YouTuberなどの実況プレイはゲーム文化・歴史の保存に大きく貢献している
by CMDR Shane
ビデオゲームをプレーヤーが実況しながらムービーに収めて公開する「実況プレイ」はYouTubeの人気ジャンルのひとつで、記事作成時点で9500万人のチャンネル登録者を擁するカリスマYouTuber「PewDiePie」は最も有名なゲーム実況配信者の1人として知られています。そんな実況プレイのムービーが、実はビデオゲームの文化と歴史の保存に大きく貢献していたと、ゲーム情報メディアRock, Paper, Shotgunのライターであるクリス・ウォレス氏は指摘しています。
How YouTube let’s plays are preserving video game history | Rock Paper Shotgun
https://www.rockpapershotgun.com/2019/05/06/how-youtube-lets-plays-are-preserving-video-game-history/
◆プレイ動画には人がビデオゲームから感じる素朴な喜びが記録されている
ウォレス氏によると、実況プレイはビデオゲームそのものをソフトウェアとして保存しているわけではないものの、ビデオゲームが作り出した文化や歴史を保存するという役割を担っているとのこと。
ビデオゲームをアーカイブする国際プロジェクト「Learning Games Initiative」の創設者ケン・マカリスター氏もウォレス氏の意見を支持しており、「Walkthrough(攻略プレイ)」には文化史を保存する上で欠かせない二次資料としての価値があると語っています。特に、プレイヤー自身の声や映像とともにゲームを解説するムービーには、ゲームをプレイしている人の顔や声を通じて、「ゲームの内容が人にどのような印象や影響を与えるか」を知る貴重な資料になるというわけです。
その一例としてウォレス氏が挙げているのが以下のムービーです。このムービーには、「Soapy Warpig」という女性YouTuberが、PlayStation 4(PS4)向けのゲーム「P.T.」を最初から最後までプレイする「Playthrough(通しプレイ)」の様子が収められています。
World first Silent Hills P.T. Demo reveal - Full playthrough from Twitch - YouTube
「P.T.」はコナミがPS4向けに無料配信したホラーゲームで、公開当時その怖さと斬新さで話題となりましたが、2019年時点では配信が終了しています。このため、「P.T.」が一体どんなゲームだったかを知るには、基本的にはプレイ動画を見るしか方法がありません。
また、ムービーにはゲーム画面だけでなくプレーヤーの肉声や、ライブ配信を見ている視聴者のコメントも記録されているので、人々がゲームにどのような印象を抱いていたのかなどがうかがい知れるというわけです。
YouTubeに投稿されているプレイ動画の中には、視聴者受けするためにあらかじめ台本を用意してリハーサルしたり、面白い部分だけを編集したりして作られたものも少なくありませんが、このムービーでは特に大げさなリアクションを取るような様子もなく、淡々とプレイしている一部始終が収められています。そんな一見して地味なムービーの中で、ウォレス氏が特に注目しているのが、ゲームがエンディングを迎えた場面です。
幽霊屋敷の中が主な舞台だったゲーム本編とは様子が異なるシーンにさしかかり、女性は「オーマイゴッド」と繰り返しつぶやくようになります。
そして、ゲームデザイナーとして世界的に有名な小島秀夫氏の名前が画面に表示されると、女性の興奮は一気に最高潮に達し、「オーマイゴッド」という声はもはや悲鳴のように聞こえるほどに。
その後も期待感を抑えきれない様子で「Crazy(イカれてる)」「That was insane.(普通じゃない)」と矢継ぎ早に語りながらエンディングを迎えたところでムービーは終わっています。
ウォレス氏によると、この素朴な喜びや興奮の様子こそが、ビデオゲーム文化を物語る資料として最も重要なものなのだそうです。
また、イリノイ大学情報学部のジェローム・マクダナー准教授は、「『大規模多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲーム(MMORPG)』のようなゲームに人々が魅せられる理由は、多くの場合ゲームの中で展開される人間模様にあります」と指摘しています。MMORPGに登場するのは基本的にあらかじめプログラムされたNPCではなく、実在のプレーヤーに操作されたキャラクターです。このため、仮にゲームのソースコードやログをアーカイブしたとしても、ゲームの中で発生した会話やコミュニケーションの様子を後で完全に再現することはできません。しかし、実際にプレイされているMMORPGの様子がプレイ動画として残っていれば、ゲーム内でリアルタイムに繰り広げられたやり取りをそのままの形で記録に残すことができます。
◆プレイ動画は何の前触れもなく削除される運命にある
しかし、YouTubeのプレイ動画には法的に微妙な権利関係の問題がつきまとっています。ビデオゲームの権利者がプレイ動画に対して寛容な事例としては、「シリアス・サム3: BFE」や「ホットライン・マイアミ」で知られるビデオゲームパブリッシャー「Devolver Digital」が挙げられます。「Devolver Digital」のサイトには、TwitchやYouTubeのチャンネルを登録して、同社のゲームを使用したプレイ動画の配信を収益化する許可を得るための入力フォームが設けられています。
一方で、ゲームメーカーがYouTuberと真っ向から対立した事例もあります。2017年9月には、前述の「PewDiePie」がアドベンチャーゲーム「Firewatch」のプレイ動画を配信している最中に人種差別的な言葉を使用したことを理由に、開発元であるCampo Santoが「PewDiePie」に対し、デジタルミレニアム著作権法(DMCA)に基づく削除を要請し、ムービーの削除を迫る事態が発生しました。
Campo Santoのゲームデザイナーであるシーン・バナマン氏は自身のTwitter上で、「この子どもが、私たちが作ったもので金もうけをすることには、ほとほとうんざりさせられます」とツイートしました。
I am sick of this child getting more and more chances to make money off of what we make.
— Sean Vanaman (@vanaman) 2017年9月10日
これを受けた「PewDiePie」は「My Response(私からの回答)」と題した謝罪ムービーを公開し、要請のあったムービーをYouTubeチャンネルから削除しています。
My Response - YouTube
この騒動は、「Firewatch」のSteamストアページのコメント欄が一時炎上する事態にまで発展しました。Steamストアページにあるレビューの推移を示したグラフを見ると、2017年9月にリリース直後に匹敵するほど多数の「不評」が集中しているのが分かります。
ウォレス氏は、「いかにファンの支持を集めたプレイ動画であっても、なんらかの問題により突然消え去ってしまうものだ」と語り、ビデオゲームの文化と歴史を後世に残すことがいかに難しいことかを強調しています。
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