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映画の「狂気」は精神障害の見方をどのように変えていったのか?

by Mark

「狂気」は映画で頻繁に登場するテーマですが、狂気がステレオタイプな描かれ方をすることで、精神障害に対する現実の人々の見方も大きく影響を受けているとのこと。映画史の中で狂気がどのように描かれてきたのか、ジャーナリストのArwa Haider氏が記しています。

BBC - Culture - How cinema stigmatises mental illness
http://www.bbc.com/culture/story/20180828-how-cinema-stigmatises-mental-illness

映画の歴史の中で「狂気」は頻繁に登場するテーマで、近年の作品としては、精神科医のロナルド・D・レインを題材にした「Mad to Be Normal」やNetflixの「マニアック」などが存在します。

『マニアック』予告編 - Netflix [HD] - YouTube


映画によって狂気の扱われ方は異なりますが、上記の2作品は、精神の複雑さや脆弱性に焦点を当てた非常にクリエイティブな内容となっているとのこと。「マニアック」で主演を務めたエマ・ストーンが「私が『マニアック』で好きなところは、内面に葛藤を抱えた人々が自分を修復するために薬を飲むけれど、結局のところ人生に大切なのは人とのつながりや愛だということがわかるところです」と語っていることからも、狂気が一面的に描かれていないことが見て取れます。

狂気に対する人々の印象は、小説や回想録よりも「映画」によって影響を受け、固定されてきましたが、映画史の中で狂気が多面的に描かれるようになったのは最近のこと。1975年に公開された「カッコーの巣の上で」は「狂気」に関して人々に影響を与えたものの1つといわれています。映画の中で主人公のマクマーフィーは刑務所がイヤで精神異常を装い精神病院に入院することに成功しますが、精神病院で騒ぎが起きたときに「電気けいれん療法(ECT)」を受けさせられます。このとき、ECTは「お仕置き」として描かれ、視聴者に恐怖を植え付けることになり、2011年にTelegraphは「映画は取り返しの付かないほどにECTのイメージを変えてしまった。ECTは、患者が通常の生活を送れるようにする有効な抗精神病薬の開発に関わっていたのに」と記しています


「カッコーの巣の上で」の主人公・マクマーフィーを演じたジャック・ニコルソンは、1980年の映画「シャイニング」でも「狂った男」役を演じています。シャイニングを始めとし、「13日の金曜日」「エルム街の悪夢」など、狂気を扱う映画の多くはホラー映画でした。ホラー映画の中で「狂気」は「邪悪なこと」として扱われ、恐ろしさの効果を高めるために狂気を持つキャラクターが覆面をかぶったり、醜い外見をしていることもしばしばあります。

心理学者のダニー・ウェディング博士は著書「Movies and Mental Illness: Using Films to Understand Psychopathology」の中で「『サイコ』のような映画は統合失調症解離性同一性障害の関係を視聴者に混乱させます。また『13日の金曜日』や『エルム街の悪夢』は『精神病院を離れた人は暴力的で危険である』という誤解を生み出し、『エクソシスト』は『精神障害は悪魔に取り付かれる事に等しい』と示しています。『カッコーの巣の上で』は『精神病院は患者に対する福祉や患者の権利が存在しない刑務所のような場所』として描きました。これらの映画はいまだに続く精神障害の『汚名』の源になっています」と述べています。

一方で、映画の中で女性の狂気が、過度に「性」を強調される形で登場することも。1986年の「ベティ・ブルー」、2010年の「ブラック・スワン」も、男性キャラクターの狂気とは異なる形での、女性の狂気を描いています。



女性の狂気の主流は、1987年の「危険な情事」で描かれた「ヒステリー」に代表されます。「危険な情事」は、グレン・クローズ演じるキャリアウーマンのアレックスが妻子を持つ男性との情事をきっかけに、殺人を企てる狂女に変容するというスリラー映画です。

メンタルヘルスの治療や理解を向上させる活動を行うパトリック・J・ケネディ氏は、危険な情事に登場したアレックスという狂気のキャラクターが「人々が精神障害の烙印を押すことに寄与しています。これは独創性に富んだ映画で、残念なことに、グレンは素晴らしい仕事をしてしまったのです」として、優れた映画が視聴者に精神障害についての偏見を植え付けてしまっていることを示唆しました。


映画という形を取る以上、物語には「結末」が必要であるため、映画に登場する狂気はしばしば悲劇的な結末を迎えます。

ただし21世紀に入り、映画は少しずつ新しい形を取るようになりました。精神障害についてもステレオタイプな狂気としてではなく、より繊細な描かれ方が行われるようになってきました。この1つがエマ・ストーン主演の「マニアック」だといえます。2001年の「私は『うつ依存症』の女」や2004年の「終わりで始まりの4日間」は若い世代の見方を映画の中に持ち込み、「悪夢のような施設とその収容者」という精神障害のイメージを、現代的なリハビリ用語や「サービスユーザー」という言葉で置き換えていきました。また、2012年の「ドニー・ダーコ」では気分障害を持つ不安定な少年の心が繊細に描かれ、同じく2012年公開の「世界にひとつのプレイブック」は躁鬱病の主人公とセックス依存症のヒロインが繰り広げるロマンティック・コメディ作品です。


狂気はいまだ映画の中で多く取り上げられるテーマであるものの、近年は徐々にその扱われ方が変化しています。これは、映画が人々に影響を与えるのと同様に、人々の精神障害に対する考え方の変化を受けてのものだとみられています。

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in 映画, Posted by darkhorse_log

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