地球温暖化対策として大気中に微粒子をまいて太陽光を弱める実験が2019年に始まる
By Nick Rowland
地球の気候変動のうち、温暖化は太陽から届く熱エネルギーを大気中の温室効果ガスが蓄えることで起こっていると考えられています。この温室効果ガスを減らすことが温暖化に対する取り組みの主な柱となっているわけですが、逆に「太陽から届くエネルギーの一部を遮る・反射することで地球の気温が上昇することを防ぐ」という方法についての検証実験が2019年にも始まります。
First sun-dimming experiment will test a way to cool Earth
https://www.nature.com/articles/d41586-018-07533-4
First geoengineering experiment to dim the sun on track for 2019
https://www.dezeen.com/2018/12/11/first-solar-geoengineering-experiment/
ハーバード大学の研究者チームが進める「The Stratospheric Controlled Perturbation Experiment(SCoPEx:成層圏制御摂動実験)」と名付けられたプロジェクトでは、Stratospheric Aerosol Injection(SAI:成層圏エアロゾル投入)と呼ばれる手法の検証が行われます。実験では、建築用のセメントや胃腸の「制酸剤」などとして用いられることが多い炭酸カルシウムの粉末を空中に散布し、地域一帯の環境がどのように変化するのかを観測します。
SAIは自然現象の中でその効果がすでに実証されています。それは巨大な火山の噴火による気候の小規模な変動です。大きな火山が噴火し、大量の火山灰が巻き上げられて大気の成層圏に達すると、上空に薄く散らばった火山灰によって日光の一部が遮られ、地球の平均気温が下がるという現象がこれまで何度も確認されています。
1991年に起こったフィリピンのピナトゥボ山の大噴火では、約15カ月にわたり地球の平均気温が0.6度下がったことが確認されており、研究者チームはこの状況を人工的に作り出すことで、温暖化を食い止められるかどうかの検証を行います。
実験では、高度10km~50kmの成層圏に炭酸カルシウム粒子を噴射して気候に与える影響を観測します。実験を行う地域はアメリカ南西部地域で、気球を使って高度20kmの地点で粒子をまきます。将来的には、高高度を飛行する航空機から粉末をまく方法を使うことで、年間100億ドル(約1兆1500億円)以下で地球の平均気温を1.5度程度下げることができると考えられています。
近年のコンピューター技術の発展により、全球の気候モデルをスーパーコンピューターで再現することができるようになっていますが、現在の技術ではそれでもなお最終的な実地観測を行うことが不可欠であるとのこと。研究チームでは、実際に炭酸カルシウムの粉末をまくことによる変化を観測することで、効果の実情を調査することにしています。
世界各国の温暖化対策が暗礁に乗り上げようとしている中、ジオエンジニアリングによる対策を「温暖化対策の切り札」とする見方も出ています。しかし、ジオエンジニアリングが地球にどのような影響を及ぼすのかについてはまだまだ理解されていない部分も多いために、慎重論も唱えられています。また、温暖化の最大の原因である温室効果ガスの排出そのものを減らすわけではないため、根本的な解決方法ではないという見方も示されているとのことです。
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