絵を描くことを通して狂いそうなストレスを解放する「アートセラピスト」とは?
「絵を描く方法を学ぶ」のではなく、「絵を描くことを通してストレスを解放したり自分の中での葛藤や問題を解決する」という目的を持つ「アートセラピー(芸術療法)」というものが存在します。日本では公的な資格としては存在しませんが、ヨーロッパやアメリカでは資格も存在するアートセラピーとはどのようなものなのか、マーケティングの仕事で成功しつつもストレスが爆発して仕事を辞職、後にアートセラピストとなったペネロペ・オルファノダキ氏が語っています。
At This Art Therapist’s Wellness Retreats, Overworked Professionals Are Finding Stress Relief - Artsy
https://www.artsy.net/article/artsy-editorial-art-therapists-wellness-retreats-overworked-professionals-finding-stress-relief
アートセラピーの定義は多様ですが、英国アートセラピー協会には「芸術を媒体とした精神療法」の1つだと見なされています。絵を描いたり作品を作ったりするものの、芸術のレッスンを目的とせず、創作を通して個人の葛藤や問題解決の助けにするという「療法」であり、イギリスではエドワード・アダムソンという芸術家が作り出し、精神病患者に対して行ったことを始まりとして20世紀中頃にヨーロッパ圏で広まりました。アメリカでは60年代から、主に障害を持った子どもたちやベトナム戦争から帰国した兵士たちに対し行われました。
アートセラピーは比較的新しい学術分野であることから日本では公的な資格が存在しませんが、ヨーロッパやアメリカには公的な資格があるところもあります。アメリカでは州がライセンスが発行することがあるほか、アートセラピー資格審査委員会に登録を行うことも可能。登録には、試験を通過する必要があるほか、アートセラピー資格審査委員会ではアート療法やカウンセリングといった分野で学位を取得していることに加え、実務経験が問われます。
企業のマーケティング担当として20年の成功したキャリアを持っていたペネロペ・オルファノダキ氏は、過度のストレスから燃え尽き症候群となり、仕事を辞めざるを得ない状況に追い込まれました。時を同じくしてオルファノダキ氏の夫が仕事の事情からスイスからシンガポールへと移住することになったことから、オルファノダキ氏はもう一度学校で学び直すことを決意します。このとき、オルファノダキ氏が学校で学んだのが「アートセラピー」。当時のオルファノダキ氏にとってまったく聞き慣れない言葉でしたが、そのアイデアに心を奪われたオルファノダキ氏はアートセラピーで修士課程を取得します。
最初のうちはアートセラピーが自分自身のためになるだろうと考えていたオルファノダキ氏ですが、次第に職業としてアートセラピーを扱うことに情熱を見せはじめ、約10年後にはスイスで「Artful Retreats」というビジネスを成功させるに至りました。オルファノダキ氏は、過度企業でマーケティング担当として働いていた時よりもずっとやりがいを感じているそうです。
Wellness | Art Therapy | Retreats
http://www.artfulretreats.com/
オルファノダキ氏がビジネスを始めたのは4年前。自分のように働き過ぎで極度のストレスにさらされた人に対してアートセラピーが1つの解決策になるのではないかと考え、シンガポールの大学院でクラスメイトだった2人と会社を立ち上げたとのこと。Artful Retreatsには4日~6日の短いコースがあり、いずれもアートセラピーの原則を基礎として、シンガポールやスイスで徹底的な休暇を取るというものです。各コースの参加者には免許を持ったアートセラピストたちがつき、実習を通して日頃のストレスや不安から解放される手助けが行われるとのこと。
この「原則」については詳しく明かされていませんが、ウェブサイトには「心理療法をベースとし、心理教育やマインドフルネス、メンタライゼーションに基づいた治療、同乗焦点化療法、認知分析療法といった理論から刺激を受けている」旨が記されています。
Artful Retreatsのコース参加者の一日は、たいてい朝のヨガから始まります。そして朝食を取った後に実習が始まります。アートセラピストは参加者グループに対して素材と方向性を指示し、参加者はウォームアップとして鉛筆・ペンキ・粘土といったありふれた題材の絵を描いていきます。その後はさらに、「私は完全に不完全である」といったようなアートを通して表現していくより抽象的なテーマが与えられます。ただし、参加者は古典的な表現方法について学ばず、言葉・シンボル・具体的なイメージを使用することも使わないように指示されます。「正しく描くのではありません」「私たちが行うことに正しいことも正しくないこともないのですから」とオルファノダキ氏は語りました。
アート作成は室内ではなく野外で行われることもしばしば。牧歌的な風景の中を歩いたり、プールで泳いだり、食事をしながら作品作りに取り掛かります。
時にはその地域で暮らすアーティストのスタジオを訪れ、どのような方法で製作を行っているのかや、何がモチベーションになっているのかといった話を聞くこともあるそうです。クライマックスには即興の作品作りを行い、それについてディスカッションを交わし、グループのメンバーと違いの作品を共有します。
オルファノダキ氏によるとArtful Retreatsのコースはアートセラピーの原則に基づいており、「作品作り」というプロセスと共に「作品製作後のディスカッション」に重点が置かれるとのこと。短期間で集中して作業を行うArtful Retreatsは「週に1度のアートセラピーを6カ月続ける」といったコースで経験できるものとはまた違う内容になるとのことですが、参加者は自分自身の幸せについて見つめ直すことができるようになり、中にはアート作成を続けるようになったり、地元のアートセラピストについたりすることもあるとのこと。
Artful Retreatsの参加者は10代後半から70代までさまざまな年齢層の人々で、ヨーロッパからの参加者がメインですが、時に南アフリカや韓国からArtful Retreatsに参加しにやってくる人もいるそうです。もちろんアマチュア画家やアーティストといった人もいますが、アートの経験が全くないストレスにさらされた人、虐待といったトラウマを負った人なども多く参加しています。治療の最中に危機が訪れた際には、オルファノダキ氏が参加者と1対1となりセッションを行うことも可能とのこと。
「これは絵画の方法を学ぶコースではありません」と語っており、グループでセッションを行うことにも、「自分は一人ではない」ということを理解する意味があるそうです。
実際に、子どもを失いトラウマを負った女性が参加したところ、女性を解放させ、女性は自分の体験を他の人に話せるようになったとのこと。女性はArtful Retreatsのコースを終えた後も感情を処理するために毎週絵を描き続けているそうです。
なお、Artful Retreatsのコースはスイスでの4日コースが930ドル(約10万円)、クレタ島での豪華プライベートルームつきのコースが1800ドル(約20万円)となっています。
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