「実際の患者から体験談を聞くこと」が反ワクチン派の意見を変える

by kfuhlert

病気に対する免疫をつける予防接種は、病気のリスクを減らして感染拡大を防ぐために重要です。しかし、近年では自身や子どもに対してのワクチン接種を忌避する「ワクチン忌避」を掲げる人も増えており、公衆衛生の観点からも反ワクチン派にワクチンの重要性を理解してもらう必要性が高まっています。そんな反ワクチン派の考えを変えるには、「実際に病気で苦しんだ患者から体験談を聞くこと」が効果的だという研究結果が発表されました。

Vaccines | Free Full-Text | Combating Vaccine Hesitancy with Vaccine-Preventable Disease Familiarization: An Interview and Curriculum Intervention for College Students
https://www.mdpi.com/2076-393X/7/2/39

Experiment Reveals How to Make Nearly 70% of Vaccine-Hesitant People Change Their Mind
https://www.sciencealert.com/experiment-suggests-how-to-make-70-percent-of-vaccine-hesitant-people-change-their-thinking

ワクチンは麻疹(はしか)やポリオ、破傷風の予防などに重要な役割を果たします。しかし、近年では多くの人々が既にこれらの重大な病気のワクチンを接種しているため、実際にこれらの病気がどのような症状でどれほど危険なものなのか理解している人は少ないとのこと。

ポリオ患者に使われた人工呼吸器である鉄の肺や天然痘患者の瘢痕(はんこん)、はしかで失明した人を知っている人はほとんどいません。そのため、一部の人々にとっては病気の脅威が現実的なものと感じられず、ワクチンのリスクとメリットを比較検討することが困難になっているそうです。

近年ではアメリカではしかが流行するなど、反ワクチン派の人々によって公衆衛生に問題が及んでいます。先進国では危険な伝染病が自然発生することは少ないものの、発展途上国から病気が持ち込まれることがあれば、ワクチンを接種していない人々の間で感染が拡大するおそれが現実的なものとなっています。

麻疹(はしか)感染拡大のため予防接種を受けていない子どものパブリックスペース外出禁止令が出される - GIGAZINE

反ワクチン派が台頭している現状について微生物学者のBrian Poole氏は、「ワクチンはそれ自身の成功によって被害を受けています」と述べています。ワクチンが効果的だったがために病気がほぼ撲滅されてしまい、ほとんどの人々がワクチンで予防できる病気の脅威について知ることがなくなっているという、皮肉な状況となっています。

そこでブリガムヤング大学の研究チームは、予防接種に懐疑的な人々の考えを変えるための効果的な対策について研究を行いました。まず、研究では600人近い大学生に対してワクチンに関する事前アンケートを行い、スコアによってワクチンについて懐疑的か肯定的かを選別しました。次にそれぞれのグループを混ぜ合わせた上で、病気の患者にインタビューを行わせたとのこと。

一方のグループではワクチンで予防できたはずの病気になった患者に、対照群となるもう一方のグループでは、ワクチンによる予防ができない自己免疫疾患の患者にインタビューを行いました。インタビューでは、既定の質問に沿って症状や生活への影響、家族、財政に及んだ問題などについて答えてもらい、大学生らはインタビュー後に再びワクチンに関するアンケートに答えました。

研究で行われた事前・事後アンケートや患者へのインタビュー全てに参加した大学生は425人であり、そのうち事前アンケートでワクチン懐疑派とされたのは56人、ワクチン肯定派とされたのは369人でした。研究が行われたユタ州はアメリカで最も反ワクチン派が多い地域であり、他の地域よりもワクチン懐疑派が多い結果となったとのこと。

by Daniel Frank

研究の結果、予防接種で防げたはずの病気にかかった患者にインタビューを行ったワクチン懐疑派の75％が、インタビュー後のアンケートでワクチン肯定派に傾きました。また、ワクチン懐疑派だったものの大学でワクチンに関する講義を受講した大学生は、全員がワクチン肯定派になったそうです。

あくまでも今回の研究は、比較的少ない人数で行われたものです。しかし研究チームは今回の結果から、反ワクチン派の意見を変えさせるには、ワクチンの対象となる病気についての理解や実体験を聞くことが効果的である可能性が高いと述べました。