サイエンス

「子どもにはそれぞれに合った学習スタイルがある」という誤解が世界的に広まっている

by Xiaobin Liu

「目で見た内容を理解するのが得意なタイプ」「耳で聞いたことを理解するのが得意なタイプ」という風に、人にはそれぞれ得意な「学習スタイル」があると思っている人は少なくありません。近年の研究では「学習スタイルという考えは迷信に過ぎない」ということが明らかになりつつありますが、世界的に広まった「学習スタイルの誤解」について、The Atlanticが説明しています。

Are 'Learning Styles' Real? - The Atlantic
https://www.theatlantic.com/science/archive/2018/04/the-myth-of-learning-styles/557687/

1990年代初頭、ニュージーランドの学校視察官であったニール・フレミング氏は、9000以上の授業を視察してきた中で、何人かの教師は子どもに対してのアプローチが成功している一方、子どもに対して十分な指導ができていない教師がかなりの数いることに気がつきました。フレミング氏はなぜ子どもに対する教育の達成度に差が出てしまうのかについて、教師側ではなく教育を受ける子どもの側から分析を試みました。

フレミング氏は生徒が他者から情報を提示される時、どのような方法を好むのかという点にスポットを当てて、16の質問から構成されるアンケートを作りました。「VARK(画像的・聴覚的・読字的・運動的)」テストと呼ばれるこのアンケートは、「人に道順を尋ねられたとき、口で説明されるのが好きですか?それとも地図を描いてもらうのが好きですか?」という風に、生徒がどのような情報提示方法を好むのかについて測定を行うものでした。


VARKは元々、生徒の学習スタイルについて選別する目的で作成されたものではありませんでした。ところが、VARKが広まるにつれて「VARKによって生徒に適した学習スタイルが判別できる」というコンセプトが一緒に広まってしまったとのこと。なぜこのような誤解が広まったのかについて詳しいことはわかっていませんが、1980年代後半~90年代初期にかけて「子どもたちに自尊心を持たせよう」という運動が広まったのと連動して、「子どもたちは誰もが固有の学習スタイルを持っている」という考えが広まってしまったのかもしれません。

「教師はどんなに教育が難しい子どもであろうと、適した学習スタイルさえ見つけられれば教育が可能だと思いたいのです」と、中央ミシガン大学の博士課程在学中のアビー・ノルさんは話しています。これは教師にとって受け入れやすい概念であると共に、勉強ができずに苦しんでいる子どもにとっても、「勉強が苦手なのは自分に適した学習スタイルで教育を受けられなかったからだ」と思うことができるため、受け入れやすい概念だとのこと。

by eltpics

インディアナ大学のポーリー・ハスマン教授は「いずれにせよ、私たちの多くは『あなたには画像による学習が効果的だ』『あなたは聴覚による学習が効果的』『あなたは読字』というように、自分に合った学習スタイルについて教えてもらった経験があります」と述べています。

ハスマン教授の研究グループが行った実験では、数百人の学生に対してVARKテストを行ってそれぞれの学習スタイルを判別し、各学生の学習スタイルに対応した学習戦略に基づいて勉強させたとのこと。学習スタイルに合わせた勉強を行ったグループと、自分の学習スタイルに適さない学習戦略で勉強させたグループにテストを課した結果、学習スタイルに合わせて勉強したグループが、そうでないグループよりも高得点を取るという有意な差が見られなかったとのこと。

British Journal of Psychologyに掲載されたノル氏の研究では、「画像的な記憶方法がより自分にとって覚えやすい」「聴覚的な記憶方法がより自分にとって覚えやすい」と思っている学習者たちに対して、実際に画像や聴覚によって記憶に差が出るのかを調べましたが、記憶した内容に差が出なかったと示されています。これらはあくまでも「画像のほうが好き」「音のほうが好き」という好みにしか過ぎず、学習効果に関係があるわけではないそうです。

by Save the Children

バージニア大学の心理学者であるダニエル・ウィリンガム氏は「学習スタイルの理論には裏付けがない」と語り、子どもたちは画像・音声・文字のいずれからも学習することが可能であり、学習スタイルによって子どもたちを判別し、1つのパターンの学習法に固定することは好ましくないとしています。

学習スタイルの科学的裏付けのなさにもかかわらず、学習スタイルの神話は広がり続けています。直感的には魅力的な思想に感じられる学習スタイルのアイデアは、過去の研究が学習スタイルを追認する形で行われたことも相まって、2014年には世界各国の教師の内90%以上が「学習スタイルを信じている」と回答しているとのこと。

ウィリンガム氏は「自分自身の学習スタイルについて調べてみること自体に悪影響はありませんが、学習スタイルに応じた学習方法を採用しても何もメリットはありません。誰もがさまざまな思考のツールボックスを持っているのに、どのツールが最もよいかを探す必要があるでしょうか」と述べており、子どもたちが自分の可能性を学習スタイルによって狭めてしまうことを危惧しています。

by ILO in Asia and the Pacific

VARKテストは「自分がどのような学習をよく行っているのか」について知るには適しているかもしれませんが、学習すること自体の手助けにはならないかもしれません。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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