「けものフレンズ」を生んだヤオヨロズの福原プロデューサーが製作委員会に代わる「パートナーシップ方式」を提案
「コンテンツビジネス教育学会 2017年度 春季大会」が2018年3月12日(月)に開催されました。
日本電子専門学校、東放学園映画専門学校、湘北短期大学、デジタルハリウッド大学、城西国際大学、文化ファッション大学院大学の学生・教員による研究発表が行われた仲で、アニメ制作会社・ヤオヨロズの福原慶匡さんが「製作委員会方式に変わるパートナーシップ方式」と題した発表を行いました。
コンテンツ教育学会主催 2017年度春季研究大会|基調講演:サイバーコネクトツー松山洋氏による「最前線で通用するゲームクリエイターの人材育成とは」|デジタルハリウッド株式会社
http://www.dhw.co.jp/pr/release/detail.php?id=1646
ヤオヨロズ
http://yaoyorozu.info/
会場となったのは城西国際大学3号棟
10時に開会してから17時過ぎに基調講演が終わるまで、合計18の研究発表が行われました。
その中の1つが、福原さんによる発表です。
「ヤオヨロズ」は2012年設立で、「直球表題ロボットアニメ」「みならいディーバ」「てさぐれ!部活もの」「ラブ米-WE LOVE RICE-」といった作品のほか、2017年に大きくヒットした「けものフレンズ」の制作で知られています。
福原さんがまず指摘したのは、昨今のアニメ市場が2兆9億円の売上を記録するなど好調に見える裏に多くの問題を抱えた状態であること。
具体的には、
1:アニメーターの低賃金雇用問題。若手の給料が月に6~7万円ぐらいなので、食べていくのが難しいこと。
2:アニメスタジオが権利を保有できない構造になっていること。また、権利を保有できても活用できない状態であること。
3:プロデューサーの人材不足。特に予算管理をするラインプロデューサーのビジネス感覚不足により、現場が赤字体制になること。
4:昨今の収益増の最大要因となっていた中国での配信売上が下降傾向にあること。国家新聞出版広電総局が日本のアニメ審査を厳しくして、放送・配信の3カ月前にチェックをして問題ない作品のみOKにするという噂がある。仮にこれが実行されると、審査が終わってから3カ月後に正規配信をしようと思っても、そのころには海賊版が出回っていて誰も見なくなってしまう。
5:アニメ化のメリットが大きい立場であるはずの出版社が、原作印税に関して柔軟な契約を結ぶ慣習になっていないこと。
6:海外配信時の手数料割合が売上の少なかったころのまま固定されていて、海外配信が収入の大半を占める現状に対応していないこと。
7:全体的な作品本数の増加によって良質な原作が枯渇したり、作品に携わるスタッフが不足したりしていること。
……といった問題があるそうです。
アニメの製作体制は1つの形ではなく、これまでにもいくつかのスタイルが生まれています。たとえば、1990年代前半まで主流だったのはテレビ局やスポンサー企業と中心としたアニメ作りです。1990年代中盤には、今の主流となっている「製作委員会方式」が生まれました。製作委員会方式の特徴は、複数の企業が出資を行い各種窓口ごとに権利を持つことです。ビジネスの中心となるのはVHSやLD・DVD・Blu-rayといったビデオグラムを販売するパッケージメーカーで、資金調達についてのリスクが分散されるほか、二次利用も窓口ごとに活用が最大化されることになります。
しかし、アニメスタジオは製作委員会からの依頼を受けて作品を作り、完成したものを納品するだけなので、権利収入はなく、制作費だけで運営していく必要が出てきます。「スタジオにとってリスクがない形」ともいえますが、昨今は作品に高いクオリティが求められることもあり、現場ではお金がなかなか手元に残らないという問題が出ているとのこと。
また、製作委員会方式だと出資した会社の数だけ権利者が生まれるので、迅速な意志決定ができないというデメリットもあります。海外ではディズニーなどですべての権利を1人に集めたワンオーナー方式が取られており、意志決定が迅速に行われるため、製作委員会は意志決定が遅いということでトラブルの原因にもなるそうです。
こういった問題に対する「一助」として福原さんが提唱するのが「パートナーシップ方式」です。この場合、主導権はアニメスタジオにあり、パートナーとなるのはAmazonやNetflixのような海外の配信会社です。配信会社は制作費全額に相当する価格で映像配信権を購入するものの、あくまで配信権購入が主目的で作品の著作権はアニメスタジオに残るため、スタジオが権利を個別にライセンシーに販売したり、二次利用ビジネスを展開したりすることができます。
「過去の慣習に囚われずに振る舞わないと、いずれ構造が崩壊する」と、強い危機感をのぞかせた福原さんですが、このパートナーシップ方式は、あくまで「製作委員会に取って代わる」というわけではなく、選択肢として選べるようになることが今後の業界に重要ではないかと語りました。
なお、基調講演では「最前線で通用するゲームクリエイターの人材育成とは」をテーマに、ゲームメーカー・サイバーコネクトツーの松山洋さんが登壇。ゲームクリエイターに憧れる子どもは少なくないのに、途中で諦めてしまう人が多いのは「どうすればなれるのかという具体的な筋道が見えない」ことが原因であり、また、教える側も「何も教えればいいのか分からない」状態にあると指摘。何よりも必要なことは「業界分析」だと語りました。その一方で「『好き』がものを形作る」ことから、何事も中途半端ではなく、さまざまなエンタメに「常軌を逸する」レベルで触れて欲しいとも語っていました。
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