サイエンス

環境に優しい冷媒「柔粘性結晶」が発見される、今後エアコンや冷蔵庫に使われる可能性も

by cookelma

イギリスのケンブリッジ大学とスペインのカタルーニャ工科大学は共同研究により、ネオペンチルグリコールの「柔粘性結晶」が冷媒として非常に優れた性質を持つことを発見したと発表しました。これまでの冷媒はガスでしたが、新素材は固体なので空気中に放出されにくく、しかも安価で環境にもやさしいとのことです。

Colossal barocaloric effects near room temperature in plastic crystals of neopentylglycol | Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-019-09730-9

Green material for refrigeration identified | University of Cambridge
https://www.cam.ac.uk/research/news/green-material-for-refrigeration-identified

冷蔵庫やエアコンの冷媒に使用されていたフロンガスはオゾン層を破壊してしまうため、2019年現在では代替フロンと呼ばれるガスが冷媒として使われています。しかし、この代替フロンもまた強力な温室効果ガスとして環境を破壊してしまうため、冷媒となる新素材の開発が熱望されてきました。

by Satura_

そんな中、ケンブリッジ大学のザビエル・モヤ博士とカタルーニャ工科大学のジュゼップ・リュイス・タマリット博士がガスの冷媒に代わる新素材として注目したのが、柔粘性結晶です。柔粘性結晶とは、構成する分子が固体のように規則的に並んでいる一方、まるで液体のように分子の向きがバラバラなので、液体と固体の中間の状態にある物質のこと。似たような物質に液晶がありますが、液晶は柔粘性結晶とは逆に分子が液体の様にバラバラである一方、分子の向きは固体のようにそろっています。

by Pxhere

モヤ博士らは、粒径が約100マイクロメートルの粉末状になったネオペンチルグリコールの柔粘性結晶に圧力をかけて、温度変化を測定しました。すると、従来使用されてきたガスの冷媒に匹敵するほどの温度変化が見られたとのこと。ガスの冷媒も加減圧により圧縮・膨張させた際に吸熱・発熱する性質を利用して冷却を行いますが、柔軟性結晶は全く別の原理で温度が変化します。柔粘性結晶は、圧力をかけて結晶を構成する粒子の向きをそろえて相転移を引き起こして急激な熱の変化をもたらす「barocaloric effect(圧力熱量効果)」を用いて、冷却を行います。また、圧力だけでなく電気や磁力でも同様の効果を発生させることが可能だとのこと。

ネオペンチルグリコールは塗料や潤滑剤の合成に広く使用されていて安全性が高く、環境への負荷も小さい物質です。また、気体ではなく固体なので回収や管理も比較的容易で、オゾン層を破壊したり、温室効果をもたらしたりする心配もありません。モヤ博士は論文の中で「世界で生産されているエネルギーの5分の1が冷房や冷凍などの冷却に使われていますが、ガスの冷媒を用いたエアコンや冷蔵庫は効率がよくありません」と指摘。固体の冷媒が普及することでより環境に優しい冷却技術が確立されると期待を寄せており、今後はケンブリッジ大学の商品化部門と共同してこの新技術の実用化を目指していくとのことです。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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