食卓に間もなく「昆虫」がやって来る


日本ではイナゴやカイコのサナギ、はちの子といった昆虫を食べる文化が一部の地域に存在していますが、食料不足が叫ばれる世界でも昆虫は重要なタンパク源として期待されています。食用の昆虫が間もなく一般家庭の食卓を飾るようになるということで、食用昆虫に関するさまざまなデータをBloombergが紹介しています。

Bugs Are Coming Soon to Your Dinner Table
https://www.bloomberg.com/graphics/2018-insects-as-food/

フィンランド南部で500年も続く畜産農家のシコネン家は、これまで豚を飼育してきたのですが、世界の食糧危機を解決するために6本足の昆虫・コオロギを養殖するようになりました。豚の飼育による収入が徐々に減少していったことで、シコネン夫婦は1200頭の豚を飼育していた養豚場を、温度調整されたコオロギ養殖場に変えることに決めます。2018年のシコネン夫婦のコオロギ養殖場の目標生産量は1500kg。なお、生産されたコオロギの多くはチョコレートやクリスプ・ブレッド、バースナック、グラノーラなどの原料となります。

養豚場から養コオロギ場へと転身したシコネン夫婦。左がキルシさんで右がジョコさん。


コオロギの飼育スペースでエサとして穀物の混合物を与えているキルシさんは、「コオロギの養殖では肥料をかき集める必要がないので、重労働がなく、においも少ないんです」「養豚場での仕事に比べて物理的に楽で、コオロギは噛んだりしません。でも、豚は好奇心から噛んでくるんです」と語り、養豚場の頃よりも仕事の負担が減ったことをアピールしています。


コオロギの養殖が優れているのは仕事としての労力が少ないというだけではありません。コオロギなどの昆虫は既にアジアを中心とした20億人の食生活の一部となっており、牛肉・豚肉・鶏肉を生産する際の環境的・社会的コストと比べても雲泥の差があります。コオロギの養殖に必要な敷地面積は牛・豚・鶏の畜産に比べてずっと小さく、飼育で排出される温室効果ガスの量も圧倒的に少なくなります。

以下の図は昆虫と鶏・豚・牛の飼育を4つのポイントで比較したもの。縦列の左から昆虫・鶏・豚・牛を示しており、横行の上から「1kg生産するのに排出される温室効果ガスの量」「1kg生産するのに必要な飼料」「1gのタンパク質を生産するのに必要な敷地面積(平方メートル)」「1gのタンパク質を生産するのに必要な水分量(リットル)」を示しています。昆虫の養殖が地球環境に優しく、かつコストも低く済むことは明らか。


プラスチック容器の中で飼育されているコオロギ


アメリカ食品医薬品局(FDA)によると、1kgのコオロギを飼育するのに必要となる飼料は、同じ量の牛を飼育するのに必要となる飼料のわずか5分の1以下です。また、昆虫は水分をあまり摂取せず、抗生物質や成長ホルモンを与える必要もないという特徴もあります。

以下の図は世界各国に生息する食用昆虫種の数を示したもの。日本には50~100種類ほどの食用昆虫種が生息している模様。


世界中の伝統的な食事で使用される昆虫の種類はなんと約1900種類も存在しており、タイ・日本・中国・オーストラリア・ペルーなどに大きな昆虫市場が存在します。また、昆虫はヨーロッパやアメリカにおいても「風変わりな特産品やレストランメニュー」として食べられるようになりつつあるとのこと。

フィンランドの有名料理人がヘルシンキにオープンした「Restaurant Ultima」では、トリュフマヨネーズとフライしたコオロギがトッピングされた小さなタルトが提供されており、フィンランド南部のエスポーにあるレストラン「Fat Lizard」でも、揚げたコオロギをタコ・ライム・チリと食べる料理が人気を博しているそうです。

そもそもコオロギは基本的にほとんど無味であるため、タンパク質としてソーセージやクッキー、マフィン、豆腐、アイスクリームといった食品に簡単に加えることができます。また、コオロギの粉末はパンを作る際に使用する小麦粉よりも多くタンパク質を含むという特徴も持ち合わせています。

以下の図はコオロギ・鶏・豚・牛の100gあたりの栄養素を表示したグラフ。横行は上からタンパク質・鉄分・飽和脂肪の含有量を示しています。100gあたりのタンパク質量はそれほど変わりありませんが、コオロギは圧倒的に多く鉄分を含んでいることがわかります。


「多くの人が昆虫を食べることに怯えがちですが、粉になってしまえばわかりません」と語るのはパン用のコオロギ粉メーカーであるSENS Foodsの共同設立者であるラデック・ハセック氏。それを裏付けるように、世界の食用昆虫市場は今後5年間で約3倍の11億8000万ドル(約1300億円)にもなると予測されており、シンガポールに本拠地を置くコンサルタント企業のArclusterでリサーチディレクターを務めるアルン・ニルマル氏は、「業界が新しい投資と需要の見通しを引き上げたため、2017年後半から生産能力が大幅に上昇した」と語っています。

以下のグラフは世界の各地域ごとに分けた食用昆虫市場の予測データ。2018年と2023年のデータが示されており、世界各地で市場の拡大が見込まれており、特にアジア圏ではすさまじい伸びが期待されています。


なお、養殖されたコオロギは出荷のために一度冷凍され、EntoCubeに回収されます。そして、EntoCubeがヘルシンキの食品加工工場に持ち込み、洗浄・煮沸・乾燥・粉砕されます。フィンランドには現在約20個ほどの小さな昆虫農場があり、EntoCubeによれば200人以上のフィンランド人農家が天候に左右されない昆虫飼育ビジネスに興味を抱いているとのこと。また、既にドイツのスーパーマーケットでは昆虫から作られた麺類が販売されており、スペインではエネルギーバーやグラノーラなど、10種類以上の製品に昆虫が使用されています。なお、コオロギはタイでは1kgあたり5ユーロ(約650円)ほどで取引されるのに対し、アメリカやヨーロッパ圏では1kgあたり20~40ユーロ(約2600~5200円)という高値で取引されます。

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in 生き物,   , Posted by logu_ii

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