サイエンス

心的外傷後ストレス障害(PTSD)の発症を防ぐのに「テトリス」が有効であることが明らかに

By Adam Dachis

命が脅かされるような出来事を経験した後、つまりは心的外傷(トラウマ)を負ったのち、同じ体験や似たようなシチュエーションに遭遇すると、不安や苦しみが生じて心的外傷後ストレス障害(PTSD)の発症につながることがあります。しかし、新しい研究で「トラウマを負ったあと数時間以内にコンピューターゲームのテトリスをプレイすると、PTSDの発症を防ぐことができる」という驚きの研究結果が発表されました。

Playing Tetris can reduce the onset of PTSD after trauma, study shows - CNN.com
http://edition.cnn.com/2017/03/29/health/ptsd-tetris-computer-games-trnd/index.html


PTSDというのはトラウマとなるような出来事からくる「恐怖」と結びついた侵入性記憶が、視覚的な出来事とつながり脳内でそれらがループするようになった際に起こるストレス障害です。この研究を主導したスウェーデン・カロリンスカ研究所の心理学者であるエミリー・ホームズ教授は、「侵入性記憶はトラウマを引き起こすような出来事の視覚的記憶であると言えます」と語っており、トラウマを視覚的記憶として脳に定着させる前にテトリスをプレイすることで、視覚的記憶の形成を妨害してPTSDの発症を防ぐ、という今回の研究が明らかにしたメカニズムについて語っています。

また、「テトリスをプレイするには想像力と洞察力が必要です。脳は同時に2つのことを行うことができないため、(PTSDの形成が)中断されることとなります」とも述べています。

By Benjamin Vander Steen

研究の中でテトリスの持つ効果をどのように実証したのかというと、交通事故にあった71人の患者を被験者として、半分には事故から6時間以内にテトリスをプレイしてもらうという実験を行っています。実際にテトリスをプレイしてもらった後、1週間の追跡調査が行われ、その間交通事故に関する記憶のフラッシュバックがあるかどうかが調べられました。その結果、テトリスをプレイした被験者はプレイしていないグループと比べて1週間で事故のことを思い出す回数が平均62%も少なくなったことが明らかになっています。ホームズ教授によれば「テトリスをプレイしたグループのフラッシュバックは、2日後にはほとんどゼロまで下がっていた」とのこと。

元々、研究者たちの間では事故後早期に治療を施すことで、恐怖に関する記憶が脳内に定着することを防ぐことができると考えられていたとのこと。しかし、テトリスのような単純なコンピューターゲームを実際に使った実験は初めてのことだそうです。ただし、ホームズ教授はこれまで10年以上にわたって研究室内でテトリスを使用した実験を繰り返してきたそうで、今回の研究結果はいわば「テトリスが本当に効果があるのかどうかを確かめるための概念実証実験」であったというわけです。

ただし、研究はトラウマを負った直後の初期段階までしか追跡調査を行えていない段階なので、最大6ヵ月の長期にわたった追跡調査を行うべきとホームズ教授は主張しています。また、Royal College of Psychiatristsのマーク・サルター氏は、テトリス以外のオプションについてもテストする必要性から、「この研究の規模は小さく、誰もがテトリスをプレイするわけではなく、コンピューターについての知識を有しているわけではない点を考慮すべきです」と語っており、テトリス以外の「誰でもできるような選択肢」を見つけることの重要性も指摘しています。

By Adam Świątkowski

なお、国立精神衛生研究所の調査によると、アメリカでは成人の3.5%がPTSDを発症していると推定されており、世界保健機関(WHO)は全世界の人口の3.6%がPTSDであると推定しています。

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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