイコロの目が報告されるかと同様に、調査が行われたタイミングで大きな変化はありませんでした。
しかし、村人に見知らぬ人(村の外部の誰か)に支払う報酬を決めるためにサイコロを振ってもらったところ、収穫期には高額の支払い(3、4、5)と低額の支払い(1、2、6)が報告される割合は約50%と同じ程度であったのに対して、貧困期には高額の支払い(3、4、5)が見込めるサイコロの目を報告した村人の割合が約70%と増えました。つまり、複数の村人が見知らぬ人の利益のためにウソをついたわけです。
村人たちが貧困期に見知らぬ人々のためにウソをついた理由は、自分の友人や家族に対して抱く懸念を感じたからではないかとパルマ氏は記しています。
by Tina Guina
研究チームは最大の発見として「人々は金持ちであろうと貧乏人であろうとほぼ同じ割合で不正行為を行い、見知らぬ人に対する寛大さは富に依存しないということ」と記しています。ただし、この実験自体はグアテマラの小さな村で行ったものに過ぎないため、より広範囲なデータを必要としています。
パルマ氏は「タイの研究者たちが稲作農家で行った実験でも、我々の実験結果と同様の結論が導き出されています。この研究はまだ発表されていませんが、我々の研究の被験者と同様に裕福なときも貧しいときも個人の利益のためにウソをついたことが明らかになっています」と語っています。
パルマ氏らの研究結果は、「富が人の不正行為に与える影響度合い」は個人の持つ倫理感よりもはるかに少ないということを示唆しています。つまり、個々人が不正をはたらくか否かは、不正に傾倒しているかどうかに寄るところが大きいと研究は示唆しているわけです。この結果は反社会的な行動に関与したり、犯罪に手を染めたりする人々は、そういった遺伝的要因を持っているのではないかという複数の研究結果と一致する内容であるとThe Conversationは記しています。
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