「学習スタイル」という考え方は迷信に過ぎない
by Tamaki Sono
「色とりどりのペンを使ってノートを取ると覚えやすいタイプ」「何度も読むことで内容を覚えるタイプ」など、人によって勉強法に向き不向きがあるという「学習スタイル」の考え方を自然と受け入れている人も多いはず。しかし、この「学習スタイル」という考え方はそもそも根拠の曖昧なニューロサイエンの迷信であることを、ニュースサイトのQuartzが報じています。
The concept of different “learning styles” is one of the greatest neuroscience myths - Quartz
http://qz.com/585143/the-concept-of-different-learning-styles-is-one-of-the-greatest-neuroscience-myths/
学習スタイルの考え方にはいろいろありますが、最も有名なのは「人は自分にあった学習法で教えられると効率よく学べる」というもの。しかし、イギリス・ブリストル大学で教育学・脳神経学を研究するポール・ハワード・ジョーンズ博士は2014年に発表した論文で学習スタイルという考え方が「科学的な事実を誤引用・誤読・誤解することで生まれたもの」だと述べています。「人間は脳の10%しか使っていない」「1日にコップ6~8杯の水を飲まないと脳が収縮する」という俗説と同様に、学習スタイルもまた俗説の1つに過ぎないというわけです。
一方で、2012年、ある調査でオランダやイギリスの教師242人に「学習スタイルという考え方は正しいと思うか」と尋ねたところ、聴覚・視覚・触覚に関する学習スタイルが真実だと考えている教師がイギリスでは全体の93%、オランダでは96%を占めたとのこと。なお、学習スタイルに次いで信じられていた神経科学の神話は「右脳タイプか左脳タイプかということが学習に影響を与える」というものでした。
by Scott Ingram
また、ウェールズにあるスウォンジー大学のフィリップ・ニュートン教授は、「学習スタイルを研究の根拠にこそしていないものの、現在の研究の94%は学習スタイルに肯定的な見解を示す前提で書かれている」ということを発見。「学習スタイルは効果がないにも関わらず、それに対して肯定的な論文は現在多くあります。このことは教育や研究の分野を弱体化させ、おそらく、学生たちに悪い影響を及ぼします」とニュートン教授は語りました。
さらに、2014年、ロンドン大学で教育学を研究するフランク・カフィールド教授は13の有名な学習スタイルについて研究を行い、各学習スタイルに十分に科学的根拠のある教育テクニックがあるわけではないことを発見しました。また、カリフォルニア大学サンディエゴ校の心理学者ハロルド・パッシャー教授は2008年の研究で「学習スタイルについて書いた本はたくさん存在しますが、実験的方法を用いて学習スタイルが教育に適しているかを調べた研究はほとんどありません。さらに、適切な方法で行った研究の中には、有名な学習スタイルについての仮説を否定する結果を導き出したものもあり、現時点で言えるのは『学習スタイルを一般的な教育で実践する十分な根拠はない』ということです」と記しています。
by michael_swan
ではなぜ根拠のない仮説がこんなにも広がったのか?というと、ジョーンズ教授は「確固たる証拠はないが、科学的事実が誤って翻訳されたため」と考えているとのこと。脳には視覚・聴覚・感覚処理など異なる役割を持つ部分があり、このことから「各人の脳の最も働きのよい部分に合わせて学習するべき」という見解が生まれたのだとジョーンズ教授は説明しました。科学論文は専門家でない人間には理解しづらく、分かりやすく説明しようとしたところで簡略化しすぎ、誤翻訳が生まれます。そして、悪気はないものの偏った考えを持つ人々が「科学や社会に革命をもたらすもの」だと信じて学習スタイルを広めていったわけです。
また、コフィールド教授は2004年に発表した論文の中で「コストもかからず、学校の授業で用いやすい学習スタイルは教育者に希望を生み出します。学習スタイルに基づいた教育は『楽しい』という理由から子どもたちに受け入れられやすいためです」と語っており、Quartzは「人々は単純に、この学習神話を信じたいように見える」と見解を示しました。
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