サイエンス

まばたき可能な人工の「目」が登場して治療薬開発が困難なドライアイに光

by Patrick Brinksma

1日に8時間以上コンピューターのモニターを見つめている人は、目が疲れたり乾いたりすることがあります。これらの症状がひどくなると、「ドライアイ」という病気になります。このドライアイ向けの薬剤は驚くほど選択肢が少ないそうで、これは人間の目の複雑な病態生理をモデル化することが難しいためだそうです。しかし、ペンシルバニア大学の研究チームが新しく開発した目の生体機能チップは、人間のまばたきをシミュレートすることが可能であり、リスクおよび倫理的懸念を最小限に抑えながらドライアイ向けの実験薬のテストに使用することができます。

Multiscale reverse engineering of the human ocular surface | Nature Medicine
http://dx.doi.org/10.1038/s41591-019-0531-2

Blinking eye-on-a-chip used for disease modeling and drug testing - ScienceDaily
https://www.sciencedaily.com/releases/2019/08/190805134020.htm

ペンシルバニア大学・生物工学科のダン・フー准教授と大学院生のチョン・ユン・ソ氏の主導による研究で、人間のまばたきをシミュレートすることでドライアイについての理解を深め、治療のために実験薬のテストに使用することができる人工的な「目」が生み出されたことが、科学誌のNature Medicine上で発表されました。


フー准教授の研究室はOrgan-on-a-chip(生体機能チップ)の作成に特化しており、2019年5月には宇宙飛行士の病気を研究するために肺や骨髄の生体機能チップを開発した実績があります。

同研究室で長年研究されてきたのが「目の生体機能チップ」です。なぜドライアイの研究に用いることができる目の生体機能チップを開発したのかというと、ドライアイは世界人口の約14%に影響を及ぼしているにもかかわらず、2010年以降でドライアイ治療薬の臨床試験が200件も失敗しており、アメリカ食品医薬品局の認可を受けた治療薬は2種類しか存在しないほど新しい治療法の開発が困難なためです。

by Motah

研究では「健康な目」と「ドライアイの目」を模倣できるモデルの設計に焦点を当て、人体に危害を加えることなく実験薬のテストが行えるようになることを目標としていたそうです。目の生体チップを開発するため、フー准教授らは3Dプリンターを用いて10セント硬貨サイズのコンタクトレンズのような形状の多孔質な足場を作成し、ここで人間の目の細胞を培養。角膜細胞は円の内側で成長して黄色く染まり、人間の目の白目部分を覆う特殊な組織である結膜細胞は赤い円形に成長するそうです。そこにゼラチンで作った層を載せ、これを人間のまぶたとして機能させることで、まばたきを人工的に再現しました。青色に染色された涙管から人工の涙を供給することで、涙液膜を形成し、人間の目を忠実に再現しています。

フー准教授はチームが開発した人工の目について、「工学的な観点から、まばたきする人間の目の動的な環境を模倣する可能性について考えることは興味深いことでした。まばたきは涙を広げ、目の表面を保湿するための薄膜を生成します。これはデバイスで再現したい目の表面にある重要な特徴でした」と語っており、涙液膜の形成がキーポイントであったと述べています。なお、ドライアイ患者の場合、目の涙液膜が補充されるよりも早く蒸発してしまうため、炎症と刺激が発生するそうです。

また、フー准教授は「当初、ドライアイの目のモデルを作成することは、目の細胞を培養する環境を乾燥した状態に保つのと同じくらい簡単なことだと考えていました。しかし、実際にはドライアイはさまざまなサブタイプを持つ信じられないほど複雑なタ因子性疾患であることがわかりました」と語り、「ドライアイの目」を模倣する目の生体機能チップを開発することの難しさについて語っています。

また、ドライアイの発生と進行には2つのコアメカニズムがあることも発見されています。原因の1つは涙液膜から水分が蒸発すると目の表面の塩分濃度が劇的に増加し、高浸透圧が発生するということ。2つ目は高浸透圧により涙液膜がより急速に薄くなり、しばしば破裂してしまうということです。問題はこのような涙液膜の不安定性をモデル化できるか否かにあったそうですが、研究チームはドライアイの目を忠実に再現するモデルの作成にも成功しています。

by Vanessa Bumbeers

複数の臨床測定を通して研究チームの開発した人工の目が人間の目と同じような働きをするのかが多角的に検証され、涙液膜の塩分濃度や涙液膜が破裂するのにかかる時間を計測し、人間の目を完璧に模倣可能な人工の目が完成しています。さらに、研究チームは開発した目の生体機能チップを臨床試験中のドライアイ治療薬のテストにも使用しており、健康な目とドライアイの目を用いることで治療薬の効果を正しく測定することに成功。

フー准教授は「概念実証をクリアしたばかりですが、コンタクトレンズや目の検査、薬物スクリーニング向け以外にも、目の生体機能チップというプラットフォームが進化し、使用されるようになることを願っています」と語っています。

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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