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「大事なところに線を引く」「語呂合わせで覚える」といった学習方法は本当に効果的なのか?


生きていく上で常につきまとう「勉強」や「学習」を行う上では、先人たちが作り上げた体系的な学習方法を取り入れることがテクニックの1つとして役立ちます。ケント州立大学心理学部のジョン・ダンロスキー氏らは世間に広く知られる学習方法を10種類取り上げ、認知および教育心理学の観点から、それらの方法が本当に有効的なのかどうかを検証しました。

Improving Students’ Learning With Effective Learning Techniques: Promising Directions From Cognitive and Educational Psychology - John Dunlosky, Katherine A. Rawson, Elizabeth J. Marsh, Mitchell J. Nathan, Daniel T. Willingham, 2013
https://doi.org/10.1177/1529100612453266

◆1:「なぜ?どうして?」を突き詰める
人間は元来好奇心旺盛な生き物であり、身の回りの状態や行動、出来事について説明を求める傾向があります。ある研究では、「空腹の男性が車に乗ってきた」といった例文を覚えるよう指示された被験者のうち、「なぜ男性はそうしたのか?」といった質問をするよう指示されたグループの方が、単に文を読んだだけのグループよりも例文を覚えている割合が高かったそうです。

このことから、学習においては「なぜそうなのか」を突き詰める方が単に出来事を覚えるよりも効果的だとされています。例えば、「ある国とある国のコーヒー豆の生産量は似通っている」という事実を覚えるとき、「なぜ似通っているのか」という理由を追求する方が、より記憶に残りやすいと考えられます。


◆2:自己説明
ウェイソン選択課題」という有名な論理パズルを解かせた実験では、「なぜそう考えたのか」という理由を説明させたグループの方が、単に問題を解かせただけのグループよりも応用力が高いことが分かったそうです。解法を説明するという手法は、小中学生の簡単な算数問題だけでなく、代数や幾何学など、より年長の学習者向けの問題でも効果を発揮することが示されています。


◆3:要約する
学生は大量の情報を学習しなければならないことが多く、何が重要なのか、異なる考え方がどのように結びついているのかを見極める必要があります。このような目標を達成するための一般的な手法として、学習する文章の要約を書かせるというものがあります。

例によって文章を要約したグループの方が単に文章を読んだグループよりも内容の定着率が高いという研究結果が出ていますが、問題なのは「どうやって要約すればいいのか?」ということです。


要約を作成するときには、見出しだけを作ればいいのか、段落ごとに要約すればいいのか、あるいは内容を他人に説明できるほど詳しくすればいいのかなどといろいろな選択肢がありますが、残念ながら正解はなく、生徒自身の能力や教材の性質などに左右されてしまうそうです。このため、要約は有用性が低いとダンロスキー氏らにより評価されています。

ただし、「高品質の要約を作成した人ほど成績が高い」という研究結果が示すように、学習内容を要約するという学習方法は、すでに要約に熟練した人にとっては効果を示す可能性が高いとダンロスキー氏らは結論しています。


◆4:線を引く
学習方法のうちおそらく最も一般的なものの1つとして考えられるのが「大事な場所に線を引く」というもの。教科書やノートなどのさまざまな場所にペンでマーキングをしたことがある人は少なくないはずです。

学生に合計約8000語からなる論文を読ませた実験では、論文を読むだけの対照群と文章に好きなだけマーキングできる能動的ハイライト群、能動的ハイライト群がマーキングした文章を読む受動的ハイライト群に対象者を分けて比較しています。意外なことに、この実験において、両ハイライト群が対照群の成績を上回るという証拠は見られませんでした。

しかし、2つのハイライト群のパフォーマンスをより詳細に分析した実験では、能動的ハイライト群は、マーキングした文章に関連する文章が強調表示されたテストで成績が向上したことが分かりました。同じ実験では、能動的ハイライト群の方が受動的ハイライト群よりもマーキングの恩恵を受けやすいことも分かっています。


ただし、マーキングという方法も個人の能力に左右されることが多く、無関係な場所にマーキングをしたり、マーキングしすぎてかえって重要な場所が分からなくなったりしてしまうこともあります。このことから、効果的にマーキングするための知識がある場合や、文章が難しい場合にはマーキングが役立つかもしれませんが、推論を必要とするような高度な課題ではかえってパフォーマンスを低下させかねないとダンロスキー氏らは指摘しています。

ダンロスキー氏らは「マーキングは全体的には効果があるとはいえず、学習者が他のもっと生産的な戦略をとるのを妨げるという点で問題があるかもしれません」と述べました。

ただし、マーキングという方法は多くの子どもが自発的に採用するテクニックの1つであるため、いくら効果的ではないとはいえ、今後も継続して行われる可能性があります。ダンロスキー氏らは「マーキングをやめるよう説得するよりも、効果的なマーキングの方法を教えることのほうが簡単かもしれません」と教師向けにアドバイスしました。


◆5:語呂合わせ
元素記号を覚えるのに役立つ代表的な語呂合わせ「水平リーベ僕の船」など、何らかの文字を別の文字や音に変えて覚えるという学習方法はさまざまな状況で使われます。このような語呂合わせ(キーワード・ニーモニック)は特に外国語学習の分野で有効的だとされていますが、ダンロスキー氏らいわく、有用性には限界があるとのこと。

キーワード・ニーモニックの有用性を調べた実験においては、元の語句とキーワード・ニーモニックが似通っていた場合、例えば「歯」という意味のフランス語「la dent」に対し、連想される語句「dentist(歯医者)」は元の語句に似通っていますが、こうした場合は容易にキーワードを思い浮かべられることが示されています。一方で、元の語句とキーワード・ニーモニックが似ていない場合は、イメージが定着しにくい可能性があるそうです。

多くのキーワード・ニーモニックは元の語句のイメージから離れたものであることが多く、またキーワード・ニーモニックが長期的な記憶に適しているという有力な証拠も得られていないため、ダンロスキー氏らはキーワード・ニーモニックの有用性は低いと評価しています。


◆6:文章を学習するために画像を使用する方法
文字に加えて画像を見ることで、学習内容をより定着させることに役立つかもしれません。こうした仮説を追求した研究者らにより、被験者に文章を読ませた後に画像を見せるという実験が行われています。

この実験においては、文章を読んだグループと、読んだ後に画像を見てイメージを膨らませたグループに被験者が分けられました。両グループはこの後に課題を解きましたが、この課題は文章から答えが直接得られるものではなく、文章から推測して答えを導き出す必要があるものでした。

結果として、画像を見てイメージを膨らませた人の方が優秀な成績を収めていたとのこと。このほかにも多数の研究で画像が学習に有効的であると示されていることから、キーワード・ニーモニックよりも広く学習に応用できるとダンロスキー氏らは結論しています。とはいえ、画像の利点は画像に適した教材や課題に大きく制限されているため、この手法の有用性はさらに実証される必要があると付け加えられました。


◆7:再読
一度目を通した後に再度文章を読み返すという行為も、多くの学習者が自然と身につける学習方法です。再読の効果は文章の内容や長さにかかわらず確かな効果があり、知能レベルや読解能力がどうであれ、マーキングや要約を行うよりも、同じ時間再読する方が有効的であるとする研究もあるそうです。

そして、おそらく他のどの方法よりも経済的であるというのも利点の1つです。ただし、1つ目の「理由の追及」と、2つ目の「自己説明」よりははるかに効果が低くなるそうです。


◆8:模擬試験
「学習はインプットとアウトプットのバランスが大事」などとよくいわれることがありますが、代表的なアウトプットとしてあげられるのがこの模擬試験です。ダンロスキー氏らは「所要時間に関しては比較的合理的」とし、試験を受けた後にフィードバックを受けることも有用だとしています。模擬試験に関する効果は非常に幅広い範囲で実証されているため、ダンロスキー氏らはこの方法を「有用性が高い」と評価しました。


◆9:分散学習
「一夜漬け」などに代表される短期的な集中学習よりも、時間を空けたり、方法を変えたりして長期的に学習する分散学習の方が、長期的な記憶の定着に効果があるという知見がいくつかの研究で示されているとのこと。ダンロスキー氏らはこの方法も高い有用性を持っていると評価し、さまざまな年齢層で効果を発揮すると指摘しました。


◆10:インターリーブ(同時並行)学習
1回の学習で1つの分野のすべてを覚えようとするのではなく、別の分野も少しずつ学習していくという方法がインターリーブ学習です。ダンロスキー氏らはこの方法の有用性を中程度と位置づけ、特に数学的スキルの学習と定着に効果があると評価しました。

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in Posted by log1p_kr

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