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かつて人を喜ばせる存在だったピエロは今や「恐怖の象徴」として認識されつつある


ピエロ(道化師)は本来おどけた動きや曲芸で人びとを笑わせる存在ですが、ピエロ恐怖症という症例がある通り、ピエロに恐怖を覚える人が増えています。このピエロ恐怖症を生んだきっかけの1つがスティーヴン・キングの作品「IT」だといわれています。ピエロがなぜ恐怖の象徴となっていったのか、ScreenPrismが「IT」を参考にしながら解説しています。

Stephen King's IT: Why Clowns Are Scary - YouTube


「IT」はスティーヴン・キングが1986年に発表した長編小説です。


「IT」は1990年にテレビ映画として公開されました。


また2017年には劇場版が公開され、全世界で7億ドル(およそ770億円)というホラー映画でトップの興行収入を記録して話題となりました。


「IT」に登場するピエロが「ペニーワイズ」です。


ペニーワイズ以前にも、テレビ番組「Bozo the Crown」のボゾやマクドナルドのドナルドなど、ピエロのキャラクターは存在していました。これらの愛すべきキャラクターは、ペニーワイズの下敷きになっているといえます。


しかし、キングは「IT」の中でペニーワイズを愛すべきキャラクターではなく、「究極の悪」「最も身近な恐怖」として描きました。


ペニーワイズはただ子どもに襲いかかるだけでなく、日常を非日常にゆがめることによって恐怖をあおります。


ペニーワイズは自由に姿を変えて子どもたちの前に現れます。その姿の1つがピエロでした。


ペニーワイズが「面白おかしい道化師」の姿をとって現れるのは、獲物である子どもたちに近づくためです。


「IT」で浮き彫りにされるのは「Stranger Danger(見知らぬ人の危険性)」による恐怖です。日本でも「知らない人についていったらいけない」といわれるように、子どもにとって知らない人は怖い存在です。


「Stranger Danger」は動機を持たずに欲求に従って行われる悪であり、人間性の中にある悪であるともいえます。


例えば、映画の冒頭で最初にペニーワイズの犠牲になるのはジョージィです。


兄から借りたおもちゃの船を下水に流してしまい、それを拾おうとしたところをペニーワイズに捕まり、殺されてしまう場面は「IT」でも最も有名なシーンです。


幼い子どもをだまして殺してしまうのは、まさに純粋な悪といえます。


一方で、ペニーワイズは「Stranger Danger」以外にも、「身近な恐怖」という形をとって子どもの前に現れます。


例えば、劇中で父親から虐待を受けている少女の前には、ペニーワイズは父親の姿に変化して現れます。


さらに物語では、劇中の子どもたちが年を取るにつれて恐怖の対象がどのように変化するかも描かれていきます。


純粋な悪と恐怖を象徴するペニーワイズは常に風船を持ち大声で笑うピエロの姿で登場しますが、ペニーワイズがピエロの格好をしていることで恐怖が増すのには理由があります。


ピエロに対して覚える不気味さは人形に対する不気味さに近いものがあります。人形やマネキン、CGなど、精巧に人間を模したものに対して人は一定の恐怖感や嫌悪感を覚えるといわれています。


この「不気味の谷」と呼ばれる現象は、古来よりホラー映画に利用されています。


例えば1988年に公開されたホラー映画「チャイルド・プレイ」は、殺人鬼チャッキーの魂が人形にとりついて人間におそいかかるというものですが、リアルな人形の顔の不気味さが恐怖をあおっています。


厚い化粧を塗ったピエロの顔は表情が読めずにわずかに人間離れしたものとなり、人形のような不気味さを演出します。これがピエロが与える恐怖感の1つになっています。


さらに、ピエロの「中の人」の正体を隠す化粧や衣装は、ピエロの非日常的でミステリアスな印象を増幅します。


実際にピエロは身を隠して現実から逃避するための手段として用いられたという歴史があります。


最も有名な例が、1970年代に少年を含む33名を殺害し全米を震え上がらせた殺人鬼のジョン・ウェイン・ゲイシーです。


ゲイシーはピエロの格好をして地元ケンタッキー州の福祉施設を訪れたり、収監された刑務所の中でピエロの絵を何枚も描いたりと、ピエロに対してある種の執着を見せていました。ゲイシー本人はピエロの格好をしていた時に最も精神的やすらぎを得ていたと語っています。


2016年には同じくケンタッキー州で、夜間にピエロの格好をした男が出没して話題となりました。


ピエロの格好をした男は特に悪事を働いたわけではありませんが、住民に不安と恐怖を与えたとして警察に逮捕されています。この事件から、人びとに笑いを届けるはずのピエロが、アメリカでは恐怖の象徴へ変化したことがよくわかります。


人を笑顔にするピエロですが、正体がわからない不気味さや過去の陰惨な事件から、「IT」では悪を象徴する存在に姿を利用されました。その結果、今や人びとの間ではピエロは恐怖を与える存在となっているといえます。

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in 動画,   映画, Posted by log1i_yk

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