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ソフトウェア開発者が感じる企業への不満とは?


2008年に起きた金融危機「リーマン・ショック」から10年たち、多くの企業が資本不足から立ち直ってきています。2018年現在では「世界経済には技術者が不足している」と言われており、多くの企業が高い能力を持つソフトウェアエンジニアを採用しようと躍起になっているとのこと。しかし、オンライン決済サービスを運営しているStripeと調査会社のHarris Pollが、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、シンガポールの企業の経営幹部や開発者数千人を対象に行った調査で「多くの開発者が企業に対して何らかの不満を持っていること」が明らかになっており、企業と開発者の間で認識に差があることを指摘しています。

開発者の生産性: 3,000 億ドルの潜在的利益
https://stripe.com/reports/developer-coefficient-2018

The Developer Coefcient
(PDFファイル)https://stripe.com/files/reports/the-developer-coefficient.pdf

このグラフは「今、会社の成長を阻害していると思われる原因として、次の8つの要素がどの程度大きく影響していますか?」と企業の経営層に質問したときの回答を表したものとなっています。このグラフを見ると、「優秀な人材の確保」「規制」「ソフトウェアエンジニアの確保」「人材管理」「資本の確保」「古いITインフラ」が50%を超える位置にあることがわかります。また、「優秀な人材の確保」が1位、「ソフトウェアエンジニアの確保」が3位といずれも上位にあり、質問に回答した半分以上の企業が人材確保を課題に挙げています。7位以降は「市場の適合」や「移民対応」が挙がっていました。


以下は、経営層が「ビジネスの成功には、次の8つの要因がどれぐらい脅威となっているか?」という質問に回答したものです。これを見ると、66%の企業が「セキュリティリスク」が脅威であると回答しており、多くの企業が最も脅威に感じる項目であることがわかります。また、「規制の増加」「テクノロジー業界の崩壊」「優秀な開発者の確保」「中国企業との競争激化」も6割を超えており、規制を除けば、ここでも人材の他に技術に関する部分もリスクに含まれていることがわかります。また、「法人税」「関税」「イギリスのEU離脱」など外的要因によるリスクも6割近くの経営層がリスクとして認識しているようでした。


次の質問は「開発者が次の4つの要因にどれくらい関わる必要があるか?」というもの。これについて約70%の経営層は「製品を早期に市場に投入すること」「販売数を増加させること」の2点に大きく関わって欲しいと考えていました。また「競合他社から差別化されたサービスや製品の開発」「内部報告・可視化」を期待する企業も65%以上あることがわかっています。


「来年に開発者の数をどのようにしたいか?」という質問に対して、56%の経営幹部は「増やしたい」と回答しており、半数以上の企業がエンジニアを増やしたいとしています。「現状維持」または「減らしたい」と回答した企業はともに20%以下となっており、開発者の数を増やしたくないと考える企業は少なくなっていました。56%の企業は増やしたいと回答しましたが、ドイツの企業だけにしぼったときに「増やしたい」と回答した企業は46%と他の国と比べて最も低い水準となっていたことが明らかになっています。


このように多くの企業は「開発者の確保」に躍起となっていますが、多くの開発者はデバッグやリファクタリングなど、プログラムのメンテナンスに週17時間以上を費やすことが明らかになっており、この結果として、機会損失の額は毎年約850億ドル(約94兆円)に上るとされています。このため、多くの企業は開発者の生産性を向上させる施策を講じる必要があるとされています。

以下のグラフは経営層に対して「会社として、開発者の生産性を向上させることの優先順位はどの位置にあるか?」と質問したものです。すると、96%の経営層は「真ん中よりは高い位置にある」と回答しており、多くの企業では開発者の生産性を高める必要があると考えているとのこと。


一方、開発者に対していろいろな質問をすると以下の通りの回答が返ってきています。このグラフは開発者に対して「週何時間働いてますか?」と質問したもので、平均的に41.1時間、国別で最も低かったフランスで39.6時間となっており、1日8時間ほど働いているとのこと。


「そのうち、デバッグやエラー、リファクタリングなどのメンテナンス対応に追われる時間はどのくらいですか?」との質問には、平均17.3時間、最も多いフランスで平均20.9時間と開発者が回答しています。


また、「時間がなく、やむなくリリースしてしまった製品内に存在する『技術的負債』の対応に費やすのは週何時間ほどか?」との質問には、13.5時間と回答していることがわかっています。このため、週41.1時間働くうち、会社の技術的負債に13.5時間、開発中のソースコードのデバッグなどに3.8時間ほどかけていることがわかります。


以下のグラフは開発者に対して、「ソースコードの修正対応にかける時間が多すぎると思うか?」との質問に回答したものです。これによると、開発者全体の約6割が「多いと感じている」とのことでした。また、シンガポールの企業に務める開発者の約70%が「多い」と回答していることが判明しました。


開発者に対して、「自分の会社の生産性レベルを100点満点で評価するとしたら、何点をつけますか?」と質問には、平均で68.4点を付けていることがわかりました。このため、多くの開発者は何らかの不満を自身が勤める企業に感じているようです。


「開発者として働く上で、生産性を阻害している要因となっているのはどれですか?」との質問には、「古いシステムや技術的負債」と答えた開発者が52%、「リーダーのプロジェクトやタスクの優先付けが悪い」と回答したのが45%、「独自技術の開発」と答えたのが40%となっていました。


また、「開発者として働く上で士気の低下につながっているものはどれですか?」との質問には、81%の開発者が「作業負荷が高いこと」と回答。以降は「これまでに作ったコードを破棄するような、プロジェクト優先順位の変更」「品質の低いソースコードを修正するための時間がほとんど与えられないこと」「古いシステムの対応に長時間かけないといけないこと」「自分が全く関わってない技術的負債に対応しなければならないこと」と続いていました。


多くの企業の経営層は、競合他社の脅威を大きく感じているため、インフラやR&D(研究開発)に関われる開発者の採用に高い優先順位をつける傾向にあります。これらの企業は開発者の数を増やすだけで、AIやIoT、ブロックチェーンなどを使ったサービスが行えるものと楽観的に考えているとのこと。しかし、企業で働く開発者はただ数を増やすだけでは優秀な技術者が集まらないことを危惧しています。

以下は経営層に対して「どの業種の会社がビジネスに大きな影響を与えると考えていますか?」と質問したものです。これによると、44%の経営層が「テクノロジー企業」を挙げており、約半数の企業は他社に技術的優位に立たれることを危惧しているとのこと。また、36%が「銀行・金融」、27%が「エンジニアリングサービス」と回答。以下は「電気通信会社」「製造業」「小売業」と続いています。


このグラフは経営層が「今後5年間で投資額を増やす予定の分野を3つ挙げるとしたらどれですか?」との質問に回答したもの。これを見ると、1位は「ソフトウェアインフラと技術」の43%、2位が「R&D」、「優秀な技術者の採用」の31%となっていて、多くの経営層は技術面への投資を考えているようです。4位以降は、「マーケティング」「販売」「顧客サービス」と続いています。


以下のグラフは経営層が「現在と比較して、10年後にソフトウェア開発のコアコンピタンスがどれくらい必要となるか?」との質問に回答したもの。これを見ると、81%の企業がより多くのコアコンピタンスを持つべきだと考えています。


次のグラフは「今どの分野が会社の中でホットなものになっているか?」との質問に開発者と経営層の両方が回答したものです。これによると、1位は開発者の28%、経営層の34%が回答した「AI」となっています。2位以降は「IoT」「SDS」「APIサービス」が挙げられています。


「10年後に会社に大きな影響を与えていそうなトピックは何ですか?」との質問には、「AI」がトップで開発者と経営層のそれぞれ41%が回答。2位以下は「IoT」「バーチャルアシスタント」「ブロックチェーン」「機械学習」と続いています。


以下は「これらのトレンドに対応できるだけのリソースが自社にあると思いますか?」と経営層に質問したものです。すると、83%の経営層は「十分または大体そろっている」と回答しています。


しかし、同じ質問を開発者にしてみると、77%が「十分または大体そろっている」と回答。経営層よりは少ない割合となっていて、開発者は現状をややシビアに見ているようです。


また、「そろってない」と回答した23%に「なぜそう思うか?」と質問したところ、44%の開発者が「今さら参入してもトレンドとなっている技術レベルに追いつけない」と回答し、参入するタイミングを逃していると考えているようでした。また、42%の開発者は「今の従業員が十分なスキルを持っていない」と回答し、現状を考えたらとても対応できる人員はいないとしています。36%は「リーダーが最先端技術を選ぼうとしない」、「会社は長期的目標として定めた利益のラインを維持するために、短期的な利益にばかり固執している」と回答していて、会社の体制的に無理だと判断していました。また、33%は「実績やノウハウがないため、対応できるわけがない」と回答し、現状を考えると難しいと考えているようでした。

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in メモ,   ソフトウェア, Posted by darkhorse_log

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