取材

「Production I.G」はどうやって制作する作品を選んでいるのか


攻殻機動隊」「戦国BASARA」「BLOOD-C」「よんでますよ、アザゼルさん。」などを制作してきたアニメーション制作会社・Production I.Gは、どうやって世の中に送り出す作品を選んでいるのか。デジタルハリウッド大学で行われたアニメ・ビジネス・フォーラム+2014の中で、Production I.G 企画室室長の森下勝司氏が、その一端を明かしてくれました。

Production I.G
http://www.production-ig.co.jp/

講演を担当した、株式会社プロダクション・アイジー取締役企画室担当 兼 企画室室長の森下勝司氏。


題は「Production I.Gの企画戦略」。企画室の視点から、Production I.Gが制作する作品をどうやって選んでいるのかということを語る内容です。なお、石川光久社長にはまた別の視点があるかもしれないとのことでした。


まずはProduction I.Gの公式サイトにも掲載されている25周年記念ムービーが再生されました。

http://www.production-ig.co.jp/company/25th-anniversary.html


Production I.Gの話に入る前に、アニメ業界を取り巻く現況の解説から。現在、18歳から25歳の人間の48%は非正規雇用で働いていて、今後、雇用状況はさらに厳しくなるかもしれません。そんな中でアニメファンは増加しているのですが、高額商品を買ってくれる人は増えていません。つまり、コミケに参加したり、毎週アニメを視聴したりして、パッケージも買っている人は増えていないものの、タイトルぐらいは知っていて、数百円のグッズや書籍などを買うミドルコア層・ライト層は増加しているといえます。そのため、アニメビジネスは今後、ミドルやライト層からの収益を増やさなければ厳しくなっていく、と森下さんは分析しています。


Production I.Gでは、社内を「管理部」「制作部」「企画室」に大きく分けています。管理部というのは一般企業にもある総務や人事などを担当する部署で、アニメの制作に関わってくるのは制作部と企画室の2つ。このうち、制作部は第1部・第2部の2つに分かれており、さらにその下に課がぶら下がる構造です。ちなみに、第1部と第2部はテレビ担当・劇場担当のようにして分けているわけではないとのこと。課は、3課から10課の8つがアニメーション制作を担当する部署で、それぞれの大きさは一定ではなく、劇場作品を回せるようなところからそうではないところまでいろいろだとのこと。これら、屋台骨である制作部を支えているのが企画室だというわけです。


制作部が実際の制作業務全般を担当しているのに対して、企画室は作品に関する問い合わせや製作委員会との交渉を担っています。一般に「プロデューサー」と呼ばれる人は、制作部のアニメーションプロデューサーと、企画室の企画プロデューサーの2名が存在していて、さらにスタッフリングやマネージメントをラインプロデューサーが行います。製作委員会と制作部との間に企画室が入るというこの形はどこの会社でも同じというわけではないそうですが、I.Gにおいては企画室がクッション的な役割を果たして物事を調整しており、かなりうまく機能しているとのこと。


企画室の中は大きく分けて4グループに分かれます。1つ目が、企画開発や営業・契約交渉・窓口担当などを担う「プロジェクト企画グループ」。2つ目が会社の経営企画や広報を担当する「経営企画・広報グループ」。商品企画の開発や、他社窓口の作品でグッズ制作を担当することになるものもここが引き受けます。3つ目は脚本家が所属していて、社内制作作品の脚本や小説を担当したりオリジナルを作ったりする「文芸グループ」。4つ目が海外セールスを行う人間が所属している「海外担当グループ」です。

作品を制作するときは、まず企画室の森下さんのところまで話がやってきます。やってくる話は「一緒に組んでオリジナル作品をやりましょう」というものから、出資をしてもらえないかと検討を依頼してくるもの、すでに作品の形は固まりつつあってアニメーション制作の部分をProductin I.Gに担当してもらえないかというものなど、いろいろ。

作品がある程度集まると石川社長・管理部担当役員・経営企画担当・制作部部長・企画室室長・提案者(作品対応を担当した人)が出席して、企画検討会議が開かれます。会議の中では、そもそもI.Gとして制作可能かどうかといったことが検討されます。たとえ、持ち込まれた話の条件が良くても、時期的に厳しいものは受けることができないためです。この事例として、I.Gが出資していてアニメーション制作を子会社のWIT STUDIOが担当した「進撃の巨人」が挙げられます。

Production I.Gは「オリジナル作品が多い」と言われることが多いそうですが、森下さんが調べたところ原作付きとオリジナルの割合は8:2ぐらい。Production I.Gといえば代表的な作品としてあげられるのが「攻殻機動隊」ですが、この作品にしても士郎正宗さんの漫画が原作なので、イメージほどオリジナルが多いわけではないようです。この割合を大きく変える予定はないとのことで、近年は途切れることなくテレビシリーズを制作中。

外から見ると1つの「Production I.G」ブランドに見えていますが、内側から見るとアニメーションプロデューサーによって得意とする作品の傾向があり、原作付きのテレビシリーズが向いているところ、ハイクオリティな映画を2~3年かけて作るスタジオなどがあります。その特性を見極めて作品を割り振ることで、期待するものを引き出すのだとのこと。

さらに、こういったシリーズとは別に、3~5年に1度ぐらいはProduction I.Gとしてのフラグシップ作品を作っていくという方針があります。例えば「BLOOD THE LAST VAMPIRE」「人狼 JIN-ROH」「ももへの手紙」といった作品の名前が挙げられていて、これはその場のセールスではなく、「これはI.Gでなければ作れないよね」と言われるようなものを作っていくつもりだそうです。


また、Production I.Gの持株会社であるIGポートのグループにはXEBECマッグガーデンWIT STUDIOといった特色ある会社が揃っているので、グループシナジーを考慮できる企画を検討して制作していくとのこと。

話の最後に質疑応答が行われました。

Q:
オリジナル作品が2割とのことだったが、オリジナル作品には金銭的・時間的コストがかかるから少ないのでしょうか。傾向として、Production I.Gだけではなく一般的にオリジナルが少ないのでしょうか。

A:
他社さんも含めて平均を取るとこの8:2というあたりかなとは思います。オリジナルの企画開発には金銭的投資が必要になり、しかもその企画が世に出るとは限らないのでリスクが大きく、会社を運営していく上でオリジナルばかりというのはあまりよろしくありません。企画検討会議でも、そういった意識は働きます。時間的・人的・金銭的な投資と、そのリスクを考えた上で、オリジナル作品を20%は制作していこうというのが現在のI.Gのスタイルです。

Q:
オリジナルは原作つきに比べてどれぐらいコストがかかるものなのでしょうか。

A:
オリジナルものであれば企画開発にお金が掛かりますが、原作があればその部分はほぼゼロにすることができます。アニメ化のために全部やり直すとなるとかかってしまいますが……。うちでも、お蔵入りになるものは多々あり、そのお金は現状では取り返せないものなので、企画開発の精度を高めていくという方向で考えています。中には、お金が発生する前に取りやめになる企画もあります。

Q:
Production I.Gが幹事の作品というのは増えている?

A:
幹事作品の方が少ないですね。最近だと「宇宙戦艦ヤマト2199」で務めていますが、あくまで製作委員会の1社として参加して、窓口を担当させていただいて皆様に還元させてもらうというところが9割以上です。あまり積極的に幹事を取ろうとかいうことはありません。

Q:
「進撃の巨人」については出資を行っているが、具体的にはどういう役割分担があったのでしょうか。

A:
WIT STUDIOの社長を務めている和田さんはもともとProduction I.Gの所属で、私の部下だったんです。進撃の巨人をどこがアニメ化するかという話になったときに、過程は分かりませんが、最終的にアニメ化に至ったポニーキャニオン・MBS・IGが中心となるグループが作ることになりました。これを担当したのが和田プロデューサーで、その後、WIT STUDIOという会社を興すことになって、進撃の巨人をそちらで作れないかという話になり、石川(Production I.G社長)がいいものになってくれるところでやるのがいいと考えて製作委員会と交渉し、現在の形になりました。通常、こういうケースのクレジットは「制作:Production I.G 制作協力:WIT STUDIO」となるものなのですが、石川は作ったところがしっかり名前を出すべきだと考えて「制作:WIT STUDIO 制作協力:Production I.G」というクレジットになっています。

Q:
冒頭で、若者の雇用が厳しくなるという話が出ました。自分はアニメのプロデューサーを目指していて、そのためには制作進行から上がっていくのがいいよという話を聞くのですが、制作スタジオであるProduction I.Gとしてはどういう人材を求めていますか?

A:
企画室所属のプロデューサーには、現場のラインプロデューサーから上がった人もいますが、中途採用で外部から入った人間が多くて、実は私もその1人です。アニメ業界全体ではなくProduction I.Gの場合ですが、入り方はいろいろあって、制作進行で入ったから企画の方に移れないということはなく、「俺は文芸がやりたい!」と頑張って文芸グループに移動した人もいます。WIT STUDIOの和田プロデューサーも、1からアニメーションを勉強したタイプの人で、それが今やアニメーション制作会社の社長です。

1つ申し上げておきたいのは、Production I.Gが第1志望だったとして、落ちたからといって就職浪人してでもProduction I.Gを受けるというようなことはやめたほうがいいです。まずはどの会社でもいいから入って、それが制作会社ではなくメーカーでも、アニメーションに関わる会社に入って、そこで努力をして転職するとか……転職を推奨するわけではありませんが(笑)、うちにもメーカーからの転職組はいますし、逆にメーカーへ転職した人間もいます。業界に入って、人脈を含めて作られていくのが良いと思います。

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