バイオレンス感満点の「グランド・セフト・オート」を2カ月間プレイしても人は暴力的にならなかったことが判明
「暴力的なゲームをプレイすることで人はその影響を受けて暴力的な人になるのか否か」という論争が存在します。銃乱射事件が多発するアメリカでも暴力的なゲームや映画を規制すべきだという意見が取り沙汰されますが、暴力的な描写がこれでもかと登場するゲーム「グランド・セフト・オート」を2カ月にわたってプレイした影響を調査した研究結果からは、その影響はほぼ確認できなかったことが明らかになっています。
Does playing violent video games cause aggression? A longitudinal intervention study | Molecular Psychiatry
https://www.nature.com/articles/s41380-018-0031-7
Two months of daily GTA causes “no significant changes” in behavior | Ars Technica
https://arstechnica.com/gaming/2018/03/two-months-of-daily-gta-causes-no-significant-changes-in-behavior/
この研究は、ドイツのマックス・プランク教育研究所とハンブルク・エッペンドルフ大学医療センターの研究チームによって実施されたもの。90人の被験者を2つのグループに分けて、暴力的なゲームを長期間にわたってプレイすることでどれほどの影響が現れるのかが調査されました。
今回の調査で重要なポイントは、「ゲームを2カ月間という長い期間にわたってプレイさせたこと」と、「期間後に現れる変化を数カ月間にわたって追跡している」という点にあります。これまでの暴力的なゲームに関する研究では、比較的短い期間ゲームをプレイさせ、プレイ終了直後のアドレナリンの量を測定するという方法が主に採られていました。しかし、これでは現実社会におけるゲームの影響を確認するには不十分であると考えた研究チームは、ゲームに関わる期間を長くし、さらにゲームプレイ期間が終了した後もしばらくの間は追跡調査を行うことで、より現実世界に近い状況での「暴力的なゲームの影響」を調査しています。
「ゲームと暴力のつながり」についての研究の中でよく挙げられるのが「プライミング効果」と呼ばれるもの。これは、事前に見聞きした情報(プライム)などがそのあとの情報(ターゲット)処理に影響を及ぼす効果のことで、暴力的なゲームがプレイヤーに及ぼす影響を考える時によく持ちだされるものです。これまでの研究にも、このプライミング効果による影響を否定する結果が発表されています。
「ゲームをプレイすること」と「暴力的であること」に関連はないという研究結果が発表される - GIGAZINE
シモーヌ・カーン氏率いる研究チームは、プライミング効果による影響を調査結果から排除するために被験者に対して十分に長い期間ゲームをプレイさせる手法を採りました。調査に参加した90人の被験者は、暴力的なゲームである「グランド・セフト・オートV」(GTA V)をプレイするグループ、非暴力的な育成シミュレーションゲーム「シムズ3」をプレイするグループ、そして全くゲームをプレイしないグループの3つに分けられました。被験者は18歳から45歳の成人男女で、いずれも調査前の6カ月間はゲームをほとんどまたは全くプレイしていない人が選ばれています。また、事前に心理テストを実施して問題がないかが確認されているとのこと。
被験者に対しては、ゲームをプレイし始める直前と、2カ月間のゲームプレイ期間が終了した直後、さらにそこから2カ月が経過した時の3つのタイミングでアンケート調査を行うことで、影響の有無を測定します。アンケートの内容は、「攻撃性」「性差別的な傾向」「共感性」「対人能力」「衝動性」「メンタルヘルス」、そして思考や行動を制御する「実行機能」など、各分野で実績のある52のアンケートが用いられているとのこと。
このようにして得られたデータをもとに、研究チームは208件の比較を実施。すると、3件の結果においてのみ、ゲームによって影響を受けたことが95%の確率で確実であることが見つかっており、残りのデータからは有意な差は認められなかったとのこと。ここから研究チームは「暴力的なゲームをプレイすることによる有害な影響はなかった」と結論付けるに至っています。
これはゲーム支持者から喜びを持って受け止められる結果ということになりそうですが、一方でこの調査では、過去に発表されていた「ゲームはマルチタスク能力を高める」という効果が確認されていないことも明らかにされているとのことで、まだまだゲームによる影響の有無を問う研究が収まることはないのかも。今回の調査は大人を対象にしたものですが、年齢層の違いによってその結果に違いがあるのかなども気になるところです。
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