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「言葉がない」がゆえに認識や行動が変わってしまう「Hypocognition」は何が問題なのか?

by Ben White

「愛する人の髪にそっと指をとおすしぐさ」をブラジルポルトガル語で「CAFUNÉ(カフネ)」と呼ぶなど、日本語には直訳できないような「存在しない言葉」や「存在しない概念」はそれぞれの文化・国によってさまざまなものが存在します。このような言語あるいは認知表現が欠如していることを指す「Hypocognition」は、人の認識や行動にも影響を与えます。Hypocognitionがどのような問題を引き起こすのか、ミシガン大学の社会学者Kaidi Wu氏が述べています。

PsycNET Record Display - PsycNET
http://psycnet.apa.org/record/2017-42077-001

Unknown Unknowns: The Problem of Hypocognition - Scientific American Blog Network
https://blogs.scientificamerican.com/observations/unknown-unknowns-the-problem-of-hypocognition/

「Hypocognition」は人類学者のロバート・レビーによって作られた「オブジェクトに対する言語あるいは認知表現の欠如」を示す言葉です。レビーはタヒチの言葉を26カ月にわたって勉強した際に、タヒチには悲嘆や罪悪を表す言葉がないことに気づきました。タヒチの人々は、身近な人が亡くなった際に「悲しい」という表現ではなく「気分が悪い」「変な気分」という表現を使ったとのこと。レビーは、悲しみについて考えたり表現する枠組みの欠如が、タヒチの人々の高い自殺率の一因であるとみています。


Hypocognitionは、タヒチの人々に限られたことではなく、私たちの日常レベルで存在します。およそ3分の2のアメリカ人にとって複利の概念はHypocognitionであり、3分の1のアメリカ人にとって2型糖尿病もHypocognitionです。これらの言葉を知らないことで、人々は破産したり、病気の症状を認識しているにも関わらず必要な治療を受けることができなかったりします。1つの文化の「中」に存在してしまうと、その文化を見ることが難しくなることをHypocognitionは説明しており、「見えない」ものを「見る」ためにはその文化を離れるしかありません。

たとえば、ロシアにはダークブルー(sinii)とライトブルー(goluboi)ははっきりと区別された色として扱われますが、英語では「ブルー」というくくりで扱われています。英語の話者は青色の違いを混乱しやすいことが研究でわかっていますが、これは視覚に問題があるのではなく、言語としての明確な差異がないことに起因しているとのこと。

このようなHypocognitionが引き起こす問題は、感情レベルの物事にも及びます。例えばヤーガン語には「同じことを望んだり考えたりしている2人の間で、何も言わずにお互い了解していること(2人とも、言葉にしたいと思っていない)」という意味を持つマミラピンアタパイという言葉が存在しますが、マミラピンアタパイという表現を持たない文化の人々は、気持ちを表現することが難しいはず。また、赤ちゃんを見ている時のような、「かわいいものを抱きしめたい時の避けがたい衝動」は、タガログ語で「ギギル」といいます。

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さらに、「妻が忙しいことを知りながら、朝食を作るように不作法に振る舞って要求し、結果として朝食を作ってもらえた男性の気持ち」は、英語では表現できないものの、日本語では「甘え」と表現できるとも示されています。この場合の男性は「妻が朝食を作ってくれた」ということではなく、「妻が不作法に要求したにも関わらず朝食を作ってくれた」ということを通して「愛されている」と感じます。

Hypocognitionを認識していくことは重要ですが、一方で、外国の文化を知っていくなかでHypocognitionと遭遇すると、「外国のもの」「奇異なもの」と捉えられる危険があるとのこと。たとえそれが本質的に意味のあることであっても、「自分とは関係ない」と考えて見逃してしまうのです。

一方で、Hypocognitionへの反応が逆方向にふっきれると、今度はHypercognition(過認識)という状態になる可能性があるとのこと。例えば近年は「心理的ストレス」という言葉が頻繁に用いられるようになってきました。そのため、本当は心理的ストレスと肉体的な病気の関係は非常に複雑で不確実なことも多いにも関わらず、多くの人が「心理的ストレス」という言葉を過剰に使っています。

典型的な英語話者は60歳になるまでに、辞書に書かれている4万8000語の言葉を扱うようになると言われています。このような能力を持ってしても知らず知らずのうちにHypocognitionのワナにはまってしまうことは避けられません。そのため、Hypocognitionという言葉が存在することを認識することで、より賢明で、豊かな人生を送れるようになるかもしれないとWu氏らは述べました。

by Dmitry Ratushny

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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