取材

22カ国の学校を回った僕が日本の教育現場ですべきたった1つのこと


日本で理科教師だった男が、「世界の中学・高校を回る」ことをテーマに世界一周して、22か国26校の訪問を終えて思うこと。

こんにちは!世界新聞特命記者の雑色啓晴です。2014年1月5日に日本を発ち、約1年2か月で45か国を旅してきた僕の旅も残すところ2週間になりました。今回は、僕の旅のテーマである「世界の中学・高校のまとめ記事」になります。

僕は今、南米のコロンビアのカルタヘナ(星印)に居ます(赤線は陸路、青線は空路、緑線は海路で移動)。この後はベネズエラに少し寄り、アメリカ・台湾経由で20日に日本に帰国します。旅のルートは東南アジア→中東→東欧→アフリカ→北欧→北米→中米→南米という感じでした。


◆旅に出た理由
僕が旅に出た理由は次の2点です。
・自分が憧れていることにチャレンジして、自信を得たかった
・教師として生徒に伝える事を得たかった

それゆえ、旅では色々と挑戦していこうと決め、まずは3本のテーマを定めました。それが「世界の中学・高校見学」「理科ネタ探し」「様々な人生を知る」でした。

◆「世界の中学・高校見学」の目的
僕は旅立つ前に中高一貫校で理科教師をしていました。なので、旅の理由を俯瞰して考えたときに、すぐに「海外の中学・高校を見学する」という目的が見つかりました。見学するにあたっては「海外の学校の特色を知る」「各国生徒のリアルを知る」「新しい授業手法を得る」「クラブ活動を日本と比較する」の4点を念頭に掲げました。今回はこの4点について世界を周って、見て・感じて・考えたことを書いていきます。

◆見学方法と見学してきた国々
見学方法は現地で直接交渉です。その結果、訪問国の半数である22か国26校の中学・高校、2校の小学校、1校の日本語学校を見学させていただきました。その中で写真取材の許可が出た学校を、GIGAZINEで過去に紹介してきました。

元教師を驚愕させたアジアの中学校・高校6つ - GIGAZINE(アジアの学校まとめ)


生徒数5万人のマンモス校など元教師が驚いた海外の学校4つ - GIGAZINE(インド・中東・東欧の学校まとめ)


日本より進んだ英語教育など元教師が驚愕したアフリカの学校3つ - GIGAZINE(アフリカの学校まとめ)


◆僕が驚いた海外の15の学校
海外では想像のできない教育文化をたくさん目にする機会がありました。それを国ごとに紹介していきます。

・時間帯で小中高が入れ替わるフィリピンの学校
セブで見学させて頂いた学校は、午前中が小学校、午後が中学高校と同じ校舎でも時間帯によって生徒が入れ替わりました。左に小学校、右に中学高校(フィリピンでは中学高校6年間をまとめてハイスクールとしている)の看板が見えます。


高校物理の授業を見学させて頂きました。グループ毎に話し合って、発表させる生徒主体型の授業でした。先生がPCの映像を使って説明していたのですが、プロジェクターが無く、PCの小さい画面をみんなが必至に見ている姿が印象的でした。


・日本語が一年間必修のインドネシアの高校
バリ島の公立高校では、日本語の授業が1年間必修でした。写真は日本語の教科書です。政府が日本人観光客誘致に力を入れているのでしょう。高校生から第二外国語を学ぶことはどれほどの苦悩なのでしょうか。


・性教育が週4コマあったマレーシアの伝統校
クアラルンプールの伝統校では中学で「ジェンダー・サイエンス」という名の性教育が週4コマありました。僕が見学した際の授業は、女性の先生が月経周期について男子生徒に教えていました。日本はもう少し性教育に触れる機会があるべきだと思います。性感染症など性についての正しい知識を伝えていく時間を設けることも、今後の1つの目標になりました。


また、それに関係するのか、生物室には虫の標本とともに胎児の標本が展示されていました。これには腰を抜かしました。


・偏見を覆されたカンボジアの豪華絢爛校
プノンペンの私立の学校は僕のイメージするカンボジアの学校を根底から覆しました。荒野に佇む木造校舎ではなく、真っ白な校舎に、映画の授業のためのシアタールームが3つも備え付けられた、豪華絢爛な学校でした。


日本でもここまで綺麗な学校はなかなか見受けられないでしょう。受付はMacで統一されていました。教室も制服もピンクのギターもオシャレです。カンボジアはすべて貧しいというメディアから与えられた偏見を払拭できた出来事でした。


・ベトナムには1万いいねの有名物理教師がいた
ハノイの公立の高校にはFacebookページで「いいね!」を1万集めている有名物理教師がいました。テレビにも取り上げられるほどの有名人でした。SNSやメディアで取り上げられる背景には、日本の「排他的・閉鎖的」な学校環境とは対照的に、ベトナムには開放的な教育現場がある結果、メディアやSNSで公立の先生が有名になれるのかもしれないと感じました。


・ネパールでは全校生徒でクイズ大会が行われていた
カトマンズの公立高校では週1回、クイズ大会等のアクティビティが行われていました。写真のように全校生徒(150人)が大教室に集まります。そして、先生たちが日ごろの学習をクイズ形式で生徒に出題します。生徒は机ごとにいくつかのチームに分かれて回答していました。ゲーミフィケーションを取り入れた授業を学校全体で行っていることに驚きました。日本の高校でもクイズ祭なんてあったら面白いですね。楽しみながら学べる環境づくりも実践していきたいです。


・バングラデシュでは図書館とPCルームをねだられた
首都ダッカの私立の中学校では、イスラム国家のため女子生徒が頭にスカーフ被っていました。また、男女の通学時間が午前午後で分かれていました。


この国には外国人が少ないため、写真のように僕に対しても映画スターのようにサインをねだります。それほど特別な存在なので、帰り際に英語教師から「図書館やPCルームが欲しい」と懇願されました。学費は月400円ほどにも関わらず、約30%の生徒が支払えないそうです。それでも運営を続けている先生方に教育の大切さを確認させられました。


・インドには生徒数5万人のギネス認定校があった
ラクノーには、世界一生徒数が多いとしてギネスに登録されている、約5万人のマンモス校がありました。その多さにより、キャンパスが20ほどに分かれています。僕が訪れた分校は4000人ほどでした。


ここでは教育レベルの高さに驚かされました。全クラス英語授業に加えて、中等部はすべて電子黒板を導入していました。これにより、映像主体の授業が行われ、三次元的な理解が容易になったと言います。


アルメニアでは中二で物理を学んでいた
エレバンの私立の学校では中学2年生から物理の授業がありました。黒板に並んだ難しそうな文字式とは対照的に……


受けているのは、まだ幼さが残る生徒たちでした。理解度は、積極的に質問する子からスマホをいじる子どもまでいて、半分の生徒は理解してないのではないかと感じました。


ルーマニアの専門高校は飲酒喫煙が酷かった
ブカレストには公立の美術高校がありました。ルーマニアには音楽・体育などの専門高校が多くあるようです。写真はデッサンの授業風景です。この学校で驚いたのは、高校生の飲酒・喫煙でした。休憩時間、違法なのに生徒がタバコを吸います。中にはアルコールを持ち込み、飲酒している生徒もいました。なぜ法律で決められているのか、その意味をもう一度考えるきっかけになりました。


・先生と生徒の距離が近いヨルダンの男子校
ヨルダンでは高校まで男女別学制度が取り入れられているそうで、僕が見学したペトラでも男女別学でした。こちらは男子校の様子です。


先生方も若い男性が多く、面白い先生たちでした。そのおかげで授業も笑いが多いものとなっており、楽しい雰囲気に包まれる学校でした。やはり信頼関係の根底にあるのは1人1人とのコミュニケーションだと先生と生徒のやり取りを見ていて感じました。


・1クラス65人のエチオピアの公立高校
ジンマにある公立の高校は1クラスに生徒がなんと65人。アフリカでは未だに女子は手伝いなどで学校に行きづらいのではないかという偏見がありましたが、割合は女子生徒の方が多かったです。


教室の容量が足りていないので、2人用の机に3人座っていました。ノートを取るのも、机からはみ出していました。授業を担当していた先生は「教室全体を把握することはできない」と仰っていました。しかし、うるさくした生徒にはチョークを投げたりして、教室をまとめていました。


・特別学級が充実しているマラウイの学校
ムジンバにある公立の学校を見学しました。ここは寮生活の学校です。驚いたことに、聴覚障害や視覚障害を持つ生徒の特別学級がありました。写真は点字用のプリンターです。恥ずかしながら、アフリカに障害を持った生徒への環境があることを想定していませんでした。


ザンビアでは敷地内のマンゴーが食べ放題だった
ビクトリアフォールズがある街で中学・高校を見学しました。冬季休暇中でしたが講習や自習のために生徒が勉強していました。講習費がかかるようでしたが多くの生徒が受講していました。敷地内にはマンゴーの木がたくさんあり、生徒たちは実を落としてかぶりついていました。


グアテマラでは学校の授業が大切にされていた
アンティグアにある高校で、生物の授業を見せて頂きました。教科書を読む事が主体の授業でした。生徒はひたすら言ったことをノートに書きとっていました。日本で同じことをしたら、恐らく生徒はついてこないでしょう。しかし、ここではみんな必死で、学校の授業を大切にしているとを感じました。


◆各国生徒へのインタビューまとめ
僕は見学の最後に各国の生徒たちに簡単な質問をしてきました。名前・学年・好きな教科・放課後の過ごし方・夢の5点です。その中で感じた事を記述していきます。


まず、「理科が好き。将来は技術者や看護師、医者になりたい」と堂々と答えてくれた生徒(写真:ザンビア・17歳)が印象的でした。特にアフリカに多かったです。将来の頼もしさを感じました。


世界的に見ると、理系が文系より優秀と見なす所もあります。スウェーデンでは総合的に優秀な子が理系に進学できます。中学で成績優秀でないと高校で理系に進学できないようです。

インドも同様に理系の方が優秀と見なされます。さらに、インドには文系・理系に並んで、銀行員や会計士を育てるコマースというコースがありました。日本人の母を持つ生徒(写真:16歳)は「かなり実用的なので日本も早くそうなるべきでは」と語ってくれました。


「英語が好き」と回答した生徒も多かったです。無作為にインタビューした子どもたちの多くが流暢に英語を扱っていました。敬虔なイスラム教の生徒(写真:バングラデシュ・14歳)でも英語を積極的に使っていました。


将来何をするかをはっきり答えてくれる生徒も目立ちました。ルーマニアでは専門の高校が多いので、より具体的な目標を抱いていました。例えば、美術高校の生徒(写真:ルーマニア・18歳)は「CGデザイナー、ファッションデザイナーになりたい」と就職する場所も決めていました。その若さで将来を見据える事を素直に尊敬しました。


一方でカンボジアの私立の生徒たち(写真:15歳)はまだ将来について思案中でした。彼らは、カンボジアでは珍しく恵まれた環境にある子どもだと思います。日本でも夢が見いだせない生徒が目立ちますが、恵まれた環境にいると選択肢が多くなり決断する事に躊躇ってしまうのではと感じました。「決断力」を生徒に身に着けさせることも大きな目標になりました。


◆クラブ活動と新しい授業手法について
クラブ活動を日本のように毎日している国は見受けられませんでした。インドネシアやベトナムでは週数回文化系の活動がありました。体育会系は活動がほとんど見当たらず、クラブチームとして学校外で活動しているようでした。しかし、タイのチェンマイでは「ダンス部に所属していて、将来はダンスの教師になりたい」と言う生徒(写真:18歳)がいました。比較的、盛んにクラブ活動が行われていました。


教育先進国では授業を見学することができなかったため、斬新な授業手法は得られませんでしたが、ネパールで見たクイズを用いた授業やインドの電子黒板の授業は挑戦したいものとなりました。


その代わり、多くの教育後進国を旅して気づいたのは、生徒が学び取ろうとする力が凄いということです。日本では教育の機会に恵まれています。わかりやすい参考書も塾もあります。しかし、教科書を買う事もできない国だと、先生が教科書を読むという退屈な授業でも、何かを手に入れようと必死でノートを取っていました。もしかしたら、教育の機会がありふれることによって、読み取る力を低下させてしまうのかもしれません。

◆全体を通して感じた3つの事
世界の学校を見て、全体的に感じた3点を最後に記述しておきます。

1:英語教育の充実
インド・エチオピア・マラウイでは授業や試験が全て英語。フィリピン・マレーシアでは理科を英語で教えていました。バングラデシュやカンボジアでは私立のイングリッシュスクールが街中で目立ちました。

2:黒板の不使用
黒板が意外と使用されておらず、ホワイトボードの方が多かったです。インドではスマートボードを使用していました。

3:宗教や暦、または気候による長期休暇
中東の学校では、暑さを理由に中学・高校なのに7月~9月までの3か月夏期休暇がありました。また、日本にはない宗教祝日の休暇も多かったです。例えば、キリスト教の多いタンザニアでは11月後半からクリスマス休暇が取られていました。水かけ祭りで有名なタイ・ラオス・ミャンマーでは、その期間は旧正月なので1週間程お休みでした。イスラム教国は金曜・土曜が休日で、ラマダーン明けや犠牲祭の日は1週間程休みになっていました。

◆僕がすべきたった1つのこと
以上が今回の旅で感じた世界の中学校・高校についてのまとめです。思った以上の教育文化の違いに驚くとともに、後進国の教育設備がしっかりしていて、自分の目で確かめることが何よりも大事だと再認識しました。

また、この企画の目的として冒頭に4つを掲げましたが、本当はもう1つ隠れた目的がありました。それは、この企画を終えた時の自分の成長を見る事でした。しかし、現在、何か成長したのかと問われると、やりたい事や世界の教育事情は手に入れましたが、成長はしてないと思います。未だに、アポなしでの訪問はビビりますし。

では、この経験をどうやって生かすのか。それはやはり、教師として事実を伝え、実践して、子ども達に何かしらの刺激を与えるしかないのだと思います。この「世界の学校」をはじめ、旅の別のテーマであった「理科ネタを探す」「様々な生き方を知る」を、これから出会う子ども達が受け取ってくれたら、初めて「旅して良かった」と言おうと思います。旅は「自己満足」と言い切る人もいますが、僕はそうやって自分の旅を肯定して行きたいです。あの時、旅に出て間違いじゃなかったと思いたい。


1年間、こちらで記事を書かせていただきました。「伝え方」について考えるとても良い時間になりました。もし、以前にも僕の記事を読んで頂いた方がいればお礼を申しあげたいです。みなさんのおかげで続ける事ができました。ありがとうございました。

文・取材:雑色啓晴 http://zoshiki.com/wp/

監修:世界新聞 sekaishinbun.net


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in 取材, Posted by logc_nt

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