地上数万メートルに化学物質をスプレーすることで地球温暖化を食い止めようという計画

by PiccoloNamek

18世紀に起こった産業革命以降、人類は化石燃料からエネルギーを作り出し、驚くべきスピードで文明を発展させました。反面、温室効果をもたらす二酸化炭素やメタンの排出量が激増したことで、地球温暖化を引き起こしたといわれていますが、地球温暖化を防ぐ方法の1つとして「Stratospheric Aerosol Injection(SAI、成層圏エアロゾル注入)」が注目されています。そんな中、ハーバード大学とイェール大学の研究者が、SAIについての最新の研究論文を発表しています。

Stratospheric aerosol injection tactics and costs in the first 15 years of deployment - IOPscience
http://iopscience.iop.org/article/10.1088/1748-9326/aae98d/meta

We Could Spray Cheap Chemicals in the Air to Slow Climate Change. Should We?
https://www.livescience.com/64183-solar-dimming-air-spray-climate-change-cost.html

火山の噴火によって、噴煙の中に含まれる二酸化硫黄が成層圏に噴霧されると、成層圏中で二酸化硫黄が硫酸塩エアロゾルに変化し、太陽から降り注ぐ光の一部を反射します。1991年に起こったフィリピン・ピナトゥボ火山の大噴火の際にこの現象が発生し、太陽光の反射によって地球の気温が下がったことが確認されました。

この火山の噴火による世界的な冷却効果を模倣した「太陽の熱を反射するための化学物質を成層圏中に噴霧する」という方法で、地球温暖化の影響を食い止めようという試みがSAIです。このように、人為的に太陽光を反射させて気候を操作する手法や技術を「ソーラーエンジニアリング」あるいは「ジオエンジニアリング」と呼びます。

二酸化硫黄は決して値段が高くないため、コストを比較的安く抑えることができるそうです。研究チームの計算によると、15年後にSAIの取り組みを開始すると仮定した場合、準備にかかる総コストはおよそ35億ドル(約4000億円)で、その後15年間の維持コストは平均22億5000万ドル(約2500億円)かかるとのこと。

2018年11月23日に発表された国家気候評価では、気候変動の影響によって2100年までにアメリカのGDPが10％低下し、2018年現在ではその経済的損失はおよ1兆9000億ドル(約220兆円)にのぼるそうです。これは2000年代にあった大規模な経済的衰退であるグレート・リセッションの約2倍の規模とのこと。数千億円という金額は非常に高いように思えますが、温暖化を放置することによる天文学的損失に比べれば、SAIのコストははるかに安くつくというわけです。

ただし研究チームは、二酸化硫黄を噴霧して効果を得られるほどの高度を飛べる飛行機の開発は、既存の航空機設計では難しいと論じています。論文の共著者であるイェール大学のWake Smith氏は「飛行機が日常的に飛び交う地上から3万5000フィート(約1万1000メートル)の高さで化学物質を噴霧しても、重力の影響によって数日で雨になって地上に降り注いでしまいます。しかし、成層圏に噴霧すれば、化学物質はおよそ12カ月～18カ月にわたって上空にとどまります」と語っています。

by Hughhunt

また、Smith氏は「グリーンランドのすべての氷が海に溶け出してしまうと、海面が急上昇して、世界中の海岸線が氾濫するシナリオを想定しています。どれだけ地球を冷やしても、温暖化で溶けてしまった氷が海から陸地に戻ってくることはありません。グリーンランドの氷は何百万年も雪が降り積もった結果です」と語り、ジオエンジニアリングは研究する意義があるものの、それは決して地球温暖化による影響を完全に解決するものではないことを理解するべきと述べています。